2018年5月31日木曜日
"Turnantula" Bob Farmer
Turnantula(Bob Farmer, 2018)
作品自体はそこまで高く評価しないのだけれど、なぜか惹かれる著者というのがいて、たとえば僕の場合はBob Farmerがそうです。このTurnantulaという冊子は、Turnantulaというターンノーバー技法とそれを使ったさまざまな手順を解説した72ppの冊子で、先に言ってしまうけれど、手順自体はあんまり面白くありません。ただ本の構成は非常によかった。
本書は技法とその使用例の解説書なのですが、販売ページに行くと、技法の実演動画が置いてあります。しかもこの動画、解説までします。つまり最初に裏を明かした上で、本書を売っているわけです。単体技法にフィーチャーした本として、非常に誠実な売り方でしょう。
まあ……残念なことに肝心の技法は、動画で見てもそこまで魅力的ではありません。ハーフパスの亜種なんですが、自然な動作に擬態している割には、どうやっても気配が出そうというか……。ただ商品の売り方としては非常にいいと思いましたし、どういう現象に仕立てるのかという興味もあり買いました。
まあ……残念なことに、技法自体がちょっといまいちなので、どの手順にもいまひとつ食指が伸びなかったです。ただパケットからフルデック、即席からガフ、有名プロットから特殊なものまで、かなりいろいろな方向性を示しています。ハーフパス技法なのにデックがケースになる変化現象までありました。他の人の作例も載せており、これも非常によいアクセントになっています。
気に入ったのはDavid OestreicherのSympathetic Turnantulaで、赤4枚黒4枚で行う奇妙な同調現象。あとおまけで載っているRemraf Reversalという技法は、Turnantulaより用途は狭そうながら、非常に使えるやつではと思います。こちらはBraue Reversalの親戚みたいな技法です。上ではいろいろ言いましたが、Turnantulaそのものも、注視下でなければかなり使えるように思います。
そんなわけで「単一技法をあつかった冊子」としては非常によいものでした。動画で見て技法が気に入った人はマストバイですし、そうでなくとも、単に読んだり研究したりするのにとてもいい内容です。
2018年4月30日月曜日
"Secrets" Anthony Owen
Secrets(Anthony Owen, 2017)
Anthony Owenはこれまでカードやメンタルでノートを出していますが、有名なのはDVDにもなったUltimate Oil and Waterでしょう。ただ私個人としては、英国のメンタル寄りTVマジックのプロデューサーとして気になっていました。Darren Brownのショーの多くに参加していたとのこと。
本書は彼の初めてのまとまった作品集です。裏に数字を書いたトランプを使うなど、どうにも一点物の手順(※)が多く、そこは好みが分かれそうです。一方、そういった手順を演じられる方でしたら、通して楽しめるでしょう。
※一点物の手順:道具や手続きがその手順のためのものである事が、観客からも明白であるもののことを言いたかった。またOwenの場合は、現象がいっかいこっきりである事が多くて、それがこの感じを助長していると思う。
マジック番組の裏方として番組のために手順を考案していたこともあってか、全体的にプロブレム解決型の手順が多いです。Oil and Waterでの「揃えて広げるだけで分離」や、Out of this Worldの「ガイドカードの交換なし」、Premonitionの「観客が自由に思っただけのカードが消え、かつ、消えたことを観客が確かめても不整合が無い」など。ただ確かに公約は見事に解決しているんですが、大きなドローバックがあるものもあります。
手順はカードやカードのメンタルが多いですが、2作品だけですがコインなんかもあって幅広い(マトリックスは面白い趣向で、できれば先に生で見たかった……)。ギミックや準ギミックをつかう手順がほとんどですが、何かしら「この手を使うのか」というポイントがあり、演じる演じないは別として面白かったです。
