tag:blogger.com,1999:blog-19548755945206756492024-03-21T00:11:46.064+09:00緑の蔵書票国内外奇術書の簡単な論評、および奇術雑感。意識的に、長所と短所、どちらもあげるようにしています。hirokadahttp://www.blogger.com/profile/01145851621093573444noreply@blogger.comBlogger243125tag:blogger.com,1999:blog-1954875594520675649.post-17994774852430654262100-04-25T14:08:00.004+09:002021-02-18T19:30:40.275+09:00とびら<div>
<a href="http://greenware.thebase.in/" target="_blank">BASE</a>にて、以下の本を翻訳販売しています。</div>
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<b><i>Thinking the Impossible by Ramón Riobóo</i></b></div>
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<a href="http://greenware-ex.blogspot.com/2012/07/thinking-impossible-ramon-rioboo.html" target="_blank">英語版の紹介記事</a></div>
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<a href="http://greenware-ex.blogspot.com/2015/01/thinking-impossible.html" target="_blank">紹介記事</a></div>
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<a href="https://greenware.thebase.in/items/1080860" target="_blank">商品ページ</a></div><div><br /></div>
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<b><i>52 Lovers, Adventures in Wonderland by Pepe Carroll</i></b></div>
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<div> <a href="http://greenware-ex.blogspot.com/2017/10/52-lovers.html">紹介記事</a></div><div>
<a href="https://greenware.thebase.in/items/8555660" target="_blank">商品ページ</a></div><div><br /></div>
<div><b><i>ダリアン・ヴォルフの奇妙な冒険 フロリアン・ズィヴァリン</i></b></div><div><b style="font-style: italic;"> </b><a href="http://greenware-ex.blogspot.com/2021/02/blog-post.html">紹介記事</a></div><div> <a href="https://greenware.thebase.in/items/39835470">商品ページ</a></div>
hirokadahttp://www.blogger.com/profile/01145851621093573444noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-1954875594520675649.post-40425770271292929092024-02-26T00:19:00.000+09:002024-02-26T00:19:08.948+09:00"A Florin Spun" Hector Chadwick<p><b><i>A Florin Spun </i></b>(Hector Chadwick, 2023)</p><p><br /></p><p>Hector Chadwickの新刊が出ました!</p><p>ここまでの情報で既に『買い』確定なので、あとは何を書こうが贅言でしょうが、いちおう付記しておくと装丁も梱包も最高にかっこいいです。買いです。</p><p>おわり。</p><p><br /></p><p><br /></p><p>まあその、Chadwickは作家で、本書もそういった性格が非常に強く、あんまり書くと読む楽しみを奪ってしまう。内容の大枠だけ書いておくと、コイントスのコントロールのみを扱った150ページの小ぶりなハードカバーです。大きく3部構成になっており、技法40%、用途30%、歴史20%くらいの配分。</p><p>読みものとして非常に面白いし、手法の解説も詳細で実用的です。『用途』のセクションがあるもののトリックの解説はないので、そこだけは注意。でもいい本なので買いましょう。</p><p><br /></p><p><br /></p><p><br /></p><p><br /></p><p><br /></p><p><br /></p><p><br /></p><p><br /></p><p><br /></p><p>以下は備忘録。</p><p><br /></p><p><br /></p><p><br /></p><p><br /></p><p><br /></p><p><br /></p><p><br /></p><p>前書きで非常に興味深い問が提示されており、曰く「コイントス・コントロールはほぼ完璧な技法であるのに、なぜ広く使われていないのか?」。それを受けて、「本書では技法だけではなく、そもそも何故コイントスの結果をコントロールしたいのかも探っていく」と続きます。しびれますね。</p><p>前半は技法の解説。人によっては知ってる内容かも知れませんが、周辺技法まで含めて、Chadwick一流の文章と視点で詳しく解説されます。そして後半は、これこそ作家である著者の本領発揮。詳細は控えますが、マジックの場でコイントスが使われる3つの『場面』が描かれます。繰り返しになりますが、手順の解説はないのでそこは注意。</p><p>原理や手法から、この行為のそもそもの意味、そしてクレジットまで、ひとつのテーマの探求を一冊に収めた素晴らしい本です。Héctor Manchaの<b><i>The Wonderous World of Pickpocketing</i></b>とも近いですね。これを読んだら、あなたのテジナ人生にもコイントスという選択肢が入ってくること間違いありません。</p>hirokadahttp://www.blogger.com/profile/01145851621093573444noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-1954875594520675649.post-15663757155656706912024-01-31T19:01:00.002+09:002024-01-31T21:17:13.042+09:00"Letters From Juan Volume 1-6" Juan Tamariz<p><b><i>Letters From Juan Volume 1-6 </i></b>(Juan Tamariz, 2023)</p><p><br /></p><p>タマリッツが秘蔵トリックを公開するノートが全6巻で完結しました。1巻のレビューで「トリックはイマイチだが、細部からタマリッツらしさが読み取れるいいノートだ」的なことを書いており、それは偽らざる本心だったが、白状すると良いところ探しの面もあった。やっぱり私も『秘蔵トリック』のうたい文句に期待して買った身ではあったのでね。そしてシリーズが完結したわけですが、終わってみると本当にいいシリーズだった。思うところが色々あって、うまく纏められるか分からないが書いていこう。</p><p><br /></p><p>まず肝心のトリックの質だが、正直なところを言うと、出来はマチマチだ。おまけにどれも極めてタマリッツ的で、そのまま借用するのは難しかろう。誰にでも使えて、誰でも騙せる『聖杯』は無い。しかし自分の代表作を即興化する野心的なものや、クラシック・プロットを別角度から解決してみせるもの、いびつでぎこちない複数の現象のキメラのようなもの、奇想天外なネモニカスタックの用法まで、良くも悪くもタマリッツにしか作れない手順ばかりだ。私自身、実際に手を動かしてみて、その鮮やかさに息をのんだ手順もあれば、巧妙さに啞然とするしかなかった手順もある。どれがその手順かは秘密だが、読んで得るものは絶対にある。</p><p>収録作にはいくつかの系統があって、それがタマリッツに対する理解を深めてもくれる。具体的に言うとタマリッツは、メキシカン・ターンノーバー、フラットパーム、ギャンブリング・デモ、ネモニカといった手法やテーマに愛着があるようで、それぞれが冊子を貫いて流れる支流となっている。</p><p>また解説には濃淡があり、台詞から身振りや意図まで綴られる濃い解説があるかと思えば、ほとんど概要のような薄い解説もある。これも結果的には良い読書体験に繋がった。シリーズを通して読んでいるうちに段々と、簡素な解説であっても、そこにタマリッツの意図や構築上の工夫が見えてくるようになるし、実演にあたってタマリッツがどのように肉付けしているかも想像が働くようになってくるのだ。そのためこのシリーズは、タマリッツ流手品の練習帳としても機能している。</p><p>確かに傑作ばかりではない。でもよく考えたら、秘蔵であることは傑作であることを意味していない。馬鹿な子ほどかわいい、みたいなことは手品にもあろう。少なくとも、タマリッツがこれらの手順すべてを深く愛していることは読んでいて痛いほどに伝わってくる。</p><p><br /></p><p>それから、ノート形式で分冊、という特殊な形態による効果についても書いておきたい。ひとつは刊行ごとに絶妙な間が開き、咀嚼の時間ができたことだ。1巻のトリックを、大きな本の一部として読んでいたら、これはまあハズレのトリックかなと流して読んでしまったろうし、「秘蔵のトリック」と言って出してくるのがこれなのか?という疑問も抱かなかったと思う。</p><p>また冊子単位でトリックが編まれていることも独特だ。一冊の本であれば、スタックならネスタック、ギャンブルならギャンブルで一つの章にまとめられるところだが、このシリーズは巻ごとのアラカルト形式だ。そのため通して読むと、ざっくり4トリックごとの周期で、ちょっとずつ違うギャンブル手順を読むようなことが起こる。</p><p>これらの時間的な特徴――インターバルとリフレインと――が、タマリッツがそれらのテーマに人生を通じて取り組み、折々に創作し、改案してきたことに重なっていく――ように感じられる。</p><p><br /></p><p>素敵な手紙たちだった。直接的な『聖杯』は無かったけれど、今まで読んだタマリッツの著作の中で一番楽しかったし、自分なりに演じてみたくなる手順や、いつか再読したい手順も多くあった。