2014年7月28日月曜日
"Ken Krenzel's Relaxed Impossibilities" Stephen Minch
Relaxed Impossibilities (Steven Minch, 2009)
カードマン、クレンツェルの最新作品集。
実はこの少し後、2012年にクレンツェル氏お亡くなりになったので、現時点では最終作品集です。
クレンツェルの代表作って実はあまりよく知りません。
Card Tunnel、Open and Shut Case(未読), On the Up and Up(未読)あたりなんですかね。ただこれらがKrenzelらしいのかはちょっと不明というか。
Card Classics of Ken Krenzel を読んだ限りでは、変な技法がお好きというのは伝わってきたんですが、手順構成とか作り上げたい不思議の像があるのかとかはピンときてませんでした。正直いまでもよく分かりません。
そんなんであまり好きという訳でもなかったKrenzelですが、この本はRelaxedと銘打たれ、特に観客の手の中でおこる不可能に焦点を当てているという事で、なんだいつの間にか芸風が変わったのか、それに観客の手の中で起こる現象とかいいじゃないレパトアに増やしたい、と例によって紹介文をよく読まずに購入しました。
で。
読んでしばらく変な笑いが止まらなかった。
最初から相当にムズい技法が飛び込んでくるし、いつまでたっても技法の章が終わらない。
半分をすぎてもまだ技法。ああ、やっぱりKrenzelだ。俺の知っているKrenzelだ。
その後やっと手順が始まったけど、今ひとつ俺の好みではないのもやっぱりKrenzelだ。
あいかわらず技法の使い道はほとんど与えられていないものの、例のTwo Card Fan Lift Switch Reversal Palmのようなカオスなものはなく、シンプルなコントロールやスイッチが主です。そして「力を抜いている」「何もしていないように見える」という狙いが大変明瞭に反映されているため、難しかろうとも挑戦欲は湧いてきますし、実用性もありそうです。
一方で手順はあまり好みではないのだよなあ。収録作の約半分は、演者が操作する手順、もう半分が相手の手の中で起こる手順で、どちらも『演者が何もしていないように見える』というコンセプトらしいのですが……。
相手の手の中で起こる現象って難しいものです。
現象の最終段階が相手の手の中で示されても、それは『現象が起こった』ではなく『状態が示された』に過ぎない場合が多く、それでは「ああじゃあ渡された時点でこの状態になっていたのだな」と思われておしまいです。
『何もしていないように見える現象』も同様ですが、直前の検めを入れるのが大変難しいのですよね。だからマジックの起こった『時』がぼやけてしまいがちです。手の中で起こる現象や演者が何もしていないという現象を構築する場合は、その危険性にちゃんとフォーカスをあてないといけないと思います。
Krenzelがそこを考えて作ったのか、は正直微妙に思います。
またKrenzelといえばRichardsonとならぶACAAN好きで、今回もACAANと名付けられた手順が3種ありますが、なるべく手を触れずにやろうとして、どれも手続きが微妙。
うーんやっぱりどうも手順があまり魅力的に感じません。
しかし技法の章は大変面白く、そういう目的で買われた方は大満足かと思います。
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Hermetic Press,
書評
2014年7月23日水曜日
"Intimate Mysteries" Chris Philpott
Intimate Mysteries (Chris Philpott, 2013)
賞も取った映画脚本家のChris Philpottによるカードメインのメンタリズム本。単なるトリックではなく、それを観客自身の体験にする事をもくろみ、それぞれオリジナルのテクニック・コンセプトで分かれた3つの章からなる。かのJohn Bannonの推薦文と寄稿作品あり。
とくれば非常に期待してしまうところだが、この本は、少なくとも最初の2章、Double KokosとConfessional Confabulationsは糞だった。少なくとも僕にとっては耐え難い内容。
例によってだがもっとちゃんと紹介文を読んでから買うべきだ僕は。
手品を相手の人生にとって意味のある物にする、というアプローチについては、手品ごときがおこがましい、と思わなくもないがメンタリズムの姿勢としては賛同もできる。ただそのためにKokologyを適用する、と言い出すのだよなこの人。Kokology=Kokosって何の事かと思ったのだが、これが心理テストなのだ。それも完全な創作で手順のためにでっち上げた内容を、得々と語る。
曰く、「歩いていると小さな可愛らしい家がありますが、玄関が半開きになっています。なぜですか?(選択肢を提示)」「2の、単に持ち主が閉め忘れたから?」「あなたは危機的な状況を回避できないタイプですね。それどころか、あまりにリラックスしすぎていて、それが起こっていることにすら気付かない。あなたが犯しがちなミスは、悪意よりもむしろ過失の方が多いでしょう。郵便物は山になるし、仕事は決して終わらない。あなたはストレスを感じないかもしれませんが周りにとっては良い迷惑です。周りはそんなあなたに苦しめられており、しかもあなた自身はそれに気付かないのですから、どうにも困ったものです」
こいつ何様なの?
