2013年4月12日金曜日

"Knuckle Busters Vol.6" Reed McClintock





Knuckle Busters Vol.6 (Reed McClintock, 2004)



指だけじゃなく、心も折りに来るコイン作品集 第6巻。


とはいえこの巻はそんなに難しくなかった。
テーマはVCA(Visual Coins Across)で、つまりはThree FlyというかFingertip Coins Acrossというか。


Hatfields & McCoys
ノーエキストラのVCA。野暮ったくてNGと思う。移動するコインを毎回、反対の手で取って元の手の中に握り直すというのは、手法が透けて見える気しかしない。
McClintockはこの点について、効率主義者のアメリカ人には奇妙にねじくれて見えるだろうけどヨーロピアンには気にならないよ、ただ、そのままやっちゃ駄目だからね、ちゃんと演出しなね、と仰っておられますが、うーん。


Freedom Flight
1エキストラVCA。移動してきたコインは毎回テーブルに置いてしまうので、好き嫌いあると思うが、ビジュアルさのコントラストではむしろこの方が良いかも。

ハンドリング的にはほとんどEric JonesのMirage et Troisと同じ。JonesのDVDを見たときはまったく感ずるところがなかったのですが、今回、本書で読んでみると非常に面白く、これは是非とも習得したいです。

演じるペースの違いが大きいようで、DVDでのJonesの演技やはり性急すぎだなと(*)。
そういえばMirage et TroisのクレジットにMcClintockは無かったですね。


Searched & Destroyed VAC Conquered
今度はギミックもの。ほとんど冗談のような大胆なギミックで、ユニバーサルVCAを解決する。ギミック処理方法も大胆すぎる。ちょっと僕には無理な感じ。


難易度も高くなく、比較的とっつきやすい一冊。またエキストラ0、1、ギミックと、アプローチもバラエティがあってよかったです。普段のMcClintockは変態技量ばかりが目に付くけれども、実際には技法もギミックも原理も最大限に使っていく、現象全ての人なのだなと再認識。

手持ちはこの巻で終わりですが、是非他も読みたいです。


(*) Mirage et Troisはあまりおすすめしませんが、最近見たMetal2ではずいぶんとパフォーマンス上手くなっていて、元々の変態的コイン技量とかみ合って凄まじかったです。なにより、Metal2は演じているJones自身が楽しそう。

2013年4月8日月曜日

"Knuckle Busters Vol.5" Reed McClintock




Knuckle Busters Vol.5 (Reed McClintock, 2004)



拳を粉砕する激ムズ コイン作品集。第5巻。


3作品解説。今回のテーマはイロジカル?


Men Without Hats
RamsayのThree coins in the Hatの現代版。これは出会いが悪かったというか、COINvention DVDでのDavid Neighborsによる演技が何をやってるのかさっぱりわかんなかったんだよ。悪い意味で。

これについてはDan Watkinsも、Neighborsに非はないし他のRamsay作品は愛しているが、と断りつつも、古くさい繰り返しで、レビューしようと現象を辿って書いているうちに意味がわからなくなってくる、おまけに改善の余地すら見あたらない、といった旨の事を言っている。

全く同意。本当に面倒なので現象は書きません。


Grenoble Coin Production
Vol.4のNeverland Coin Productionのバリエーション。前者が、指先で持ったコインを引っ張ると2つに分裂する現象だったのに対し、これは指先に1枚ずつ持ってたコインが2枚ずつになる現象。やっぱりむずい。


Twilight Zen
よくわからない現象。相手に銀貨を3枚持っていてもらい、もう3枚、銀貨を取り出して右手から左手へ移動現象。
観客が手を空けると銅貨が3枚になってて、演者はいつの間にか6枚の銅貨を持ってる。

まあ、されたら不思議というか、えもいわれぬ煙に巻かれた感があるとは思う。
ハンドリングは例によって豪快だが、まあ出来ないではないかな。

何かに似ているなあと思っていたのだが、思い出した。Gary KurtzのFour Fistedだ。
あちらの方がマジックとしての筋は通っているが、物量ではMcClintockといったところか。やっぱり枚数が枚数なんで、小手先の細工ではどうしようもないぜって感じは出ると思う。あとMcClintockのは、エンドクリーンとは言わないまでも、かなりオープンな状態で終われるので、不思議さは勝るかも。


今回、買ったVol.4~6の中で1番パッとしない印象で、たぶんHatの影響が大きい。1作品がVol.4のヴァリエーションなんで、実質2作品しかないというのもあろう。

ただ、最後のTwilight Zenは、始めいまいちと思っていたのだけど、書いている内にわりと好意的な評価を付けたくなってきた。意味不明だが奇妙な魅力がある。一度見てみたい現象かも。

2013年4月3日水曜日

"Knuckle Busters Vol.4" Reed McClintock







Knuckle Busters Vol.4 (Reed McClintock, 2003)



貴様の拳を粉砕してくれようか!


