2013年10月30日水曜日

"One In The Hand" Paul Brook



     




One in the Hand (Paul Brook, 2009)





UKのメンタリストPaul Brookによるコイン・メンタリズム。


(現実ではあんまり名前聞かないように思うんだけどネット上では)有名なメンタリストに多いのだけれど、たとえばJerome FinleyとかSean Watersとかね、このBrookもおまえそれ値段付け間違えてね?勢の一人。いやまあ自費出版の手品本なんて、価格は付ける側の自由だけれども、さすがに正体不明の方による80ドル700ページの本は手を出せないですよ。それも何冊もあるし。

ですが、まあ気にはなりますわな。

そんな中でこの単品作品は$30とお求めやすいです。まあ十分高いですが単品DVDでそれぐらいはするのでまあ許容範囲かなと。あと僕、この類のプロブレム好きなんですよね*。


現象:観客の前に、握った拳が出されている。相手に想像上のコインから一枚、好きなコインを言ってもらい、さらに片方の面に×印を書いてもらう。
演者が手を開くと、相手が選んだのと同じコインがそこに有り、ひっくり返すと正しい面に×印が付いている。


ってまあそんなことできるわけ無いんですよね。
少なくとも100%は。


色々なところから巧く組み合わせてきた感じで、各所にちょっとした工夫があり面白いです。解説も非常に詳細で、ドル、ポンド、ユーロの三種類を取り扱う丁寧さ。ただこの現象、確度は100%では無く、アウトがあります。そちらも詳細に解説されているのですが、問題はそのアウトありきのスタンスで始める必要があること。アウトと本現象で、現象が全然違うのです。つまり不可能性の高い予言(?)として十分に演出できない。

もちろんそういう後出しをうまくドレスアップするのがメンタリストの技術なのでしょうが。


アウトはいわゆるリーディング(占い)的な物。必ずウケるように、Reading+Factという構成を取っておりこの工夫も非常によい。

でも僕、Readingできません。
あなたが選んだ○円硬貨は~で、だからあなたは~みたいなトークが十分に必然でかつエンターテイニングなキャラクタしてないです。

そういう訳でお蔵入りです残念。
アウトを上手く変えれば、何とかなるかなあ。


原理はまあ想像の範囲を出ることはありませんでしたが、各所のちょっとした工夫は面白かったです。ただ円への適用、それから演出的な工夫について、けっこういじらないと演じるのは無理と思います。メンタル度が高い方向けです。
アウトのReadingが苦にならない人や、既にそういう手順を運用している方は、いろいろと面白い箇所があるでしょう。

でもまあ、他の本はいいかな……。



*Which Handエフェクトとその派生系。
Silver Swindle(Gerti 2.0) DVD、The Safran Papers(Boht)、Prevaricatorとか。
Prevaricatorは面白かったです。誰か面白いの知ってたら教えて下さい。

2013年10月25日金曜日

"BEBEL レクチャーノート" 二川滋夫








BEBEL レクチャーノート (二川滋夫,1996)




フランスの変態、Bebelの数少ない資料の一つ。

Bebel単体での作品集というと、手に入るのはこれと、あとDVD Enfin le(仏語)だけではないでしょうか?(*)

内容はああいかにもというbebel節全開で、DVDとの重複もReset (Retro Repro)くらいしかなく、大変楽しめました。パームやVernon Transferを濫用する感じがたまらないです。

全体的に高い難度。収録数は10とDVDより断然多いです。意外にセルフワークっぽいものも有りますが、それですら「二人で配りながら自分はずっとセカンドディールしろ」とかけっこうきつい事を要求されます。Kings Nightなど、現象が入り組んでて、何がやりたいのかさっぱり不明のものもあり。しかしハンドリングのせいか、あんまりややこしい印象がないのが不思議です。

Collectorはどちらにも収録されてますが、全然ハンドリングが違っていて別物。タイトルも違う。
DVD版はデックの中にAをいれて、もぬもぬしまくった後、何故か挟まれて現れるというもの。
こちらはよけておいたAを広げると、その瞬間、間に現れるパターンです。かなりダイレクト。

同じプロットと言えば繰り返しのサンドイッチもあります。DVD収録のものが二回連続のサンドイッチなのに対して、こちらは四回繰り返して、しかも最後はサンドカードが消えるというしつこいもの。全体としては、ノート版の方が好きなんですが、DVD版は初段がすばらしく、見比べたり組み合わせたりして楽しんでいます。