それから、だ。
A故にBである、という発言はその背後に再現性・因果関係があることをほのめかしており、サイエンスの後ろ盾をはっきりと臭わせる。また星占いや血液型と異なり、内容について発話者が責任をもつ形になっている。
だが実際には、これはこいつの完全な創作でありただの妄言だ。このような言い口は、科学にたいしても相手に対しても冒涜に他ならない。少なくとも私にはこんな事を得意げに口にするのはとても無理だ。
(なおBannonの手順はこの点をちゃんと回避しており、さすがにセンスが違う)
おまけに質問の内容が酷すぎる。上の例はまだ良い方。
フリップなどを用意して、舞台に呼んだ観客以外には質問が何を意味するのか判るようにした上で、
「遊園地でジェットコースターに乗る、と考えてください(ジェットコースターはセックスを意味しています)」
「では世界で一番短いコースターを1、一番長いコースターを10としたら、あなたが乗るジェットコースターの長さはどれくらいですか?(これは行為にかける時間を意味してます)」
相手が少ない数字を言った場合、同情したように肩に手を乗せ、「……ああ、あなたのつらさは判りますよ。私もしばらくジェットコースターには乗ってないから。でもね、シーズンパスを持ってるとしたら、どれくらいの長さのジェットコースターに乗りますか?」
いいだろう、場合によっては、そういったシーンは良質のコメディになりうる。映画とかであれば、あるいはね。ただここで笑いのネタにされるのは、スクリーンの向こうの架空の人物ではない。見ている観客のなかから呼ばれた一人だ。観客と、笑われている人物とは地続きなのだけれど、それでも笑いとして機能するのだろうか。
そういう場もあるのかもしれない。そういう事ができるコミュニケーション能力・演出能力をお持ちの方もおられるのかもしれない。でも私には無理だし、たぶんこの本の読者の多くにとっても無理だ。
おまけにこの最初の2章は、手法としても新しいところは全くない。
一切ない。
Double Kokosの12作品はすべてInvisible Deckで、Confessional Confabulationsの4作品はOne A Headの3 Billet Mental Epic。特殊なたくらみがあるわけでもないベーシックなもの。
なので手法面での発見もない。ただただ演出が(創作された心理テストまがいの何かが)異なるだけである。演出を軽んじるわけではないがあまりに芸がない。
唯一、マジシャンズ・チョイスを扱った最後の章、Visualization Tangoには見るものがある。マジシャンズ・チョイスのある問題点を、ほぼ完璧に回避しうる可能性を秘めている。ただこれを複数回の選択に拡張する段では考えが尽くされているとは言えず、結果として元々のコンセプトがぼやけてしまっており残念だ。
というわけで最初の2章は、それぞれ1作だけ読めばいい。後は壮絶なる時間の無駄だ。
第3章は、マジシャンズ・チョイス好きの人には面白いやもしれぬ。Hector ChadwickやJoshua Quinnの扱いに似ているが、より発展の可能性を秘めている。
しかし高価であるし、殆どの内容がおもしろくない繰り返しであるので、読む価値は無しと言いたい。少なくとも、もっともっと面白い本がいくらもある。
しかしこの方、The 100th MonkeyやTossed Out Book TestなどBook Test関係のかなり新規性・不可能性の高い(らしい)のを出してて、そちらはまだ気になっている。
普通なら本を読んだらある程度まで手の内が分かるので、他作品を買うかどうかの判断もしやすくなるのだけれど、なにせこの本、手法的な側面は全くといっていいほど記述がないのでね。
2014年6月27日金曜日
"Crimp issue 1" 編・Jerry Sadowitz
