2021年12月30日木曜日

“The Illusioneer” Carlos Vaquera

The Illusioneer (Carlos Vaquera, 2019)


スペインの生まれでAscanioの薫陶を受け、その後ベルギーのマジック番組でスターになった人、らしい……。本書もC.C. Editions(*)から2014年にフランス語で出た本を英語に翻訳したもの。そう聞いてから読むと、バイアスかもしれませんが、なるほどそんな感じがします。Ascanioからの引用が多く、一方でトリックはフランスっぽい(?)。

*フランスの出版社。手品専門ではないみたいなのだが、手品部門も結構強そうで、GiobbiやHartlingといった有名どころ以外にもDerren BrownやHector Chadwick、Florian Severin、高木重朗の仏語訳を出している。すごい選球。

クロースアップのカード、コイン、エッセイが詰め込まれているのですが、コインは10%もないくらいだし内容的にも特に見るところがないので、カードとエッセイの本と思って感想を書きます。約300ページで50エントリ。手順もエッセイも、1つあたり5ページ程度にぎゅっと濃縮されています。どちらもかなり特徴的で面白いのですがまずはカード手順の話から。

かなり広範なプロットを扱っており、そのうえどれも一工夫があって非常に刺激的。著者オリジナルのものとは限らないですが、どこかで読んだが失念してしまったような工夫や、マイナーながら面白い技法が挟まれます。個人的なお気に入りはMarc SerinのものだというOptical Revolveと、誰のものだかわからないですがエルムズレイ・カウントの動作で並びが一切変わらない謎カウント。

一方で、かなりクセのある構築で、とにかくひと手順の中での現象の数が多い。例えばカニバル・カードでは、カニバルのカードが一枚ずつ、消えてデックの中程に移動するという現象が挟まれます。怪しくなる操作・作業を現象にしてしまうことで回避しているとも、また観客が手順をどのタイミングで見始めても楽しめるようにしているとも取れますが、いずれにせよ癖が強い。さらに、そういった複雑な現象にもかかわらず、演出への言及がほとんどありません。なので読んだまま演じると、全く意味不明になりかねない。

エッセイはというと、非常に濃密です。On Musicというエッセイでは、手品のおける音楽の役割を話すのかと思いきや、前半ずっと魔女狩り批判が繰り出されます(後半はちゃんと手品と音楽の話)。語彙もかなり難しく、引かれる文献も本格的で、かなり苦労しました。その他、練習について、緊張について、自然さについてなど、詳細に語られています。幸い5〜6ページ程度なので頑張れば読めないことはない。頑張りましょう。


そういったわけで、かなり難度の高い本です。初心者だと全く意味不明かも。しかし中級〜上級者であれば必ずや得るものがあるでしょう。とても楽しめました。

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