2019年1月26日土曜日

"Coercion" Seamus Maguire





Coercion (Seamus Maguire, 2016)


 Spectator as Mind Reader(観客が読心術をする)というプロットのためのある技術と、それを使った手順例。

 ステージのメンタルマジックなんかでは、「あたかも観客が演者の心を読んだように見える」という趣向はそこそこ有りますけれども、それはよくて即席の共謀(Instant Stooge)とか現象の二面性(Dual Reality)によるものです。本書の狙いはもっと進んでいて、観客自身もほんとうに演者の心を読んだかのように『感じる』というものです。だから一対一でも成立する。

Essay:Spectator as Mind Reader
The Coercion Technique
The Pushy Book Test
Hands Free in France
Three Avenues

 色々有りますけれども、どれも同じ原理(Coercion)を使っており、「選択の自由さ」と「誘導」の兼ね合いが違うだけです。フリーチョイスであるほど誘導が不要で、フォースに近いほど誘導が露骨。

 なるほどなと思わなくはないですし、エッセイでの「観客が心を読んだとして、ではメンタリストの立場とは?」みたいな考察は面白かったのですが、肝心の手法はいまいち。というかいくらなんでも誘導が露骨すぎるように感じます。そういう意味では誘導の少ない基礎手順がいちばんよい。

 またもう一つ欠点があって、そのまま日本語でやるのはちょっと難しいです。もっと別のもの(色とか触感とか)を「要素」として扱えばいける……と思う。全体として、あんまり面白くなかったかな。手法もそうですが、内容の掘り下げ具合や、本としての書きぶりが。

 リアルなメンタリズムをしたい、観客に思考を読ませたい、というのであればひとつの手ですし、とっかかりとしてはお薦めです。上述の様にすれば言語依存もなくなると思う。確かにうまくいったとき観客に与えるセンセーションは、他の手法・現象では達成不可能な無二のものでしょう。