Crimp issue 1 (編・Jerry Sadowitz, 1992)
現在ではもはや一般販売していないながらも、1992年から連綿と続くJerry Sadowitz発行の同人雑誌。その第一号である。
ジョークやナンセンスが盛り込まれたA4の8pp。文字もレイアウトも手書き・フリーハンドで読みにくい事この上ないが、幸い手順に関しては可読。ギャグについて書いても仕方ないしそもそも僕の英語力ではよくわかんないというのが正直な所なので、さらっと手品だけ紹介。
Sadowitz自身の手順はないが、どの寄稿作もよく考えられている。SadowitzのCards on the Tableでは観客をうまく引き込んでいく演出、ひねったプロットが良かったが、この冊子もそういった基調が保たれているようでうれしい。
ただし今回はきわどい演出もあって、少しばかり大人向きです。
マジックは(読み逃してなければたぶん)3作。
BROTHEL!:Fred Fotzstone
売春宿。というタイトルの、大人向きな演出の手品。
ところがこれ演出が本当に面白くって、大変気に入りました。
20年前だとこのオチはブラックだったのでしょうが、今だとちょっと違った感じに受け取ってもらえるかもしれません(一部の人には、ですが)。
Challenge Conditions:Raj Patel Jr.
コインを片手で握り込んで”消した”ように見せるための策略。
Sherlock Never Married:Peter Duffie
マリッジプロット。挿絵がひどすぎるw
最近、それまでずっと嫌いで仕方なかったプロットに、急に面白い作品を発見する事が続いているのですが、これもそう。数理トリックと手指のマジックとを上手く組み合わせており、見た目シンプルで、わかりやすく、不思議で、さらにパンチが効いてて面白いです。
こういうことするとSadowitz先生に怒られたりするのかしら。
ともあれ、プレミア価格を出す価値があったか、つまり世に知られていない原理や技法やプロットやなにかほんとうに"不思議"なものはあったか、と言われれば否なのですが、内容はとても面白かったです。これが普通に読める世界であって欲しかった。
特にBrothel!は大変気に入りまして、珍しくレパートリー直行です。
もし何かの間違いでお会いすることがありましたら、例の売春宿の手品ってできます?と言ってもらえればできるかもしれなくないかもしれないです。
2014年6月26日木曜日
"数学で織りなすカードマジックのからくり" パーシ・ダイアコニス&ロン・グラハム
数学で織りなすカードマジックのからくり
(パーシ・ダイアコニス&ロン・グラハム, 2013)
Magical Mathematics (Persi Diaconis&Ron Graham, 2011)の和訳。手品関連本にしては素晴らしく早い翻訳です。
実は元本も買ってます。だってあのDiaconisですよ。伝説的なまでに高名ながら、手品作品などでの露出がほとんど無かった彼ですよ。そんなの名前買いするに決まってるじゃないですか。
で、いつもだと原書持ってるならあえて邦訳版買わなくてもいいやん……、というスタンスなのですが、これは扱う数学の話がちょっと難しくて、英語では追い切れないまま積んでいたのでした。というわけで邦訳に飛びついた次第。
邦語版については、いろいろと残念に思う点もあります。
①装幀がチープ。ソフトカバー本文白黒。原書は布装ハードカバー、フルカラーでたいへん素敵。
②ピーター・フランクルが邪魔。帯の推薦文への登場はいいんですが、なぜ本体ソデにもあなたの写真がありますか。DiaconisとGrahamの近影は無いのに!
③手品部分の翻訳に少し違和感。「5枚のカードの心理的圧力」とか、エド・マーロとか。
原著書影。かっこいい!
