2015年4月1日水曜日
"What Lies Inside" Florian Severin
What Lies Inside (Florian Severin, 2012)
初めてかもしれません。
こんなに面白い手品本を読んだのは。
メンタルに限らずですが、多くの『バリエーション』はどうしようもなく閉ざされています。プロットとメソッドが既に決まっており、その手法や演出に少し手を入れただけ。既存の手続きから逸れることはありません。 しかし当然ながら、その『手続き』は最適な形とは限らないわけで、細部をいかに『怪しくなく』しようとしても、構造的な歪みは手つかずのまま。場合によってはさらにいびつさを増す事になります。
特にメンタリズムはその傾向が強いように思います。意味も無く数字を足させたり、ぜんぜん筋の通らない選ばせ方をしたり、とりあえず当たりが筋立てがさっぱり分からない予言など。挙げれば切りがない。
しかしFlorian Severinは全ての手順をよく吟味し、観客にどう受け止められるか、観客がどんな現象をそこに見るかをしっかりと構想した上で、手順を練り直しています。演出も面白く、メンタリストにありがちな重苦しさはありません。金持ちを引っかけるために偽の結婚相談所を開いたり、頭にチャックを貼り付け、観客がそれを開くと、スイッチが切れたようにぐでんと座り込んでしまったり。ほとんどコミックですが、しかしながら、不思議さは全く損なわれていない。
素晴らしい手腕だと思います。
また非常な勉強家です。本書は340ppで16章構成ですが、解説されている手順はたったの11。長いものではひとつの手順に30ppほども費やします。さらに参考文献が非常に充実しており、手順によってはそれだけで6ppも続きます。いや、ほんと、ちょっと凄い。有名メンタル本の他、普通のマジック本、名前も知らないアングラなメンタル本、メンタルマジックの雑誌、さらに一般書籍も多く出てきます。
私がメンタルあまり詳しく無いのをさっ引いても、ここまで持ってない本の話ばかり上がるとアレですね、悔しいですね。面白そうな本が沢山あったので、追いかけたくなりました。
しかし。
この本の面白さはそこではありません。
手順も演出も、理論も考察もすばらしい。けれど一番面白かったのは、そこではない。
文章です。
例えば?
うーん例えを上げるのが難しいのですが。
『ここで私は観客に直接、乞うているわけです。私は広告業界出身で、しかも今やメンタリストなのですからね。恥じらいなんてものは、もはやカケラも持ち合わせていないのです』
『私の妻も言っているように、『大きさは大事』なんですよ! HAHAHA! ……さて、それでも、妻はまだ私のことを愛してくれています……フリかもしれませんが』
『ところでこの解説にはヒッチコックの映画タイトルが10個隠されていますが、あなたは幾つ見つける事ができましたか?』
『……そう、彼は新世界の神となったのです』
『これはどんなオタク野郎にも彼女ができる手品です。なにせメンタルマジックの本を読んでくらいですから、あなたのオタク度は計り知れないレベルでしょう。でも大丈夫』
『これは実際に、女友達に手書きしてもらってください。……いや、あなた方のために、ここに私の使っているサンプルを載せておくので、コピーして使ってください。うん、マジックマニアですからね。女友達がひとりも居なくたって、不思議ではないです』
『ひとつめは簡単、ビレット・スイッチです。ふたつめも簡単。演者(わたし)はいつだって、最前列のお姉さんのおっぱいの事を考えているんです。』
『これは本当に素晴らしい、ロマンティック・コメディ映画です。もし大人も子供も一緒に楽しめる映画があるとしたら、まさにこの一本がそれです。さあ、一家で揃って観てください!すばらしい思い出になりますよ!』(参考文献にて、映画『ハードキャンディ』のタイトルを挙げて)
『(女性の観客に、梯子を上ってもらいながら、心の中で)くそっ、なぜスカートの客を選ばなかったんだ俺は』
さあどうですか! 私の下手な訳では面白さの1割も伝わっている気がしませんが、こんな感じでトチ狂ってたり、いちいち失礼だったりとおもしろおかしい文章なんですよ、全編通して!