Reed McClintockによるコイン作品を納めた小冊子。

いやーコインの良い手順ないかなぁとか軽い気持ちで手を出して、いま、わりと後悔してる。とにかくキ○ガイじみて難しい。この巻はメインテーマ”プロダクション”で4作品を解説。

Neverland Coin Production
 両手マッスルパス必須のフィンガーチップ・プロダクション。
New World Chink-a-Chink
 手のひらの上でマトリックス。Mcclintock Twistのビデオで実演が見られるらしいが……。
No One to Four
 Curtis Kam。4枚同時に開けるロールダウンが一瞬で出来なくてはならない。
 さらに「それ両手で同時にやれば?」と言われたそうで、やったらしい。
 8枚も出して何をするのだ。
The American Dream
 まず20枚もハーフダラー持ってないです先生。


と、こんな具合。
(数で押さない時の)Mcclintockの手順は、実に素晴らしいとそれはわかっている。Trans Zeroや4 Co Proなんて、初めて見たときは度肝を抜かれたもんねえ。フラリッシュ的なハンドリングに頼らない、確固たる不可能性がある。

のだが、むずいんだよ。
2万回くらい練習すれば出来るようになる、のかなぁ……。こういうヘビィなのこそ、時間有る時にトライしておくべきであった。いまからマッスルパス位置矯正とかしんどいです。


Trans Zero :Fantasmaのダウンロード販売だったが、もう見れない。現象自体はたぶん冊子Trans-Euro Express で解説してる。誰かプロモ動画持ってたりしませんか。

4 Co Pro:Knuckle Busters Vol.1 収録らしい。Curtis KamのDVD Silveradoにて実演あり。

2013年4月1日月曜日

緑の蔵書票の一年目。分類が緑ではない話も

当ブログを開始して丁度一年なので、
総括とマジック以外の話をつらつら。


●手品本

書評55冊分あり我ながらどうかと思いました。
実際はパンフも多いのでそう大した量ではないはずですが、
そこからどれくらいレパートリーになったかと聞かれたら、
聞かなかったふりをしたくなるような費用対効果です。

まあ読み物として読んでる側面もあるので、よいのです。
ええ、よいのです。
ランキング的なモノにするとまあ以下のような感じ。

洋書:"Thinking the Impossible" Ramón Riobóo
和書:"The Amazing Sally vol.1 佐藤喜義作品集" 佐藤大輔 
冊子:"Tearing A Lady in Two" David Britland、"ブランク" タナカヒロキ

グランプリ:"Cards on the Table" Jerry Sadowitz



●ブログ的にふりかえって

もともと文章力をどうにかしたいというのが始めた動機のひとつだったわけで、
Ramón Riobóoあたりはまずまずですが、最近は長文化したり構成が定型化したりして、
それが故に筆が滞ることも多いので、本末転倒の様相を呈しはじめています。
なんで今年度はもっとざっくりとした短評指向にしたいと思います。

開設後、私の好きなマジックブログの筆者であられるきょうじゅさんからコメント頂戴したものの、
とんちんかんなツッコミをしてしまったことがしっかりログとして残ったり、
1度お会いしただけの大先輩に一瞬で身元特定されたりして、
ああ、ネットって怖いなと思いました。


●マジック的に

Dani DaOrtizを生で見まして大変感銘を受けました。
あのスタンスの問題点なり、限界も同時に感じるところではありましたが、
それらさっ引いてもレベルが段違いの化物で、しかもまだ30歳ということで、
え、ほんとにそんなに若いの、
とか思ったのですがよく考えたらこれは2011年のことであり誰だ時間を吹き飛ばしたのは。

以来、外には出ておりませぬので、マジックイベント的なもので人と目を合わさず
ひたすら書を愛でている人がいてもそれは辛うじてぼくではないです。


●その他

小説:
皆川博子の初期作品再選集が刊行されてしかも今後隔月で5巻を数えるとか、
短編集も文庫化に際して収録数増えるとか聞きまして、
私はいまうっかり解脱しそうなほどの法悦の極みにいます。

その皆川博子からみで西條八十の「砂金」を読みまして非常にたんびーで良かったです。
西條先生の自重しない女性遍歴「女妖」も楽しく読みました。
ファインマン先生とは別の方向で、
どう足掻いても埋まらないだろう経験値の差を感じました。