とりわけ特殊状況下での手品や、TV用の手品などは、プロブレム解決型の手腕がよく合致しています。飲んだコーヒーを素材ごとに分離させて吐き出すという純TV向きの手品や、英国のTV番組を下敷きにしたものなど。後者は文化に依存しているため、残念ながら直接は演じられませんが、クイズ・ミリオネア(の元ネタ)を下敷きにしたものなんかは日本でも楽しく演じられるでしょう。
面白いですが、一点物手品やギミック手品が苦手な人は、そのままレパートリーにできる手品は少ないでしょう。もちろんそれぞれ面白くはあるのですけれど。一点物ができる人なら、非常によい作品集と思います。
Anthony Owenはこれまでカードやメンタルでノートを出していますが、有名なのはDVDにもなったUltimate Oil and Waterでしょう。ただ私個人としては、英国のメンタル寄りTVマジックのプロデューサーとして気になっていました。Darren Brownのショーの多くに参加していたとのこと。
本書は彼の初めてのまとまった作品集です。裏に数字を書いたトランプを使うなど、どうにも一点物の手順(※)が多く、そこは好みが分かれそうです。一方、そういった手順を演じられる方でしたら、通して楽しめるでしょう。
※一点物の手順:道具や手続きがその手順のためのものである事が、観客からも明白であるもののことを言いたかった。またOwenの場合は、現象がいっかいこっきりである事が多くて、それがこの感じを助長していると思う。
マジック番組の裏方として番組のために手順を考案していたこともあってか、全体的にプロブレム解決型の手順が多いです。Oil and Waterでの「揃えて広げるだけで分離」や、Out of this Worldの「ガイドカードの交換なし」、Premonitionの「観客が自由に思っただけのカードが消え、かつ、消えたことを観客が確かめても不整合が無い」など。ただ確かに公約は見事に解決しているんですが、大きなドローバックがあるものもあります。
手順はカードやカードのメンタルが多いですが、2作品だけですがコインなんかもあって幅広い(マトリックスは面白い趣向で、できれば先に生で見たかった……)。ギミックや準ギミックをつかう手順がほとんどですが、何かしら「この手を使うのか」というポイントがあり、演じる演じないは別として面白かったです。
とりわけ特殊状況下での手品や、TV用の手品などは、プロブレム解決型の手腕がよく合致しています。飲んだコーヒーを素材ごとに分離させて吐き出すという純TV向きの手品や、英国のTV番組を下敷きにしたものなど。後者は文化に依存しているため、残念ながら直接は演じられませんが、クイズ・ミリオネア(の元ネタ)を下敷きにしたものなんかは日本でも楽しく演じられるでしょう。
面白いですが、一点物手品やギミック手品が苦手な人は、そのままレパートリーにできる手品は少ないでしょう。もちろんそれぞれ面白くはあるのですけれど。一点物ができる人なら、非常によい作品集と思います。
2018年3月31日土曜日
”Torn and Restored” John Carney
Torn and Restored (John Carney, 1995)
タイトル通り、John CarneyによるTorn and Restoredの作品集。4手順+おまけで15頁の小振りなもの。私が買ったのは最近出たe-book版です。
Torn and Restoredにも色々なタイプがあるけれども、本冊子のものは全て、デュプリケートを使用したもので、かつ一括復活。そういう意味ではやはりちょっと古い感じはあります。演出や演技の流れはあまり解説されておらず、そこは残念なのですが、スライトのみのシンプルなものから、ギミックによるビジュアルなものまで、いろいろなアプローチがあります。デュプリケートの使用やギミックの存在など、他手順との接続はちょっと一工夫いりそうですが。
テーマ縛りということで、どうしてもDaOrtizのCementario de Cartasと比べてしまいますし、そうすると少し見劣りする感じはありますが、短いなかにいろいろなアイディアがぎゅっとつまった冊子です。