あとDVDではさっぱりわからなかったBebelの台詞ですが、同書ではなんと「フランス語で判らないので、つじつまが合うように想像で書きました」とか書いてあって、二川先生そりゃないですよ。いや、手順読めるだけで十二分に有り難いのではありますが少し残念。


というわけで、全体的にむずかしいし、イロジカル、しかし不思議な魅力があります。
Bebelのパフォーマンス環境などを加味すると、構成の利点なり狙いなり、色々判ってくるのかなあとは思いますが、それにしても独特で、そうとう無茶です。文章だけだったらちょっと敬遠するレベル。しかし氏のタッチを知った上で読み直すと、それらを成立させるだけの技量の裏打ちや呼吸を感じられます。
つくづく面白いマジシャンです。


*:他はVallarinoとのセッションを納めたInspiration DVD 1&2程度でしょうか。単品なら、DL作品や、Fat Brothersでの出演もあったかな。仏語ではノートとか本とか出しているのでしょうか。
とはいえ同工異曲というか同工同曲というか、作風にはあまり幅が無い気もします。や、Inspirationとかとても見たいんですけどね。

2013年9月29日日曜日

"Coins on Edge" Kainoa Harbottle





Coins on Edge (Kainoa Harbottle, 2003) 




Kainoa Harbottleによるエッジグリップに焦点を当てた作品・技法集。


111頁にわたってみっちりコインの技法が詰まった作品集。はっきりいって尋常じゃ無いくらい難しい。確かにわたしゃコインマンではないのですが、そこまで不器用でも無いはず。なのに、なぞるのさえ困難な作品が幾つも。


Kainoa氏の作品、実はあまり好きでもないんですよ。なんか手付きが不自然に思えて。特に本書の集大成的手順Pendulum Hanging Coinsは、動画で見たけど労力の割にそこまで不思議にも見えないのだよなあ。

なのになんでこれを買ったか? だってKainoa氏、確実にヘンタイじゃないですか。

McClintockのおかしさが「なんでそういう発想に至ったのか判らない」だとすると、Kainoa氏は「何を考えたかは解るけど、なんで実行できた」という感じ。基本的には既存技法なのだが数がおかしかったり両手でやったり、とにかくとにかく難易度が高い。



本書は(ディープ)エッジグリップをメインに扱った技法・作品集。Soft Coin×4を推奨。

前半はずっと技法のみの解説。「本来の用途を知らないまま技法だけ読んで、自分のいま抱えている問題にどう組み込めるかを考えるとワクワクして溜まらないよね!」みたいな事が書いてあり、なるほどなあ。僕はそういう純粋な技法マニア的心を最近失いつつありますが、コインだと技法の解説自体が大変長くなるので、別個の解説は良い判断と思います。

Edgy Work:1枚のコインの消失、出現およびファン様にコインを持った状態からの消失など基本的な技法。Edge Flip Stealは非常に使い勝手が好さそうです。

Even Edgier:複数枚スタックのエッジグリップ、および複数枚のPalm Transfer。私は持っていないのですが、Soft Coinだとコインがスタックでまとまるので、だいぶ難度が下がるはず。この章は本書で一番有用性が高そうです。

Foreign Edges:六人部パームの章。Kainoa氏、ムトベパームが好きらしいです。技術のみでレイヴン現象(手をかざしただけでコインが消える)を起こすFlying Wombatは必見です。純粋な技法ごり押しの他に、こういうとんでもない手法を開拓することがKainoa氏の面白いところ。

Kainoaと言えば個人的には、このFlying Wombatと、ムトベパームを使った複数枚の消失(NYCMS DVD)が一番好きでした。残念ながら後者の手法は、同書では解説されてませんでしたが。

Down the Edge:複数枚のコインを隠した状態でのコインロール。むずかしい。

Edgy Transpositions:エッジグリップを用いた、CSトランスポの例。

Odd Edges:サトルティ他。

Over the Edge:手順集。ここまでの技法が全て、かなりの精度で、両手で、できている必要有り。
難しいです。難しいです……。

コインの出現、ハンギングコイン、コインズアクロス、3 Fly と言ったところで作品数自体は少なめ。


内容が難しい上に、ページ数も多く、Kainoa氏の文章も私程度の語学力ではやや厳しく、となかなかしんどい本でした。作品にしても技法ごり押しというか、あまりマジック的なひらめきを感られず、そういう点ではGarret TomasのDVDとか買った方が間違いなく楽しめると思います。Hanging Coinも、Garretのは不思議でしたし、そんな難しくも無かったし。