いやあ楽しかったです本当に。手品本を読んでこんなに笑ったのは初めてかもしれません。実に頭おかしい。さっきは触れませんでしたが、観客の頭を掴んで水を張ったボウルにぶち込んだり、婦警をつけねらって盗撮したり、演出もわりとかなり頭おかしいです。いや面白いし、何度も言いますが、この強烈な演出に負けず、反発することも無く、現象はしっかりと不思議なんですけれども。
さて、話を戻しまして。
どれもステージで演じられる事を前提とした、しっかりとしたパフォーマンス・ピースで、素人が演じられる機会はちょっと、かなり、少なめです。また現象の起因を『心理的な操作』においています(といっても実際に『サイコロジカルな手法』に依存した手順はありませんが)。一方、Greg Wilsonの某技法を使ったりと、割とテクニカルなものもあります。演出もアレですし、演じられる人は少なそう。
一方で、単純に手順としての構成や、その狙い・考察が素晴らしく、読むだけでも(手品的にも)面白いでしょう。またPre-Show Workについて、かなりのページを割いて詳細な解説と考察がなされています。Pre-Showに興味がある方であれば、これだけでも読む価値があると思います。
うん、素晴らしい本でした。面白かった。
もともとは13 Steps to Vandalism(2004)というタイトルでドイツで出た本の、英訳+増補版ということのようです。 こちらは探しても書影すら出てこなくて……、私の検索能力が低いだけかな。どなたかご存じの方はおられませんか?
2015年3月22日日曜日
"Card Men" Dan and Dave
Card Men (Dan and Dave Buck, Ricky Smith, 201)
Buck双子によるカード冊子。
なぜか執筆はRicky Smith。そしてそれ以上に不思議なのが、なぜこれを出版したのかという事。いやだってDVDでよかったでしょう。むしろその方が良かったでしょう。
まず、彼らの技法と来たら、やたらに難しくコツがいる。こういう事を言うのは私の怠慢ではあるんだれども、意図している鮮やかさのレベルがあるのなら、それは提示してくれたほうが話が早いよなあ。それから彼らの既存技法を随所で使うのだけれど、これが解説なしの事がままある。一応写真があったり、まあyoutubeで探せば出てもくるだろうけど、やっぱりDVDの方が良かったんじゃないですか?
動画で見れば演技2秒、解説10秒~1分で終わるようなちょっとしたフラリッシュには、明文化すべき要素もないと思うし、あと視覚的な錯覚に大きく依存した手順もあり、これもやはりDVDとかのほうが良いと思うし、というか実際、先日動画DL商品で出してたし。やはりなぜ本にしたのだ。ファッションか。
まあファッションならそれはそれで良いんです、例のごとく物品としては非常に美しく仕上がっていています。その辺は流石です。
内容についてはカードオンリー。技法、ちょっとしたフラリッシュ、クイックな手順。60ppで、基本的には小ネタ集です。ふたつの点から、ぼくは余り好きになれませんでした。
ひとつは基本姿勢として、完全な技術アピール志向なのですよね。それも手品的な要素をすら技術アピールに寄与させるというもので。一例としてあげられているのが、Triumphでシャッフルが終わった後、Sybil Cutをしてからディスプレイをするというもの。表裏を素早くかっこよく選り分けた、という演出ですね(実際に収録されているTriumph手順ではこういう事はやっていないのですが)。
もうひとつは技法に対する過信というか、Hank Miller Shuffleをトライアンフに使うんですよね。いやーいくらあなた方が上手いとはいっても、それはちょっと厳しくないですか。特にそれをトライアンフで使うのはどうなんだろう。僕は無理だと思います。少なくとも所謂Triumphとは別の現象というか表現になると思う。でもそこに関しての言及もないし。
というわけであんまり面白くなかったです。DVDか動画ダウンロードで出せば良かったんじゃないかな。
2015年2月10日火曜日
"One Degree" John Guastaferro
One Degree (John Guastaferro, 2010)
Brain Storm DVDでデビューした後も、精力的に創作・執筆活動を続けているJohn Guastaferro。今の時代に文書ベースでの活動がメインというのも珍しいですが、その初めてのまとまった作品集(※これまではレクチャーノートが主だった)。といっても140 ppでトリックも20くらいかな、というまあ比較的薄手の物です。
Brain Stormを見た時の感想は、古典トリックを複合するのがやたら上手い、でもちょっと長手順であるなあ、という感じ。あとあまり個性はないかなと。
それ以来、Guastaferroのイメージは更新が止まっていたのですが、今回久々に手を出してみました。
かつては古典の組み合わせだったところ、用いるパーツがより細かく咀嚼されているというか、新奇な手法や現象ではないながら、巧みな構築によってオリジナルな手順になっているように感じました。難易度はほどよく、また本業が広告屋という事もあってか演出も多彩で面白かったです。極めて実用的。