タマリッツその人への理解も深まったと思う。これが<b><i>Flamenco</i></b>だったことにしてくれない?って言われても許せちゃうかもしれないよ。</p>hirokadahttp://www.blogger.com/profile/01145851621093573444noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-1954875594520675649.post-56167797467320982462023-12-31T14:54:00.000+09:002023-12-31T14:54:31.671+09:00"The Pages Are Blank" Michael Feldman<p> <b><i>The Pages Are Blank </i></b>(Michael Feldman, 2023)</p><p><br /></p><p>Michael Feldmanの待望の単著が出ました。これまでも多少のリリースはありましたが、特にRyan Plunkettとの共著<b><i>A New Angle</i></b>(2017)がストリッパーデックに素材を絞りながら、挑戦的な内容で抜群に面白かった。で、そのFeldmanが満を持してカードマジック作品集を出しました。挑戦的で現代的な12手順と、もろもろの技法が解説されています。</p><p>Ryan Plunkettの<b style="font-style: italic;">Distilled</b>(2020)はお行儀のよいクラシック寄りの手順が多かったですが、<b><i>The Pages Are Blank</i></b>は期待通りに先進的でした。まずタイトルからも分かるように、演出が良くも悪くもめんどうくさい。自己言及的でおおむね自己否定から入り、メタ的です。最初にわざわざ「魔法じゃなくて技術を使っている」とか言い、プロットの構造的な欠点を喋りながら演じたりもする。</p><p>手順は大きく2つのパートに分かれており、前の8手順はクラシックの改案をはじめ雑多な内容。後の4つはサインドカードの複製原理を使った手順です。</p><p>スペリングやエースカッティング、トライアンフ、カラーチェンジング・デックなどについて、最近の議論を踏まえた上で、Feldman自身の挑戦的な回答が示されています。マニアックでありつつ、どれも実演で磨いた演出・ハンドリングで、完成度が高い。特にデックスイッチは、準備やギミックが必要ですが、非常に素晴らしいものでした。ただその使用方法がカラーチェンジング・デックな点については疑問もあります。手法は確かに完璧に近いが、それでも現象が強すぎて、結局は「どうやったか」が分かってしまうのではないか。</p><p>後半のサインドカード複製手順はよりその傾向が顕著です。サインを複製する原理を活用し、観客のサインしたカードがカラーチェンジする(サインはそのまま)など、強烈すぎる現象が収録されています。この強烈さがなかなか危険で、もともと観客のサインって、現象が強すぎてデュプリケートがすぐ疑われるようなときに使う手段なわけですが、ここまで現象を強めてしまうと、サインがあってなおデュプリケートが疑われるのではないか。とはいえ確かに、サインされた2枚のカードをはっきり示した後に1枚になってしまうアニバーサリー・ワルツや、まったくすり替えの余地の無いSigned Card/Mystery Cardは夢ではあります。</p><p>すごく面白い本でした。プロのレパートリーでありつつ、演出や現象の許容限界ギリギリをさぐる、悩める現代カードマジックの最前線といえるでしょう(とはいえ、本になる情報は現場から10年くらい遅れるとは言いますが……)。</p>hirokadahttp://www.blogger.com/profile/01145851621093573444noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-1954875594520675649.post-3436410148021420412023-11-16T00:39:00.004+09:002023-11-16T00:49:35.307+09:00"I was kidnapped" Tony Chang<p><b><i>I was kidnapped, Left in Taiwan, And all I got were those notes</i></b> (Tony Chang, 2013, 2023)</p><p><br /></p><p>現代トップクラスのカード・テクニシャンTony Changの数少ない文献。「誘拐されて、気付いたら台湾に置き去り。所持品はこのレクチャーノートの束だけ」とうタイトルからすると、たぶん2013年に台湾でレクチャーしたときのものなんでしょう。Ben EarlのStudio 52から、Cards and Coffeeというイベントに合わせて10周年記念版として再版されました(が、また売り切れてしまったようです)。</p><p>Tony Changといえば、気配の無い超絶テクニックに根ざした、カメラトリックと見まごうビジュアルな現象で著名です。その作品を『文章』で読むことに果たして意味はあるのか……というのがまず浮かぶ疑問でしょうが、本書はこれまた現代トップクラスの手品マニアであるTyler Wilsonが筆を執っており、そのために最高の仕上がりになっています。技法の気配を消すための細やかな工夫から、観客の意識を誤誘導するための手順構築、底に流れる哲学まで、それが知りたかったのだという秘密が子細に言語化されています。</p><p>カードの技法2つ、カードの現象3つに、インビジブルスレッドを使った手順が1つ解説されています。技法はコントロール関係2つ、現象は、カード当てに擬態した複数枚の変化、デックバニッシュ、挑戦的なオフバランス・トランスポ。どれも『やり方』だけを読んだらイマイチに感じそうなところ、狙いや企みがしっかり記述されていることで、真意がよくわかります。インビジブルスレッドの手順は『ストローが念動で飛び上がる』という、え、Tony Changこういう手順もやるの?ってヤツなのですが、素材が単純な分、気配を消すための理論や、細やかな伏線の貼り方がより顕著に表れていて、大変タメになりました。</p><p>非常に良く書かれたノートです。Tony Changというと、どうしても技法のうまさに目が行きますが、見えない技法も、『目を疑うような鮮やかな現象』も、観客の意表を突くからこそ成立するのであり、そのために観客の意識のコントロールに心を砕いていることも改めて認識できました。トップカーディシャンの技巧も思考も追える傑作ノートなので、機会があったら是非とも入手してください。</p><p>あとTyler WilsonはもっとTonyの手順を解説してくれ。あとこの辺の超絶技巧マン達の解説も全部やってくれ。お願いだから。</p>hirokadahttp://www.blogger.com/profile/01145851621093573444noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-1954875594520675649.post-6268490533101490672023-10-31T23:47:00.003+09:002023-10-31T23:47:34.484+09:00"White Wand Chronicles Volume One"<p><b><i>White Wand Chronicles Volume One</i></b> (2022)</p><p><br /></p><p>本に著者名が無かった為にこのような表記になったが、JerxブログのAndyの本である。ハードカバーを年に1冊(今は18ヶ月に1冊だったかも)出すという中々に狂ったことをしており、その2022年号で、シリーズとしては5冊目になる。月25ドルを謎の人物に払い続けるという少なからず金銭感覚の狂っている人間に限定配本されるもので、他で買うことはもちろん、会員でさえ前の号を買うことはできない。そんな入手手段の限られた本をレビューするのもどうかと思うが、まあ一度くらいはJerxの話をしてもいいでしょう。</p><p><br /></p><p>非常に話題になった人だが、どういう人かというとまあ、『アマチュア・マジック』を高らかに歌い上げた人間である。ここで言うアマチュア・マジックというのは、愛好家によるプロマジシャンの劣化コピーではない。アマチュアならではの現象、アマチュアならではのアプローチであり、私生活の中の、私的な人間関係の中でのマジックである。</p><p>そういった手順ならこれまでも散発的に世に出ていたが、あくまでオマケあつかいだった。Andyは正にそれを主軸に置いているのが特徴だ。プロの現場では成立しない手順どころか、職業マジシャンがやったら(たとえプライベート時間であっても)良さが損なわれる手順さえある。正にアマチュアにしかできない手品だ。</p><p>長い時間軸で行われる手順が多いのも他には無い特徴。たとえば本書のHide & Sneakという手順では、女性を家まで迎えに行って、そのときYoutubeを連続再生しておいてもらう。ディナーの後に女性を家まで送り、そのとき偶々かかっていた曲や動画を使う、といった具合。</p><p><br /></p><p>ところで手品の質はというと、そこまで高いとは思わない。当たり前になってしまっている手品的手続きを疑うこと、現象を再解釈したり、私的空間に展開したりすることについては非常にセンスがある一方で、手法の賢さであるとか、構築などはそこまで。肝心の演出もときどき滑ってる感じもする。</p><p>だがまあ、ひとつのジャンルを確立させたという意味で凄い人物ではある。現状はフォロワーも居ないし、手品に触れる人間なら必ず役に立つだろうジャンルであるので、何か一冊、借りてでも触れておくのは良いと思う。氏の提唱する『アマチュア』のスタイルは、実際に読んでみないと中々つかめないだろう。</p><p>なおこれまでの4冊はテーマがあったが、ここでひと区切りだそうで本巻は雑多な内容。ブログの整理&再編というイメージで、良い感じに雑駁、意外と文字が大きかったりで、するする読めます。初期に比べると文章もかなりこなれている。読みやすさで言うなら結構お薦めの巻。</p>hirokadahttp://www.blogger.com/profile/01145851621093573444noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-1954875594520675649.post-19987820688697070102023-10-05T22:33:00.001+09:002023-10-05T22:33:45.834+09:00“The Plot Thickens” Oliver Meech<p><b><i>The Plot Thickens</i></b> (Oliver Meech, 2009)</p><p><br /></p><p>「マジックには3本の柱がある。手法、演出、そして現象(プロット)だ。手法は皆がやってるし、演出もOrtizとBergerに任せておこう。だから、俺がやるべきはプロットだ。」と著者Meechは前書きで書いており、本書は現象/プロットの新規性にこだわった内容とのこと。