とはいえ、訳が出たのは大変めでたい事でして、これらのちょっとしたマイナスなんて吹き飛んでしまいます。後述しますが、マジシャン向きの本という事でもないようですし。
マジック的な内容としてCATOやギルブレスの解説と発展系、各種の規則的なシャッフル(Faro、Klondike、Down-Under他)、それから『数理奇術師列伝』と題された、有名な数理作品をものしたマジシャン達の小史。またジャグリング枠として、基本的な3ボール・カスケードの解説と、サイトスワップ(と呼ばれる分野があるんです)の数理的な解析。
Diaconisがその遍歴の中で蒐集し、厳選した作品の中には著名マジシャンの未発表作なども多く含まれています。『未発表作』という単語だけでご飯が食べられるマニアにはたまらない内容です。またそれにもまして『数理奇術師列伝』で活き活きと描写されるマジシャン達の様子や彼らのペット・トリックは、Diaconisでしか知り得ないエピソードや、詳細な研究に基づいており、マジックの歴史を知る上でも大変面白い内容です。
ただ作品全体という意味で見ると、特に数理解説の章での手順は、良くも悪くも数理マジックの範疇に留まっていると思います。現象に対してあまりに手続きが長く、純粋な驚きはどうしても減じてしまうというか、数理の気配が見えてしまうと思います。ただまあ、それはマジシャンのみからの観点であって、Diaconisたちの目標は『数学としてもマジックとしても面白い作品』なので仕方ないでしょうか。いくつかの原理についてはその発展系やより統一的な形なども明かされるのですが(ギルブレスの究極原理など)、それが分かったら面白いマジックが出来るか、というと別でしてまあ難しい所です。
原理の解説はかつてない程に詳細で、私にはちょっと高度すぎる箇所もありました。元々プリンストン大の出版部から出ている本で、どちらかというと数学徒を対象にしているのではないかという感じがします。用いられる数学は主に離散数学なのですが、『離散数学は簡単!この前やったスイスの学会・合宿でも、博士取れたての人が素晴らしい発表をした。だから君も飛び込んでおいでよ!』みたいな文言があり、想定している読者レベルがとても高いのではないかと。また、数が違う場合の証明は自分で考えてみて、とか、実はこれは未解決なので取り組んでみてほしい、という箇所も多いです。
というわけで、数理原理の解説にあてられた章は、どちらかといえば数学科の生徒や、数理原理を用いて創作するクリエイター向きと思います。個人的には数学読み物を読んだような気分でした。数学界というのは凄く高尚な事をやっているのだろうなあという思いがあったのですが、ただ一組のトランプから未解決問題がぽんぽん出てきて驚いたり。数学には『分かっていない事』がまだまだたくさんあって、それが日常にも多く潜んでいる事、そして数学屋が世界を見る視点のようなものがかいま見えて面白かったです。語りも平易なので、数式などは読み飛ばしても面白く読めます。
レパートリーを増やしたい、たくさん数理マジックを仕入れたい、という人には向いてないと思いますが、一流の数学者がマジックをどう見ているのか、我々が親しんでいる原理が実はどれだけ奥深い物なのかなどが分かりますし、また有名な過去のマジシャン達のエピソードも読み応えがあり良い本でした。
>追記
伝説的と言ったDiaconisですが、本当にぶっ飛んだ経歴の人です。そのあたりは石田隆信の『パーシ・ダイアコニスの奇跡的人生とマジック』に詳しいです。一読の価値有り。
2014年5月16日金曜日
"Mnemosyne" Vincent Hedan
Mnemosyne (Vincent Hedan, ?)
フランス(たぶん)のプロマジシャン、Vincent Hedanの無料配布作品集。
Mnemonicaを用いる、というとメモライズド・デックかと思うがさにあらず。
フルデックの配置を覚えている必要はない。そうではなく、ある決まったスタック(今回はMnemonicaに手を加えた物)を用い、後段のためのセットアップを再構成しつつ進む、一連の手順である。
SetUp!
Mnemonicaスタックだが相当に手を加える。
First Chance!
いわゆるTantalizer。
Illusion or Reality!
観客がカットしたところから、4枚のQが出てくる。
Peter Duffieの素敵な4Aプロダクション。これは最近別所でも見かけたが、観客の手の中で変化が起こったように見える面白いアイディアを用いている。Duffieやるじゃん。
Four Errors!