ただ、純粋にこれだけコインが操れるようになると、見える物が変わるだろうなあとは思いました。実は全然懲りて無くて、他の巻も読んでみたいです。自分にはなかなか出来ないレベルですが、こういう頭おかしい(褒め言葉)人の作品は大好きです。まだけっこうな量の本があるので楽しみ。

2013年8月30日金曜日

"Smoke and Mirrors" John Bannon







Smoke and Mirrors(John Bannon, 1991)



John Bannonのいや実にまったくクレバーなカードマジック作品集。



啓蒙されたので、引き続きJohn Bannonです。同書はどうも絶版ぎみのようで、版元にはありません。いくつかのお店ではまだ在庫があるようなのですので、見付けたら買うべきです。

買うべきです。


ぼくはこれ今までのBannon本のなかで一番好きです。一番好きって毎回のように言ってる気もしますが、人に勧めるなら、これかSix Impossible Things かなあと。

Kaufmanから出ていたようで、本の構成もKaufman社のあの感じ。だらだらと章立てなく改ページなく続いていて、それだけちょっと残念です。


んでまあそういう事はどうでもよい。

本書はBannonの他の本に較べると、かなりまっとうでおとなしい内容です。Impossibilia なんかは意外にコインその他の手順が多かったりもしたのですが、本書は75%がカード。しかも特殊なプロットやセルフワーキング、サトルティの限界を試すような手順はほとんど見られません。

どちらかというと既存のクラシック手順に対するBannonのバリエーションと言った感じ。僕は既存手順の自己流のハンドリングばかりを解説する本*はあんまり好きではないのですが、そこはBannon、ひと味もふた味も違いました。

*だってCard Dupery とか正直半分くらいに刈り込めない?

自己流ハンドリングって、既存の手順における主観的なひっかかりを主観的に解消しているだけだったり、適当な現象をくっつけたり、加えたり、というものが多く、それは粗製濫造にもなろうというもの。
しかしBannonは違いました。

なんというか目の付け所が凄いのです。よくある駄目改案って、手を加えた箇所も、置き換えた技法にも既視感を覚えることが多い。熱を込めて解説されても、「ここを変えます」「ああ、確かにそこ引っかかるよね」「この技法にします」「へー、そう」という感じ。

一方で今回のBannon先生だと、「ここを変えます」「え?そこを?」「するとこうなります」「え? な、なんで」。読み返すと、ああ確かになるほど、とは思うのですが、なかなか見付けられないよそんな箇所。
あからさまに”つまる箇所”っていうのは、実際にはそのはるか以前に問題がある場合が多いのだけれど、それは見えないのですよね。構成上のミスディレクションというか、目立つ傷にばかり気を取られて。

これは本当に凄い才能であるなあと思います。
ほんの小さな違いなのに、全体像が大きく変わって、びっくりするぐらい洗練されるのですよね。たとえば巻頭を飾るHeart of the Cityは、下手をするとHammanのSigned CardをベースにしたBannon流のハンドリング、といった程度と受け止められかねない作品。
しかしその構成、たとえばカードを示すタイミングの違いといった些細な変更が、手順全体の意味を変えてしまう。もちろんBannonのそれは自覚的に行われています。

そうした洗練、再構成が行き過ぎた例として、サインの移動 Tattoo you、カラーチェンジングデック Stranger's Gallery、カードスタブ (ナイフ、中空) Steel Convergenceなどは、一般的なプロットのはずなのに、初めからこの形であったかのような異常な完成度です。


もうひとつ、本書を人に勧めたい理由として、あつかう手順にクラシックが多いことを改めて強調しておきましょう。最近のBannon先生は、どちらかというと正道からはずれた、何が起こるか読めないサカー風味プロット*の研究に熱心です。

*Unorthodox "Garden Path" とご自身では定義されていました。

なので、Bannonがレタッチしたクラシックを存分に楽しめるのは、たぶん本書くらいです。
物によっては、マジシャンに見せると途中で見透かされるかも知れない。しかしやはりクラシックとして残っただけある、魅力的なプロットなのです。