個人的には、ボーナス・エフェクトとして解説されている『複数枚のカードの復活』がたいへん気に入り、これだけで元が取れた感じです。アクトの締めなんかにぴったりです。
タイトル通り、John CarneyによるTorn and Restoredの作品集。4手順+おまけで15頁の小振りなもの。私が買ったのは最近出たe-book版です。
Torn and Restoredにも色々なタイプがあるけれども、本冊子のものは全て、デュプリケートを使用したもので、かつ一括復活。そういう意味ではやはりちょっと古い感じはあります。演出や演技の流れはあまり解説されておらず、そこは残念なのですが、スライトのみのシンプルなものから、ギミックによるビジュアルなものまで、いろいろなアプローチがあります。デュプリケートの使用やギミックの存在など、他手順との接続はちょっと一工夫いりそうですが。
テーマ縛りということで、どうしてもDaOrtizのCementario de Cartasと比べてしまいますし、そうすると少し見劣りする感じはありますが、短いなかにいろいろなアイディアがぎゅっとつまった冊子です。
個人的には、ボーナス・エフェクトとして解説されている『複数枚のカードの復活』がたいへん気に入り、これだけで元が取れた感じです。アクトの締めなんかにぴったりです。
2018年2月27日火曜日
"Totally Out of Control: Supreme MME Edition" Chris Kenner
Totally Out of Control: Supreme MME Edition(Chris Kenner, 2018)
歴史的な名著Totally Out of Control(1992)に、その前身とも言える雑誌Magic Man Examiner(1991-1992)を加えた決定版。
Chris Kennerについては、紹介するまでもないでしょう。KennerのTotally Out of Controlは、Paul HarrisやJay Sankeyの流れを汲みつつ、スタンドアップを基調とした独特の『軽さ』、見た目のシンプルさ、鮮やかなどんでん返し、そしてフラリッシュと、今のクロースアップ・マジックに多大な影響を与えました。代表作のThree FlyやSybil Cutは、その名を知らないマジシャンは居ないでしょう。
Totally Out of Controlには、いま見てもなお鮮やかで不思議な、いい手順が満載です。またKennerは超絶スライトよりも、ギミック・コインや両面テープなどでクリーンさを達成している所があり、そのアプローチは再び検討してみるべきかもしれません。
また本書はユーモアあふれる解説のスタイル、造本でもたいへんに有名で、所有して損のない本です。
それで今回の新版ですが、Magic Man Examinerが収録されているのが売りです。こちらはTotally Out of Controlの出版の前年に開始されたChris KennerとHomer Liwagの主催する季刊の個人雑誌です。結局Volume 1の全4号しか発行されなかったのですが、手に入りにくい冊子でした。
収録されている作品はKennerのものが多いですが、他に
Homer Liwag
Troy Hooser
Jay Inglee
Roger Klause
Richard Kaufman
John Carney
Michael Close
Michael Weber
Mark Brandyberry
Mac King
Phil Goldstein
による手順や技法、Tipsが収録されています。
Totally Out of Controlに比べると作品にはムラが多く、またKenner作品はTotally Out of Controlとの重複も多いですが、2006年にCoin Oneの名で発売され、一斉を風靡した手順の原型Four Coins and a Filipinoや、Troy Hooserのコイン手順など、当時の最前線の手順が散見されます。Chink-a-Chinkの、いまや定番になっている一瞬で集まるハンドリング、あれもHomer Liwagだったんですね。先例も有るのかもしれませんが、意外でした。