本書のタイトルでもあるOne-Degreeとは、『ほんのちょっとした差ながら絶大な違いを生む』ような改善のことで、確かに全体的に練度が高く、ささやかな工夫が光ります。追加のアイディアなんかは、結構とんちんかんに思う所もあったりはするのですが。
ただPalm Reader PlusやIntro-vertedに顕著ですが、現象がテンポよく起こる、ある現象が次の現象のセットアップになっている、という点で非常に優れている反面、現象がいささか簡単に起こりすぎるような気もします。少なくとも私は、しっかりと『ある現象』を見せる手品が好きなので、このあたりは本質的に相容れない感じがしました。
演出についても、現象が持ちうるインパクトを削いでいるきらいがあります。とはいえここは好みの問題でありますし、『観客を死なすほど不思議を突き詰めたい』という人ではなく、『みんなをマジックで楽しませたい』というタイプの方なのでしょう。そちらの方が健全ではあります。
そんな訳で根本的なベクトルに違いがあるようなのですが、それでも要所要所の工夫はたいへん面白く、またなんというか、ちくしょう認めざるを得ないぜ、みたいな作品も数作ありました。
SoloはOpen Travellers/Invisible Palmなのですが、ガフ・カードを使用する事を除けばほとんど完璧と言ってよいんじゃないかしら、という手順。一般的な手順では不可能なある"場面"が挟まれるのですが、これがまたほとんど不意打ちというかだまし討ちに近い感じでして、上手くするとマニアも殺れると思います。実際、生で見たらへんな声を上げてしまいそうだなと思いました。
ネタバレするともったいないので曖昧な言い方ですが、いやこれは凄いですよ。
Behind-the-Back Triumphはこれも非常によい、観客自身の手によって行われるTriumph手順。ただこの良さはおそらく映像だと完全にダメになってしまうと思うんですね。使ってる技法やなんかが簡単に追えてしまうから。だから文章の形で触れる事ができて本当に良かったと思います。
あまり合理性のない手続きというか技法というかを使うんですが、それが合わせ技によって互いの弱点を薄めており良い感じ。何より現象の演出が魅力的です。
この手順で用いられる演出手法についてはエッセイがひとつ設けられており、そこでも詳しく語られています。これを含めてですが、エッセイはどれもおおむね良い事を言っています。
あともう一個好きな手順がありますが、省きます。あんまり書きすぎても何ですし。
そんなわけで基本的には次々とテンポ良く起こる現象やしゃべりの面白さが全面に出てくるマジックですが、真にいやらしい手順もいくつかあり、どなたが読んで損無しと思います。原書は$50とページ数の割にややお高いんですが、上述のトリックだけでも十二分に価値があると思いました。
しかし表紙のタイトルデザイン、「One°Degree」って書いちゃうとワンデグリーデグリーじゃないですかね。
……あと、近く東京堂から日本語版が出るとか出ないとか。
2015年1月18日日曜日
まだ出ないんですか? あるいはいつまで経っても来ないものについて。
相済みません。
あ、明けましておめでとうございます。
更新履歴を見かえしてみますと、まあ年々、読む本が減っておりますね。
買う数はあんまり減ってないのにね。不思議だ。
しかしその一方で、今年は翻訳などというものに手を染めてみた次第。
まあその前にも1冊ありましたがあれは怒られて沙汰止みになったので、最後まで行けそうなのは今回が初でございます。
それでいつ出るのという話ですが、いやもうほんとあと少しで出ます。
まあマジック業界で言いますとGuy HollingworthがVHSのDVD化をComing soonと告知してから8年近く出なかったであるとか†、特装版$300予約完売!出版直前!通常版$150がいまなら予約特典で$100!と告知してかなりの金額を集めたと思しいMiracle FactoryのMartin Gardner's Impromptuがこっちはまた9年くらい出ていなかったりとか‡、ほんと色々あるわけですが、当方のあと少しは本当にあと少しです。
ほんとです。
いや実際、私の手を離れてもう印刷屋さんが作業中ですし、月末までには届いて、販売体制を築けるんじゃないですかね。うん。
どれくらいの方がここを見ておられるのか、Bloggerの解析ツールがしょぼいせいで僕は余りよく分かっていないのですが、どうか発売の折にはよろしくお願いいたします。
いつまでも来ないと言えば、手品の洋書って言うとまあ当然ですが海外に発注することになるわけで、わたしあまり、というか全然英語ができないものですから、最初の頃はそれはまー緊張したものです。
最近は自動化されたフォームの大手ショップが沢山あるので、大体のものはクリックだけで買えますし、surface便も見かけなくなってまあ遅くても2週間で届きます。日本のショップもたまに仕入れていたりして、そうすると大量仕入れのせいですか分かりませんが国内から買った方が安かったりするのでこれも便利です。
