2013年10月30日水曜日

"One In The Hand" Paul Brook



     




One in the Hand (Paul Brook, 2009)





UKのメンタリストPaul Brookによるコイン・メンタリズム。


(現実ではあんまり名前聞かないように思うんだけどネット上では)有名なメンタリストに多いのだけれど、たとえばJerome FinleyとかSean Watersとかね、このBrookもおまえそれ値段付け間違えてね?勢の一人。いやまあ自費出版の手品本なんて、価格は付ける側の自由だけれども、さすがに正体不明の方による80ドル700ページの本は手を出せないですよ。それも何冊もあるし。

ですが、まあ気にはなりますわな。

そんな中でこの単品作品は$30とお求めやすいです。まあ十分高いですが単品DVDでそれぐらいはするのでまあ許容範囲かなと。あと僕、この類のプロブレム好きなんですよね*。


現象:観客の前に、握った拳が出されている。相手に想像上のコインから一枚、好きなコインを言ってもらい、さらに片方の面に×印を書いてもらう。
演者が手を開くと、相手が選んだのと同じコインがそこに有り、ひっくり返すと正しい面に×印が付いている。


ってまあそんなことできるわけ無いんですよね。
少なくとも100%は。


色々なところから巧く組み合わせてきた感じで、各所にちょっとした工夫があり面白いです。解説も非常に詳細で、ドル、ポンド、ユーロの三種類を取り扱う丁寧さ。ただこの現象、確度は100%では無く、アウトがあります。そちらも詳細に解説されているのですが、問題はそのアウトありきのスタンスで始める必要があること。アウトと本現象で、現象が全然違うのです。つまり不可能性の高い予言(?)として十分に演出できない。

もちろんそういう後出しをうまくドレスアップするのがメンタリストの技術なのでしょうが。


アウトはいわゆるリーディング(占い)的な物。必ずウケるように、Reading+Factという構成を取っておりこの工夫も非常によい。

でも僕、Readingできません。
あなたが選んだ○円硬貨は~で、だからあなたは~みたいなトークが十分に必然でかつエンターテイニングなキャラクタしてないです。

そういう訳でお蔵入りです残念。
アウトを上手く変えれば、何とかなるかなあ。


原理はまあ想像の範囲を出ることはありませんでしたが、各所のちょっとした工夫は面白かったです。ただ円への適用、それから演出的な工夫について、けっこういじらないと演じるのは無理と思います。メンタル度が高い方向けです。
アウトのReadingが苦にならない人や、既にそういう手順を運用している方は、いろいろと面白い箇所があるでしょう。

でもまあ、他の本はいいかな……。



*Which Handエフェクトとその派生系。
Silver Swindle(Gerti 2.0) DVD、The Safran Papers(Boht)、Prevaricatorとか。
Prevaricatorは面白かったです。誰か面白いの知ってたら教えて下さい。

2013年10月25日金曜日

"BEBEL レクチャーノート" 二川滋夫








BEBEL レクチャーノート (二川滋夫,1996)




フランスの変態、Bebelの数少ない資料の一つ。

Bebel単体での作品集というと、手に入るのはこれと、あとDVD Enfin le(仏語)だけではないでしょうか?(*)

内容はああいかにもというbebel節全開で、DVDとの重複もReset (Retro Repro)くらいしかなく、大変楽しめました。パームやVernon Transferを濫用する感じがたまらないです。

全体的に高い難度。収録数は10とDVDより断然多いです。意外にセルフワークっぽいものも有りますが、それですら「二人で配りながら自分はずっとセカンドディールしろ」とかけっこうきつい事を要求されます。Kings Nightなど、現象が入り組んでて、何がやりたいのかさっぱり不明のものもあり。しかしハンドリングのせいか、あんまりややこしい印象がないのが不思議です。

Collectorはどちらにも収録されてますが、全然ハンドリングが違っていて別物。タイトルも違う。
DVD版はデックの中にAをいれて、もぬもぬしまくった後、何故か挟まれて現れるというもの。
こちらはよけておいたAを広げると、その瞬間、間に現れるパターンです。かなりダイレクト。

同じプロットと言えば繰り返しのサンドイッチもあります。DVD収録のものが二回連続のサンドイッチなのに対して、こちらは四回繰り返して、しかも最後はサンドカードが消えるというしつこいもの。全体としては、ノート版の方が好きなんですが、DVD版は初段がすばらしく、見比べたり組み合わせたりして楽しんでいます。


あとDVDではさっぱりわからなかったBebelの台詞ですが、同書ではなんと「フランス語で判らないので、つじつまが合うように想像で書きました」とか書いてあって、二川先生そりゃないですよ。いや、手順読めるだけで十二分に有り難いのではありますが少し残念。


というわけで、全体的にむずかしいし、イロジカル、しかし不思議な魅力があります。
Bebelのパフォーマンス環境などを加味すると、構成の利点なり狙いなり、色々判ってくるのかなあとは思いますが、それにしても独特で、そうとう無茶です。文章だけだったらちょっと敬遠するレベル。しかし氏のタッチを知った上で読み直すと、それらを成立させるだけの技量の裏打ちや呼吸を感じられます。
つくづく面白いマジシャンです。


*:他はVallarinoとのセッションを納めたInspiration DVD 1&2程度でしょうか。単品なら、DL作品や、Fat Brothersでの出演もあったかな。仏語ではノートとか本とか出しているのでしょうか。
とはいえ同工異曲というか同工同曲というか、作風にはあまり幅が無い気もします。や、Inspirationとかとても見たいんですけどね。