またこちらもTotally Out of Controlのようなユーモアあふれる紙面作りで、あのスタイルのファンとしては嬉しい限り。本全体で見ると、MMEが本編の間に挟まる形になってしまい、造本の美しさはやや損なわれてしまいましたが……。
歴史的名著、Totally Out of Controlをもし持っていないのなら、是非この機会に買いましょう。MMEの方はすこし劣りますが、資料的価値も高く、持っていて損はないでしょう。あとこれはわざと最後に書くのですが、Michael Weberの501 Derfulは、小さな工夫ではありますが、Card To Pocket好きなら一読の価値があります。
2018年1月31日水曜日
"Card College Light" Roberto Giobbi
Card College Light(Roberto Giobbi, 2006)
ロベルト・ジョビーのセルフ・ワーキング・カードマジック解説本。
カード・カレッジと付いていますが、それは英訳の際に(おそらくは)売れやすい様にタイトルを変えただけで、本来はカレッジとは関係有りません。本書の方が出版は先です。元々は1988年の手品イベントで配布されたものだそうです。
で、これの内容が大変すばらしい。惹句には「これは君の親父さんが持っているカンタン手品の本(セルフ・ワーキング・カードマジック本)とは違うぜ」とあるんですが、まさにその通りで、セルフ・ワーキングの本と聞いて想像するようなものとはひと味もふた味も違います。なお、今回の雑文は、ほとんどGiobbiが前書きで書いていることそのままになってしまいましたが、それだけ自覚的に書かれ、その狙い通りに完成した本ということでしょう。
本書の手順は全てセルフ・ワーキングですが、Giobbiが厳選し、また実際に演じているというのがポイントです。トップ・バッターがTamarizのT.N.T.(Neither Blind nor Silly)という時点で、本書の本気度合いがうかがえます。
しかし本書のなによりの特徴は、収録されている手順の質ではなく、その効果的な『演じ方』です。おもえばカード当てやセルフ・ワーキングほど、演じ方が重要なカード・マジックもありません。派手なカラーチェンジやバニッシュなんかと違い、指示の出し方ひとつ、操作のタイミングひとつで、まったく不思議ではなくなってしまいます。
本書はそれを、とても丁寧に解説します。……といっても、『演じ方』そのものが理論立てられて解説されるわけではありませんが、Giobbi流の綿密な手順解説を通じて、みっちりと仕込まれます。書かれていることを丁寧になぞれば、それだけで『演じ方』の大枠が身に付くでしょう。
Giobbiの解説は重すぎることも多いのですが、本書は手順が簡潔であるためちょうどよいバランスになっています。
また本の構成も、『演じ方』について、とても面白い企みを持っています。トリックは合計21作品収められているのですが、ただ順番に解説していくのではなく、3つずつを1セットのルーチンとして構成されています。演出的に連続性があるものもあれば、あるトリックの中で次のトリックのセットアップをしたりするような、裏側的に連続しているものもあります。セットとして演じることで見えてくるものも多くあるでしょう。
いやまあとかくおすすめです。初心者であれ中級者であれ、こじらせたマニアであれ、カード・マジックを実際に人に見せるというのならば誰にでも。
上の方で「本書は本来カレッジとは関係ない」と書きましたが、作例不足のきらいがあるカレッジと手順と演出オンリーの本書とは、うまいかたちで補い合うでしょう。
なお続刊にLighter、Lightestがあり、それらもまあ面白いは面白いのですが、さすがにセルフ・ワークしばりのせいで食傷気味にはなります。ローテクのデック・バニッシュとか、タネも仕掛けもないカード当ては一見の価値有りですが。
繰り返しになりますが本書の見所は『演じ方』であり、それはLightで十分に示されているので、後の巻は別に無理して買う必要はないかな……。実演向きのセルフ・ワークや原理ものがお好きであればもちろん買うとよいですが。
日本語版が出ると聞きました。ほんとうか……?!
