2020年11月29日日曜日

"The Trojan Horse Project" Manos Kartsakis, Michael Murray, Ian 'Rasp' Cheetham

The Trojan Horse Project(Manos Kartsakis, Michael Murray, Ian 'Rasp' Cheetham, 2020)


Manosの新作なら買うしかないぜ、って事で買った100p程度の小冊子です。

ちょっと落胆して、大いに興奮して、やっぱりちょっと落胆したけど、たいへん面白い本でした。

V2UnVeilですっかりManos Kartsakisのファンになったので、新作が出ると聞いて早速買いました。今回はMichael Murrayとの共著というかコラボというかで、あるプロットでそれぞれ1手順ずつ解説しています。いやまあ正確にはManosが1手順、Murrayが3手順ですが、実質合わせて2つです。ebookと実体本の抱き合わせで、買った時点でebookが読めるようになりました。本はまだ届いてません。

今回のテーマは、正式なプロット名を知らないのですが、「3つの小物を観客が左右ポケットと手に自由に配置し、演者がそれを当てる」というものです。最近、日本語でyuniaという手順も発表されましたね。あれです。

まずManosの手順ですが、これは面白いものの、期待を超えるものではありませんでした。自由な選択をこれでもかと繰り返させ、その中にそっとフォースを紛れ込ませる手腕はすばらしいのですが、最後のキーポイントで使う手法が、前著とかなり似通っているのです。更なる引き出しを期待してたので残念。またUnVeilの時は、その手法が演出の中にほとんど完璧に溶け込んでいましたが、今回はやや取って付けたように感じます。そういったわけで、ちょっとばかり期待外れではありました。

が、続くMichael Murrayの手順Guess Workが非常に面白かった。Manosに触発され、まったく別の方法を考えたというこの手順、現象解説で「演者が見る必要はなく、リモートでもできるし、だから今から読者の君もやってみてくれ」と言われてそんな馬鹿なと思いながら3つの小物を自由にポケットに隠したら、ズバリ言い当てられて思わず声が出ました。もちろん本当に自由にやって当たる訳はなくて、上の文章にはいろいろ省略がありますが、体感としてはまったく上記の通り。

手法もまた大変面白くて、直感に反する原理を重ね、さらに必要となる操作・指示を非常にさりげなく滑り込ませてきます。段階を追って説明されると「確かにそうだ」と分かるのですが、あらためて全体を見るとやっぱり「それはあり得ないでしょ」と感じられる。最後の一手だけがちょっと残念なのですが、原理も手順構築も素晴らしく、解説を追うのもたいへん面白かった。ともすれば露骨な数理トリックになりそうなところ、極めて自然に仕上がっています。

Murrayはアイディア濫造の人という認識があったのですが、ここまでしっかり手順を組めるということで認識を改めました。ただ、その後に続く2手順がいまいちというか、プロット、原理が基本的に同じなので、あんまり読んでいて面白くありませんでした。むしろ繰り返しによって最後の手法の残念さが際立ってしまったような。フルの手順としてではなく、演出案や応用案として切り詰めて紹介されてればよかったかも。

総じて大変面白かったです。またMurrayらしく、たくさんの断片的なアイディアの紹介もあり、そこではこれをジャンケンに応用したり、サイコメトリーにしてみたりと、この原理の発展の裾野を感じさせられました。