しかし特殊な本や古い本、あとページには上がっていないけど実はちょっと在庫がある、という場合もあったりしてそういうときは直にメールして色々尋ねて振り込んで、としなくてはならないわけです。まあ今は、これもおよそPaypalで済むので楽ですが。
そうして注文した本の中には未だに届いていない物があります。
ひとつはスペインの某ショップで買おうとした本で、なんかすったもんだあってお金だけ払って品物は発送すらされなかったような感じになりました。
もうひとつはまず郵便為替でお金を送って、と言われたので送ったところ「これ処理できないみたい」とだけ言われておしまいになったやつ。
ついでにいま正に3度目の事案に突入しそうでして、送ったよと言われてから一ヶ月、まだモノが届いていません。不安だ。
注文フォームでは国際発送を扱っていないショップでも、メールで聞いたら「大丈夫送れるよー」と言ってくれることは結構あって、非常に助かるんですが、同じだけ事故率も高いように思います。あとあれだ、スペイン。
ただそういう形式でさらにスペインであっても、いい思いをしたこともあって、「2巻組の本だけど1巻しか在庫が無い」と言われて「残念だー残念だー」と返したところ、2巻のゼロックス・コピーをおまけしてくれた事があります。
版元によるコピーなのでまあセーフでしょう。しかも只だったし。
すっげー信じられないオファーだよサンキューとか片言の英語で書いたっけなあ。
ちょっとだけスペイン株が持ち直したところでこのへんで。
† 正確な年数はちょっと忘れました。この間、やっとDan and Daveの所から出まして、見ましたがこれがまー素晴らしかったです。
‡ 楽しみにしてるんですがねぇ。なお何となく予約しなかったのですが大正解でした。
2014年12月31日水曜日
"Steranko On Cards" Jim Steranko
Steranko On Cards(Jim Steranko, 1960)
読んだのは2008年版で、Terrence Franciscoという人による補遺が付いている。
Lateral PalmとAction Center Reverseで有名なSterankoの著作。本業はイラスト、コミック作家。ビジュアルなマジックの先駆け、とどこかで紹介されていたような気がするのですが、これが総じて面白くありませんでした。
古い手順にも善し悪しありまして、善しが古典(クラシック)だとすれば、これは悪し、原始的という感じ。資料的なおもしろさは、ごく一部の人にとってはあろうが、いまさらコレを読んでもちょっとなあと。
先駆的なLateral Palmの解説、AndrusのAction Reverseをさらに発展させた技法などはまずまず面白いわけですが、一方で手順がセンスの無さを露呈しており、通読がつらくなる。
現象に一貫性がなかったり、自由に選ばせた事を強調したい場面なのに、選ばれたカードをデックに逆向きで戻し、すぐにスプレッドしてひっくり返っているカードを改めて抜き出したり、ううん、ううううん。
とはいえども、Voodoo CardやBoomerangの源流、ナチュラルマーキングのカード当てなどプロットしてのバラエティはけっこうある。うーんでもなあ。
なお補遺もいまひとつ。
ううん、あんまり面白くなかったぞう。あるいはご本人はうまく語りでカバーできてたりしたのだろうか。
元々ノートの表紙だったらしい、手順のタイトル+イメージ図は素敵でしたが。
2014年11月18日火曜日
"MirACAAN" Dorian Caudal
MirACAAN (Dorian Caudal, 2014)
39 € 70 ppで 1作のACAAN のみを解説した冊子。
筆者はフランス生まれ、スウェーデンはストックホルム在住の若手マジシャン、Dorian Caudal。
なんとまあ神経科学でPh.Dを持っているらしい。うらやましい。
そしてカロリンスカ研究所にお勤めらしい。凄い。
凄いっていうか超絶エリートではなかろうか。
肝心のACAANについてだが、演者が配ったりする必要などなく、Berglas Effectに極めて近い。というかBerglasのオリジナルに対して、愚直に細部を詰めていった印象。手法としてはあんまり美しくはなく、特にBad Caseはいまいち。ただし実際にやられたらかなり気持ち悪そうだ。
またカードや数値が選ばれる確率については、文献引用をしたり、図に頻度をプロットして説明していたりとなかなか理系らしい所を見せている。自称メンタリストどもの『私の経験から~』なんぞよりよほどいい。
覚えたり暗算したりもそこそこあるので、私の手にはおえない感じだけれど、根性ある方は手を出してみてもいいのではと思う。
あとアウトやバーバル・コントロールでちょっと面白い箇所があったのでそれは覚えておこうと思います。
2014年11月8日土曜日
2014年11月5日水曜日
"小さいライジングカード" 辻川勝裕

小さいライジングカード (辻川勝裕, 2014)
小さいデックで行うライジングカード!