奇を衒うよりも先に、こういうのをちゃんと練習し、人に見せられるようになるべきなのです。ぼくは。



改案と言いながら改悪になっている例は星の数ほどありますが、本書は間違いなく意味のある改案集です。ほんとうに、これくらいしてから”改案”を名乗るべきだなと思いました。
もちろん手順自体には主観的な好みもありましょうが、それを差っ引いても、純粋に手品読み物として面白い本です。

作品自体の洗練度と、その背後にあるたくらみに言及する筆致とが相まって、とても良い本になっています。おすすめです。個人的にはBannon先生によるCard under the Glassが読めて満足です。



そうこうしている内に、High Caliber が出ましたね!
Six Impossible Things とかMega' Wave とかの合本らしいですね! しまったって感じですね!
Triabolical とかは未読だったので、ダメージは少ない方ですか。

High Caliberまで読んだら、Bannon先生の単行本はいちおう全部目を通した事になります。それぞれの本ごとに特色があり、それも面白かったので、一度Bannon本をまとめた記事もつくってみようかと思います。

2013年8月27日火曜日

"The Best of Benzais" John Benzais





The Best of Benzais (John Benzais, 1967?)



エレガントさにかけては右に出る者のいないJean Pierre Vallarino先生がFISM ACTで用いて有名になった(と勝手に思っている)Benzais Spin Cut。そのBenzaisである。
Slip ShotとかSpin Outとかいろいろと変名・変種もあるが、手軽でビジュアルで、プロダクションとしては一つ確固たる地位を築いていると思う。
似たような見た目のプロダクションにPop-out Moveがあり、昔はよく見た気もするのだが、あれなかなか安定しないし、それに比べると非常に使いやすいのでほんとにもうお世話になっています。
Pop-outが出現”する”のに比べて、こちらは出現”させる”というニュアンスが強く、ギャンブルデモなんかとも相性がよい。


まあこれだけお世話になっている技法の創始者、他の作品も読んでみたくなる。しかし25歳という若さで死んでしまったらしく、作品集とてもこの自費出版の小冊子ひとつ。

内容はカードだけでなくコイン、ロープ、ボールと多彩。時代的な物もあるだろうが、あまり特殊なプロットはなく、特にカードはスタントよりの印象。コインはかなり挑戦的な事もしている。

・The Coin Through the Table(Complete)
どんどん使用枚数を増やしていくコイン・スルー・ザ・テーブル。
本来シークレットムーブとして有名なものをオープンにやってしまったり、非常にマニアックな”音”の技法があったり、空中で行うHPCがあったりとなかなか凄い。
Benzais Gripを使ったIt Doesn't Belong Hereは、片手に握った5枚のコインが、怪しい動作全く無しで、そのまま反対の手に移動するというもので上手く決まれば凄いが難しいです。

・Just a Few More "Coin Tricks"
章題ままに、もうあといくつかのコイントリック。
ものすごく難しいスリービングとかあって、これ非実在手品技法ではないかとたいへん疑わしい。や、僕ができなかったというだけですが。
全体的に単発現象だけれどインパクト重視。Coin through Cellophaneなどもある。

・Different Types of Card Tricks
スタント寄り? カードの剥がし方や、カードスリービングなど変な技術も解説。全体的にあまりぴんときませんでした。
なお例の技法が解説されているのはBewildermentという手順です。

・Stabbed in the Pack
カードスタブ。とだけ言っても多々あるが、カードをデックに投げ込むタイプのそれ。
雑誌掲載の順に沿って、お便りや改案寄稿なども載せられている。
ロレインとクレジット論争的な事になっていたようだが、あんま細かいニュアンスは私にはわからんです。
ただロレインの解説は大仰でめんどくさいなあ、とだけ。

・Mess-Cellaneous Tricks
その他のトリック。切ったロープの復活、3ボール(ScarneのClassc Ball Routine的なやつ)、結ばれるロープ。
この最後のがKaufmanもおすすめという逸品。結べるはずの無い状態で、結び目ができたり消えたりを繰り返す。テーブル使用を前提とした、その点でも面白いロープ手順。



いつぞやのMoeでも書いたように、このBenzaisの手順はほとんどが"死んでいる"。つまり現在では誰もやっていない、もとい、これをベースにした改案があまり発表されていないもので、だからこそ再読の価値はあると思う。特にコインはいろいろ面白いです。

