2013年6月20日木曜日
Six. Impossible. Things.のおまけ
よくトップから2枚目とかにリバースカードがあって、それをデックの真ん中から出現させたいシチュエーションがありますが、そこでCharlier Cutするの嫌なんですね。S.I.T.だとCounterpunchの状況がまさにそれ。
特にHead Over Heelsとか、かなり効率的な技法なので、ここから余分な動作をしたくないなと。で、ここは以下のように変えています。
技法としては基本的な物で、この用法もどこで読んだか思い出せないです。
2013年6月18日火曜日
"Six. Impossible. Things." John Bannon
Six. Impossible. Things. (John Bannon, 2009)
John Bannonによる、極めて良く出来たカードマジック・レクチャーノート。
はい、すっかり啓蒙されたので買いました読みました素晴らしかった。いくつか既読のがあり、個人的にややインパクトが薄れてしまいましたが、それでもコスパ含めて過去読んだBannon本で最高の一冊。
『数個のカードマジックからなるルーティン』『セルフワーク作品集』『おまけ』と大まかに3部構成になっている。とすれば同じBannonのDear Mr. Fantasyに似ているが、DMFでは主にクラシック・トリックをつないだルーティンだったのに対し、こちらはフルBannonというのが大きな違い。
Counterpunch-Four Faces North
Watching the Detectives-New Jax-Full Circle
前半は既読でした。思い出せないけど昔とってたMAGIC誌かと。
サカートリック風味に観客の予想を裏切る手順から始まり、そこで残ったダーティな部分を解消するトリックへと続く。
後半はサンドイッチ・カードがテーマ。こちらも予想を裏切るスタート。2枚のJ、及び4枚のAから選ばれた1枚をばらばらにデックに差し込み、今からJがAを捕まえるぜ、と言うのだが、関係ない残りのAと思っていた3枚が、いつのまにかJ A Jになっている。
Wesley Jamesの原案は知らないのですが、最近Tom StoneのVortexで改案を読んでおり対比としても面白かった。Stoneが相手の見ているかもしれない状況で大胆すぎる事をして、大幅なスリムアップを図ったのに対し、Bannonは同じ”相手の見ている前で堂々と”ではあるものの、決して大胆ではなく、じっと見られていても大丈夫。
いや大胆ではある。ですが、まず気付かれない。どうやったらこんな事を思いつき、実行してしまえるのか。いやはや凄い。
この、相手の目の前でぬけぬけと、明らかにおかしい事をしかし露見せずやってしまう、というのはBannonの特色であり、また演じる者にとっては非常な快感でしょう。
なんかBannonの玄人受けの一因を再確認したように思います。
っていうか、こういうちょっと奇矯なプロットって、作例の絶対数が少なくて叩き台が無いためでしょうけど、どうにもぎこちない、不自然な構成になりがちなところ、まあBannon先生のうまいことうまいこと。
全体を通すと、4枚のAから始まり、4枚のAで終わる、美しい構成。
この一連の流れは、少しマジック囓ってるぜって人とかを相手に見せたい。
ただプレゼンはあまり解説していないので、ちょっと考えないといけません。ヘンな現象ばかりなのでけっこう大変かもしれない。
Four-Fold Foresight
Origami Poker Revisited
Bannonのお気に入り、Origami Foldの原理を使った2手順。この前者がとても良かった。観客が表裏ぐちゃぐちゃに混ぜたパケットの状態が予言してあるというもの。
原理がOrigami Fold、現象がShuffleBored。どちらも好きな手順では無かったのですが、この組み合わせがそれぞれの(個人的に感じていた)欠点を補い合っている感じで、これは凄くよいです。
Riverboat Poker
ポーカーデモンストレーション。やりやすいし、見やすい、良い手品です。格式張らない自然さで、あくまで「話の種に」という感じがとても受け入れやすい。ロイヤル・フラッシュのオチまで付いている癖にセットアップが殆どいらないという親切設計。
ここだけ、解説が小説風です。
Play It Straight (The Bannon Triumph)
あえて説明も要らないだろう傑作。これを駄作とみる向きもおられますし、前は僕もそっち寄りでしたがやはり凄い手順です。ただ解説は簡潔で、Impossibiliaで感心した細かいタッチが抜けてしまっておりちょっと残念。