あとはディヴァインの新訳がやはり素晴らしい出来だったり、
マクロイ女史のサスペンスが面白かったりといった所でしょうか。
特に後半戦は、手品本ふくめあまり本読みに時間を割けない
読む体力が残ってない、で歯がゆいです。
読みたい本、山ほどあるんだけどなあ。


漫画:
八十八良「ウワガキ」がSFでラブコメで素敵でした。
この作者、長期連載は初と思われるのですが、
しっかり当初の予定通り(と思われる)巻数で完成していて、
アレなネタかと思ったのが実は伏線だったりなど構成も巧みでありましたが、
なによりそれら小難しいこと考えずとも、
ただただニヤニヤできるラブコメ度の高さがよかったです。
次回作にも期待。

あとは、九井諒子「竜のかわいい七つの子」の「犬谷家の一族」がミステリ好きとしては
笑い無しに読めない素敵な短編だったり、石黒正数の元アシさんだったという
つばな「第七女子会彷徨」もよかったり。二宮ひかるもちゃんと単行本が出て安心したり。



今年一番おもしろかった文章はコレ

clavisさんの時をかける少女(アニメ)評
http://clavis.info/wiki/The_Girl_Who_Leapt_Through_Time

同氏のアマガミインプレッション、アマガミssレビューもたいへん素敵でした。
文章が面白く、衒学も調査もぶち込み、んで、内容がアイオープニングであり、
もうすっかり憧れの人です。

またそれに絡んで、というわけでもないですが、
こんな映画は見ちゃいけない! の「けいおん!」評
http://d.hatena.ne.jp/otello/20120104
を読みまして、いままでぴんと来なかった「けいおん」の魅力というか、
けいおんと前述の時かけにおいて、ある種、共通な現代的キャラ造形に対して、
少しく理解が深まった気がします。


●その他

4/1なので
「雑誌出します !」
「DVD撮りました !」
「Sadowitz訳したYO !」
とか考えないではなかったですが、気が付いたら、とき既に4/1で間に合うはずもなく、
特に最後のなどは自分がやられる側だったらぬか喜びも良いところであり、
場合によっては殺意すら湧くと思われたので自重しました。

来年までには何かしらユーモアも身につけておきたいところです。


どっとはらい。

2013年3月21日木曜日

"Secrets" Terri Rogers






Secrets (Terri Rogers, 1986)



マジシャンで腹話術師でトランスセクシャルのTerri Rogers初作品集。この後 More Secrets, Top Secretsが出ているみたい。

Trap Door Cardの改案、Star gateに惹かれたのがそもそもRogersに興味を持ったきっかけ。
Rogersの名前は知らなくても、ブロックに通した紐にリングが貫通するBlockbusterは、そのものでなくても、親戚筋を見たことある人は多いだろうと思う。テンヨーのリングミステリーなんかも似てるね。

ああこれぞマジックと思わせる、面白い作品が多かった。マジック、っても技巧、原理、など色々あるが、Rogersは、こう、いかにもな”タネ”のあるマジック。


初っぱながカミソリ呑みだったので、パーラーメインかと思ったが、意外にカードマジックが多かった。

技法的にはTip Over Change(Switch)によるフォースだけでつまらないが、選ばれたカード以外の表が真っ白というラストが鮮やかなBlank Amazement。
Bizarre Twistのバリエーションで、2枚と1枚のアンバランス交換現象Chinese Twist。
スプレッドするたびにカードが小さくなっていく、Smaller'n That。

などなど、シンプルでわかりやすい。ギミック多いし検めNGが多いし、解法としても、必ずしも美しくはないから、個人的にはそりの合わない方向性ではある。また、いささか盛りすぎというか、「消えて、別の場所から現れて、オマケに裏の色が変わって」いたら、そりゃもう移動じゃ無くて別のカードやんっていうね。
ただ、アイディアを見るだけでも楽しいし、不要は削げば良い。Chinese Twistは、肝の原理はギミックいらないし、なによりシュリンク、ストレッチ、バニッシュと既にHarris自身によって開拓され尽くしたかと思っていたBizarreに、こんな手口もあったのねーと感心。

あと、流行だったのか、 Pop out Move系の技法が2つ解説されて、技法的な手応えもある。


カード以外では、からくり屏風を利用したウォレットや、一瞬で向きが変わる矢印など、パズルちっくな原理をマジックに仕立て上げる手際が素晴らしかった。

この後者のパターンの創作群を期待していたのだけれど、思ったより数がなくて残念。向きが変わる矢印、Pirish Compassは、他のオブジェクトと組み合わせても面白そうなので、なんとか形にしてみたいねえ。


文章はあんまり読みやすくなかったけれど、いかにもマジックまじっくしていて、好もしい創作群。目当てだったトポロジ系、パズル系が少なくって不完全燃焼だが、次への期待は薄れていない。後の巻では、BlockbusterやStar gateも解説されているらしいしー。

