2018年1月31日水曜日

"Card College Light" Roberto Giobbi






Card College Light(Roberto Giobbi, 2006)


 ロベルト・ジョビーのセルフ・ワーキング・カードマジック解説本。
 カード・カレッジと付いていますが、それは英訳の際に(おそらくは)売れやすい様にタイトルを変えただけで、本来はカレッジとは関係有りません。本書の方が出版は先です。元々は1988年の手品イベントで配布されたものだそうです。

 で、これの内容が大変すばらしい。惹句には「これは君の親父さんが持っているカンタン手品の本(セルフ・ワーキング・カードマジック本)とは違うぜ」とあるんですが、まさにその通りで、セルフ・ワーキングの本と聞いて想像するようなものとはひと味もふた味も違います。なお、今回の雑文は、ほとんどGiobbiが前書きで書いていることそのままになってしまいましたが、それだけ自覚的に書かれ、その狙い通りに完成した本ということでしょう。

 本書の手順は全てセルフ・ワーキングですが、Giobbiが厳選し、また実際に演じているというのがポイントです。トップ・バッターがTamarizのT.N.T.(Neither Blind nor Silly)という時点で、本書の本気度合いがうかがえます。

 しかし本書のなによりの特徴は、収録されている手順の質ではなく、その効果的な『演じ方』です。おもえばカード当てやセルフ・ワーキングほど、演じ方が重要なカード・マジックもありません。派手なカラーチェンジやバニッシュなんかと違い、指示の出し方ひとつ、操作のタイミングひとつで、まったく不思議ではなくなってしまいます。

 本書はそれを、とても丁寧に解説します。……といっても、『演じ方』そのものが理論立てられて解説されるわけではありませんが、Giobbi流の綿密な手順解説を通じて、みっちりと仕込まれます。書かれていることを丁寧になぞれば、それだけで『演じ方』の大枠が身に付くでしょう。

 Giobbiの解説は重すぎることも多いのですが、本書は手順が簡潔であるためちょうどよいバランスになっています。

 また本の構成も、『演じ方』について、とても面白い企みを持っています。トリックは合計21作品収められているのですが、ただ順番に解説していくのではなく、3つずつを1セットのルーチンとして構成されています。演出的に連続性があるものもあれば、あるトリックの中で次のトリックのセットアップをしたりするような、裏側的に連続しているものもあります。セットとして演じることで見えてくるものも多くあるでしょう。

 いやまあとかくおすすめです。初心者であれ中級者であれ、こじらせたマニアであれ、カード・マジックを実際に人に見せるというのならば誰にでも。

本書自体はセルフ・ワーク・オンリーですが、解説末尾の考察では、フォールス・シャッフルやフォールス・カットをここで使うと効果的、のような示唆が含まれており、より広い世界への誘導も行われます。
 上の方で「本書は本来カレッジとは関係ない」と書きましたが、作例不足のきらいがあるカレッジと手順と演出オンリーの本書とは、うまいかたちで補い合うでしょう。

 なお続刊にLighterLightestがあり、それらもまあ面白いは面白いのですが、さすがにセルフ・ワークしばりのせいで食傷気味にはなります。ローテクのデック・バニッシュとか、タネも仕掛けもないカード当ては一見の価値有りですが。
 繰り返しになりますが本書の見所は『演じ方』であり、それはLightで十分に示されているので、後の巻は別に無理して買う必要はないかな……。実演向きのセルフ・ワークや原理ものがお好きであればもちろん買うとよいですが。

 日本語版が出ると聞きました。ほんとうか……?!