2017年1月24日火曜日

Thinking the Impossible 日本語版:発売

 

Thinking the Impossible:日本語版

Ramón Riobóo

 



もし騙されるのがお嫌なら、何があってもRamón Riobóoに会ってはいけません。


Riobóoが1組のトランプを手に取したら――、疑い深い観客から世界的な碩学のマジシャンまで、最早だれ一人として安全ではありません。彼がポケットからくたびれたトランプを取り出し、ぎこちない手つきで混ぜ始めたら、――その間ずっと彼が少し上の空に見えたとしても、心しておくように、あなたが知っているこの世界の物理法則はねじ曲がり、あり得ない結末へと雪崩込むでしょう。

Ramón Riobóoは引退したTVディレクターで、スペインが誇る最上級のマジシャンJuan Tamarizの近しい友人です。彼はその本業から、ドラマ、簡潔さ、娯楽性、そして観客の注意を操る技を学びました。そしてTamarizとの親交を通じて、彼は愛想良く、しかし容赦なく相手を騙す術を学んだのです。彼の手の内を見抜いたと思ったそのとき、あなたは正に彼のマジックの陥穽にはまり込んでいるのです。人を袋小路に導くことにかけてRamón Riobóo程の手練れは居ないでしょう。

 Riobóoの専門は数理的な原理と心理的なサトルティの芸術的なまでに巧みな使用です。それらは巧妙に隠されており、理解を超えた現象を生み出すように計算されています。そして彼は、あなたが予想すらしていないタイミングで、技法やギミック・カードをそっと忍ばせて来ます。これらの組み合わせは、あっけにとられるような不思議さと心地のよい楽しさを生むでしょう。

Steve BeamのSemi-automatic Card Tricks シリーズに露出し始めた事で、 英語圏のマジシャン達の間でRiobóo作品に対する関心が高まってきました。このThinking the Impossibleで、彼はその名声に期待されるものすべてを解放しています。39のトリックと手順には彼の賢さと狡猾さがたっぷりと染み込み、そこに心理的な側面についての3つの信条がステアされて、―― くらくらするほどに不思議なカード・マジックがここにあります。

 Hermetic Press版より





 長らくお待たせしました。Thinking the Impossible 日本語版、発売と相成りました。リンク先のBASEサイトをご使用頂くか、私個人にメールで連絡のうえ銀行口座振り込みなどでお買い求めください。本業がありますので、場合によっては発送が週末までずれ込む場合もあるかと思いますが、ご理解頂きますようお願い致します。


 さて本の内容を紹介したいのですが、ここでいくら褒めちぎっても宣伝にしか聞こえないでしょう。しかし幸いにして、本書を訳す事になるなど夢にも思っていなかった頃のレビューがあるので、そちらを参照ください。


 緑の蔵書票:"Thinking the Impossible"Ramón Riobóo



 翻訳に際しては、基本的には元々の文章に手を加える事はしていません。中にはやや理屈に合わない操作であるとか、わかりにくいような説明もあるのですが、大きな改変や、注や図を補うような事はしませんでした。ただし現象説明と手法解説とで若干内容に食い違いがある場合があり、それは統一のうえ、その旨を注にしてあります。


 またページ数や構成の関係で、数点の図が削られたり、加工されたりしています。削られたのはとある文房具の写真や、ごくごく基礎的な技法の図であり、他の問題と天秤に掛けたうえで、無くても問題ないと判断しました。


 技法名、手順名、人名、書籍名については、ダブル・リフトやシャッフルなどの基本的な用語を除いて、英語表記のままにしてあります。これは私が音を上手くカナに起こせなかったからですが、いちおう検索が容易にできるようにという意図もあります。基本的には固有名詞なので、通読には問題ないかと思います。

 なおRamón Riobóo氏について言うと、ラモン・リオボーという音が近いようです。


 カバー、表紙、および章題のイラストは日本語版オリジナルのもので、原著とも英訳書とも違った雰囲気になっています。




 本書がそれなりに売れて、というか割とかなり売れて、運良く黒字になりましたら、次に用意している本が出しやすくなります。皆様何とぞよろしくお願いいたします。


*宣伝のためにしばらく未来の日付にします。
元の公開日時は2015/01/24 19:31。

2017年1月2日月曜日

"Switch" Benjamin Earl



Switch(Benjamin Earl, 2015)



Benjamin Earlの冊子。Switchのタイトルに相応しく、トランスポジション現象2作品。トランプの入れ替わりPaper Switchとコインの入れ替わりMetal Switchを解説。

これがうーん。

1.ギミック無し
2.デュプリケート無し
3.現象は1回のみ
4.クリアーな現象
5.テーブルなどは要らない
6.実用的
7.演者と観客がそれぞれ『物』を保持する

というルールを遵守しており、手法はそこから想像されるモノそのままだと思います。面白さは無い。そのうえで、技法の細部をどうするかとか、連続した手続きだと認識されたらまずい所をどう心理的に切り分けるか、というEarlの研究は面白いです。また「あのBenjamin Earlがこれで成立させているんだから」という練習モチベーションにはなります。

