2018年11月29日木曜日

"V2 Expanded Edition" Manos Kartsakis



V2 Expanded Edition(Manos Kartsakis,2016)


メンタリズムにWhich Handという現象があって、観客が手に物を隠してそれがどっちにあるか当てる、というやつなのですが、本書はそれをテーマにした小冊子です。7作品解説の80頁です(図ほど分厚くはない)。

7作品ですが、手法が7通りということではなく、基本的にはある原理を使ったものとそのバリエーションです。それが5手順で、プラス、Which Handではないけれど、似ているテーマのオマケが2手順。

Which Handは単純なだけになかなか達成の難しい現象で、ギミックを使うのでなければ、つけいる隙を増やすため変に手続きを増やしたり、エキボクを使ったがために1/2程度の当てものなのに繰り返せなかったり、心理的な技術で当たるっちゃあたるが100%でなかったり……といった割と難儀なプロットです。

本書の手順はギミック無し、100%成立ということで、どんなものかなと思ってページを開いたのですけれど、最初の手順で大いに落胆しました。言ってしまうとこれは「正直村・嘘吐き村」の論理パズルを利用した手順です。ひとつめの手順Veritasは、相手にする質問こそひとつだけですが、相手に正直/嘘吐きの役割を決めさせたり、追加のややこしい指示があったりして、パズルの気配が非常に強い。あーあハズレを引いたかなと思ったんですが、そこからが面白かった。

次の手順Voxでは当てるために必要な質問をゼロにし、その次のVerbalistでは観客がふたりになるものの、パズルとしては明らかに足らないだろうという数の質問で当ててしまいます。このVerbalistが特によくて、現象描写を読んだときは、核となる原理は既に分かっているにも関わらず、どうやって成立させているのか頭を抱えました。Which Handをふたり相手にやるのはあまり好きでは無いんですが、ここでは演出にも裏の仕掛けにも上手くハマっているのであまり気になりません。

原理が発展していくさまが読めるのでとても楽しかったし、最終的な手順も十分にいいものでした。この収録順は、実は手順の創作順ではなくて、より原理に直結したものから、ということだったようですが、おかげで読み物としての面白さが増していました。

おまけの手順はWhich Handとはちょっとずれる内容ですが、どちらも「コインを手に隠す」ことにまつわるもの。両者とも予言がからむのですが、その示し方がうまい。こういった手順で最後に『予言』を出すと、最初から分かっていた感が出てアンチ・クライマックスになってしまいがちですが、彼は演出や言い回しによってうまくドラマに仕立てています。

そういうわけで面白かったです。特にDerren Brownが好きな人なら楽しめるのではないでしょうか(著者自身Brown好きとのこと)。他の著作も買おうと思うのですが、いま調べたところ新作でもWhich Handを2手順ほど解説しているようで……そちらが発展版だとしたら、本書は別にいらなかったのかも……。いやまあ面白かったのでいいのですけれど。

2018-12-25:Which HandがWitch Handになっていたので修正。