2013年3月19日火曜日

"Card Kinetics" David Britland





Card Kinetics (David Britland, 1988)



Britland の エラスティック関連小冊子。


タイトルは嘘で、マッチ箱やハンカチの手順も含む。
ホーンテッドデック、ライジングカード数種、飛び出るカード、飛び出す煙草、閉じる~開くマッチ箱、シルクの出現、ダンシング・ハンカチーフを収録。
ライジングは氏の別冊子Angel Card Riseからのバージョンアップも含むらしいが、そちらは持っていないのでよくわからない。
Britland氏が左利きなのか、たまに図と内容が合っていないことがあるが、まあ問題ないレベル。

使用するのは 輪ゴム、Loops(Loop elastic、自作する)、通常のエラスティックの三種。

輪ゴムを使う手順がなかなか良い。
観客にはわからない、といくらBritlandさんが仰いましょうが、動力源が丸見えなので、まじめに演じるのは無理だと思う。が、BehrのHarbert君(https://www.facebook.com/herbertrubberband)みたいなプレゼンテーションであれば問題なし。
特にホーンテッドは、手軽で、ハンドリングもシンプルであり、なかなか楽しい。

Loopsについては、Finn Jonとはいちおう別個に考案したらしい。こちらは輪ゴムものと違い、ふつーに不可思議な現象だが、そこまでぶっ飛んだ発想や構成では無く、Loopsという発明からすぐに出てくるものばかりと思う。
ただ、昨今出たLoops系のDVDやNestor HatoのDVD(のデモ)と比べても内容に遜色はない。


シンプルで使いやすい現象が、小さくパッケージングされた良冊子。
このあたりの入門用には最適と思う。

シルクについては全く知らない世界なので、へー、こんなのもあるのかという感じ。


これでエラスティック・スレッド同封だったら、文句なかったのになあ。
あいや、入ってはいたんですが、、、、、







なんか滲んでるしっ?!










まあ、仕方ないよね。怖くて開けてません。

2013年3月6日水曜日

"Card Zones" Jerry Sadowitz and Peter Duffie





 
Card Zones (Jerry Sadowitz and Peter Duffie, 2001)



イギリスのカーディシャン、Peter DuffieとJerry Sadowitzの若き情熱と妄執が詰まった初期作品集。

Alternative Card Magic (Duffie,Sadowitz,1982)
Contemporary Card Magic (Duffie,Sadowitz,1984)
Cards Hit (Sadowitz,1984)
Close-up to the Point (Duffie1984)
Inspirations (Duffie,Sadowitz,1987)

上記冊子の合本。なぜかSadowitzパートとDuffieパートに分割されている。SadowitzのCards on the Tableがたいそう素晴らしかったので期待していたがこれは駄目本。元々の作品がいまいちな上に、合本の仕方が最悪という駄目コンピレーションの見本。

まず文中で示されている図がない。
おまけに解説も間違ってる。
といった問題が散見され、本としての機能がまず十全でない。
おまけに組版が(個人的に)大不評だったMagic of Fred Robinsonと同じであり、おまけにインク滲みなどもあっていらいら。


それでも内容が面白ければ、解読の労苦も報われるのだが、作品はおよそ雑誌投稿レベル。十分に練られ、構築され、対人で試されたとは思えない。対人性能が全てとは言わないまでも、目的の見えない改案が怒濤のように押し寄せてくるとさすがに辟易する。
手順は既存現象の複合が多く、また現象を先に書かない記述スタイルが主であるため、何が起こっているのかが致命的にわかりにくかった。

特にDuffieが酷い。

Change of Departure
1枚カードをピークして覚えてもらう。$を2枚取り出す。
さらに2枚カードを選んで、抜き出してもらう。選ばれたカードを$の間に入れると消える。これを2回繰り返した後、今度は$の間に最初に覚えてもらったカードが現れる。最後に$2枚が、消えたはずのカード2枚に変化している。

もうね、書いてても意味が判らない。 いったい何がやりたいんだよ。
これの意味を通そうとすれば、演出をかなり頑張らねばいけないだろう。Duffieがそこを書いていれば、それは非常に勉強になるかもしれないのだが、残念ながら演出についての記述は殆どない。(※)


「よくわからないが不思議」なトリックも、演技時間の埋め草としては有用ではあろう。
あるいは、きちんと演じれば素晴らしい手順もあるのかも知れない。けれど比率の判らぬ玉石混淆の全てに、演出付与の労力を傾けるのはさすがに骨が折れる。 