先頃、マジックマーケットといかいうイベントで販売されたそうなのですが、当方、基本的にとても引きこもりなので当然のように行きませんでした。でも大丈夫、下記のショップで販売されています。人と会わずに買い物できる。便利な時代です。
http://abuku.shopselect.net/
ハンドリングがとても自然であったり、シンプルだけど今だから実現できる機構、など色々と特色もあるのですが当ブログではあまりそういう点は取り上げません。
本題は解説の冊子。
もし普通のマジックショップがこのネタを買って量産したら、A4のコピー紙1枚でそれも片面のみ印刷のショボイ解説書になっていたでしょう。実際、マジックのためにはそれで十分とも言えます。
しかし付属するのはA5 13ppの冊子。その半分は手順の詳細な解説なのですが、残り内容はと言うと、このトリックを作るために行われた『ライジングカードに関する力学的な考察』なのです。いやーいいですね。同人誌という感じがしますね。まあ手品用品なんざほとんど同人制作物みたいなもんですが。
さておき。
カードをライジングさせるために必要な力の測定から、その力を掛けるために機構が実際に持つべき力や角度の設計などが解説されています。精密な計算・測定というよりは割とざっくりしたものですが、実際にかなりばらつきのある既製物を対象としているのでこのアプローチで問題ないと思います。
そして数式がたくさん載っています。実は数式があまり得意ではなく最初はちょっと引いてしまいましたが、判りやすく解説されておりますし、また比較的初歩的な物と思います(三角関数による力の分解が主)。我々の知っている具体物がぞろぞろ数式になっていく様を見ていると、どうしてか笑いが止まりませんでした。とても楽しい。
またリフィル的な物の入手経路なども書かれておりそこもよかったです。
ただ幾つか抜けているように感じるところもあり、たとえばせっかくなら××も種類を書いて欲しかったなーとか、計算が省略されているところでどうも検算が合わず、用いた具体的な初期値も書いて欲しかったなあなど。参考には成るけれど、そのものを追うのは無理かもしれません。
というわけで総合的に見ると書き漏らしや不親切に感じる箇所があり、詰めが甘いというか、純粋な力学設計とその考察と言うよりも覚え書きのような印象ですが、しかしこういったアプローチは大変素敵です。上述のように不満点もあるのですが、笑わせて頂きましたし、もっとこういう確たる見地からマジックを作り上げていく人が増えたらいいなと良いなと思いました。
たいへん面白かったです。
ついでのようになりますが手品自体もよいものです。
2014年9月14日日曜日
"Nukes" Doug Edwards
Nukes(Doug Edwards, 2014)
コレクターとしても名をはせているらしいマニア、Doug Edwardsの小ぶりな作品集。
収録されている作品は半分ほどがカード、残りはロープ、ベンソン・スポンジ、メンタルなど。
全体的に入り組んだ手順ものはなく、一発ネタとかQuickieが多め。解説もあっさりしているので今ひとつ真価が分かりにくいが、幸いにも販売元サイトが良い動画を作っているので、見てみるとよいやも。
複雑なことや特殊なことはあまりしていないのだけれど、それでも、うまくいくと非常に説得力の高いトリックが多い。しかも短くてシンプル。単純な技法の精度を上げ、あっさりとしつつもマニアだって引っかける、といったところか。動画でもやってる4A出しは文章だと読み飛ばしそうなのですが、凄く良いと思いました。
ギミックというか加工することを厭わないようで、ショートカードやインスタント・デックも出てくる。しかしピュアリストであっても、Zarrow ShuffleやShove Over Shuffleを目当てに買っても良いと思う。あと前述のA出し。
またコレクターとしての側面を発揮して、本書には過去の著名マジシャンの未発表手順が幾つか収録されている。Herb ZarrowのZarrow Shuffle、DunningerのDictionary Test、Roy Bensonのスポンジ(Benson Bowl)、Cardiniのファン(これは小ネタだけど)。
Roy Bensonといえばちょっと前にRoy Benson by Starlightという決定版とも言うべき大著が出たのだけれど、Nukesの手順にはRoy Benson by Starlightで言及されていない要素がどうもあるみたい。ざっと眺めただけではあるのだけれど。