内容はクロースアップで、カード5つ、コイン5つ、メンタル6つ、その他6つで計22のちょっと普通ではないトリックが収録されています。</p><p> さてプロットとは何か。この辺りの言葉遣いは難しいところです。著者自身、3本目の柱としては現象(Effect)を挙げながら、途中からプロットの語にすり替わっている。プロットというと一般には「物語の筋立て」であり、手品の新たなプロットと言われたら、現象そのものより、そこにいく過程をイメージするだろう。リセットを例にとろう。まず位置交換というかなり範囲の広い現象がある。それが4枚ずつのパケットで1枚ずつ交換されていくとなると、だいぶプロットになる。最後に一瞬で元に戻るという「ひねり」があれば、これはもうプロットと言及して間違いない気持ちになる。</p><p> で。本書が「プロット」の本かというと、特にそういうことはないんだよな。素材を変えたり、演出(アスカニオ的な意味での演出ではなくて、カバーストーリーという意味での演出)を変えたりというのが多いので、どちらかといえば新しい「現象」を探る本だろう。</p><p> で。新規な現象と言ってもピンキリだ。単に素材を変えただけでも新しい現象と言うことはできるが、それではつまらない。その素材が特別に意外であるとか、素材変更によって裏側の負担が減ったりとか、あるいは新しい手法が見出されたりしていて欲しいわけです。</p><p> で。本書にそれができているかというと出来はまちまちである。例えばOut to Lunchの原理を使って名刺の間違いを修正する“Correctional Facility”なんかは新規性からして相当に怪しい。ハンドリングも雑。一方で、コインと角砂糖のトランスポジション“Touching Transposition”なんかは、この構想でしか出て来ないだろう面白い手法が取られており、また観客の感じるだろう現象も単なるトランスポジションとは一線を画したものとなっている。</p><p> 全体を通して見ると、新規性もクオリティも高いわけではない。しかしこのアプローチでしか生まれないだろう作品が含まれており、また傑作としか言いようのない手順もある(自然発火現象“Flaming Voodoo”は、これは最大級の褒め言葉なのだが、<b><i>Life Savers</i></b>に収録されていてもおかしくない作品だ)。なんのかんの言っていろんな素材に触れられて刺激的であったし、非常に応援したくなる作者だった。</p><p><br /></p><p> ……ところで、Meechは前書きで演出についてはOrtizとBergerの本があるから、と言っていたけれども、プロットにも大天才がいるわけです。そうPaul Harrisです。プロットが新規で面白く、直感的で、さらに裏側の新規性にもつながっています。本当にすごい。もし現象やプロットに飢えているならまずは<b><i>The Art of Astonishment</i></b>を買いましょう。話はそれから。</p><p><br /></p><p>※なおこれは第2版で、収録作が一個変わっており、“Free Money In Every Pack”が“Dripping Coin”になっています。</p><p></p>hirokadahttp://www.blogger.com/profile/01145851621093573444noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-1954875594520675649.post-56987079174160222112023-09-30T14:17:00.000+09:002023-09-30T14:17:01.547+09:00“The Close-Up Magic of Daniel Cros” Daniel Cros<p><b><i>The Close-Up Magic of Daniel Cros</i></b> (Daniel Cros, 1983)</p><p><br /></p><p>Daniel CrosはラスベガスのDesert Innで仕事をしていたプロマジシャン。あまり知名度はないと思うのですが※、知らずに彼の技法を使っている人は非常に多く、その非対称性では随一かもしれません。というのもHarrisのBizarre Twistのなかで一般的に行われている手法(片手でツイストする技法)が、実は彼の名を冠したCors Twistなのです。</p><p>Paul Harrisとは仲が良かったようで、Twilightを演じている動画が残っていたり、この小冊子の最初のトリックもHarrisとの共作だったりします。わずか16ページの中で7手順が解説されていて、かなり削ぎ落とされていて読みにくいですが、すべて非カードのうえ、Crosのプロっぽさが感じられて面白かったです。特に最初の3手順は、その流れからも、実際によく演じていたことが伝わる良手順。</p><p><br /></p><p>Paper Chase</p><p> Harrisとの共作。テーブルから紙ナプキンを借り、4つに裂いて紙玉を作って行うチンカチンクで、最後にナプキンが復活する。手順への導入、現象のわかりやすさ、インパクト、準備のし易さと文句なし。</p><p><br /></p><p>Thimble Routine</p><p> クロースアップのシンブル手順。途中で挟まれる、シンブルをつけた指を立てて、そこにシルクをかけるが、そのままノーカバーでシンブル“だけ”がシルクを貫通する現象はとても面白かった。最後はシンブルが3つに増える。</p><p><br /></p><p>The Three Shell Game</p><p> 3つのシンブルを使ってスリー・シェル・ゲーム。</p><p><br /></p><p>Silver Dollar and Penny Exchange</p><p> 銀銅トランスポを異サイズのコインで行う。……のだが、いつの間にか観客の手の中でペニーがハーフダラーサイズに変化してたりする謎の手順。どう演じたのかもう少し情報が欲しいところ。</p><p><br /></p><p>Three Coins Pass Thru Bottom Of Large Glass</p><p> シェルを使った、グラスからのコインの貫通。今となってはスタンダードな使い方だが、1983年としてはかなり強そう。</p><p><br /></p><p>Half Dollars Pass Under Hands On The Table</p><p> 伏せた手の中へのコインの移動。と見せかけてオープントラベラーみたいな手順。このあたりの手順はTwilightから続けて演じていた気配がある。</p><p><br /></p><p>Silk To Egg Routine</p><p> シルクが卵になった後、卵シェルの種明かしをして、最後に本物の卵になる定番手順。ただ(卵シルクは詳しくないけれど)最後がちょっと変則的な構成になっていると思う。ロードやディッチの忙しなさや不自然さを排除するためなのかなと想像しています。</p><p><br /></p><p>以上。ほとんど余計なことをしていないので、今でも使えそうなプロ手順でした。実際、自分のテーブルにやってきたマジシャンがこの手品してくれたら楽しいだろうな。全手順が非カードなのもいいですね。</p><p><br /></p><p>※:勝手に無名と思っていたけど、二川先生によるノートの訳があったり、サイコロ使ったマトリックスが売られたりしてるので、実は著名マジシャンだったのかもしれません。</p>hirokadahttp://www.blogger.com/profile/01145851621093573444noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-1954875594520675649.post-19432816289588005012023-08-27T14:59:00.001+09:002023-08-27T15:19:43.096+09:00"Notes From A Fellow Traveller" Derren Brown<p><b><i>Notes From A Fellow Traveller -Mentalism, Meaning and Thirty Years of Mistakes </i></b>(Derren Brown, 2023)</p><p><br /></p><p>Derren Brownが20年ぶりにマジシャンを対象とした本を出しました。ファンなのでもちろん買ったがしかし、かなり難儀な本であった。</p><p>まずなによりも英語が難しい。単語も文体も難しいので読むのが大変。そして肝心の内容なのだが、マジシャン対象とは言っても、残念ながら手品のタネ・仕掛けの話ではないのだ。では理論の話かと言うとそれも微妙で、本書の30~40%くらいは氏の<b><i>Showman</i></b>ツアーの紀行文である。これはまあ、面白いと言えば面白い。ショーは生き物と言われる通り、Brownほどの人物であっても、毎度、多かれ少なかれ失敗するわけで、失敗談やその対策がここまで赤裸々に語られることもあまりないだろう。でもそれはまあ、我々のような手品マニアが心から求めている物かというと違う。</p><p>手品理論(というか各種の心構えや考え方)の話ももちろんある。だがこれも、2つの点で我々からは距離がある。ひとつ、Brownはここ数年、クロースアップやTVショーからは離れており、もっぱらシアターでのショーに注力している。この演技環境が直接マッチする人はかなり少なかろう。そしてもうひとつ、Brownは大人物になってしまった。実際のイギリスでの空気感を知ってるわけではないが、単なる「成功したマジシャン」を超えた、立場ある文化人の雰囲気だ。そんなわけでちょっとばかり住む世界が違う。おまけに今は2020年代なので、そういった人間が当然備えていなくてはならない倫理観は非常に強固だ。</p><p>歳を取ったせいもあるかもしれない。Brownは言う。『正直なところ、手品はもうそんなに好きではない』『手品は簡単だ』。読みながら私は、一抹の寂しさを覚える。……ところで本書には、具体的な手品の話も僅かにだが出てくる。そこで解説されたある演出が非常にくせ者で、Brownは<b><i>Jerx</i></b>なんか目じゃないくらい、さらりとスマートに、相手の現実に揺さぶりをかけてみせるのだ。なお、文句なしに凄い手品ではあるが、Brown以外の人間がやったらたぶん警察沙汰である。そんなものを何食わぬ顔で解説するところまで含めて邪悪だ。なんか色々言ってたけど、やっぱりあなた今でも手品が大好きだし、悪い手品も滅茶苦茶好きでしょう。俺には分かってるんだからな。</p><p><br /></p><p>そんな往年のファンに対する一瞬の目配せはあったが、やはり本書は遠い。読み物としてはいいだろうし、もしあなたがスタッフを引き連れ、各地の劇場を巡るようなマジシャンなら、本書から学ぶところは大いにあるのではないかと思う(英語がそれなり以上に堪能なら、という前提付きにはなるが)。でもそうじゃないのなら、まず買うべきは<b style="font-style: italic;">Devil’s Picturebook</b>だし、その次は多少のプレミア価格で済むなら<b><i>Absolute Magic</i></b>だろう※。