観客がカットしたところから4枚のAが、……出てこずに、特に意味のなさそうなカードが出てくる。
しかしその数値に合わせて配ると、それぞれの箇所でAがでてくる。
※この時点で、かなりの程度 Mnemonicaに戻る。少なくとも上半分は、1、2枚入れ替わっている程度。
Kingdom Hearts!
スート・プロダクション。
Shuffle Bored!
AronsonのShuffle Bored。つまりスート・プロダクションを行った後でなお、スタックは残っているということ。
手順全体を通して使われてきたデックが、しかしまだ規則性を保っているとは、マジシャンにすら看過できないだろう。もちろんそれには、途中の手つきをごく自然に行う必要があるし、現象が終わったときにカードを戻す順番や、また『手癖』でのカットなどを絶対に許さない、など大きな制約があり難易度は高い。デックの並びを覚える必要がないとはいえ、結局は操作などで覚える事は多いのだ。
とはいえ序盤から面白い現象の連続で、これはしばらく秘密にして、練習しようかなあとも思ったのだ。ただひとつのクライマックスでもあるKingdom Heartsが今ひとつよくなかった。スート・プロダクションなのだが、Mnemonicaベースのスタックに依拠するため、出現させる方法がかなりまちまち。普通にカットして出したかと思えば、スペリング、間違えて出したカードの数値分配る、などが統一感無く混ざっていて、どうにもぱっとしない。
4枚のQ出し手順のあと、4枚のA出し手順というのも、ちょっと問題か。先のスート・プロダクションの問題と同様、うまく台詞を選ぶことで解消できるとはおもうのだが、残念な事に演出面についての記述はほとんど無い。
なので、このセットリストをそのままなぞっても、酷くいびつにしかならないだろう。このあたりを自分で料理できる人でないとしんどい。しかも1手順内の整合性だけでなく、手順同士のつながり含めて演出を練らねばならない。
人によっては、どうしてもキャラクタに合わない事もあるだろう。
というわけでなかなか難易度の高いノートだった。
部分を置き換えるのはなかなか難しいが、個々の手順はスタックと関係なしに演じても割と面白そう。基本、人様の手順なので、それを無料配布はちょっとどうよ、と思わなくもないが。
また手順を通して目的のスタックへと再変換していく、という手法については、Denis BehrのHandcrafted Card MagicにFinding the Way Homeとして原理的な説明がある。本書はその実践例のひとつとしても良いサンプルであった。
2014年5月8日木曜日
"Ever So Sleightly" Stephen Minch
Ever So Sleightly
The Professional Card Technique of Martin A. Nash (Stephen Minch, 1975)
Hermetic Press以前のStephen Minchによる、Martin A. Nashのマジックを解説した3部作、その名高い1冊目。
Martin A. Nashはギャンブル・デモで名高いテクニシャンだが、真性のいかさまテクニックというよりも、「一般の人が想像するようなカードのいかさま師」を体現したようなキャラクタらしい。
なので超絶マニアックなリフル・スタッキングなどは(少なくともこの本では)用いておらず、現象もすっきりしている。
だが技巧派である事は間違いなく、技量の限りを尽くして「Charming Cheat/魅力的ないかさま師」のキャラクタに見合った、端正な技法と手順とを設計しているようだ。
前半は技法、後半は手順といった構成、130頁とページ数は少ないが、判型自体は大きい。
技法は「ダブル・リフト、およびその後の扱い」「パケット・スイッチ」「マルチプル・シフト」など。
このダブル・リフトの章がすばらしい。Knock-Out Doubleはゲットレディ不要のダブル・リフトではひとつ完成系とも言えるであろう美しさ。