一方のSadowitzは、Alternative Card Magic にてWhisperers、Come Togetherなどオリジナルな現象を提示するものの、全体としてはDuffieと大同小異。ただInspirations では、Double Dealという高難度の技法が頻出するかわりに、後のCards on the Tableを彷彿とさせるような、観客を心理的にも引っかける手順が散見される。

なお、Alternative Card MagicとInspirationsではDuffieもなかなか面白いアイディアを出している。

なんで、「原本では図版も解説も正しいのでは」という一縷の望みと共に、Alternative Card Magic とInspirations だけ買えば良いんじゃないかな。それでハマって、さらにと言うのであれば同書を買っても良いけれど、要注意の本ということは書いておく。
演出なんていくらでも湧いてくるけど、現象は全然思いつかないという人だったら、普通に買えばよいですが。


しかしこの二人のWalton信者ぶりにはすさまじいものがある。Waltonに言及できる機会があれば決して逃さないし、Walton手順の改案では「オリジナルより優れていると思っているわけでは決してなく、あくまで個人的なハンドリングである」と断りを入れる始末。

編年体の本なので、Walton信者のカードマニアSadowitzが、Inspirationsを経て、Cards on the Tableでパフォーマーとして開花するまでの足跡とも見れるだろうか。
一方のDuffieはといえば、彼のサイトを見ればわかるが、いまも大して変わっていないようである。ノーガフ Wild Cardの構築力などは素直に脱帽ものだが、私はあまり好きなクリエイターではない。


(※)例えば2枚のカードを消す際に、1枚目のカードを探しに行く、とでも言っておけばひとまず筋は通りそうである。一文でもよい、もう少しでも演じるための記述があれば、本書の評価もがらりと変わるだろうに。

2013年2月25日月曜日

"Seeking the Bridge" John Born






Seeking the Bridge (John Born, 2012)


John Born on Memorized Deck。


前説

COINvention DVDで初めてJohn Bornを目撃したのですが、ひとりだけ半身に構え、不思議な手つきでくねくねと手品をしている変な兄ちゃんという印象がまず一番にあります。いま思うと「動作の美しさ」を重視し、それ自体を技法化しているような当世流コインマジックのはしりだったのかも知れません。
あと、なんかこう、うらなり、という単語も思い浮かびますが。

この人は一点集中型のクリエイターで、特定のプロット・プロブレムを追求し、非常にマニアックながらよく考えられた解法を提示してくれます。マニアック+物量を惜しまないので、なかなか手元に残る作品は少ないのですが、その現象はいつも極めて印象的です。

COINventionの時に彼が取り組んでいたプロブレムは Bare Handed Matrix、つまりチンカ・チンクのように手でのみ覆うマトリクスで、これはMatrix God's Way という冊子にまとめられています(実は未読)。極めて鮮やかながら、大量のシェルとフラッシュパテ(ここでのフラッシュは人肌色のという意味で決して燃えるわけではない)を使用するMatrix ReBornなど、運用が難しい作品が多いのですが、表題作のMatrix God's Wayはシェル有のベアハンドマトリクスとして完成度が高く、一つの里程標になった感があります。

次のプロブレムはACAANで、その成果は Meant To Be... という本にまとめられており、評判も高いようです(これも未読)。次はカードギャンブルの総覧としてCheating at Texas Hold'emを出版しました。これは読んだのですが、ギャンブルに明るくないのでやや退屈でした。

基本的に自費出版のようで、Matrix God's Way こそスパイラルバウンドですが、他は半革装の非常にかっこいい装丁。Cheating at Texas Hold'emの時点では内部レイアウトが追いついていませんでしたが、本作では内部もまずまず見栄え良く、かっこいい本に仕上がっています。私のPCからでは写真が青緑っぽいですが、実際は明るい青色です。



内容

本書はカードマジックオンリーで、その半分がメモライズド・デックを使った手順です。先にも行ったとおりで、Bornは現象の助けになるならいくらでも手を加えていく創作法であり、特にコインではそれが実用上の大きな枷になっていました。
本作でも、「全てのカードの裏に数字を書いていく×4デック」や、「メモライズ+特定条件のカードにパンチ(針で小さくマーキング)」、そのほかにも種々のグリンプスや、Born考案による巧妙だが使いづらいディレイド・クリンプを組み合わせるなど、複雑な物も多いです。
ただし幸いにして現象が複雑になっていくタイプではないので、それが大きな救い。今回はカードなので、手間さえ掛ければ自作可能ということもあり、敷居はそこまで高くない。いっこだけ、Aaron FisherのPanic使う手順があるけど、それくらい。
あとはMonte Cristo Deck(Master mind deck?)を使ったアイディア、ソリッドデックのアイディアくらいでしょうか。