そうこうしているうちに絶版になってもつまらないので、本書を買っておくこと自体は反対しないけれども。</p><p>※一般向きの書籍(<b><i>Happy</i></b>とか)は読んでないので知らんです。<b><i>Pure Effect</i></b>については、内容はおおむね<b><i>Devil's Picturebook</i></b>でカバーされてるので、こちらもあまり優先度は高くないと思います。</p>hirokadahttp://www.blogger.com/profile/01145851621093573444noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-1954875594520675649.post-34662934968709574842023-07-24T22:35:00.002+09:002023-07-25T00:51:48.083+09:00"Handsome Jack, etc." John Lovick<p> <b><i>Handsome Jack, etc.</i></b> (John Lovick, 2016)</p><p><br /></p><p>John Lovickの作品集。表紙ではより長い名称になっていて、<b><i>The Performance Pieces & Divertissements of The Famous Handsome Jack, etc. </i></b>written by Handsome Jack, annotated by John Lovick(『かの有名なハンサム・ジャックのレパートリー手順および余興。著ハンサム・ジャック 註ジョン・ロヴィック』)となっています。</p><p>この著と註が本書の大きな趣向で、本書はロヴィックの演技キャラクターである『ハンサム・ジャック』氏が書いていることになっています。彼はかなり戯画的な造形の人物で、自身を世界一ハンサムと信じて疑わず、ナルシシストで尊大で、何でも自分に都合のいいように受けとり、頭が軽くて好色という面倒なヤツなのですが、彼が傍若無人に筆を振るい、それを註のロヴィックが汗をかきかき補足・修正してまわるというコメディが本書全編にわたっています。ロヴィックがブレインとしてジャックに手順を提供しているという設定なのですが、ジャックはあまりに自己中心的なのでそれをすっかり自分の創作と思い込んでおり、自画自賛を交えながら解説。ロヴィックが正しい創作経緯やクレジットを補ったり、ジャックへのツッコミを交えたり。時にジャックは売りネタまで解説しようとして、註のロヴィックがその部分を黒塗りにしてしのぐというネジの外れた一幕まであります。さらに本書をパラパラめくると、古今の名画をハンサムジャックに置き換えたイラストがこれでもかと飛び込んできます。サービス精神たっぷりのなんとも笑える本で</p><p><br /></p><p><br /></p><p><br /></p><p>というのが一般的な感想なのだろうけれども、果たして本当にそうだろうか。なるほど、「著者が武勇伝を語り、それが註で某映画の引き写しだと暴露される」とか、「著者が堂々と売りネタを解説しようとして黒塗りを食らう」とか、あるいは「種々の名画のパロディイラスト」だとかは、間違いなく面白い趣向だ。けれど面白い趣向が、常に面白く機能するわけではない。誰かが言って大受けしたギャグをそのまま真似したって、同じような笑いが取れるわけではない。私のような人間はそれを痛いほど知っているし、たぶんあなたもそうではないか? ロヴィックの趣向に対する選球眼も、その趣向にそって書き通した努力も称賛に値するが、面白いかどうかとは別の話だ。そして少なくとも私には、ロヴィックはずっと滑っているように見える。</p><p>……改めて本書を眺める。戯画化された愚かなジャックと、彼に呆れ、彼をたしなめる、常に『知的』で『倫理的』なロヴィック。その構図に延々と付き合わされるうちに、戯画化され露悪的に書かれたジャックにも増して、筆者のエゴが露わになってくる。そういう意味で、本書は笑えはしないが、滑稽ではある。狙って書いたのなら凄いことだが……恐らくそうではないだろう。</p><p><br /></p><p>手品の本なので手品の話もしておく。本書で扱われるのはパーラーからステージの手品だ。ただしクロースアップに根差したものがほとんどで、大仰な道具は使わないからアプローチはしやすい。かなり凝り性のようで、いろいろな工夫が盛り込まれており、別案や類似例を含めてクレジットも手厚い。そのまま演じないにしても(というかハンサムジャックという奇矯な人間用の手品になっているので、そのまま演じるのは厳しい)、勉強になることは間違いない。</p><p>また手順以外のコンテンツとして、ロヴィックはキャラクタ造形についてエッセイを書いている。これはおおむね正しいことを言っていると思うが、しかし肝心の彼の演技人格ハンサムジャックは戯画化の程度が強い非現実的な造形で、そのうえ「観客を笑わせる」というより「観客に笑われる」ものとなっており、正直なところ私にとっては魅力的に映らない。それは私の趣味の問題ではあるのだが、ハンサム・ジャック氏が底にある以上、ロヴィックの言葉はあまり私には響かなかった。</p><p>おおむね正しいことを言っており、手順も(そのままは使えないが)勉強になることは確実だから、気になるプロットがあれば買って損はない。それに、飾ると最高にかっこいい。</p><p>そう、色々内容について文句を言ったが、それを覆して余りあるほど本書の造本は最高なのである。特に、背継ぎの布装丁と、太い帯とを組み合わせた表紙デザインは秀逸の一言だ。……なのだが、本書には実は日本語版があり、そこでは素材とパーツ構成を活かした原著のデザインを、あろうことかそのままソフトカバーに印刷している。なんとも滑稽なことであるが、内容にはより合致しているかもしれない。</p><p><br /></p><p>追記:私は以前からあまりロヴィックが好きではないので、この文にも多少の(あるいは多大な)バイアスがかかっているだろう。また本書も通読はしたが、精読したとまでは言えない。そのうえであえて言うが、愚かで軽薄なジャックは、その軽さゆえに幾度かはロヴィックを出し抜かなくてはならなかった。ロヴィックは冷静さを失って地団太を踏んだり、みっともなく取り乱したりして、一度や二度でいい、笑われる立場にならなくてはならなかったのではないだろうか。そもそもの疑問だが、ロヴィックはジャックのことを、少しくらいは好きなのだろうか?</p>hirokadahttp://www.blogger.com/profile/01145851621093573444noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-1954875594520675649.post-91832438609209948262023-06-30T17:30:00.003+09:002023-06-30T17:30:44.472+09:00"5 for £5: Coffee" Oliver Meech<p><b><i>5 for £5: Coffee</i></b> (Oliver Meech, 2009)</p><p>5ポンドで5トリック紹介する、Oliver Meechの少額電子ノートシリーズの一冊で、テーマはコーヒーショップ。他に子供向きの<b style="font-style: italic;">5 for £5: Kids</b>、ステージ向きの<b style="font-style: italic;">5 for £5: Stage</b>が出ているようです。Luluで買えます。</p><p>コーヒーショップやコーヒーに関連する手順が5つ紹介されており、Linking Coffee Ringsという手順が白眉。Coffee Ringというのは、コーヒーカップの底によってできたコーヒーの丸い染み。あれがリンクします。</p><p>もともと著者は、「マジック界は新メソッドであふれているが、新プロットはほとんどない」という問題意識をもとに<b><i>The</i></b> <b style="font-style: italic;">Plot Thickens</b>、<b><i>The Plot Twists</i></b>という本を出していた人です。しかし、ちょっとしたアイディアや手順を発表するには、しっかりした単著では都合が悪く、よりラフに発表できるシリーズとして本シリーズを立ち上げたとのこと。手順の出来映えはそこそこですが、安くて流し読みができ、たまにイメージの膨らむアイディアやプロットがある本冊子は、著者のねらいがしっかり実現できています。</p><p>そんな著者が「新しいプロット」にしっかり取り組んで書いた<b style="font-style: italic;">The Plot Thickens</b>と続刊もLuluで買えるようなので近く買います。</p>hirokadahttp://www.blogger.com/profile/01145851621093573444noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-1954875594520675649.post-44170143906098442892023-05-31T22:01:00.005+09:002023-05-31T22:20:39.808+09:00“The Esoterist” Allan Ackerman<p><b><i>The Esoterist </i></b>(Allan Ackerman, 1971)</p><p> Allan Ackermanの最初期の作品集。私が買ったのはLybraryのe-book版ですが、元々はページ数42、著者は当時24歳で、おまけに20ほどある収録作は1つをのぞいて1970年3月〜12月の短期間に作られたとのことで、それがハードカバーで出ていたのだから時代を感じます。</p><p> 実はこれが初Ackermanです。Ackermanというと緊密に構成された手順のイメージがあったのですが、本書は作成期間が短かったからか、それとも単に若かったからか、シンプルなアイディアや改変に基づく手順が多いです。古い本ですし、ことさら変なアイディアがあるという訳でもないのですが、一方で非常に切れ味がよく、とても楽しく読みました。</p><p> この「切れ味の良さ」は手順もですが、個人的には解説にこそ感銘を受けました。解説は短く、写真やイラストも少ないのに、説明が不足することは殆どなく、淡々とした記述ながら著者の狙いが鋭く伝わってきて刺激的です。名作や迷作が眠っているというよりは、狙いの定まった改案が読者を刺激し、だったら自分はこうしたい、と思わず吊られて改案を考えてしまうような本でした。</p><p> いちおう作品にも触れておくと、お気に入りは、テンポよくいつの間にかデックが消えるMinuscule Deckで、これは最近の作品と言われても信じてしまいそうでした。また趣味からは外れるものの、著者がすっきり演じたら追いきれなさそうなトラベラーズMass Transit、言語の問題がなかったら演じてみたかった21セントギミックを使った軽妙なSmall Changeがよかったです。カードでも結構ギミック使うのも意外でした。しかし、やはり個人的には、この読み味が一番のおすすめポイントです。Ackermanこんなに面白かったんだ。<b><i>Las Vegas Kardma</i></b>も絶対読みます。