2024年4月28日日曜日

"ANY" Carl Irwin

ANY -Thoughts on A.C.A.A.N. from a Common Magician (Carl Irwin, 2021)


カードマジシャンの夢『ACCAN』を主題にした120ページくらいの電子本。ちょっと長めのサブタイが付いていますが、この"Common Magician"というのは著者の自称で「どこにでも居る、特別なところのない普通のアマチュア・マジシャン」の意とのこと。で、自ら「『普通』の人」だと宣言し、それを自著のサブタイトルに入れ、その意味するところを本の書き出しから説明し始めるヤツは間違いなく面倒くさいヤツなんですよね。

この人、とにかく話が長い。「多くのACAAN本では歴史の話から入るけど、みんな手法の話が聞きたいだろうし、手法の話からしましょう」と言ってくれるのですが、そこからACAANを成立させる要素と手法の分析みたいなものが始まって、実際の手順解説は20~30ページほども経ってから。しかも自らCommonと名乗るだけあって、分析はしっかりしているものの、どこまでも凡庸です。ACAANのことをある程度まで考えたことがある人なら読み飛ばしても支障はないでしょう。

手順は13収録されており、『スタック』『即席』『録画向き』の3区に分かれます。最初に解説され、表題作にもなっているフル・スタック手順ANYは、なるほど、非常にできがよく、実践でACAANを再現するなら、もうこれでいいのではないかと思います。手法に面白みは無いのですが、実際に演じるにあたってのバランス感覚に優れています。また『録画向き』ではPre-Show Workが出てくるのですが、とある台詞は非常によいと思いました。

それ以外の手順は、スタックの量を減らしたり、即席でやったり、という狙いは分かるものの別に面白くはありません。著者は「正直ほとんどの現象はSpread Cullで再現できるよね」と言い、ACAANにもSpread CullやCross Cut Forceを直接的に使って平気な人間です。なので本書に仕掛け的な面白さを求めるのは間違ってます。


――じゃあなんで、お前みたいなオタクがそんな本を買ったんだ、という話なのですが、実は知人が「今年最良の手順、現代マジックの最先端」と褒めていた手順があって、その元ネタのひとつがこの冊子に収録されているのです。その手順Going Homeは確かに超面白かった。一見何の不思議もない操作なのだけれど、最後に前提がひっくり返ってしまうというもので、是非演じてみたい手順です。

そんなわけで、自らを『凡庸』と卑下して見せる人間らしい、こじらせつつも凡庸な作品集なのですが、Berglas Effectの『現象』を一般の人を相手に再現したいというなら、いい本だと思います。さらにGoing Homeは「今年最良の手順」のパーツたりうる手順です。我こそはと思う方は是非挑戦してください。