ダブル・リフト自体はこれ一種のみしか解説されていないが、そこには「これですべてまかなえる」という力強い自負が感じられる。一方、その後の処理方法(表にしたカードの裏返し方)は複数解説されている。なかには非実在技法としか思えないのもあったりするが、ここも全体的によい。ただしすべての技法がメカニック・グリップを前提としている点だけは、合わない人もいるかもしれない。
(※メカニック・グリップ:ここでは深いディーリング・ポジションのこと)
一方、手順の方はこれがあまり面白くなかった。
……と思ったのだが再度よみ直し、なぞり直すとけっこう面白かった。
少なくとも構成は美しく理想的。ただしテンポを間違うと観客に疑義を挟まれやそうで、またそうなると極めてもろい印象。
Minchのイントロでもそのような描写があるが、Nashはオープニングから完全に相手を圧倒し、穏やかに、だがしっかりと手綱を握って牽引していくタイプなのであろう。不思議・不可能というよりも、凄いタイプのマジシャン。そういう人にとってはよい手順と思う。
手順は人を選ぶが、Double Liftの章は面白かったし、これだけでも読んだ価値はあった。特にKnock-Out Double Liftからの2nd Replacement:Dropのコンビネーションはほんとに良いです、美しい。練習します。
手順についても、目的と演出を見失わなければ、人によっては強力な武器となると思う。
なお筆はStephen Minchなんだけれど、あまり読みやすくはなかったです。名高いTable Riffle Faroも解説されているけれども、およそ見たままであり、あまり特別なコツとかは書かれていなかったかな。個人的には、先に書いたようにDouble Liftがよく、元は取れたと思ったけれども、大枚はたいて探し求めるべきかというとやや微妙なラインかもです。
2014年4月23日水曜日
CRIMP買いました。
俺、CRIMP 買いました。
◆CRIMPって?
カードをほにゃららしてロケーターにする、っていう技法ですが、今回のは単にその名を冠してるだけの個人出版の雑誌です。別にCrimp使う手品縛りとかそういう事でもないです。掌 誌がくさぐさのパームについて熱く語る雑誌でないのと一緒です。
◆じゃあCRIMP誌って?
いまも発行されている雑誌の中では、おそらく最も毀誉褒貶が激しく、しかしその悪名の割に最も入手の困難な雑誌です。あと最も読みにくい雑誌(推定)でもあります。千金に値すると言う人がいる一方で、「ケツを拭く紙にこんな金を払うヤツがいるとは信じがたい」と塵紙扱いする人もいます。なお後者の発言はRichard Kaufman氏のものです。
まあKaufmanの意見には多分に私怨が込められている気がしますけど。
◆どうして手に入らないの?
発行人がSadowitzだからです。全然売ってくれないんです。
◆どういうこと?
いつかも触れたように、元々キ○ガイじみたペルソナのSadowitzが、近年はアイディア盗用に対して偏執狂のようになっていて、Cards on the Tableの日本語版も許してもらえませんでした。このCRIMPも刊行中なのに、身元の分かっている信用できるマジシャンにしか売られていないのです。いちげんさんお断りなのです。
◆いくらするの?
初期の物は£1.37です。今のレートで300円もしません。
最近のは£10のようです。
◆を、一冊いくらで買ったの?
X000円です。てへ。
◆……馬鹿なの?
仕方ないのです。金に物を言わせるしかなかったのです。
◆面白いの?
Peter DuffieやRoy Walton、Andrew Gallowayなどイギリスの有名マジシャンが寄稿者として名を連ねていますし、VernonやMarloの未発表作品も出てたりしたみたいです。
僕はまだ1冊目しか読んでませんが、面白かったですよ?
A3厚紙2枚を折った、8ppの冊子で、手順が2~3と、後はパロディ広告だったり、ジョーク記事(らしきもの)だったりです。
全体的に読みにくいです。
◆さっきも言ってたよね、それ。
手書きなんですよね。しかも罫線とか下書きとかも無しで、白紙に思うさま書いたような。
加えて文章が(たぶん)俗語とか使ってるし、変な言い回しもあるし、というか文字が小さくなりすぎてつぶれており、物理的に見えなかったりします。
まあでも手順はちゃんと読めました。おもしろかったです。
◆集めるの?