Labels:
Hermetic Press,
書評
2017年12月31日日曜日
"A New Angle" Ryan Plunkett & Michael Feldman
A New Angle(Ryan Plunkett & Michael Feldman, 2017)
とある『角度』に新しい角度から切り込んだ、という洒落たタイトルのストリッパー・デック研究本です。
古い原理やギミックを、改めて最新の技法や原理、現象と組み合わせるのは近年のブームと言えるでしょう。この本ではストリッパー・デックにスポットを当て、その新たな使用方法を検討しています。研究と言うにはちょっと散漫ではありますが、いろいろの可能性を示したいい内容だと思います。
約160ページの小ぶりなハードカバーで、まずストリッパーの種類や作り方についての丁寧な解説から始まります。この本で推奨されるストリッパーは市場には(おそらく)無いもので、これは小さな工夫なのですが言われてみればその通りで、蒙を啓かれた思いでした。とはいえ基本的には通常のストリッパー・デックで可能です。手順は13作品、そしてアイディアが9つ(たぶん)。そのうち別色が必要になるのが1作品あり、またエンドのストリッパーが必要なものが1作品あります。
手順は多彩で、まず最初がコレクターです。他にもIncomplete Falo Controlへの適用、カラー・チェンジング・デック、HofzinserのSuit Selectionなど、ストリッパーらしからぬ手順がいろいろと。アンシャッフルやトライアンフなど、ストリッパーと親和性の高い手順についても、安直でない、現代的な手順ばかりで読み応えがあります。
個人的に面白かったのは、他のワンウェイにも使える巧妙な「ひっくり返し」のシーケンス A Satisfying Sequence、鮮やかさと検めのフェアさを両立させるカラー・チェンジング・デック Color Shift、観客と演者でデックを混ぜるほどに並びが揃っていく Shuffleupagus、普通に混ぜているだけで表裏が混ざっていく逆転したトライアンフ The Hullucinogenic Shuffleなど。それからMirror Stackのとある特性も、ここで初めて読んだ気がします。
ひとつふたつ、ちゃんと機能するのかしらという手順もありましたが、ストリッパー・デックの魅力を十分に伝え、またそれを通じて、著者が言うように、その他のないがしろにされがちなギミックにも光を投げる面白い本でした。
本書の手順は上述の二人以外に、
Syd Segal
Nathan Colwell
Frank Fogg
Edward Boswell
Brian O'Neill
Lance Pierce
Harapan Ong
の作品・アイディアが寄せられています。Tony Chanの手順の(氏の許可の元での)改案もあります。
そういやちょっと前(だいぶ前)にBill GoldmanもMy Week With A Stripperという研究本を出していましたね。そちらは読んでおらんのですが、ページ数が10倍くらい違うし作家的にも毛色はだいぶ違いそう。
とある『角度』に新しい角度から切り込んだ、という洒落たタイトルのストリッパー・デック研究本です。
古い原理やギミックを、改めて最新の技法や原理、現象と組み合わせるのは近年のブームと言えるでしょう。この本ではストリッパー・デックにスポットを当て、その新たな使用方法を検討しています。研究と言うにはちょっと散漫ではありますが、いろいろの可能性を示したいい内容だと思います。
約160ページの小ぶりなハードカバーで、まずストリッパーの種類や作り方についての丁寧な解説から始まります。この本で推奨されるストリッパーは市場には(おそらく)無いもので、これは小さな工夫なのですが言われてみればその通りで、蒙を啓かれた思いでした。とはいえ基本的には通常のストリッパー・デックで可能です。手順は13作品、そしてアイディアが9つ(たぶん)。そのうち別色が必要になるのが1作品あり、またエンドのストリッパーが必要なものが1作品あります。
手順は多彩で、まず最初がコレクターです。他にもIncomplete Falo Controlへの適用、カラー・チェンジング・デック、HofzinserのSuit Selectionなど、ストリッパーらしからぬ手順がいろいろと。アンシャッフルやトライアンフなど、ストリッパーと親和性の高い手順についても、安直でない、現代的な手順ばかりで読み応えがあります。