</p><p><br /></p><p> ところでこの本、Paul DiamondによるGem of Magic Bookというシリーズの一冊らしく、他の巻も気になってきました。4冊ぐらい出たらしく、本巻がこれだけ面白いならDiamondが名伯楽なのでは、と思う一方で、なんか4冊中2冊がマグネチック・コイン本らしく、ずいぶん尖ってるシリーズだな……。</p>hirokadahttp://www.blogger.com/profile/01145851621093573444noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-1954875594520675649.post-84067904901604576042023-05-07T00:28:00.004+09:002023-05-07T01:04:26.225+09:00"Symmetry, Parity and the Chimera Deck" Ben Harris<p><b><i>Symmetry, Parity and the Chimera Deck</i></b> (Ben Harris, 2023)</p><p><br /></p><p>Ben Harrisというクリエイターに対する私の評価はあまり高くない。アイディア自体は面白いものもあるが、詰めが甘かったり、ちょっと実演には耐えられなさそうだったりと、作品として見たときの完成度が低い印象がある。氏は古くから精力的に作品を発表しており、私がいちばん手品をしていた時期にも<b><i>Silent Running</i></b>が話題をさらっていた。あまりに評判だったので私も買ったが、正直なところ実用できるようには思えなかった。少なくとも、観客から見て、著者の言うような現象になるようには思えなかった。</p><p>本作はスベンガリ・デックの可能性を拡張するという触れ込みで、Vanishing Inc.と組み、100ページ程度のハードカバー本に3種類のギミックデックが付属し、美しい箱に収められた豪華なセットである。主眼は二つで、ひとつは「観客がスベンガリ・デックを混ぜる」、もうひとつが「スベンガリ・デックの拡張」である。</p><p>第一の点「観客がスベンガリ・デックを混ぜる」だが、これがまずイマイチだ。先例がありそうな手法だが、それはまあ、私もこの場ですぐ名前を挙げられないから不問にするとしても、演出との食い合わせが微妙に悪い。「観客がスベンガリ・デックを混ぜる」以上、完全に自由とはいかず、そういった場合は不自由さをどのように不可視化するかが重要だ。演出が不適切だと「自由に混ぜる」と言いながらもその不自由さが際立ってしまう。残念ながらHarrisがこの点に気を使っているようには見えない。</p><p>もう一つはデックの拡張性である。付属の三つのデックParity Deck、Chimera Deck、Imagination Deckはこちらに属する。Chimera Deckを使った手順が特によく、観客が気を抜いた一瞬のうちに、畳みかけるようにデックとカードの色が変わっていくデックスイッチ・デモンストレーションは現象も演出も楽しい。しかしデックの拡張性を探ると言いながらも、その範囲はスベンガリ・デックにとどまっていて、ディスプレイにはしばしば無理があり、とてもそのまま演じる気にはなれない。ストリッパーやラフ&スムースなど他の原理を組み合わせれば、いくらでも改善できたろうに。</p><p>悪い本ではないが、本の造りや著者・編者の言葉と実態がかみ合っていない。著者がそういう人なのは仕方ないにしても、編者はもう少しフィードバックのしようがあったのではないか。近年、意欲的なストリッパー・デック研究本<i style="font-weight: bold;">A New Angle</i>や、Multi-effect Deckを再考するBerhの手順や(未読ではあるが)Hedanの著作があるなかで、本書の完成度はどうしても見劣りする。</p><p>悪い本ではない。アイディアは面白く、付属のギャフ・デックも触って楽しい。しかしアイディアにしろ手順にしろ、考え抜かれているとは言えず、非常に物足りなさを覚える。そこを理解した上で、アイディアとギミックデックのセットとして手に取るのなら、悪い本ではない。個人的にChimera Deckの手順はぜひブラッシュアップして演じたいくらい魅力的だったし、Parity Deckも頭のいい人なら色々と悪用ができそうに思う。</p><p>なお箱に書かれてあるタイトルが<b><i>Symmetry, Parity and the Chimera Deck</i></b>で、入ってる本のタイトルは<b style="font-style: italic;">Symmetry and Parity</b>で、入ってるデックはParity Deck、Chimera Deck、Imagination Deckで、なんかそのへんもチグハグである。</p>hirokadahttp://www.blogger.com/profile/01145851621093573444noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-1954875594520675649.post-88534861195672244752023-04-30T17:31:00.001+09:002023-04-30T17:46:22.916+09:00"Instructions for Miracles" Friedrich Roitzsch<p><b><i>Instructions for Miracles</i></b> (Friedrich Roitzsch, 2023)</p><p>ドイツのベテラン・マジシャンFriedrich Roitzschによるカードマジック作品集。100ページ程度の小ぶりで小粋なハードカバーで、10作品が解説されています。Conjuring Archiveのニュースレターで宣伝されていたのでノータイムで購入。</p><p>プロの手順ということで実用性が高く、ギミック使用も多い一方、高難度の技法をうまく紛れ込ませたり、特殊な現象をレギュラーに落とし込むといった企みもあり、技法マニアのアマチュアから見ても満足度が高い。既存手順の改案や組み合わせが多いので目新しさはやや弱いが、これはまあ博覧強記のDenis Behrが友人なら結果的にそうもなろう。それからもうひとつ面白かったのが、タイトルから気付いた方も居るかも知れませんが、Pepe Carrollのプロットが収録されていることです。それも2つも。Carrollはスペインでは超有名でしたが、その影響が徐々に他国にも及んできているのかも知れません。</p><p>プロット自体は既存のものが多く、過去作を踏まえた改案や修正が肝というタイプなので、今回は各トリックの概要も書きます。当然ですがクレジットもしっかりしてるので、気になるプロットがあったら購入お勧め。</p><div style="text-align: left;"><b>Switch'em<br /></b> 観客がハンド・マッキングをしてしまう現象。マッキング・デモを堂々と見せられるので技法マニアも満足。</div><div style="text-align: left;"><br /><b>Luminous Readers<br /></b> 観客が『特別な眼鏡』をかけると、マーキングが見えるようになる。</div><div style="text-align: left;"><br /><b>Robin Hood<br /></b> ブーメランカードに素晴らしい奇想を加えたPaul Harrisの手順を、観客のサイン入りカードで行う企み。</div><div style="text-align: left;"><br /><b>The Fastest Card Trick in the World<br /></b> A4枚とK4枚の瞬間交換現象とポケットインターチェンジ。</div><div style="text-align: left;"><br /><b>Power Matcha<br /></b> 観客の選んだ枚数目だけカードがメイトになるPower of Thought系手順で、最後に全てメイトになるもの。最後の前の改め(の準備)に面白い原理を使っている。</div><div style="text-align: left;"><br /><b>Nine Card Monte Revisited<br /></b> ガフを使ったNine Card Monte。</div><div style="text-align: left;"><br /><b>Far Out</b></div><div style="text-align: left;"> 3人の観客がそれぞれパケットを取り、フェイスのカードを覚える。それを遠くから当てていく。かなり頭を使う。</div><div style="text-align: left;"><br /><b>Out of this Card Box<br /></b> 混ぜてもらった状態から行うOut of this World。これも頭使う。</div><div style="text-align: left;"><br /><b>Magic Squared<br /></b> 0~52の数字が書かれたトランプで行う魔方陣。こんないかにも数理原理な手順に、こんな技法とギミックを入れ込むとか思わんて……。</div><div style="text-align: left;"><br /><b>Instructions for a Miracle<br /></b> 手順の段取りが書かれたメモ帳の中に、観客のサインされたカードが綴じられている。</div>hirokadahttp://www.blogger.com/profile/01145851621093573444noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-1954875594520675649.post-50781660201264710992023-03-31T21:39:00.000+09:002023-03-31T21:39:07.234+09:00”Letters from Juan vol.1”<p><b><i>Letters from Juan Volume 1</i></b> (Juan Tamariz, 2023)</p><p><br /></p><p>タマリッツに対する思いは単純ではない。私が手品を始めた頃、タマリッツは既に生ける伝説だったし、初めて氏の手品を動画で見たときは頭をぶん殴られたような衝撃があった。実際、不思議すぎて頭が痛くなり、しばらく横になったくらいである。</p><p>一方で、それから手品を続けていくうちに違和感を抱きもした。他の人が言うほどには不思議ではない手順も散見されるように思えたのだ。私は幸いにも、タマリッツの演技を生で、至近距離で見る機会にも恵まれたが、そのうえでこういった認識を持っている。</p><p>どうにもタマリッツの手品の『凄さ』が良く分からなくなってきたのだ。他の著名マジシャンなら分かりやすい『十八番』がある。スライディーニならあの独特のラッピングだし、アスカニオなら『途中の動作(in transit action)』に代表される理論とその実践だ。