Einstein Overkill
Trick That fooled Einsteinの改案。そもそも原案があまり好きでは無いのですが、このアイディアはすごく面白い。Bannonは4 of a Kindの出現に仕上げていますが、純粋な形態であればメンタル度が格段に上がって、好みかも。
というわけで長々と書きました。本当はもっと簡潔に書ければ良かったのですけれどもまあとにかく面白かったよーと。これが15ドルやもんね、すごいね。
個々の収録作品も良いのですが、それ以上に『オフビートなトリック』『ルーティンとしての構成』『セルフワーク』『小説風の解説』『Play It Straight』と、Bannonのエッセンスを抜き出して煮詰めたような、小ボリュームながら極めて充実した内容が素晴らしかったです。
サイトではLecture noteと書かれており、いやなんかそれだと適当なトリックを適当な体裁の紙束に適当にぶちこんだみたく聞こえてしまいますけど、実際には造本も内容も構成も、とてつもなくもハイレベルなカードマジック教本でございました。
余談ですが、↓にShuffle Boredの嫌いな点の話をちょこっと。
2013年5月24日金曜日
"MEGA 'WAVE 日本語版" John Bannon 訳・富山達也
MEGA 'WAVE 日本語版(John Bannon、訳・富山達也、2011)
John Bannonによるエンドクリーンな7つの改案集。
唐突にBannonが(手頃な値段で)読みたい、精緻なカードトリックがいじりたい、ともかくカウントしたいという欲望がこみ上げたので、今更ながら購入。テクニカラー・パケットとか作るの面倒ですが、訳者様ご本人から購入すれば無料で付いて来るというお話だったので、おそるおそる連絡してみました。
パケットは直接購入の特典、との事だったのでつまり直接手渡しオンリーかと思っていたのですが、伺ったところ、いや普通にメール便で送りますし今までも通販が主でしたよとの事。
そうなのか。きょうじゅさんがブックレットをファンにしてかざしたらば、都下県下のバノンに飢えたマニアどもが亡者がごとくにむらがって、瞬く間に跡形もなくなるかと思っていた。なんとなく。
さておき内容。エンドクリーンと書いたが、正確には少し異なったコンセプト。パケット化が可能で、全てのカードが能動的に現象に寄与し、何かを足したり除いたりせず、最後に改めも可能というこの構成を、Bannon自身はフラクタルと名付けている。
作品数は7と少なめで、また現象に偏りはあるものの、内容としては非常に充実していた。
せっかくなので全作品に言及してみるが、あまり中身無いので飛ばしても良いです。
ここから↓
MEGA 'WAVE:
BannonというとTwisted Sistersが有名だが、あれに類縁の2組での4 Card Brainwave。Twisted Sistersに引けを取らない現象でありつつ、検め可能。個人的には、このプロット自体にちょっと煮え切らない物を感じるのだが、Bannonのは狙いが定まっており、実用してみたくなります。
Fractal Re-Call:
自身のCall of the Wildの改案。Wildとはいうが、持ってるハンドが全て変化するというギャンブル系の現象。原案と遜色ないながらギミックが排されており、凄いです。変化現象にAsher Action Reverseを使う箇所の考察が、個人的にはとても面白かったです。
Short Attention Scam:
これも御自身の単品作品Royal Scamの改案で、序盤のTwist現象を省いた物。これは原案も含め、あまり現象に起伏が感じられず、どうにもピンときませんでした。しかしRoyal Scamはお客さんが(反応含めて)可愛いくていいですね。
Mag-7:
これまた過去作Return of the Magnificent Sevenの改案。鮮やかでスピーディな、ギミック無しのワイルドカード。個人的なベストWildは、まあお察しの通りWonder演ずるTamed Cardなのですが、このMag-7くらい軽やかに畳みかけるのも良いなと。
Poker Paradox:
いわゆるRoyal Marriages系作品。つい先頃まで退屈なプロットという認識でいたのですが、Juan Manuel Marcosがある特別なタッチを加え、非常に鮮やかな現象に変貌させており、気に入って演じておりました。ただ唯一、観客が参与しない点だけ気になっていました。
一方こちらのPoker Paradoxは、手法はオーソドックスなものの、非常に狡猾な組み合わせによって実に不思議に仕上がっている。正直、自分でもやってて不思議。