個人的に面白かったのは、他のワンウェイにも使える巧妙な「ひっくり返し」のシーケンス A Satisfying Sequence、鮮やかさと検めのフェアさを両立させるカラー・チェンジング・デック Color Shift、観客と演者でデックを混ぜるほどに並びが揃っていく Shuffleupagus、普通に混ぜているだけで表裏が混ざっていく逆転したトライアンフ The Hullucinogenic Shuffleなど。それからMirror Stackのとある特性も、ここで初めて読んだ気がします。
ひとつふたつ、ちゃんと機能するのかしらという手順もありましたが、ストリッパー・デックの魅力を十分に伝え、またそれを通じて、著者が言うように、その他のないがしろにされがちなギミックにも光を投げる面白い本でした。
本書の手順は上述の二人以外に、
Syd Segal
Nathan Colwell
Frank Fogg
Edward Boswell
Brian O'Neill
Lance Pierce
Harapan Ong
の作品・アイディアが寄せられています。Tony Chanの手順の(氏の許可の元での)改案もあります。
そういやちょっと前(だいぶ前)にBill GoldmanもMy Week With A Stripperという研究本を出していましたね。そちらは読んでおらんのですが、ページ数が10倍くらい違うし作家的にも毛色はだいぶ違いそう。
2017年11月29日水曜日
"Artful Deceptions" Allan Zola Kronzek

Artful Deceptions (Allan Zola Kronzek, 2017)
Allan Zola Kronzekの、演出に重きを置いた即席カード手品8作と、おまけでビル・チェンジの演出を納めた計9作の小ぶりな作品集。
納められている作品は主に有名作の流用で、その選球眼は確かであり、とても強力なよい手順ばかりであるのだが、一方で作者が本書の主眼に据えているであろうところの、いわゆる『演出』については不十分な内容になっていると言わざるを得ない。
手順については、殆どが有名作の変奏で、たとえばGemini Twins、Do as I Do、Visitorといったところ。新しめで言うと、カード・カレッジに入っているThe Lucky Coin。そのままでも非常に強力なこれらの手順に、Kronzek流の演出が加わる。
Kronzekの演出は観客にフォーカスし、また不思議さを重視したもので、これもかなり効果的であることはわかる。恋人同士にカードを当てさせたり、観客から観客へとメッセージを移動させたり、方位磁針の示すとおりに移動してカードを当てたり。これらの手順で、筆者が大きな成功を得ていることは間違いない。
しかし実際の所、こういった演出重視の手順が軽視されているのは、それが機能しないからである。多くの解説書(特に初心者向けのもの)が演出を重視せよと言っているが、その通りにやって気持ちよくウケることは稀だろう。
鏡写しの操作が同じ結果を生むとか、ジョーカーが仕事をしてくれるとか、方位磁針と宝の地図でカードを当てるとか、そういった一笑に付されかねない馬鹿馬鹿しい話を、ファンタジーとして観客と共有し、また共感するのは簡単な事ではない。
2017年のいま、演出の重要性を説くのであれば、その点の橋渡しを含まなければならないだろう。Kronzekも前書きの中で、観客との間でplay(劇)を共有するのだ、といった事は言っているが、踏み込みは足らないように思う。
たとえば、台詞をどれだけの真実らしさで語るのか、リアリティのラインは、間の取り方は、といった細かい話が読者に了解されないでは、本書の手順はうまく機能しないだろうし、改宗者はあまり望めないだろう。たとえばおとぎ話めいた演出でも、ユージン・バーガーが語るのと、そこいらの若人がやるのとでは全然ちがうだろう※。そこで何が違うのか、若人はどうすればいいのかについて、本書は語れていない。
Kronzekは前書きで、Ambitious CardとかTwisting Acesは強力だけれども、本当に心からの反応・感動といったものは、そういったただ見せるだけの手順よりも、本書で紹介するような手順からこそ得られる、と言っていて、その主張には私も賛同する側なのだが、本書がその手引きを十分にできているとは思えない。強力な手順・演出は納められているが、すでに演出型の手順について勘所のある人にしか有効活用できないのではないか。
アラカザールの方だそうで、未読なのですがそっちでは詳しく話していたりするのかしら?
