2023年8月27日日曜日

"Notes From A Fellow Traveller" Derren Brown

Notes From A Fellow Traveller -Mentalism, Meaning and Thirty Years of Mistakes (Derren Brown, 2023)


Derren Brownが20年ぶりにマジシャンを対象とした本を出しました。ファンなのでもちろん買ったがしかし、かなり難儀な本であった。

まずなによりも英語が難しい。単語も文体も難しいので読むのが大変。そして肝心の内容なのだが、マジシャン対象とは言っても、残念ながら手品のタネ・仕掛けの話ではないのだ。では理論の話かと言うとそれも微妙で、本書の30~40%くらいは氏のShowmanツアーの紀行文である。これはまあ、面白いと言えば面白い。ショーは生き物と言われる通り、Brownほどの人物であっても、毎度、多かれ少なかれ失敗するわけで、失敗談やその対策がここまで赤裸々に語られることもあまりないだろう。でもそれはまあ、我々のような手品マニアが心から求めている物かというと違う。

手品理論(というか各種の心構えや考え方)の話ももちろんある。だがこれも、2つの点で我々からは距離がある。ひとつ、Brownはここ数年、クロースアップやTVショーからは離れており、もっぱらシアターでのショーに注力している。この演技環境が直接マッチする人はかなり少なかろう。そしてもうひとつ、Brownは大人物になってしまった。実際のイギリスでの空気感を知ってるわけではないが、単なる「成功したマジシャン」を超えた、立場ある文化人の雰囲気だ。そんなわけでちょっとばかり住む世界が違う。おまけに今は2020年代なので、そういった人間が当然備えていなくてはならない倫理観は非常に強固だ。

歳を取ったせいもあるかもしれない。Brownは言う。『正直なところ、手品はもうそんなに好きではない』『手品は簡単だ』。読みながら私は、一抹の寂しさを覚える。……ところで本書には、具体的な手品の話も僅かにだが出てくる。そこで解説されたある演出が非常にくせ者で、BrownはJerxなんか目じゃないくらい、さらりとスマートに、相手の現実に揺さぶりをかけてみせるのだ。なお、文句なしに凄い手品ではあるが、Brown以外の人間がやったらたぶん警察沙汰である。そんなものを何食わぬ顔で解説するところまで含めて邪悪だ。なんか色々言ってたけど、やっぱりあなた今でも手品が大好きだし、悪い手品も滅茶苦茶好きでしょう。俺には分かってるんだからな。


そんな往年のファンに対する一瞬の目配せはあったが、やはり本書は遠い。読み物としてはいいだろうし、もしあなたがスタッフを引き連れ、各地の劇場を巡るようなマジシャンなら、本書から学ぶところは大いにあるのではないかと思う(英語がそれなり以上に堪能なら、という前提付きにはなるが)。でもそうじゃないのなら、まず買うべきはDevil’s Picturebookだし、その次は多少のプレミア価格で済むならAbsolute Magicだろう※。そうこうしているうちに絶版になってもつまらないので、本書を買っておくこと自体は反対しないけれども。

※一般向きの書籍(Happyとか)は読んでないので知らんです。Pure Effectについては、内容はおおむねDevil's Picturebookでカバーされてるので、こちらもあまり優先度は高くないと思います。

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