2020年9月26日土曜日

“Applesauce” Patrick G. Redford

Applesauce (Patrick G. Redford, 2014)


メンタリストPatrick G. Redfordのカードマジック作品集。

この人はメンタルがメインでありつつ、技巧的なカードやったり漫画描いてたりと、まあ色々やっている人なんですが、そのカードマジックをまとめた150ページのハードカバー本です。主にACAANやOpen Prediction、記憶術デモンストレーションなどのメンタル系手順を11作品解説。これまで図形シリーズというコミック形式のレクチャーノート(SquareHexagonなど)で発表してた作品からの(改めて文章化した上での)再録が多いようです。

さてこの本ですが大変出来が良くない。せっかくハードカバーなのに紙はコピー紙みたいな質の低いものだし、印刷のクオリティも良くない。トリックごとに扉絵があるんですがそれも低クオリティで、マンガ形式のノートを出したりしている人とはとても思えません。断ち切りに失敗して、全面黒ベタページの下部に白い線が入ってしまっている始末です。

そして肝心の作品ですが、これも私は多くを許容できません。例えば表題作ApplesauceはACAANの親戚なんですが、『思った枚数』が観客がカットして数えた枚数、『思ったカード』がカットの後のトップカードです。そのあと軽く混ぜたり何だりはありますが、結局演者が手の中で表を広げて見る。その後で枚数目からカードが出てきても、これはちょっと、練習する気にもなりません。Applesauceには俗語で戯れ言とかくだらないものという意味があり、著者も大した事ないと思って演じたら思ってた以上にウケた、ということらしいのですが、そのエクスキューズがあってもなお食指が動きません。Open Predictionも直接的に技法で解決するもので、構造的なカバーもないし、技法の使い方に面白みがあるわけでもない。

というわけでACAANとOPについては個人的には見るものがないと思うのですが、記憶術系統はなかなか面白いです。カウンティング・デモについては、フォースやピークで成立させちゃう手抜き手法からEpitome Locationまで、一通りまとめられています。STORMという手順は本書で唯一、かっちりしたカードマジックとして成立しており、単純で、面白く、巧妙で、ほとんど記憶なしで、観客が覚えたカードが何枚目にあるかを言い当て、前後のカードも諳んじてみせます。それからこれも即興能力が高くないと使えないのですが、観客自身に記憶術やカウンティングをさせてしまうという手法があります。GiobbiのCardstaltの変種も出てきてこれはファンにはたまらないでしょう(私はCardstaltファンなのでだいぶ嬉しかったです)。

そういうわけで不可能性の高いメンタル手品を期待すると大いに落胆しますが、即興能力や実際の暗記力を駆使した上での記憶術デモとしてはなかなか参考になると思います。あんまりいい本とは思わないが、記憶術デモ系統に興味があってかつ現場力が高い人にとっては有用でしょう。あとCardstaltのファンの人。


と、結ぼうと思ったのですが最後に収録されてた作品で評価がひっくり返りました。Fishing in Oneです。Fishingというのは、カマをかけて相手が思ったものを絞っていく手法ですが、ここではその構図をうまくズラした見事なアイディアが解説されています。本書の他作品と同様、即興能力であったり演者のキャラといった制約はあるのですが、それでもなお良いアイディア……と思います。やっぱり時々刺さる球を投げてきますねRedford。

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