※写真を見る限りでは、Kronzekもまた髭を蓄えた魅力的な老人で、その容貌が彼の『演出型』の手順に大きく利していることは想像に難くない。
2017年10月29日日曜日
52 Lovers 日本語版:発売
José Carroll(ホセ・キャロル)の著作52 Amantes(52 Lovers)の和訳本となります。
2巻ある原著を1冊にまとめ、収録順を変更しました。翻訳はできる限り誠実に行い、省略や改変は最小限に留めたつもりです。翻訳は英語版からの重訳で、不明箇所については西語版にあたりました。他、一部の誤っている図を修正し、またクレジットなどの情報を脚註のかたちで加えました。
リンク先のBASEサイトにてご購入下さい。
当サイト以外で発売する予定はありません。
B5ハードカバー:232頁 6,000円
版権交渉済み
Dai VernonはコラムVernon Touchの中で、スペインの偉大なカードマジシャンとしてAscanio、Tamarizと並べてCarrollの名前を挙げています。しかし若くで亡くなってしまったこと、書籍52 Loversの英語版があまり出回らなかったらしいこと(そして手順がやたら難しかったこと)から、本邦におけるCarrollの知名度は他二人にくらべて不当と言っていいほど低いものでした。
個人的な見解になりますが、Vernonが挙げた3人のうち、Ascanioが理論、Tamarizが演技とすると、Carrollはその現象が秀でています。本書に収められた手順は技術的にも道具の準備的にもハードルが高く、属人性の強いものですが、そのプロットは鮮やかで魔法的なセンスに優れ、現在のスペイン・マジシャンに受け継がれているものも少なくありません。
また本書の冒頭で解説されるサスペンスの理論は、いかに観客を巻き込み、スリリングな体験を提供するかといった観点で非常に優れた内容です(Tamarizも、ここを読まなければ本書の価値は半分になってしまう、と序文の中で激賞しています)。
この理論は実際に、本書で解説されている手順のなかに見ることができます。またサスペンス理論のみならず、TamarizやAscanioの理論(途中の動作、視線の交差、減コントラスト区、プレゼンテーションとカバー)などの、いわゆる『スペインのツール』が随所で用いられており、精読に値するものと思います。
*宣伝のためにしばらく未来の日付にします。
元の公開日時は2017/10/29 。
2017年9月29日金曜日
"Hold my brain while I'm shuffling" Dimitri Arleri
Hold my brain while I'm shuffling (Dimitri Arleri, 2016)
なぜ買ったのか自分でもよく分からないのですが、カード・フラリッシュの創作に関する理論書(エッセイ)です。私はフラリッシュは殆どできないので、本当に何で買ったのでしょうか。
(答:好きなマジシャンがおすすめしてたから)
私自身はフラリッシュ(カーディストリー)の世界はよく知らず、というか、どちらかといえばフラリッシュに対しては懐疑的・敵対的な感情も心の裡にはあるのですが、そのために本書は非常に新鮮な気持ちで読むことができました。改めて考えてみれば、それこそ当たり前ではあるのですが、フラリッシャーもまた『創作/オリジナリティ』の壁と闘っているという点で、いわゆる旧来の手品屋とさして変わりはないのですね。
理論書なので、内容に触れるとそれだけでネタバレになってしまうため、詳細は避けますが、章題は次の通りです。
・始めに
・良い"ムーブ"とは何か?