なによりお客さんが関与するのがよいですね。MarcosのLa Claridadと、どちらを取るか非常に悩ましいです。
Fractal Jacks:
デックの一番上にJackが4枚置かれた後、交互に手を配ったはずなのに、なぜか何度やっても手元にJackが集まっている。という妙な不条理感のある現象が元。これを8枚のパケットでやってしまう。
あえてクライマックスを殺す構成になっており、SolomonやAronsonからは賛同を得られなかったらしいですが、僕はこちらの方が好きです。ただし、借りたデックや自分のデックでも出来ますが、パケット化しないと効果を十全に発揮できない気がします。
Wicked:
Jack ParkerによるI know Kung Fuの、見る影も無いほどスマートな改案。原案の無茶な感じはけっこう好きでしたが、Bannonが触るとこういうふうになるのですね。
2段からなる、シンプルなサンドイッチ。
↑ ここまで
またコンセプトとして、フラクタルの他にスラッグというものを要所要所で使用。
これはセットしたカードを導入するやり方についてのアイディアで、Play It Straightの作者ならではというか、既存のやりかたからあえて後退することによって見えてくる有用性という所でしょうか。賛否両論ありそう。
さて作品そのものもよかったけれど、Bannonの解説がなにより素晴らしかった。改案の動機から現象のたくらみまで、細やかに解説しており、それが一番面白く、また実演してみたいという動機にも繋がりました。
特にStephen Tuckerに対する駄目出しは、始めこそ柔らかく切り出したものの、徐々に舌鋒が鋭さを増していくあたりが大層面白い。と同時に、非常に的を得た論評であり、世にはびこるマジック・クリエーターのなかにおいて、Bannon作品の極めて高い練度がどこから来るのかを垣間見るようでもありました。
一方で、現象の偏りというか、フレーバーとしてポーカーを好む点だけはちょっと苦手です。ただこれは適当なテーマに置換してしまえばよいのでしょう。特に本書の手順は全てフラクタル、独立した構造になってます。スラッグ・コンセプト含めて、このフラクタルというやつ、特殊柄のパケットトリックとも相性が良いと思います。もっといえば、いわゆる痛手品とかバカ手品とかの改案作り放題な気がしなくも無いので誰か作って下さい頭悪い手品。
ともかく、とても満足しました。Bannonやっぱり面白いぜ。
直ぐに読み返せるのも想像以上にありがたく、日本語訳の、それもこなれた文章であることの利点でありましょう。ときおり中の人が漏れ出てましたが、とても読みやすく面白かったです。
Dear Mr.Fantasyも翻訳中とのことですが、いや適任と思いますきょうじゅさま。あの小説っぽいところとか。
唯一、値段が高くなってしまうのがちょっと残念というか、おまけパケット無かったら本家で買ってしまうよなあと。発行部数とか考えると仕方ないのでしょうし、本家が安すぎるだけという話もありますが。
初期目的の一つであったカウントはあまり無く、残念でしたが、これはどうも過去のフラクタルシリーズ、およびLiam Montierとの共著Triabolical と混同していたようでした。
ともあれすっかり啓蒙されました。他の著作も早急に集める所存です。
2013年5月17日金曜日
"Making the Cut" Ryan Schlutz
Making the Cut (Ryan Schlutz, 2011)
若手Ryan Schlutzの初作品集。
映像ダウンロード作品が2つくらいあるものの、初作品集をハードカバー本で、という時点で好感が持てる。
そのダウンロード作品、Sense-Sational、Pivotal Peekはどちらも不可能性の高いロケーション。だが本書はClub SandwitchやSignature transpoなど普通の題材が主で、そういう意味では期待と違った。
理論よりの人らしく、本書も観客へのアプローチ手順(Making the CutはBreaking the Iceと同じ意味で使用されている)から、より複雑かつ感情に訴えかける手順、相手に記念品を残せる手順、と章立てされている。
ただし作品には、John Guastaferroを筆頭に、Caleb WilisなどVanishing Incを中心に活動している面々に似通った、中庸というか、よく出来てはいるが、個性には乏しい点がある。
不可能ロケーションの人という印象、また第一章は大きなプロブレムである"アプローチ"の手順ということで期待していたが、これが面白くなく大いに落胆した(*)。