バーノンやエルムズレイのような地味なタイプでも、やはり底に通ずる作風のようなものがある。しかしタマリッツはどうだろう。すぐ頭に浮かぶのはエアバイオリンであったり、客に混ぜさせようとして叫ぶアレだが、それは手品そのものからは外れる。</p><p>結局のところ、私は演技における『タマリッツらしさ』に目がくらんで、手品における『タマリッツらしさ』を掴みかねているのだ。タマリッツとは言語の壁も大きいし、長くテレビに出演していたこともあって実に雑多な手品を演じるのも、芯を捉えにくくする要因ではある。しかし一番の困難は、発表された作品の少なさだろう。もちろん<b><i>Sonata</i></b>や<b><i>Magic Way</i></b>などの著作はあるが、手順は理論の作例として示されている場合も多く、タマリッツが本当に好んでいる要素、タマリッツの手品を、タマリッツの手品たらしめているものを掴むには、まだ足りてない。少なくとも私にとってはそうだったのだ。</p><p>……なので、タマリッツの手順を集成した作品集<b><i>Flamenco</i></b>が出版されるのを心待ちにしていたのだが、急に割り込んできたのがこの<b><i>Letters from Juan</i></b>である。44ページの薄い冊子で、なんでもこれまでずっと秘密にしてきたとっておきの手順たちを公開していくシリーズなのだと。</p><p>今回収録されているのは以下4手順。</p><p>・The Shovel</p><p>・Color Separation Finale</p><p>・The Rainbow Knife</p><p>・Pure Olive Oil and Water</p><p>正直に言って手順はそこまで良くない。というか巻頭のThe Shovelがイマイチで、それが全体の印象を悪くしている。この手順は、観客の選んだカードがデックの中に戻された後、観客がカードを見つけるというものなのだが、言ってしまうとメキシカン・ターンノーバーでスイッチするだけなのだ。もちろん色々な工夫はあるけれども、伝説のマジシャンが遂に公開した秘蔵手順としてはどうしても肩透かしである。</p><p>だけれど、タマリッツがこの手順をシリーズの巻頭にもって来たこと自体が、タマリッツらしさを理解する助けにはなるだろう。そして他の手順にも手がかりは散らばっている。それはOil and Waterで最初に混ぜるところを全て観客にやらせてしまうことであり、カラーチェンジング・ナイフで「魔法の粉を掛けると~」という時代遅れも極まった演出でぞんざいにポケットに手を突っ込んでしまうことである。</p><p>「レパートリーを増やしたい」とか「特別な秘密を知りたい」といった需要にはマッチしないが、タマリッツの手品を少し理解できた気がする。次も出たらすぐ買います。</p>hirokadahttp://www.blogger.com/profile/01145851621093573444noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-1954875594520675649.post-66329446798269312772023-02-28T23:26:00.004+09:002023-02-28T23:29:35.426+09:00"The Wonderous World of Pickpocketing" Héctor Mancha<p><b><i>The Wonderous World of Pickpocketing</i></b> (Héctor Mancha, 2022)</p><p>マジックを趣味とするような人種であれば、概ねピックポケットにも興味を抱いたことはあるだろう。だがピックポケットは、実際に試すまでに大きなハードルがある。その最初の一歩にとても良い本が出た(と思う)。</p><p>本書はFISMグランプリウィナーHéctor Manchaによるピックポケット本。Héctor Manchaはピックポケットの専門家ではなく、本書もピックポケットの専門書というには少し趣が異なる。どちらかといえばマジシャンHéctor Manchaによるピックポケットのガイドブックと言った感じだ。解説は全体的に簡素だが、練習方法に始まり、観客の選び方、台本からノウハウまで含めた、『マジシャンがステージで演じるピックポケット』のための全体像が提供されている。解説文はわかりやすく簡潔で、著者らしいおふざけはありつつも、このジャンルに何より不可欠な倫理が底に通じている。</p><p>元々100ページ程度の薄い本だが、純粋なピックポケットに関しては50ページほどしか無い。残り約50ページはピックポケットと合わせて演じるマジックの手順が9つ解説されている。どれもスリの演出を用いたもので、手順の中に実際のピックポケットのタイミングが組み込まれたもの。ただこれらは単体で演じても面白そうなものの、やや手品感が勝つように感じた。純粋なピックポケットと組み合わせたときにこそ真価を発揮しそうだ。</p><p>巧妙な原理や奇想といったものはないが、わずか50ページ程度でしっかりピックポケットの全体像が解説されており、FISMグランプリウィナーはこういう面も凄いのだなと感じた。このジャンルにおいて、最初に目を通す1冊目としてよく、また時々確認のために読み返すにもいい。別のジャンルでもこういう本が出ないかな。</p>hirokadahttp://www.blogger.com/profile/01145851621093573444noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-1954875594520675649.post-62293890024380864242023-01-31T22:45:00.000+09:002023-01-31T22:45:48.502+09:00"ルビアレスのやさしいコインマジック" Juan Luis Rubiales<p><b><i>ルビアレスのやさしいコインマジック</i></b> (Juan Luis Rubiales, 2019)</p><p><br /></p><p>Rubialesが箱根のゲストだったときに、マジックランドが作成した日本語のレクチャーノート。taller de iniciacion a la magia con monedas(コインマジックの初級ワークショップ)と表紙に書かれているので、Rubialesのワークショップで使っているノートの翻訳だと思うんですがちゃんとは調べていません。</p><p>初心者向けの本を書くのは大変に難しく、考えを要します。個人的にRubialesは好きなんですが、この点で適性があるかというと怪しいなと思いながら読みました。それでまあ、本冊子が「まえがき」にあるような「知識ゼロの初心者に向けた、安心して演じられて自信が付けられるセルフ/準セルフワーキングのコインマジックの本」かというと、やはりちょっと無理がある。いっぽうでRubialesらしさは非常によく出ていて、現象の種類やコインの使い方はなかなかバラエティに富んでいます。カードマジックの翻案や、コインに予言を書くような物から、代表作のアンビシャスコインなどなど。</p><p>また読み物(理論)部分が、かなりしっかりした内容でした。技法を個人化すること、無意識にやってしまいがちなコインの位置の微修正、体全体の使い方等々。読者が知識ゼロの初心者なら、もっと前に伝えるべきことがあるんではとは思いますが。</p><p>知識ゼロの初心者向け、と言われると大いに疑問ですが、もともとワークショップの資料だったようなので、Rubialesの実演や指導付きでなら成立するのではないでしょうか。冊子だけで読むのなら、型どおりの基礎的なコイン技法をなぞった後、コインの素材としての可能性を広げたり、技法の精度を上げたりするために読むのがちょうどよさそう。</p>hirokadahttp://www.blogger.com/profile/01145851621093573444noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-1954875594520675649.post-47524089154246856522023-01-31T01:54:00.009+09:002023-01-31T01:58:31.260+09:00"Offbeat" Nick Diffatte<p><b><i>Offbeat</i></b> (Nick Diffatte, 2022)</p><p><br /></p><p>若干26歳ながら芸歴11年を数え、かのMac Kingをして「コメディマジックの未来は明るい」と言わしめたコメディマジシャン。その作品集である本著は、なるほど実用性が高くてしっかり笑いの取れる手順が載ってるんだろう、これは使えそうだぞと手に取った私のような考えの甘い者の横っ面を、思いっきり張り飛ばして目を覚まさせるような快作です。</p><p>Diffatteは十代の頃からマジックショップにクルーザーにと現場に出まくり、「マジック無しでコメディクラブを沸かせることができる、あるいは笑いなしのマジックで十分観客を魅了できる、その上で両者を合わせられる者しか『コメディマジシャン』とは呼べない」という信念を持った超硬派なのです。そして本書は彼の『マジック』の本なので、具体的なコメディには殆ど触れられていない。手順は主にクラシカルなパーラーで、いくつかコメディ寄りの物もあるが、解説はあくまでマジックとして側面からのものであるから、そのままやってもまあ笑いは取れません。あたりまえだ、笑いはそんな甘いもんではないんである。</p><p>手順はさすが現場主義と言うべきで、既存手順の細部を詰めたり、不格好な部分を直したりという方向。よくブラッシュアップされており、マニアも騙せそうなものも少なくない。特に三本ロープは事前知識無しで見てみたかった。他にもビルチェンジやメダリオン、ダイチューブに、破ったマッチが変にくっついて不可能物体になる小品など15手順+1アイディア。全体的に質は極めて高い。ただ現象も手法も、あまり奇想は無いかな。</p><p>それで、手順も硬派で悪くないのだが、なによりも合間に挟まれるショートエッセイである。「面白さとは」から始まり、「オープナー」「失敗について」「創作方法」などなど。言ってしまえば正論ど真ん中の内容で、目新しさはないかもしれないが、ここまで真摯な筆致で克明に書かれると私などはただひたすらに背筋が伸びる思いである。</p><p>タイトルと著者経歴から望むようなものが得られる本ではないが、正にそういう期待を抱く甘っちょろいマニアこそ読むべきであろう。トップ・プロの片鱗に触れ、大いに感じ入りまた恥じ入りました。まあそれはそれとして、すぐ使えて笑いの取れるサイコーな手順はどこかにないかなあとやっぱり思ってしまうのだけれども。</p>hirokadahttp://www.blogger.com/profile/01145851621093573444noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-1954875594520675649.post-19079458012488035092022-12-30T03:58:00.000+09:002022-12-30T03:58:03.485+09:00"Queen Spirit" John Bannon<p><b><i>(Smells Like) Queen Spirit </i></b>(John Bannon, 2021)</p><p><br /></p><p>John Bannonの最新作は、7カードアセンブリに取り組んだ小冊子。