2013年7月31日水曜日

"Varied Methods" Scott Robinson







Varied Methods (Scott Robinson, 2012)




Scott Robinsonのレクチャーノート。風変わりな3技法と、洗練された8手順。


Vanishing Incからダウンロード・ビデオ Pure Imaginationが出ていて、それがとても面白そうだったのでe-bookを買いました。
いえ、ビデオの目玉であるWilly Wonka Card Trickこそ入っていませんが、他の2手順、Loose Change、Differenceは収録されていますし、Willy Wonka Card Trickにしても、そのヴァリエーションであるWillie in your Pocketは解説されていてそれでお値段$5しか違わないので、それはもうこちらを買いますですよ。実体版もあるようですが、それだと$25+S&Hなのでさすがにまあそこまでは。


技法3種:Lee AsherのPulp Frictionが大変お好きだそうで、それをベースにしたカード技法2種と、コインの技法1種。このうちの1つが特につまらなくて、正直ぜんぜん役に立たなそうだなあと思っていたのですが、後の手順で実に美しい使い方をされており、良質のミステリで伏線が繋がったような快感を覚えました。やられた、と。


手順:ややマイナーなプロットが多いですが、非常に洗練されています。銅貨1枚と銀貨3枚の瞬間的な交換現象Difference、Digital DissolveのGaffless版 Loose Changeについては動画プロモにあるとおりですが、カード作品も実に素敵でした。ギミックやデュプリケートを使用することも多いですが、総じてセットに複雑さはなく、演じやすそうです。特に以下の2つが印象的。

Who's Counting:相手が言った枚数のパケットをカットするCounting on It現象。KennerなどはSybilカットして出してましたが、そういうフラリッシュ的なカットを行なわず、というかカットを行わず、デックの真ん中あたりから指定された枚数をそのままつかみ取った様に見える。
現象はマイナーで、あまり華もないですが、これは見事な構成でした。きっとたぶんとても不思議。

Willie in your Pocket:動画にあるWilly Wonka Card Trickのギミック版。角度はすこしきついですが、Bizarre Vanish的に消えたカードがポケットから現れ、そして……。こちらはギミックの使い方がとても素敵で、やはり良質のミステリを読んだような喜び。裏仕事の巧みさを褒めるのは、ちょっと本末転倒かもしれないですが、でも面白かったんだもの。あ、現象自体も大変美しいですよ。ただし、2段目が1段目の消失を食ってしまう可能性はあります。


Card、Coinの他にもCard Through the Billなどもあり、とても面白いノートでした。全体的に力が抜けていて、怪しい気配がなく、それでいて現象は鮮やか。裏の仕事も実に面白いです。また新作が出たときは入手したい所存。
なおSteve Beam編のSemi-Automatic Card TricksおよびTrapdoorの常連だそうで、本書の作品にもそこからの再録が散見されます。Semi-Automatic Card tricksTrapdoor、興味が出てきましたがさすがにページ数が莫大なのでなかなか……。

2013年7月21日日曜日

"Knuckle Busters Vol.2" Reed McClintock





 

Knuckle Busters Vol.2 (Reed McClintock, 2002)




指を痛めそうな作品の詰まったコイン小冊子。


収録は3作。現象はTrio in Three、Open Coins Across~Production、そしてProductionとばらばらだが、一貫してMcClintockらしい無茶さと、鮮やかさが発揮されている。


・Three with CSB
Gary KurtzのTrio in ThreeをCSBギミックで行えるようにした物。現象もやや簡素化されており淀みないが、一部、とても気を遣うハンドリングを用いている。McClintockは、まるで「自分は出来てるから問題ない」とでも言うかのように、こういう危うい箇所をそのまま放置するのでタチが悪いが、一方でそれがこのシリーズの読み所でもあるだろう。

元となっているKurtzの手順はとかく有名であるにも関わらず、氏のまとまった作品集Unexplainable Actsには収録されていないので、まともに練習したのはこれが始めて。コインが1枚ずつカードの下に移動した後、再び手に握ったコインが全て消え、よけておいたカードの下から現れる。あまり作例を見ないが非常に面白い手順と思う。
日本語ではマジックハウス刊行のレクチャーノート ギャリー・カーツのコインマジック に解説があり、持ってもいるのだが、訳が悪いのか元の文が悪いのか、私には中間部が判読不能だった。たしかビデオには収録されているのだったかな?