スタック自体は限定ではなく、どのメモライズドでも可。カード当てが多く、特にピークからあてるものが主。表題になっているBridgeテクニックは、複数枚ピーク用の手法です。表題にはなっているものの、あまり目新しくはない。たしかMoeあたりが似たような趣向はやっていた気がします。
ただ全体的な洗練度と、そこからの発展具合ではやはりJohn Bornとった所でしょうか。種々のピークや、原理の利用が実に巧みです。

それよりも、初っぱなのThe Perfect Pickで使われている原理が非常に気に入りました。嘘を暴いてカードを当てる趣向なんですが、怪しいところの一切無い手順で気持ち悪い。演者は部屋の反対まで離れているし、カードを選ぶに際して、フォースも何もない。これで当てるんだから気持ち悪いです。Derren Brownあたりがやりそう。
これを利用したHammer 3 Card Monteもあるのですが、なるほどこんな使い道がと驚かされました。


後ろ半分はメモライズドではない、普通のカードトリック。がっつり準備が必要な物から、カードを真ん中に戻す時のフラリッシュ、腕時計に差し込んだカードのトランスポジション、有名手順の演出案など様々。なかでもCard in Spectator's Pocketはアウトも完備しており、メモライズドとか使わないカード屋にもおすすめです。


作品は、徹底して”技法”を排する姿勢を貫いており、個人的には非常に好感が持てました。ただ文章だったので、もともと地味なのがさらに5割り増し、といった感じでしたが。
実際にコントロールなどの気配が無い構成なので、生で見たらさぞ気持ち悪いだろうなあ。



メモライズド・デックで、さらにジャズ要素も多く、かなり敷居は高いと思います。ほとんどの手順が、畢竟、ただのカード当てなので地味でもある。一方で、いままで読んだメモライズド本では間違いなく一番おもしろかったです。まあ、肝心のAronsonがまだ未読なのですけれど……。

あと、この本は著作権ががっちがちで、TVでの演技はおろか、マニア相手のコンベンションアクトもNGみたく書いてありましたので、直接にレパートリーを探してるという方や、取り敢えず内容だけ読もうって方はお気を付けください。
映像に取られてもNGらしいんで。

2013年2月13日水曜日

"Cy Endfield's Entertaining Card Magic" Lewis Ganson




Cy Endfield's Entertaining Card Magic (Lewis Ganson, nodate)



失われたクラシックの系譜。
エンターテイメントな高難度作品集。


ちょっと変わった版を手に入れたのでまずそのあたりの話から。
興味のない方は飛ばしてください。

ここから ↓

元々はSupreme Magicから三分冊で1955-58年にかけて出版された物。著者、出版社、出版形態とも、その翌年から出るVernonのInner Card Secrets 3部作そっくりです。というか、Inner以前だった事にちょっとびっくり。絶版ですが、古本はよく出回っています。
日本でも、金沢文庫から高木重郎による訳 サイ・エンドフィールドのカードマジック があります。こちらは豪華判と普及判の二種がある模様。図版をかのTon Onosakaが書き直しているとの事です。絶版高騰となって久しいようですが、私よりひと回りくらい上の世代になると、この本に強い思い入れのある方も少なくないようで、いろいろなところで熱のこもった記事を見かけます。また、いわゆる松田道弘のリストにて最高度の三ッ星で紹介されていることもあり、知名度は低くないでしょう。
いま手に入れるなら、Lybrary.comでe-book判が最も手軽。ただLybraryなので版組は恐らくプレーンテキスト、また写真が撮り直されているとのことで、ちょっと買うのが怖いですね。

さて、私が今回入手した洋書はこれらとは別の版です。
元の三冊を合本にしたハードカバーで、同じくSupremeから出ています。Vernonで言うところのInner Card Trilogyですね。本当に三冊分をまとめただけなので、この本固有のページという物がなく、発行年すら定かではありません。別段レアという程でもなさそうですが、なぜかあまり話に上らないようで、私も実際に届くまでは単なるまとめ売りかもと疑っていました。また私のは黒のクロス装ですが、どうも青クロス装のもあるらしい、とか。

まあ洋書でいいから読みたい、ただし実体に限る、という奇特な方がいたら、バラで揃えるよりも手っ取り早いかもしれませんよーという程度の話で御座います。








ダストジャケット。青いです。

文字のフチがぼけっとしているのは、アルコールで拭いたかなにかで、青のインクが白地に滲んでいるせいで、本来の物ではないようです。












黒の布装。
背にのみ「CY ENDFIELD'S ENTERTAINING MAGIC SUPREME」と金色の箔押しが。

タイトルがちょっと変わってますが、マジック本では珍しいことではありません。
表紙のComplete Worksが、めくった扉ではAlmost Complete Worksになったりする世界です。