</p><p>個人的にBannonの一番好きな作品群は、イロジカルな手法を最大限利用した結果、奇妙な現象が生み出されたパターンのものたちだ。それがパケットのFractalシリーズや、冊子<b><i>Six Impossible Things</i></b>だった。そこからすると最近の、技法無しだったり、メンタルよりだったりする本はどうにも面白くなかった。</p><p>今回、プロットは既存であるが、イロジカルな手法を上手く使い、しっかり物理的な現象が起こるので、かなり好み感じに戻ってきた。いくつか問題もあるので傑作とまでは行かないが、良い本と思う。</p><p>A4枚と余分のカード3枚の、計7枚だけを使ったAアセンブリに取り組んだ本。そればかり6手順で、一瞬で集まる物がメインだが、スローモーションもあり、変則的なものもある。おまけとして一般的な枚数(16枚)のアセンブリと、Aアセンブリの前段と言えばの4 of a kind productionがそれぞれ1手順。</p><p>シンプルなプロットなので、裏側も技法1回だけだったりして、そういう面白みは薄い。しかしながらBannonの十八番であるイロジカルな手法を、一般的プロットにどう適用するかというサンプルとしては大変優れており勉強になる。またイロジカルな手法を採用した恩恵として、ハンドリングの全体像は非常にスリム。</p><p>一方問題点としては、ほぼ全編にわたってQを使い、ガールズバンドの離合集散になぞらえる演出がある。Bannonはずっと、カードを何かに喩える物語演出は子供だましで馬鹿馬鹿しいと厳しく批判してきたのにだ。もちろんBannonの中ではセーフな匙加減であり、その辺の説明もあるのだが、でもまあちょっと言い訳がましさはある。</p><p>Bannonの創作ノート的な面白さがあり、これまでのイロジカルな技法を、既存プロットでどう使うかの作例として、とても良かった。Bannon先生におかれましては、こういった本をもっと出てほしいですね。ただ本の作りはちょっとアレなので、そこは外注してほしいですね。</p><p><br /></p><p>あとオマケ手順の1つである通常枚数のAアセンブリは、Bannon技法を使ってJohn Careyが作った手順のさらにAlbart Chouによる改案なのだが、非常に出来が良くてこれだけのために買ってもいいくらいです。</p>hirokadahttp://www.blogger.com/profile/01145851621093573444noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-1954875594520675649.post-30261156172711826702022-11-30T21:46:00.001+09:002022-11-30T21:46:54.420+09:00"Jack Parker's 52 Explorations" Andi Gladwin<p><b><i>Jack Parker's 52 Explorations</i></b> (Andi Gladwin, 2022)</p><p><br /></p><p>愛すべきマニア、故Jack Parkerの第2作品集。カードマジックと技法が、タイトルに掛けて52作品収録されています。正直なところ作品そのものの出来はそこまで良くないのだけれども、なんというかいい意味で笑えるマニアの手品なんです。居るじゃないですか、集まりでちょっと変わった手品や技法をやってくれて、現象としては矛盾してたり、手法が厳しかったり、なんなら成立してるのか微妙だったりするんだけれど、目新しくはあるし、個性的だし、笑いを誘うというか、突っ込みどころのあるタイプの人が。そしてたまにだけど、ホントに不思議な手品や奇想を見せてくる人が。そういう人です。その愛されっぷりは、没後15年も経ってなおハードカバー250ページの第2追悼作品集が出版されることからも分かるでしょう。</p><p>Jack Parkerは市井の手品マニアで、TSD(The Second Deal)という会員制・紹介制の手品掲示板のメンバー。作品発表は同掲示板や、電子書籍の個人出版が主だったようです。同じTSDメンバーであるAndi GladwinやTomas Blombergと親交が深く、本書も執筆がGladwin、前書きがBlombergです。本書自体がそういった人と人のつながりの産物であり、作品においてもBlonbergとの共作で、氏の一流の数理原理を用いたものなどがあります。</p><p>……と、書くと、身内向けの本のように思えるかもしれませんが、Parkerの手品はそれに留まるものではありません。完成度は高くないながら不思議な愛嬌があり、それはJ.C. Wagnerがレパートリーにした作品があったり、John Bannonが改案を発表していたりすることからも分かるでしょう。</p><p>みんなが愛したマニアとテジナ・セッションしたい人、買いましょう。……とは言え、買うなら第一作品集の<b><i>52 Memories</i></b>の方がオススメではあります。実を言うとWagnerやBannonが採用した手品も載ってるのはそっちですしね。それで前著が気に入ったならこちらもどうぞ。</p>hirokadahttp://www.blogger.com/profile/01145851621093573444noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-1954875594520675649.post-78134181029693675032022-10-31T23:36:00.005+09:002022-11-01T00:13:30.653+09:00"The Ron Bauer 2008 Lecture Revised Edition" Ron Bauer<p> <b><i>The Ron Bauer 2008 Lecture Revised Edition </i></b>(Ron Bauer, 2009)</p><p><br /></p><p>Ron Bauerが2008年に行ったレクチャーのノート(メモ)に、参加者でなくても意味が追えるよう多少の改定を加えたもの。Ron Bauerはちょっと古めの人で、38年の生まれでMarloとかVernonとも親しく、あとKortと仲良かったようです。この冊子の図もKortの奥さんが描いてる。あまり露出がない人なのですが、98年くらいから<b><i>Private Studies</i></b>という小冊子のシリーズを出しています。各冊子1トリックを扱い、ちゃんと観客の興味を引くPremiseを提示しろ、技法はうまく演出の中に溶け込ませろ、みたいな内容で全24巻(私は1冊しか読んでないので趣旨については半分憶測)。</p><p>レクチャーの前半はその冊子シリーズに近い方向性で、ちゃんとした『アクト』をもっているか、と言った内容。ここでいう『アクト』とは、3つぐらいのトリックをうまくまとめた小さなショーみたいなものです。アクトの必要性、アクトの要素、なにがアクトをアクトたらしめるか、といった内容とともに、極めて汎用性の高い一例が示されています。私自身これに近い「汎用」アクトで場をしのいだことがあり、良い内容だと思いつつも、ちょっと筆が追いついていない感じがある。<b style="font-style: italic;">Private Studies</b>もそうなんですが、説明の段取りがやや歪で読みにくい。</p><p>後半は打って変わって技法2つ。それもド直球でダブルリフトとパーム。私がそもそもBauerを知り、この冊子を買ったのは、youtubeも黎明期に氏のこのパーム動画を見たからでした。これが上手かった。流石にいま見ると……ではあるんですが、当時最高峰のひとりであったのは間違いないと思います。ダブルリフトはCharlie Millerが「疑いを抱きすらしなかった」と言っており、パームはMarlo, Vernon, Miller等に「いまからちょっとした事をやるから」と言ってから見せて(さすがにパームするとまでは言わなかったらしいが)露見しなかったというもの。こういう逸話は盛られがちですが、どちらも実際そうだったのだろうと思わせる確かな内容です。</p><p>それはたとえば、裏から表にする方法は1通りなのに対して、表から裏にするには4通りが解説されていたり、パームした感が出てしまう2つの要因について分析したりといった、技法細部の検討や、言語化がとても丁寧であることからもうかがえます。この2つの技法に関しては今でもベスト……とはいかなくても、かなり良い解説であり手法なんじゃないでしょうか。</p><p>というわけでやや読みにくいものの、いい冊子だと思いました。惜しむらくはもう少しだけ文章が良ければ。そして<b style="font-style: italic;">Private Studies</b>と共に清書され合本ハードカバーになってくれれば……。まあ望み薄なので、気になるトリックを扱っている巻をもう1つ2つぐらい買ってみたいと思います。しかしPremiseの重要性を説き、演出重視でありつつ、技法マニアでもあり、なにより不思議を重視していた人のように読めるので、全盛期を生で見てみたかったですね。</p><p>氏の座右の銘は、“If you're a magician, you must FOOL‘EM in order to ENTERTAIN ‘EM.(マジシャンであるならば、観客を楽しませるために、まずなによりも彼らを騙さなくてはならない)” とのこと。</p>hirokadahttp://www.blogger.com/profile/01145851621093573444noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-1954875594520675649.post-64085542195011908352022-09-30T23:54:00.000+09:002022-09-30T23:54:44.041+09:00"Paul Curry Presents" Paul Curry<p><b><i>Paul Curry Presents</i></b> (Paul Curry, 1974)</p><p>Out of This Worldで高名なPaul Curryの作品集。のちに<b><i>Paul Curry's Worlds Beyond</i></b>という全集が出ていて、多くはそちらにも収録されているのですが、いくつか取りこぼされている作品もあります。それらを目当てに本書を買ったものの、<b><i>Worlds Beyond</i></b>の記憶も大分薄れていたので通読することにしました。</p><p>Out of this worldとA Swindle of Sortsあたりが有名ですが、他の手順もすさまじく巧妙です。いや、巧妙を通り越して悪辣といっていいほど。原理ベースの手順が多いのですが、根本の原理を上手く使い、また隠すだけでなく、相手の予断を誘う、ミスを装う、途中で別の原理に切り替える、ギミック等々、ありとあらゆる手が尽くされています。</p><p>たとえばCard Acrossの手順では、2人の観客がそれぞれカードを見て覚え、演者はそれが何か全く知るよしもないのですが、それらが消えて移動します。