・Ninth Dynasty
Open Coins Across。見えている状態で、では無いが、手を開いた状態でコインが移動していく。特に手の甲から移動する所は、本当によくやるなあMcClintock。
上手く出来たら気持ち悪そうだがこれも難しい。
そしてCoins Acrossの最後、何故かコインが9枚に増える。

なぜだ……?


・Seven the Hard Way
7枚コインのプロダクション。McClintockの代表的な作品で、Geniiにも発表されていたように思う。7枚パームから始めてしばらくOne Coinの手順をやるなど、非常にパーム筋を要する流石の構成だが、なににも増してディスプレイがキモい。
手遊びのカエルみたいな形状で、むにゅむにゅと指の間からコインが出てくるのだけれど、こんなの他に誰が考えつくかと。


というわけで、以降の巻にあるようなテーマ統一は無いが、技法的にも現象的にも、そして独特の美意識においても実にMcClintockといった作品集。このまま演じるのは、どうしてもためらわれるけれども、練習はしておきます。

2013年7月18日木曜日

"Close-up Framework" Lawrence Frame






Close-up Framework (Lawrence Frame, 1986)



クライマックスに重点を置いた、イギリスのマジシャン、Lawrence Frameの小冊子。


この人については経歴も消息もよく分からない。8手順中、演出のみが1つ、Sadowitzの寄稿作品が1つ。


うん、まあSadowitz作品を探していて見付けた本だ。ただそれだけなら買わなかったろうが、惹句に興味をそそられた。

”例を一つあげよう。Spellbound Climaxでは、2ペンス硬貨が10ペンス硬貨に変化し、また戻りを繰り返した後、いつのまにかコインがボタンになっている!.見下ろすと、ジャケットのボタンがあるべき場所に、コインがくっついている。”

これいいなあ、と思ったのだ。買って読んでみると、他のもなかなか好み。
”クライマックス”と言うと、どうにも手順が終わった後にもうひと山を加える(ツイスト)ものが多いけれども、これは手順の最終段をより派手に、あるいは豪華にしたといった所か。

クライマックスを付けるために無理をしたり、あまりそぐわないクライマックスだったり、ということは多いが、Frameのはあまり大変な仕込みも無く、現象としても違和感なく繋がっていて好きだ。
スペルバウンド、Twisting the Aces、Coin Cut、Card Acrossといったクラシックが、ちょっと予定調和的だったり、ラストがはっきりしないなあと思う人なんかにはおすすめ。ただしクライマックス部分のみの解説で、手順が載っていない物もあるので、ある程度知識は必要。またCoin ThroughTableは演出のみで、おまけにアイルランド人がうんぬんという話で正直これは流し読み。


全体として、特殊な技法をつかうわけでもないし、素材というか現象のつなぎが上手い感じで、もう少し別の作品も見てみたいのだが、他には露出がなさそうで残念である。




なおSadowitzの手順は、4つに分けたパケットに、1枚ずつAを配ってから重ねるが、Aは4枚とも一番上に上がってくる。それを相手にもやってもらうが、おなじように上がってくる。というもの。
うむ、これもなかなか。

2013年7月10日水曜日

"Penumbra issue 9" 編・Bill Goodwin & Gordon Bean





Penumbra issue 9  (編・Bill Goodwin & Gordon Bean)




Bill goodwin編集のマニアック・マガジン第9号。
技法多めのためか、作品点数はいつもより一個多いです。



Muy Bueno Shuffle:BJ Bueno
最近流行りの某フォールス・シャッフルをテーブル上で行う。非常によいと思いますので、あえてあまり踏み込まない。内緒です。上手く行うのは難しいですが練習。

Simulated Slip Cut:Allan Ackerman
スリップカットって正直あからさますぎるよね、って事で、ランニングカットに紛れ込ませた物。確固たる技法というよりも、Ackerman流のハンドリングといった程度の印象。上のMuy Bueno Shuffleとも相性がよいです。

Covered, Up!:J.K. Hartman
これはトリックですが、ほとんど単一技法に依っているので技法扱いでもいいくらい。コントロールなどの説明は大幅に省かれているからなおさら。
ハンカチでデックをくるみ、もう一度開けると、相手のカードかトップに表向きで現れている。
見覚え有るなあと思ったらCard Dupery にも収録されてました p.144。