Benson Bowlも当然ながら幾つか段階があって、だからどちらが最終版だったのかは分からないし、Nukesに固有の箇所はわりと結構再現が面倒で、かつEdwardsの説明が簡素すぎていまひとつぴんとこないのだけれど、それでもRoy Benson by Starlightとの相違は面白い。また単純にソースとして入手が楽でもある。
他の要素は資料不足。Zarrowの例の本は持ってないし、Dunningerも詳しくないです。なので未発表かどうかはまあEdwardsを信じるしかないのだけれど、過去の有名マジシャンの未発表手順というのはいつだってわくわくしますね。
(もちろん別にEdwardsを疑っているわけじゃない。なおRoy Benson by StarlightにはDoug Edwards所有としてRoy Benson手製のBenson Bowl用のボウルの写真が掲載されている。Nukesにも載せればよかったのに)
内容は雑駁だし、ちょっと解説が簡素でもあるのだけれど、小粋な小品集としてとても良かった。あまりごてごてしていないのがいい。こういうのをさくっと演じられる大人になりたいものですね。
A出しと、あとRing on Ropeが特に良かったです。
2014年7月28日月曜日
"Ken Krenzel's Relaxed Impossibilities" Stephen Minch
Relaxed Impossibilities (Steven Minch, 2009)
カードマン、クレンツェルの最新作品集。
実はこの少し後、2012年にクレンツェル氏お亡くなりになったので、現時点では最終作品集です。
クレンツェルの代表作って実はあまりよく知りません。
Card Tunnel、Open and Shut Case(未読), On the Up and Up(未読)あたりなんですかね。ただこれらがKrenzelらしいのかはちょっと不明というか。
Card Classics of Ken Krenzel を読んだ限りでは、変な技法がお好きというのは伝わってきたんですが、手順構成とか作り上げたい不思議の像があるのかとかはピンときてませんでした。正直いまでもよく分かりません。
そんなんであまり好きという訳でもなかったKrenzelですが、この本はRelaxedと銘打たれ、特に観客の手の中でおこる不可能に焦点を当てているという事で、なんだいつの間にか芸風が変わったのか、それに観客の手の中で起こる現象とかいいじゃないレパトアに増やしたい、と例によって紹介文をよく読まずに購入しました。
で。
読んでしばらく変な笑いが止まらなかった。
最初から相当にムズい技法が飛び込んでくるし、いつまでたっても技法の章が終わらない。
半分をすぎてもまだ技法。ああ、やっぱりKrenzelだ。俺の知っているKrenzelだ。
その後やっと手順が始まったけど、今ひとつ俺の好みではないのもやっぱりKrenzelだ。
あいかわらず技法の使い道はほとんど与えられていないものの、例のTwo Card Fan Lift Switch Reversal Palmのようなカオスなものはなく、シンプルなコントロールやスイッチが主です。そして「力を抜いている」「何もしていないように見える」という狙いが大変明瞭に反映されているため、難しかろうとも挑戦欲は湧いてきますし、実用性もありそうです。
一方で手順はあまり好みではないのだよなあ。収録作の約半分は、演者が操作する手順、もう半分が相手の手の中で起こる手順で、どちらも『演者が何もしていないように見える』というコンセプトらしいのですが……。
相手の手の中で起こる現象って難しいものです。
現象の最終段階が相手の手の中で示されても、それは『現象が起こった』ではなく『状態が示された』に過ぎない場合が多く、それでは「ああじゃあ渡された時点でこの状態になっていたのだな」と思われておしまいです。
『何もしていないように見える現象』も同様ですが、直前の検めを入れるのが大変難しいのですよね。だからマジックの起こった『時』がぼやけてしまいがちです。手の中で起こる現象や演者が何もしていないという現象を構築する場合は、その危険性にちゃんとフォーカスをあてないといけないと思います。
Krenzelがそこを考えて作ったのか、は正直微妙に思います。
またKrenzelといえばRichardsonとならぶACAAN好きで、今回もACAANと名付けられた手順が3種ありますが、なるべく手を触れずにやろうとして、どれも手続きが微妙。
うーんやっぱりどうも手順があまり魅力的に感じません。
しかし技法の章は大変面白く、そういう目的で買われた方は大満足かと思います。
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