しかも凄いのはこれ、2段階で移動するのです。まず1枚だけが消えて、それからもう1枚も消える。演者は選ばれたカードが何か全く知らないにもかかわらず、もう1枚がまだあることを観客に示し、さらにそれを消せるのです。上手く伝わっているだろうかこの不可能性が。</p><p><b style="font-style: italic;">Worlds Beyond</b>に収録されていない手順たちは、手順としてはやはり見劣りします。しかし同じ原理の応用であったり、後にもっと別の手順に改良されているものだったりするので、本書の方が<b><i>Worlds Beyond</i></b>よりも、Curryの狡猾さ、また原理をどう活用するかの妙がより感じられたように思います。<b><i>Worlds Beyond</i></b>未収録作にはOut of this worldの原理をギャンブル現象に転じた作品もあります。そんなこと考えもしなかった。</p><p>ただし本書の手順には欠点もあります。とにかく長い。52枚を1枚ずつじっくりより分けていったり、カードを何十枚もコールしていったりと、ひたすらに長く、さすがに今そのまま演じるのは難しいでしょう。ただ手順の構築は折り紙付きなので、素材を変えたり、枚数を合理的に減らすなどの工夫ができれば、まだいくらでも人を騙せます。それから古い本なので、文章もいささか読みづらかったかな。</p><p>ともかく本当に、これ以上無いくらい悪辣な企みに満ち満ちています。原理系、メンタル系、セミオートマチック系に興味がある方、是非読みましょう。</p>hirokadahttp://www.blogger.com/profile/01145851621093573444noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-1954875594520675649.post-89263811368669961892022-08-24T07:17:00.005+09:002022-08-24T20:13:51.355+09:00"Lorem Ipsum" Nathan Colwell<p><b><i>Lorem Ipsum </i></b>(Nathan Colwell, 2021)</p><p><br /></p><p><b style="font-style: italic;">Theseus</b>のNathan Colwellによる小ぶりのレクチャーノート。前著ではプロブレムへの取り組み方や緊密な考察と文章など、とても面白いながら肝心のテーマが謎過ぎたわけですが、今回は一般的な手順と技法です。手順が4つと技法(アイディア的なものも含む)が7つ。とても面白かったです。</p><p>手順4つは次のようなもの。</p><p>Ramon Riobooの某手順を応用したトライアンフっぽいもの</p><p>Greg Wilsonの免許証の入れ替わり</p><p>Tommy Wonderのお札を折るやつ</p><p>Royal Roadに載ってる数理寄りの4Aプロダクション</p><p>どれもやりたいことがはっきり示されており、完成度も高く、また面白い考察が含まれています。特にRiobooが用いる『記憶の操作』の説明とその実践は、簡潔でとてもよい言語化でした。なにせRioboo本人は実作で示すことしかしてくれなかったので。また観客に特別な才能があるという演出に対する葛藤なども読みごたえがありました。</p><p>技法の方はプロダクション、Optical Revolve、Convincing Control、謎カウント、ダブルリフト。何に使うのか良く分からない物もありつつ、Convincing Controlは久々に使用技法が更新されそうな出来。</p><p><br /></p><p>革新的な原理とか超不思議だとかいったことではなく、また紹介されてる手品を実際に演じるかと言ったら微妙なところですが、組み立てや考察がとてもよく、読む手品としては久々に当たり。語彙はちょっと難しいが全体的に簡潔で、ボリュームもちょうどよかった。次回作も楽しみです。</p>hirokadahttp://www.blogger.com/profile/01145851621093573444noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-1954875594520675649.post-31891851719373496382022-07-31T16:17:00.000+09:002022-07-31T16:17:11.343+09:00"The Ten Count Force" Bob Farmer<p> <b><i>The Ten Count Force</i></b> (Bob Farmer, 2022)</p><p><br /></p><p>一般販売されてないようで、さらに良い手順でもないものを紹介するのもどうかと思うが、それはそれとして冊子としては悪くないです。Bob Farmerはどうにも憎みきれない。</p><p>原理は古くからあるもの。ここでは予言になっていて、観客がデックを混ぜた後、演者が予言を書き、観客の携帯番号の下四桁に『合わせて』カードを配る。そうすると予言されたカードが出てくる……のだが、原理の使い方がストレートすぎる。さすがにこれはちょっと無いのではないか。</p><p>だがここで終わらないのがFarmerで、この原理の初出や発展を簡単にまとめてくれている。それを読むと、原理の弱点をうまく隠蔽するため様々な工夫がされていてとても面白い。というかこれら先行作を読んだ上で何でこれを出しちゃったんだFarmer。</p><p>なので、メインの手順は正直よくないと思うんだけれど、過去の作例が手短にまとまっていて、冊子としてはよくできています。Farmer氏にメールしたら多分喜んで送ってくれると思うので興味ある人は是非。なおこの冊子には載ってないが、個人的にはTomas Blombergの"Lucky 14"がこの系統だとベスト。</p>hirokadahttp://www.blogger.com/profile/01145851621093573444noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-1954875594520675649.post-51801113121582445542022-06-30T03:11:00.003+09:002022-06-30T03:34:00.529+09:00"Mr. Jennings Takes It Easy" Richard Kaufman<p> <b><i>Mr. Jennings Takes It Easy </i></b>(Richard Kaufman, 2020)</p><p><br /></p><p>本を作るのは簡単で、畢竟、文字さえ書ければ誰にでもできる。とりわけ個人の作品集であれば、作品解説を束ねるだけで形になる。一方で、そこに何かしら特別の効果を持たせるとなると、話はまったく変わってくる。Kaufmanは<b><i>The Berglas Effects</i></b>の時、それができていた。では本書はどうか。</p><p><b style="font-style: italic;">The Royal Road to Card Magic</b>は最高の本なのであのような構成にしたい、と言ったのはJennings本人とのことだが、それを採用した時点で雲行きが怪しくなる。Kaufmanはこの点について最大限の努力を払い、おかげで本書は<b><i>Royal Road</i></b>のような形式の本にはなっている。しかし<b><i>Royal Road</i></b>のような効果の本になったかというと否で、ああいった本の魅力は、技法にしろ手順にしろ、様々な人の異なった考えが載っていることから来ているのだから、Jenningsがどれだけ多作だったとしても、一人の技法・手順で編んだのでは本質から全く外れてしまう。</p><p>ではKaufmanのほうはどういった意図を持って本書を編んだのか。まえがきには「ジェニングス流カードマジックへようこそ!("Welcome to the Larry Jennings School of Card Magic")」とあり、また「<b>ラリージェニングスのカードマジック入門</b>という、日本でだけ発売された本があるが、それの英語版と言える」とある。しかしこれも、読んだ時点で眉をひそめてしまう。<b>ラリージェニングスのカードマジック入門</b>が成功したのは、凝った技法と手順とを、当時としては詳細に、それでいて簡潔にまとめた小ぶりの本だったからというのがあるだろう。もちろんKaufman自身も、先の引用に続けて「とはいえ、本書は全く異なったアプローチを取っている」と言っている。しかし上巻だけで大判580ページにもなる『カードマジック入門』は、その時点で破綻している。</p><p>だから本書は、歪で読みにくい、うすらでかい本になってしまっている。はっきり言って読み通すのはそれなりの苦行だ。おまけにKaufumanの筆はまったく定まっていない。本書は上下巻の予定で、Easyを冠する上巻は簡単な技法を扱うという話なのだが、「Jenningsにとって簡単という意味だから」とダブルカードをずらさずテーブルに放らせたりする。「この技法はよくあるXXという問題点を解消している」と、それ自体は実に納得のいく技法を紹介して、しかし次の技法では問題点XXを平然と許容してしまう。「Jenningsは演出もよかった。一般の人に見せるときはいつも楽しい演出にしていた」と言いながらまったく具体的な記述がないばかりか、「ブラザーハーマンのアンダーグラウンド・トランポジションって手順があったよね?」で始まる手順が載っている。なにもかもがちぐはぐだ。数々の手順も、作品として載っているのか、教材として載っているものなのか……。</p><p>だがKaufmanはこうも言っている。「Vernonが『花のように優雅』と評したように、Jenningsのカードさばきはとかく素晴らしかった」。Jenningsがそのように言われているのは知っていたが、私個人は全くそう感じておらず、Vernonの評にしても、晩年の氏は何を見ても「いいね!」と褒めてたというのと同じ話かと思っていた。だけれど、この点に限って言えば、本書を読んで認識が改まったところがある。</p><p>いくつかの技法は確かに、既存の問題点を美しく解消している。こういった細かな試行錯誤が他にも無数に盛り込まれていたのだったら、確かにJenningsのカードさばきは美しく、マジシャンも引っかけるようなものだったのかもしれない。私はJenningsのことをあまり高く買っていなかったのだが、少なくともこの点に関していえば、認識を改めた。580ページの分量に見合っているかと言えば疑問で、もっといい提示の仕方はいくらでもあったろうが。</p><p>ともかくKaufmanのJennings愛だけは痛いほど伝わったし、圧倒された。ここまで来たら後半も付き合いますから、はやいところ<b><i>Takes It Hard</i></b>も出してくださいよ。また20年以上かかると、さすがにお互い寿命も怪しいからさ。</p>hirokadahttp://www.blogger.com/profile/01145851621093573444noreply@blogger.com0