Bertram, Braue and Ben:David Ben
我が身の浅学、技量のつたなさ、計算力のなさに打ちのめされるギャンブル・デモ。スタッドポーカー(4ハンド)、スタッドポーカー(6ハンド)、テキサス・ホールデムの3段からなる。Second Deal、Table Hop、Table Faroを駆使した4 of a Kind コントロール。構造はシンプルで無駄が無く、まさに”見えない超絶技術”のデモといった感じ。
特にBertramによるマルチプル・シフトから始まる最初のスタッキングは、相当にディセプティブ。

ただ少々問題があり「私はBertramの未発表のFaroを使っている(解説無し)」とか、「ここではFinlayのTable Shiftを使う。C.ジョーダンの本の5頁に解説がある」など、使用技法が解説されない事が多い。「良い技法だよ!」とだけ言われて歯がみすることしきり。あんまり古典もってない私の勉強不足が露呈する。
技術的にかなり難しいし、覚えなくてはならない事もちょっと有る、そのうえで現象と呼べるような物は特にない純たるギャンブル・デモなので、ある種のつまらなさはあるかもしれない。

でもこれ、一段目だけでも出来たらかっこいいなあ。


The Maddox Stack:Michael Maddox
David Benのとは対照的に、全く技法の要らないAny Hand Called for。
相手が役を選んだあと、一切のハンドリングが必要ない。それを達成するためのちょっとした工夫は、ささやかな発想の転換が良くできたミステリのようで非常に面白かった。ショーアップ次第でシグネチャー・ピースになりうる手順と思う。


技法多めだった第9号。Bueno ShuffleもBertramのShiftも、さすがはPenumbraといったクオリティ。いやでも個人的にPenumbraに求めているのは、洗練された”手順”なのですよ。そういう意味ではちょっと物足りなくもあった。


2013年7月8日月曜日

"奇術探究 創刊号" 編・ゆうきとも





奇術探究 創刊号(編・ゆうきとも、2008)



現代的で刺激的な表題作とあと何か。


福田庸太による変わり種のO&W「水漏れと油漏れ」にフューチャーしたノート。

このプロットがとても面白い。
赤4、黒4で水と油を始め、徐々に枚数を減らして3・3、2・2としていく。
ところが最後になって、赤黒赤黒とかみ合わせたはずのカードが4枚とも黒になり、捨てたカードが赤4になっているというオチ。意外ではあるが合理的というか、うまく意識からハズされている感じがたまらなく素敵だ。


というわけでこれは凄く良いのですがその後がちょっとついて行けない。
殆どずっと、ゆうきとものゆうきともによる(ゆうきとものための?)バリエーション。

原案がカウントを排することで”ごまかし”の気配を消し、ラストを引き立てていたのに対し、ゆうきとも案は基本的にクラシックな技法の組み合わせで、プロブレムの解としては成立していますが、どうなんだろうねえ。特に遺漏での「各段階の説得力はやや弱くなったけれど、手順の目的は最後のオチなので、これくらいのほうがバランス良いのでは」という点については、個人的には全く逆の理解。

まあ他のO&Wと組み合わせたいという人も居るでしょうし、そのためにハンドリングの毛色が違うのも1手順くらいは有ってもいいとは思う、と擁護できなくはないか。けれどもね、漏水は記憶を頼りに3時間で再構成した手順と言うし、このノートの原稿自体、原案を見てから2週間しか経っていないそうな。
それは作品では無くただの習作ではないですか?


いやしかし、水漏れと油漏れはすごく面白いです。これのためだけに買っても損はない。

ただ、今やトリックサウルス(未見だけど)出てしまったし、あれ安いしなあ。「水漏れと油漏れ」に対してどう試行錯誤するかを愉しみたいという奇特な人にも、いろんな寄稿者を迎えた奇術探究5号が出ているようだし。とりあえず奇術探究 そろえたいって人か、あくまで文章で水漏れ油漏れ読みたいという人以外には、あまりメリットのない冊子になってしまった。

とはいえ文章で情報をストックできるのは個人的に非常にありがたく、映像よりも見直しが楽ですし、実際、表題作はよく読み直している。レイアウトもとてもよく、読みやすいです。


追記・スイッチ無しで変則オチのO&Wというと、同書では名前上がってなかったけど、SkinnerのOil and Water Rides Againとかも良いですね。