例の組版。文字のかすれ具合なんかも、VernonのInner Card Trilogy とおんなじです。

Gansonは名解説と言われていますが、ちょっと持って回ったようなところと、この上下ぴっちりのあまり美しくない組版のせいで、あまり良い印象がありません。

今回の買い物、Endfieldは実は抱き合わせで、本命は後ろに写っているSawa's Library of Magic vol.1 でした。ちらりとめくった感じ非常におぞましい(褒め言葉)内容でしたが、順番はしばらくまわって来そうにないです。








↑ ここまで



さてどういう本かというと、アマチュアマジシャン Cy Endfieldによるカードマジック作品集です。本職は映画監督(ただしB級)だとか。

驚いたのは、VernonのInner Secretsシリーズよりも前の発行だったことです。時間的には僅かな差ですが、物によってはInnerの収録作よりも洗練されており、現象も鮮やかと思います。当時のマジックについての認識がちょっと改まりました。

総じてクラシックの力強さにあふれており、またマレにですが実に巧妙なサトルティを混ぜてきます。ただそれらよりも特筆すべきはその難易度でしょう。あと演出とのコンビネーションも気になりました。

その極端な例として、Vol.1に収録の Blackie is with us! を紹介しましょう。

Blackie is with us!
 4枚のJを悪漢に、スペードのAを老いぼれの(けれども老練の)騎馬警官Blackieに見立てます。
「どうやらBlackieに目を付けられているらしい。ともかくやつを巻かなきゃいけない」という事で、悪漢J達は、あとで落ち合うことにしてひとまず散開。J、Aをばらばらにデックに差し込みます。しばらくしてからデックを広げてみると、Jが一カ所に集まっています、が、間にAも居ます。
くそ、もう一回だ、とデックの中に混ぜ込んでから、再び広げると今度はJだけが集まっており、 どうやらAの追跡を振り切ったようです。

やれやれ、と4人のJは一息、ところが数えてみると5枚、5人居ます。おかしい、と点呼を取ると、やはり4人しかいない。気のせいだったのか? とJは強盗の相談に戻りますが、実はAは床下に潜んで、聞き耳を立てています(Jの間に裏向きで現れる)。


まず第一の特徴は演出、ストーリーでしょう。しかも「Jが探偵で選ばれたカードを見付ける」程度のものではなく、二つ三つ異なった現象を貫いた物語になっています。

そしてもう一つ、技法です。

やりかたを書いてしまうと、前半はVernonのMultiple Shift、後半はBuckle Countという実にシンプルな技法によって成り立っています。実際には、とある巧妙なサトルティの、そのまた少し変わった使用などもされているのですが、骨子としては上述の2技法のみといっていいでしょう。

なのでこれ、マニアが見ると肝心の部分は殆どわかってしまうのですよね。だから読んでもやろうとは思わないし、そもそもこういう手順を思いつかない。特に後段は、手に持っているカードの増減繰り返しをバックルカウントのみで表現しなくてはならず、実にしんどいです。


が、そういうことを完全に無視して現象を見直すと、けっこう面白い手順じゃありませんか?

演出のおもしろさ、そして”難易度”を無視しきった構成は極めて観客本位のもの、特に一般の観客に重きを置いたものであり、それがエンターテイメントの名を冠した所以ではないかと思います。


演出については、Blackie is with us!はあくまで極端な例であり、本全体としては演出無しの手順の方が多かったりもするのですが、後者の難易度という点については、ほぼ全編を通してこの調子です。

難しいとは言いましたが、使用技法それ自体は非常にベーシックなもので、手順をなぞるだけならそうそう苦もありません。だから感触としては、そこまで高難度ではない。ただ技法を真っ正面から使うので、実際に不思議に見えるレベルに達するのは相当に困難ではないかと思います。

オールド・クラシックは概してそうですが、カードマジックの技法がまだ未分化というか、「トランプを扱う」普通の動作からあまり逸脱しないので、非常にすっきりしている反面、難易度は高いといったところでしょうか。
Cards to pocketはその最たるもの。クラシックとして名高いEndfieldのバージョンは、松田・高木の両巨頭が揃ってベストトリック選に入れる名手順です。確かに、11枚のカードが次々とポケットに移動していくこの現象、十二分な技術力で演じられたら素晴らしいとは思いますがしかしこれ難しいよ!

