2026年7月20日月曜日

"The Karmilovich Collection" Ted Karmilovich

 The Karmilovich Collection (Ted Karmilovich, 2025)


メンタリズムの伝説、Ted Karmilovichの全集がついに出ました。


そもそもTed Karmilovichって誰なのか。史上最高のブックテストの呼び名も高いMother of All Book Test(MOAB)の作者として知られ、メンタリズム界の伝説的人物ではあるものの、単著は無く、レクチャーノートや単品トリックもいまやあまり出回っていません。結局どんな人なのかは実はあんまり知られていなかったんじゃないでしょうか。その疑問に完璧に答えるのがこの本です。ただ完璧すぎたがために、けっこう変な本になってしまった。

大判で360ページある本書にはTed Karmilovichのほとんどすべての作品が収められています。第一章は既刊の再録。ここは本当に神がかっている。近代メンタルマジックの柱となる手法のひとつがDavid Hoyによるブラフの技術と、対多数を利用した錯誤だと思うのだが、Karmilovichもその系譜にいる。いささか粗野なHoyよりもぐっと洗練されているが、サトルティや検めで変に深追いせず、度胸を使うところは引き続き度胸を使ってシンプルに仕上げている。

さらに構図の転換という、これまたきわめて度胸のいる手法も導入している(Dime and PennyやTarget Number)。Hoyの策略と並んで現代ステージ系メンタルの主要技術でしょう。またドローイング・デュプリケーションやトランプの赤黒テストもいい出来。伝説的なThree Pellet Testも収録されています。使う手法の問題からステージ寄りだが、傑作ばかりと言っていい。


続いて雑誌(MAGICK、Vibrations)の投稿作品を網羅していくのだが……、この辺からちょっと雲行きが怪しくなってくる。本当に全てが収録されているので、若書きだったり重複したり……、加えて当時のメンタル雑誌の特徴なのか、手順というか演出アイディアみたいなものも多い。そして未発表手順(というかアイディア)の章に続くが、ここも重複したり、断片的だったり……。

※面白いアイディアや作品も、もちろんある。私は観客の鍵がテーブルを貫通するやつ(p. 209)とか、Tossed Out Deckでひとりずつ当てたように見せる策略とか(p. 226)が好き。


最後に、インタビューや伝記が納められる。ここ何よりも、ユリゲラーによる超能力ブームのインパクトだ。私は直撃世代じゃないんですが、子供のころはまだその残り香があった。懐かしいけれど、いま考えるとかなりアレな時代ではあった。で、Karmilovichはブームに乗っかって超能力少年をやってたりしたそうなんですな。そりゃあ度胸もあろう……。ただ2020年代の目で見るとほんとにこう……すごい時代でしたね……。

Karmilovichのほとんど全てがある。ほんとにある。それが当時の空気のままに納められていて、後半はちょっと引いちゃうところもあるのだが、それらもほぼ糊塗せずに納めちゃったすげえ本だ。前半だけで傑作選として出しても良かったろうが、まあそういう人は前半だけ読もう。

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