2015年2月10日火曜日
"One Degree" John Guastaferro
One Degree (John Guastaferro, 2010)
Brain Storm DVDでデビューした後も、精力的に創作・執筆活動を続けているJohn Guastaferro。今の時代に文書ベースでの活動がメインというのも珍しいですが、その初めてのまとまった作品集(※これまではレクチャーノートが主だった)。といっても140 ppでトリックも20くらいかな、というまあ比較的薄手の物です。
Brain Stormを見た時の感想は、古典トリックを複合するのがやたら上手い、でもちょっと長手順であるなあ、という感じ。あとあまり個性はないかなと。
それ以来、Guastaferroのイメージは更新が止まっていたのですが、今回久々に手を出してみました。
かつては古典の組み合わせだったところ、用いるパーツがより細かく咀嚼されているというか、新奇な手法や現象ではないながら、巧みな構築によってオリジナルな手順になっているように感じました。難易度はほどよく、また本業が広告屋という事もあってか演出も多彩で面白かったです。極めて実用的。
本書のタイトルでもあるOne-Degreeとは、『ほんのちょっとした差ながら絶大な違いを生む』ような改善のことで、確かに全体的に練度が高く、ささやかな工夫が光ります。追加のアイディアなんかは、結構とんちんかんに思う所もあったりはするのですが。
ただPalm Reader PlusやIntro-vertedに顕著ですが、現象がテンポよく起こる、ある現象が次の現象のセットアップになっている、という点で非常に優れている反面、現象がいささか簡単に起こりすぎるような気もします。少なくとも私は、しっかりと『ある現象』を見せる手品が好きなので、このあたりは本質的に相容れない感じがしました。
演出についても、現象が持ちうるインパクトを削いでいるきらいがあります。とはいえここは好みの問題でありますし、『観客を死なすほど不思議を突き詰めたい』という人ではなく、『みんなをマジックで楽しませたい』というタイプの方なのでしょう。そちらの方が健全ではあります。
そんな訳で根本的なベクトルに違いがあるようなのですが、それでも要所要所の工夫はたいへん面白く、またなんというか、ちくしょう認めざるを得ないぜ、みたいな作品も数作ありました。
SoloはOpen Travellers/Invisible Palmなのですが、ガフ・カードを使用する事を除けばほとんど完璧と言ってよいんじゃないかしら、という手順。一般的な手順では不可能なある"場面"が挟まれるのですが、これがまたほとんど不意打ちというかだまし討ちに近い感じでして、上手くするとマニアも殺れると思います。実際、生で見たらへんな声を上げてしまいそうだなと思いました。
ネタバレするともったいないので曖昧な言い方ですが、いやこれは凄いですよ。
Behind-the-Back Triumphはこれも非常によい、観客自身の手によって行われるTriumph手順。ただこの良さはおそらく映像だと完全にダメになってしまうと思うんですね。使ってる技法やなんかが簡単に追えてしまうから。だから文章の形で触れる事ができて本当に良かったと思います。
あまり合理性のない手続きというか技法というかを使うんですが、それが合わせ技によって互いの弱点を薄めており良い感じ。何より現象の演出が魅力的です。
この手順で用いられる演出手法についてはエッセイがひとつ設けられており、そこでも詳しく語られています。これを含めてですが、エッセイはどれもおおむね良い事を言っています。
あともう一個好きな手順がありますが、省きます。あんまり書きすぎても何ですし。
そんなわけで基本的には次々とテンポ良く起こる現象やしゃべりの面白さが全面に出てくるマジックですが、真にいやらしい手順もいくつかあり、どなたが読んで損無しと思います。原書は$50とページ数の割にややお高いんですが、上述のトリックだけでも十二分に価値があると思いました。
しかし表紙のタイトルデザイン、「One°Degree」って書いちゃうとワンデグリーデグリーじゃないですかね。
……あと、近く東京堂から日本語版が出るとか出ないとか。
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この本を購入しようと考えているのですが、どこかで「マジシャンをひっかけるようなトリックはない」というレビューを見かけました。実際のところ、どれぐらいのレベルの作品集なのでしょうか。答えて頂ければ幸いです。
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