プレゼンテーションも理屈で作っている気味で、個人的にはあまり好まないタイプ。Club Sandwichなぞは、黒い渦模様のサンドカードを使い、ブラックホールだから選ばれたカードが吸い寄せられ云々言い出して、正直どうでもよい。
だがMisfit Queenでのシンプルかつ大胆なパームがなかなか良く、サイン移動の複合現象INSIGNIAもよく練られていた。最初の作例がつまらなかったPivotal Peekも、Treasure Huntという非常に良い手順が紹介されて救われた感じ。また特殊印刷のカードについては、自家プリント方法も載せてくれるなど丁寧で助かる。
終わってみれば、なかなかに良い本だった。
色々なプロットをそつなくこなすといった印象。
(*)When It Doubt, Read a Palmでは、自分は手相占い師なのだと言ってアプローチし、しかし手相を見る手を間違えたりジョークを言ったりと適当な対応をし続けたあげく、やっといや実はマジシャンなので今からカード当てする、と来る。
好みの問題ではあろうが、マジシャンの名乗りを上げるまでの間、手相占い師と自称する正体不明の男が場に存在しているわけで、これはだいぶ気色悪いと思う。
2013年5月12日日曜日
"The Art of Astonishment Volume.1" Paul Harris
The Art of Astonishment Volume.1 (Paul Harris, 1996)
天才 Paul Harris の三巻組全集、巻の一。
もう大変に素晴らしく、面白かったです。
特に、これは書籍で読むのがベストと思います。
原案者の演技もDVD Stars of Magicで見ていましたが、Harris自身はパフォーマーとして決して卓越してはいなかった事、及び、やはり”タネ”を探してみてしまい驚きが減ずる事から、そこまで感銘を受けなかったように記憶しています。
しかし書籍で読むと、彼の目論んだ現象が、ほとんどそのままに頭の中で展開されて、さすがに”驚き”はできないものの、プロットのツイストに、現象の鮮やかさに、感嘆しきりでした。
この頭に鮮やかに浮かぶ、という点がHarris作品の特徴と思います。
奇矯なプロットというイメージが強いですが、これまでのプロットや手法から外れているというだけで、現象そのものは実にダイレクト。予想はできないかもしれないけど、起こった時にはほとんど直観的に受け止められる、だからこそのAstonishmentなのだと思います。
そういった現象は、そのものが魅惑的でもあります。
例えばCard Split現象のLas Vegas Split。昔はそこまで好きでもなかったのですが、いま改めて、ビデオのような遠視点ではなく間近にカードを持って試してみると、これがとても良い。ゆっくりと曲げていくと、たわんだカードはやがて限界を迎え、ぱりっと音を立てて分裂する。もうそれだけで十分に楽しい。
手法も実にダイレクトです。ただし決して強引と言うのでなく、既存の技法にまったく縛られず、その現象のためだけの最適解であるかのような解決方法です。また多くの手順はシンプルなクライマックスを持っており、長々とはしていません。
この巻ではおまけでGreg Wilsonの章があり、かのReCapの解説もあったのですが、これは実に対照的でした。
もちろんWilsonの手順はよいものなのですが、Harrisの後ではとにかく長く、また現象の組み立て方がどうにも「既に出来ること」の組み合わせの延長上にあり、手法も「出来る事」の組み合わせにしか思えませんでした。それはテクニカルなコントロールを駆使したAmbitious Cardの改案とOmni Deckの対比と言っても良く、やはりHarrisの"驚き"に対するセンスは凄いなと思った次第です。
ともかく、本当に素晴らしい内容でした。
現代マジックを作ったのは誰か、という問いに、今の私なら迷わずHarrisと答えます。
買うなら三巻組みで……、と思っていたがために、手を付けるのが遅くなってしまいましたが、たとえ一巻づつでも、早く買って読むべきでした。
分厚い本ですが、文章はおふざけを多々交えながらも簡明で、さらに面倒になって文を読み飛ばしても内容が判ってしまうくらいのピンポイントさで図が入っているので、さくさく読めます。おすすめというか必読と言っても良いです。
あと2冊ありますが、このクオリティが続いてくれたら嬉しいなあ。
いまのマジックの礎であると同時に、今なお損なわれない新しさ--驚きのある素晴らしい作品群でした。