特にThe Delayed Palm Removalという(名付ける程のものでもないと思うが)演出上の工夫はなるほど。またPaper Switchの方は、使う技法の難易度に合わせて5段階の手順が解説されているのも面白かったです。まあひとつ目からして「ここでリラックスしてトップ・カードをパーム」とか言われるので簡単ではありませんが。

クラシカルで単純な現象を可能な限り強力に演じる、というEarlの方針は分かるのですが、しかし彼はそこに面白さも不思議さも設定していないので、見る人は「わからない」とか「上手い」「怖い」という感想になるんじゃないかなとも思います。Earlはそういうキャラなので、それでいいのでしょうが、この通りにやって効果を上げられる人は少ないかもしれない。

またこの本に限らず、最近のEarlは「カジュアルにポケットに手を入れる」を多用するんですが、これは人によっては合わないのじゃないかと思います。






"Fred Kaps' Lecture Notes" Pete Biro




Fred Kaps' Lecture Notes(1972, 2012, Pete Biro)



かのFred Kapsのレクチャーノート。2012年にPete Biroが自身の小冊子シリーズの11巻目として、判型を改めて出版したものです。しかし古い時代のレクチャーノートという事もあって、イラストは一切なく解説も簡素。ほとんどのトリックは半ページの文量しかありません。ここからKapsのタッチなり工夫なりを読み取るのは難しいと思います。


またPete Biroの編集が良くなくてですね、写真は圧縮ボケしてるし、註釈をつけたかと思えばその内容が『なにせ20年も前のことなのでこのグラスのサイズなどは思い出せない』とかいう読み手側の情報量が全く増えない内容。そんなこと書いてる暇があるなら、解説が間違っているTwisting the Aces, using the Ascanio Spreadを修正しろよ。

また表紙にBonus:Smoking Thumbとあるが、これも酷いんです。簡単な歴史に触れ、あとはTom Mullicaの手に渡ったというギミックの写真があるだけ。手順の具体的な内容やコツは何も明らかになりません。しかもこの写真、Mullicaがオークションで使ったものと書いてあって、……え、それ、Biroはただネットから拾ってきただけじゃねえの?
2つあったギミックのうち一方は自分が譲り受けたとか書くなら手元にあるそいつの写真を撮れば良いのでは?ホントにもらったのですか?それとも現存していないという事ですか?

また演技はここで見れるよ、と言ってyoutubeのリンクを幾つか加えてもいるんですが、一つはリンク切れ、もう一方もどうやらBiroではないアカウントの上げた動画で、しかも壊れているのか何なのか私の再生環境では見られませんでした。

ノートの出来が悪いのは時代的に仕方ないとはいえ、それを2012年に編集のうえ再発売するにあたってこの内容はあまりに手を抜きすぎでは。というか表紙の、自身のカラー写真さえ圧縮ボケしてるんですが、この人は本当に本業写真家なのか。


そんなこんなで酷い出来の冊子です。

内容に戻りますと、Kapsの手品は統一性のあまり感じられない雑多な内容です。一番気になったのはInternational Coins Through Tableで、最終段にちょっと見たことのない組み合わせでの解決方法を取っています。いや単純に不自然だし成立もしていなさそうなんですが、気に掛かるアイディアでした。
しかしKapsはこれ以外も、あまりまともに記録が残っていないようで残念だ。

"F for Fiction" Benjamin Earl




F for Fiction (Benjamin Earl, 2015)


カードとポケットにまつわる3作品を収録したBenjamin Earlの小冊子。せっかくなら4作にして韻を踏めばよかったろうに。

・Four-Card Impossible
 Prefiguration。Earlは最高のバリエーションだと宣いますが、そして確かにカードの数値に合わせて配るとかそういうセルフワーク臭い要素は無くなっていますが、代わりに導入されたフォースは怪しい動作がない代わりに説得力微妙。

・Finish 52
 観客が自由にカードを言う。複数枚のカードをポケットから取り出すと、その数値の合計が観客の言った値と合致する。
 ――という、昔からあるけれども不思議さや面白さの弱い現象に、うまくフォローアップする第二段を加えてた作品。これは確かに面白く、またこんなつまらない現象をよく拾い上げ、よく現代的な形にできたなと関心しました。もっとこういう方向性で創作してくれればいいのに。

・Followers
 VernonのThe Travelersから冗長さをぎりぎりまで削ったような作品。原案の狙いやテンポは無視しているので賛否両論有ろうが、非常にスピーディーで現代的な手順になった。ただかなりダイレクトである。
 最後にデックが溶けるように消えるというThe Fade Away Deck Vanishが載っているが、これはあんまり真に受けない方が良いのかなと思う(観客は××のように感じる、というのは検証が非常に難しい)。


という3作品。このところ販売されたBen Earlの冊子の中ではもっとも手品らしい企みがある。技法を前面に出してはいないのに、不思議でも面白いでもなく「上手い」という印象になってしまいそうな手順構成・演出ではあるが、その辺は料理次第でどうにでもなるかな。

クラシックをよく研究していて、そのリライトの腕もなかなか。最近のEarl冊子の中では1番地に足が付いておりよかった。例によって演技権が厳しく設定されているので買われた方は注意。