やってる事は単純なのですが、単純と簡単は違いますね。
良い意味で直接的で、なるほど、これはエキスパート向きだなと思いました。


なお、本全体の話をしますと、Ambitious Card、Three Cards Monteについて、かなりしっかりした記述がある一方、Aが5枚でてくる小品や、カードブーメラン、およびそれを特定の枚数目でキャッチするといったスタント色の強い物もあります。
Paragon Moveのレビューでは糞味噌に貶した”カードを使ったBook test”もありますが、Endfieldは非常に上手い形で使用しており、これなら文句もつけられません。
技法解説もSide Steal、Diagonal Palm Shift、Top Change、Double Lift、Curry Turn Overと豪華です。おまけにEndfieldタッチというのか、普遍的な手法とは少し異なったやり方が丁寧に解説されていて、ああ、これは高い支持を受けるのも納得だなと。


一方で。
かように充実した内容ではありますが、構成に難があるというか、せっかく物が良いのに、脈絡無く詰め合わせみたくなっているのが少し勿体ないです。まあ本書の成立として、雑誌に発表された作品をまとめ、技法解説を加えたという事なので、仕方ないのかも知れません。
VernonのInner Secretsでも似たような感想を覚えたので、単純に私とGansonの相性がわるいだけかも。


Endfieldのまとまった作品集は本書だけのようですし、古い映画にも食指が伸びませんから、もう本ブログでふれる事も無かろうと思いますが、しかしこれ(http://www.lybrary.com/cy-endfields-chess-set-a-19.html)はちょっと欲しいですね。

2013年2月1日金曜日

"Parallax" David Britland





Parallax  (David Britland, ? )


トポロジカルなカードマジック。およびおまけ数題。



収録は4つ。
・Parallax トラップドアカード
・Hatch22 トラップドアカードのギミック版
・Twisted Sisters カードの貫通。
・Lady notes Tearing a Lady in Twoのハンドリング改案(部分的)



またまたBritlandの単品小冊子。発行年は表記されておらず、調べてもよくわかりませんでした。たぶん85~86年くらい? Lybraryにはお世話になっていますが、発行年しかりレイアウトしかり、もうちょっとしっかりして欲しいところです。


今回のお題はトラップドア・カード。誰でも出来るかんたんマジック的な本でも良く取り上げられるので、わりと馴染みがあるのではないでしょうか。僕が持ってるのだとMichael Weber LifeSavers にA Better Mousetrapが載っています。あと氣賀 康夫 ビギナーズマジック にも素敵なのが載っていましたな。

カードの真ん中を四角く切って、一辺だけ残し、ちょうど開き戸のようにしてある。そこをつかんでもらっている状態で、カードの表裏がひっくり返る、とそういう手品。マジックというよりパズルの要素が強いですねえ。

原理としてはこれだけで、ほとんど付け足すような要素もなく、うえに上げたのも基本的にはプレゼンテーションや道具立ての違いだけで、現象面でのヴァリエーションはあまり知りません。このParallaxでもそこは同じです。

とはいえ、いまになってから改めてやり方を読むと、なるほど不思議だなあと。「表裏、どっちを持っているっけ?」と、各段階で執拗に聞くのは、現象がはっきりするだけでなく、折る時間をカバーできて良いなと思います。
追加手順Hatch 22は、本当に不可能物体になってしまう(戸のところだけ裏返らない)というもので、通常のトラップドアからスイッチして行うべきもの。

あともう一つ、Twisted Sisters。これがなんとも気持ち悪くてよかったのです。表と表が向き合うようにした2枚のQを、別のカードに挟み、押し込むと、反対から裏と裏になって出てくるという物。KrenzelのTunnelとかJenningsのClose-up Illusion、HarrisのBushwackerに似てるね。即席じゃないのが残念ですが、ブリッジサイズであればこの後Card Warpにも繋げられるし、面白いと思います。視覚的にとても鮮明で不思議です。
マジックってどうしても、「前の状態を覚えていないといけない」時間をまたいだものが多く、ストレスなので、これみたく、今まさに明らかに目に見えておかしい、という手品をもっと仕入れたい。ただどうしても仕掛け物になってしまうのだよなあ。
処理のためにもCard Warp等につなげたい所ですが、あまり資料を持っていません。Card Warp Tour を買うか……いやしかし。


改めてトラップドアというのも何ですが、7ドルの価値はありでした。良い刺激になって、面白かったです。
Lady Through and Throughの記事で当たりが無いとか言ってごめんなさい。カード作品集が実験的なだけで、単品ノートは基本的にどれも面白かったよ。


なお、読んでいて人称であれ?となって調べたのですが、Terri Rogersはトランスセクシャルだったのですね。知りませんでした。どうもMilo & Rogersとごっちゃになってたみたい。
そしてついでに調べた、そのTerri RogersによるStar Gateは一般的なTrap Doorを発展させた素晴らしい物でした。
Trap Doorに発展性ないとか言ってごめんよ。あのときTop SecretsとMore Secretsを買っておけば良かったよ。