(※例としてわかりやすいのでOmni Deckを挙げましたが、同作品はHarrisのSolid Deceptionの正当な進化形ではあるものの、創案はJerry Andrus、実現はDanny Korem だったように記憶しています)
2013年5月9日木曜日
”脳はすすんでだまされたがる” S.L.マクニック, S.M.コンデ, S.ブレイクスリー
脳はすすんでだまされたがる -マジックが解き明かす錯覚の不思議 (スティーヴン・L・マクニック, スサナ・マルティネス・コンデ, サンドラ・ブレイクスリー 鍛原多惠子/訳, 2012)
Sleights of Mind の邦訳。
サブタイ詐欺。
新進気鋭の脳神経科学者が、マジックと”心”を結びつけるべく、マジック界に飛び込んで実体験・実学習を通じて両分野の橋渡しを試みる。
とくれば、好みにどストライクの筈なのだがあんまり面白くなかった。
たぶん"解き明かされていない"のが、私的に駄目だったんだろうな。サブタイが「心理学者の見たマジック」とか、そんなんだったら別に気にならなかったのだろうが。
著者達の第一目的であった、奇術と心理学会の結びつけ、には成功しているだろう。そういうシンポジウムも開かれるようになったというし。しかしマジック屋として本書を読む動機は、やはり新しい知見、それも実用的な知見を求めてではないだろうか。
であれば、マジックから帰納法的に公式を導きだすか、心理学に既存の論理を持ち込み、その式を用いた演繹で新しいマジックを作るか既存原理の強化・純化までしないと、有用性はわからない。
ところが、この本ではまずマジックを紹介し、それが心理学(神経科学)のこういうトピックスと関係が”ありそう”、という提示をするに留まるのが殆どだ。結果として、心理学の紹介書としても、筋道の立たない散漫な内容になってしまっている印象。
マジックと心理学が関係している事自体は、マジシャンは既に知ってはいるわけで、それが学会で具体的なムーブメントになったのは大いに喜ぶべき事ではあるが、どちらにとってもまだまとまった成果とはなっていないようだ。
ただ滑動性運動とミスディレクション(Apollo Robbins)については、ちゃんと裏打ちが有り、非常に良い内容と思う。側聞したポン太・The・スミスさんのリテンションの話とかとも繋がるのであろう面白い話。
結局、期待していた物との食い違いであり、心理学者がマジック界に飛び込んで、いろんな発見をしていく紀行文としては面白い。特に所々で出てくる協賛マジシャンは豪華すぎて笑っちゃう程。
ただ心理・神経科学関係の本としては、一般科学書としても手品用ネタ本としても、V.S.ラマチャンドランの脳の中の幽霊 や知覚は幻 などの方が格段に面白いと思う。
2013年4月26日金曜日
"C10" Dani DaOrtiz
C10 (Dani DaOrtiz, 2013)
"例えばDaOrtizが怖ろしく不格好な原理をとびきりの不思議に仕立て上げ、マニアを煙に巻いているように、この本は完全に『時代遅れ』で『死んでしまった枝』だからこそ、再読の意味はあるやもしれぬ。"
とMoeの冊子の時に書いたけれど、本書、C10 は、まさにDaOrtizがMoeのトリックから研究・発展させた成果物だ。
無論、とても難しい。
スタックというかキーカードというか、Utopia DVDでも解説があったアレだが、さらに詳細に解説している。
まず40ppのうち半分を使って種々のスタッキング方法を、残り20ppで6つのトリックを解説。Moeはロケーションに使った原理だが、ここではフルデック・メモライズデモ、ACAAN、予言、透視とかなり多彩になっている。
ただこのトリック群はあまりにもDaOrtiz的で、ずうずうし過ぎる。もちろん手品が見せるものは、あくまで嘘で、架空の出来事だ。その代わり、マジシャンは手を尽くして偽の『物証』をちりばめ、観客に実在しない現象を錯覚させる。だがDaOrtizはそれすら放棄して、何も起こっていないのに、起こったという証拠を提示することさえせずに、それでも不思議なことがあったのだと押しつけようとする。
Moeの10枚からフィッシングで絞る、とかが可愛く思えてくるぐらいの、唖然とする手法。
もちろんそれをマジックとして成立させてしまうのがDaOrtizのすごさなのだが、正直、当人以外がまともに出来るとは思われぬし、Utopiaを見る限りでは当人の演技であってさえ、場合によっては苦しい。
具体的な手法には言及できないので、ぼんやりした文章になってしまったが、Utopia見た人なら判ってくれるんじゃあないかなあ。まあ、それらの手法はあくまでもC10 をさまざまな現象に拡張するために使われているのであり、基本原理やそのためのスタッキングはそれ単体でも非常に強力な武器。DaOrtizとは異なった発展のさせ方もまだまだあろう。