・異なった考え方のアプローチ
・幸運/機会を作る
・技術
・タイミング
・好奇心をもつこと
・スタイル
・結びに
造本は滅茶苦茶にオシャレで、ちょっとこう『意識高い』感じですが、内容は非常に地に足が付いています。逆に言うとそこまで特殊な(フラリッシュ創作に特異的な、ないし著者に固有な)事は言っていないのですが、しかし2016年現在の言葉でもって、創作に関する基本的な事項を文章化したことには大きな価値があります。
映像媒体を主軸として発展してきたフラリッシュが、ここで創作理論を文章化したというのは非常におもしろい兆候ですし、また高い美意識をもった彼らの作った本書は、フォトブックと言って良いほどの美しさです。ある意味では、内容的にも、造本的にも、この一冊で旧来の手品屋はことごとく凌駕されてしまっているとも言えるでしょう。
先述の通り内容があまり特異的でないため、少しの読み替えでフラリッシャーだけでなく手品屋にも有用な内容になっていると思います。『書籍』という文化・歴史が無かったから、というのもあるのでしょうが、これだけしっかりと言語化されたものが発表されたのは恐るべきことです。
2017年8月31日木曜日
"南部信昭作品集 Vol. 1"
南部信昭作品集 Vol. 1(野島伸幸, 2015)
コピー紙をホチキス留めした極めて薄い(16 ppの)冊子。ですが非常に面白かったです。
寡聞にして知らなかったのですが、トリックスのディーラーだった方なのだそうです。この冊子ではレギュラーデックで出来るカードマジックを3つ解説。そのどれもが奇妙にねじくれたロジックを元に展開するとんちんかんな現象で、たちまちファンになってしまいました。
解説にも工夫があり、あくまで即物的でつまらない見方をした現象説明と、演者の言い分を可能な限り斟酌した壮大な現象説明とを併記しており、受容のされ方の最大と最低が同時に示されていて面白いです。
現象説明については両方ともショップに記載されているので、是非見に行ってください(そして買うといいと思います。たったの500円です)。
1・リプレイ
どう使えばいいかよく分からない地味なカウント技法を時空のねじれにまで仕立て上げたレギュラー・パケット・トリック。
2・素数は素敵
テンポのよいフルデック・プロダクション(4 of a kindプロダクションを連続して行い、最終的に全カードを使用するものの事をとりあえずいまこのように呼ぶ)。
3・消える予言
わかったようなわからないような話。いろいろな理屈をねじ曲げようとする。(『論理のアクロバット』はこういう事を指すのではないと思う)
現象がとかくオリジナルで怪奇です。『脈絡のない現象』や『突拍子もない現象』はふつうは避けるべきなのですが、この場合はうまく機能しているように思います。現象それ自体は案外普通で、『脈絡のない・突拍子もない』のは演者だからかもしれません。カードマジックではあるが、不思議なのはむしろ演者というかたちになります。
解説で、演者の台詞がかなり生に近い文体で書かれていたり、それぞれ創作のきっかけやねらいなどがつづられているのも良。
ショップでは「一般にはとても見せられない!」と大書されていますが、いや、こういったものを見せられてこそだと私は思います。謎の空間をつくって観客を煙に巻きたい方は是非。続刊も楽しみです。待っています。
コピー紙をホチキス留めした極めて薄い(16 ppの)冊子。ですが非常に面白かったです。
寡聞にして知らなかったのですが、トリックスのディーラーだった方なのだそうです。この冊子ではレギュラーデックで出来るカードマジックを3つ解説。そのどれもが奇妙にねじくれたロジックを元に展開するとんちんかんな現象で、たちまちファンになってしまいました。
解説にも工夫があり、あくまで即物的でつまらない見方をした現象説明と、演者の言い分を可能な限り斟酌した壮大な現象説明とを併記しており、受容のされ方の最大と最低が同時に示されていて面白いです。
現象説明については両方ともショップに記載されているので、是非見に行ってください(そして買うといいと思います。たったの500円です)。
1・リプレイ
どう使えばいいかよく分からない地味なカウント技法を時空のねじれにまで仕立て上げたレギュラー・パケット・トリック。
2・素数は素敵
テンポのよいフルデック・プロダクション(4 of a kindプロダクションを連続して行い、最終的に全カードを使用するものの事をとりあえずいまこのように呼ぶ)。
3・消える予言
わかったようなわからないような話。いろいろな理屈をねじ曲げようとする。(『論理のアクロバット』はこういう事を指すのではないと思う)
現象がとかくオリジナルで怪奇です。『脈絡のない現象』や『突拍子もない現象』はふつうは避けるべきなのですが、この場合はうまく機能しているように思います。現象それ自体は案外普通で、『脈絡のない・突拍子もない』のは演者だからかもしれません。カードマジックではあるが、不思議なのはむしろ演者というかたちになります。
解説で、演者の台詞がかなり生に近い文体で書かれていたり、それぞれ創作のきっかけやねらいなどがつづられているのも良。
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