できたらそうしたいですけど、さすがにお金が続かないですねえ。そもそもほとんど出回らないですし。 1992年から今までで80冊ぐらい出てるみたいですけど、特に最近のは「いちげんさんお断り」ルールのせいで、手に入らないどころではないですから。
まあ手頃な価格で買えそうな限りで、オークション探そうかなと思います。
ただイギリスからの出品が多くて、そういう人って国内のみ発送だったりしてなかなかめんどうです。
とまれ、噂のCRIMP、やっとさわれました。
2014年4月22日火曜日
"Penumbra issue 11" 編・Bill Goodwin & Gordon Bean
Penumbra issue 11 (編・Bill Goodwin & Gordon Bean, 2009)
Goodwin編集の不定期雑誌。他とは一線を画す練度の高い作品は、今回も健在。
Color Shuffles (Part Two):Ronald Wohl
前号からの続き。
観客に一度混ぜてもらい、上1/3程度を取ってもらうがその中の色の状態をそれなりにコントロールする、という何に使うのかよく分からない原理、その応用編。
カード当てがメインですがBook Testなどにも拡張。わりと面白かったです。特に他の原理と組み合わせたカード当てはかなりやらしく、気持ち悪そう。
なおPart 3へ続くそうですが4年ちょっとたった今もまだ新刊は出てません。
ひどい。
A Spectator Named Kennedy:Michael Weber
Weber!
鮮やかなるセンターディール・デモ。広げたデックの中から演者が3枚適当に選び、それを覚えてもらったらデックを閉じる。そして配ると、覚えたカードが相手の手に来ているのです。
が! 演者の手にはさらに強力な役が!
凄いんですが要になってる技法が苦手でして。
高難度の技法を多用しますが、理想的には全く気配のない、素晴らしい構成の手順。
Weberやっぱり天才だなあ。
'N Synch:Raj Madhok, Gregory Wilson
電話越しにも行えるメンタル手順。相手が見ている腕時計を媒介として、相手の思い浮かべた数を当てる的なそれ。
キモイが相手について事前情報が必要。
Tell A Phony Too:Raj Madhok
'N Synchで必要な事前情報を、これまた電話越しに取得してしまおうという試み。物はEddie Fieldsの Tell A Phonyというカードマジックなんですが、一連の作業から選ばれたカード以外の情報も取得するというもの。
Tell A Phony自体がちょっと微妙。まあ電話越しに行うという制限を考えれば仕方ないんですが
'N Synch 2:Raj Madhok
フィッシングというかブラフというかを用いる事で、'N Synchから事前情報を不要にしたもの。
きもい。
The Open Ditch:Bill Kalush
Open Prediction。凄い。これもかなりの技量が必要だが、技巧系の解決としてはTalk About Tricksの傑作Llasser Open Predictionをも上回るクリーンさ。Llasserと違って観客がカードを配る。しかしこれも難しいなあ。
あとLasser OPは初めにちゃんと予言が提示され、観客に選択を迫るタイプなんですが、こっちは配って枚数が少なくなっていくうちに「あれ?さっきのは、もしかして……」となるタイプなので厳密にはOPからは外れる気もします。このへんはいずれOpen Prediction Project レビューの時にでも。
文中でもちょろっと触れられてましたが、この「もしかして……」という感覚を上手くあおってやらないと、観客はあんまり不思議に思わないかもです。そういう意味でも難しい。
The Two-Ton Prophet:Gordon Bean
観客が自由に言ったカードが、演者の言った枚数目から出てくる。
と、これだけなら何も不思議ではないのですが、問題は演者が枚数目を言った後で、観客がカードを言うという事。当たり前ですが紙に書いてもらったりとかはしませんし、変なフォースも用いません。
これが現象として『不思議』かというと、どこかつかみ所が無く、観客に受けるかは微妙に思います。でも面白い研究で、手法もかなり大胆ですが面白いです。
Stewart Jamesのある手順を、いち部分だけで演じられるように再構成したそうです。
と言うわけで実に面白かったです。
キモイ系メンタルの他に、不可視となるまで鍛える必要のある超絶技巧なカード・マジックが多く、インパクトのある巻でした。天上の世界をかいま見た感じ。
このレベルの冊子がもっと出てほしいなあ。
2014年4月2日水曜日
"7 Card Effects" Gabi Pareras
7 Card Effects (Gabi Pareras, 2014)
Gabi Parerasによる7手順。
先に行っておくと、私はGabi Parerasのファンだ。
Gabiの手順は巧妙かつよどみなく、スペインにおけるクラシックの体現者と言った風格がある。
本書以外にもいくつかダウンロード商品を出しており、これらはできれば秘密にしておきたいほどの逸品。
その上で、本書はいまいち。
収録は、タイトル通りに7手順。簡単にだけ紹介。
◆Sandwich's Vallarino
Jean-Pierre VallarinoのSandwich Volant(いわゆるFlying Sandwich)
◆Card in the box
ごくシンプルなカードの入れ替わり。Doug EdwardsのPack a Wallop?