またPrediction with Two Deckは何とか出来る範囲の手順だが、これがもう本当にすげえ一致現象で、解説読んだ後での動画鑑賞にもかかわらず、気持ち悪くて声が出てしまった。
Moeの手順をこんな風に開拓し、ここまで発展させるのかという、現代の天才の凄みが感じられる素晴らしい資料でもある。ただし内容は相当に人を選ぶ。UtopiaのACAANを見て、いけると思った人だけがさらなる研究のために買うべき。
しかしそれにしても難しい。生で見た時も、むごいことをしてるなあと思ったThe Memorization Routineだが、改めて解説を読んで、心が折れた。素敵な現象なので出来るようになりたかったが、僕の脳味噌でこれは処理できない。
2013年4月23日火曜日
"Cutting Remarks" David Britland
Cutting Remarks (David Britland, 1990)
Britlandのホーンテッドパック。
ホーンテッドパックを1手順のみを解説した小冊子。元々はCard Kineticsに入る予定だったらしいのですが、ゆえあって単売。
というのもCard Kineticsとは使用ギミックが完全に別系統だから。
これ、応用範囲ひろくなさそうだけど、わりと優秀なギミックと思う。セット後の自由度がめちゃくちゃ高くって、手の中でスプレットして両面を見せた後、カードを揃えてそのままホーンテッド出来る。エンドクリーンでは無いけど、それを補うに足るだけラフな扱いができる。
動きが一般的なモノとはちょっち違うのも面白そう。
ただ想像以上に素材に左右されるようで、今、家で手に入る適当なモノを3~4種試してみたけど、どれももうひとつといった感じ。これこそセットで付けてくれても良かったのになぁ。
自動系ではなく、自分の手の中でしか起こせないけど割と良いと思います。
やはりBritland先生は趣味が良い。特にハンドリングのフェアさ、楽さが非常に好ましかった。
まあ、まだ良い材料が見付からないのだけれど。
2013年4月19日金曜日
"My Personal Stack" Dani DaOrtiz
My Personal Stack (Dani DaOrtiz, nodate)
Dani DaOrtizによるスタックデックの解説書。
Daniが12歳の頃から取り組み始めたというスタックデックの研究をまとめた西語の本 Mi Baraja Personal、その初版から6年後に書き直され、内容拡充とスリムアップが行われたのが本書の底本である。冗長な部分や、TamarizのMnemonicaと重複する部分が削除されたと聞き及んでいる。
まず、これがDaOrtizスタック。
ちょっと前に組んだやつだから、一枚くらいずれてるかも知れませんがご容赦ください。
そんで以下の特性を持っている。
①New Deck Orderに戻せる。
②前後のカードが簡単にわかる。
③一枚移動された場合も即座に判る。(Moe's Move a Card)
④飛んだ位置のカードもわかる。特定枚数目へのコントロールもできる。
⑤ミラースタックやサイクリックスタックに変化可能。
またパリンドロミック・ミラースタックという変わり種にもなる。
まだまだ挙げればキリがないくらい。
ただしいくつかは、正確には嘘。DaOrtiz流のずうずうしい策略でもって、「実用上はほぼ真」となっている項目がある。
実はこれ、流行のメモライズドではないし、特別なスタックでさえない。既存の某有名数理スタックに、ランダムさを演出するための例外ルールを2つ加えた変則スタック。
なので上記①~⑤を読んですげー何このスタック!と思ったら、そも基本スタックの性能をちゃんと掘り下げられていなかったと言うことだ。ちなみに僕は非常に驚いたくちで、こんな使い方もあるのかーと全編通して感心しきりであった。
あるトリックのためにスタックを使う、という場面はよく目にするが、スタックを常用するための解説というのは少ない。
スタック(特に数理)は初心者向きと思われがちだけれども、ギミックと一緒で、自由度を大幅に制限するため運用が難しい。結局、目的のトリックの前にデックスイッチするのが一番負担が少ないという結論に至り、けれどスイッチが面倒なのでスタックやっぱやめるわ、となったのは僕個人の話だが、似たような経緯の人は少なくないと思う。
私見だが、スタック常用には、カード位置の修正やミスしたときのフォローなど、Jazz Magicの技能がどうしても必要になる。そこで登場するのがJazz Magicの大家DaOrtiz。これ以上の適役は居るまい。
詳細なデック特性の研究から、基本的なカード当て、コントロール、枚数当て、4 of A Kindプロダクションの他、ポーカーデモ、スペリング、一致現象などがかなりの数、解説されている。またスタック変換で邪魔になる例外配列を解消するためのトリックも収録されており、いたれりつくせり充実の内容。
ただしもちろん、非常にDaOrtiz流であり、DVDなり生で見るなりしてあのスタンスを少しなりと感得していなければきついかもしれない。解説は丁寧だが、それでも「適当な理由を付けてカードを入れ替える」とか「スペードのKのところでカットする」「ハートのJとクラブの3をまずフォース」など、しれっと要求されたりするので注意。また抜け道が用意されているとは言え、例外ルールのせいで計算はちょっとややこしい。
幾度か書いたようにAronson読んでいないので確定的な事は言えないけれど、個人的にはこれ一冊でスタックデックのほとんどが、しかも効率良く学べると思う。
あとは MnemonicaのAppendix Ⅱ,About Order and Disorder があればスタックは十二分じゃないかな。
というわけで、非常に優れたスタックデック教本でありJazz教本。文章が散文的というか、全体にやや雑駁とした読み心地ではあったが、デック片手に本書の内容を5回くらい通せば、Jazz系の能力もかなり付くと思うよ。
ここから固めてゆけば、ゆくゆくはDaOrtizみたく、Evansの10 Exact Cutをレギュラーカード即興でやれる変態になれるかもしれない。今まで読んだDaOrtiz書籍の中ではもっともDaOrtizらしさが出ており、DaOrtizファンにもお勧めである。Utopiaとの重複もない。
Jazzyなハンドリングとは無縁、という人にはあまりお勧めしないが、数理スタックからサイクリックやミラーへの変換が割と容易に出来るので、これ1つセットしておけば実質3種のスタックとして働く。CurryのPower of ThoughtやRoy ShottのClanissh(発展版のTon Onosaka 偶然の一致にしては)などがかなり手近くなるので、そういう点でも非常に強力な武器と思う。
自分にとってかなり高度な内容だったのと、けっこうだらだら分割して読んでしまったのとで、また改めて再読したい所存。
2013年4月13日土曜日
Waters先生なにやってんすか。
私淑するT.A. Waters 先生の新作DVDが出るとの報を受け、良い機会と大著Mind Myth and Magickの評を書きがてら、そういえば先生の本職はライターで、SFとかも書いておられた筈だよなあと思い出して調べてみたところ、こんな著作を見つけました。
そのスパイを愛せ
色事はシーン・パトリックの
あまり自重しない武器ではあるが
時として彼の方が
ヤられちまう事もある
(※訳は適当)
表紙が実にセンスがあってアレですが、内容もたがわず、ハニートラップ満載のスパイ物だそうです。敵のKGBハニートラップ要員に逆ハニトラを仕掛けろとかいう話。
……まあ実際は、John A Keelという人が書いたみたいで、Watersの名前も勝手に借用したようではあります。以下を参照。
(http://permissiontokill.com/blog/2010/07/18/love-that-spy/)
しかしただのパルプ本かと思ったら、パルプではあるけども意外と評価が高くって、読んでみたくなりました。私の英語力だと小説は到底無理なのですが、しかし表紙と筆者名だけでもネタとして所持しておくのはありか。
DVDの話に戻ると、WatersはMaven並みにスゴ味のある人だと思うていますので、動く先生にも期待です。EMCで放送されたという雰囲気たっぷりな映像は、さすがにL&Lに求めるのは無理が有りましょうが。
まじかっこいい。(http://img.skitch.com/20100716-1u7e47dss2wjqt5wg1gqkrjf1b.png)
怖いですよ。(http://littleegyptmagic.com/emc_ta1.jpg)
またひとつEMCを買わねばいかん理由ができてしまった。そしてビデオ提供者がBritlandだ。
しかし没後15年たって新作DVDかぁ。
没後DVDといえばWonder先生のレクチャーDVDが権利関係でなにやらややこしい事になっていましたが、そこは天下のL&Lですし、収録スタジオもまんまL&Lのようなので安心しててよいかな。
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