◆Sandwich at number
サンドイッチと消失。
◆The Time Machine
Steve FreemanのTime Machine、ガフ使用。
◆Pure Touch
相手が選んだカードとカットした枚数を当てる的なあれそれ。
◆Triple Divination
三人の観客が選んだカードを当てる。
◆Poker Prediction
ポーカースタッキング。
全体的に小品な事もあるが、なにより記述がまずい。
私がGabiに期待する所というのは、微妙なタッチであったり、緻密な構築やその背景の論理であったりなのだが、本書の記述は動作の箇条書きであり、手順の最低限の骨子だけしか書かれていない。レクチャーの覚え書き程度の内容と言えばいいか。
手順自体は小粒ながら悪くない感じだし、実際にGabi Parerasが演じたら不思議なのだろうけれど、この情報だけからGabiの特徴や空気を読み取るのは難しい。
そんなわけで、Gabiの作品自体は今後も追いかけたいのだが、少なくともGabi Parerasの作品集としては、本書はあまりお薦めしない。クレジットもないし。
一風変わった(スペイン風の)レパートリーを増やしたいというなら、やや読みづらいものの悪い内容ではないかもしれないが。
もし氏があの洗練されたタッチを記述する術を持たないのだとしたら、あまりにも残念だ。次の作品の英訳を待つ。
2014年3月17日月曜日
"Now I don't have a piece of thumbs in my pocket." 堂本秋次
Now I don't have a piece of thumbs in my pocket. (堂本秋次, 2014)
Gumroadで購入。使用中の混ぜられた一組の準備のないデック、いわゆるFASDIU条件から出来る5+1手順のカードマジック作品集。
収録はオープナー、2・2の水と油、Visitor、予言が2つ、そしてCollector。
FASDIUで出来るっていうのは、やはり素人にはうれしい。また全体的に面白いアイディアがちりばめられている。作者個人のアイディアもあるだろうが、クレジットを見るに、色々な映像媒体から最近の作風が取り込まれているのかなという感じ。
技法を分割したり見えないタイミングで堂々と行ったりなど、なかなかひねくれたやり口は大変好みである。
白眉はやはりDoppelgangerだろうか。非常によいオープナーであると同時に、かなり面白いロードのアイディアがとられている。ごく大まかなプロットで言うとDenis BehrのBrute Force Openingに似ているのだが、あちらはかなり強引で正面突破、僕にはちょっとできない感じだった。一方Doppelgangerはミステリーカードの要素による『不思議さ』があり、そして目の前で堂々とずるをするあの暗い喜びの感じが好みである。僕ではどこまで通用させられるものか判らないが、ちょっと練習してみたい。
難易度は全体的に高め。パームとか臆せず出来ること、技法名がある程度通じることが必須条件か。
本そのものとしては、まあ自費出版でもあるし仕方ないが、ちょっと残念なところもある。図無しの文章のみだし、誤字や文法的に変な箇所も散見される。手順解説自体は読みやすく、十分意味がとれるが、何ヶ所かは図で補助がほしい気もする。
またクレジットがやや曖昧。クレジットがあるのは素晴らしい事だが、作品名や人名のみの表記にとどまっており、どこでどの程度参照したのかが判然とせずに、もやっとした。もうちょっと具体的なレベルで、元にしたアイディアや経緯なども書いてくれたほうが、より狙いや工夫がわかりよくなると思うのだが。
とはいえ、全体的に巧妙さと技量とのバランスがとれており、大変面白い作品であった。裏で割とひねくれた事をしつつも、現象はすっきりしており、マニアックな楽しみと実用性とが上手く両立していると思う。値段も安め。次もあるそうなので、発売され次第買おう。
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