Casual (Looking) Magic (Mere Practice, 2020)
マニアックでハードコアな小冊子。洋書ですがamazonオンデマンドなので1日くらいで届きます。https://www.amazon.co.jp/Casual-Looking-Magic-Mere-Practice/dp/1654375144
作者はMere Practice。まあ露骨な偽名で、日本語にするなら只野練習さんみたいな感じでしょうか。まえがきによれば本業は文筆家で、手品はどっちかっていうと、練習が瞑想的な役割を果たすんじゃないかってはじめたんだ、だけど文章は1語も進まずにスライトの練習ばっかりしちゃってるぜ、というなにやら親近感のわく方です。
130ページの薄めの冊子で、オリジナル技法、手順、既存技法バリエーション、理論の4つのパートからなっています。
オリジナル技法は片手パス、片手パーム、フォールスカット、フォース、空中パス。特に片手パスはすごい。書籍に対するレビューでこんなこと言うのよくないのですが、本書を買ったのも、動画を見てすっかり騙されたからです。https://www.thejerx.com/blog/2020/6/17/second-helpings-1。ただ、オリジナル技法はどれも面白いですが、本書のハイライトってわけではありません。
先に引いたエピソードや偽名からも察せられると思いますが、クラシカル寄りの高難度技法を主軸にした、かなり尖った内容です。手順なんかは酷いもので、例えば4x4の水油は赤黒交互にした後、トップ、セカンド、サード、グリーク、完了! ACAAN(的なやつ)ではClip Shift使ったりと、だいたい全部そんな感じ。これらの手順をそのまま採用する人はまずいないでしょうが、しかし手順に添えられた分析や考察はどれも独特で、示唆に富んでいます。
技法練習マニアって、ひとり家に篭もって練習ばかりになりがちですが、Practice氏はそうではないようです。だから前述のような馬鹿げた手順でも、実演に裏打ちされた分析がされている。理論の章では、こういったぶっ飛んだ手順をなぜ他人に見せるべきか、どう見せるべきか、といった話もあつかわれています。こちらも非常にためになりました。
かなり読者を選ぶと思いますが、練習マニアで高難度技法が好きで、そういった技法を使った手順が好きで、かつそれをカフェやバーで人に見せたいなあと思っている人にはおすすめです。また技法バリエーションの章では、フォールスディールやクラシックパス、ホフツィンザー・トスなど多くの技法で、独自タッチや使い方が解説されていてます。こちらはより多くの人が楽しめるでしょう。
良くも悪くもアマチュア的な本でした。なお解説はかなり不親切です。下手な解説ではないですが、扱おうとしている内容に対しては不足しているというか。また他の人の手順や技法は(当然ですが)解説がありません。とはいえ博覧強記タイプではないため引用される範囲はかなり狭く、Dan & Dave、Chad Nelson、Daniel Madison、Guy Hollingworthあたりを押さえておけば何とかなると思います。
更新いつも心待ちにしています。このようなマニアックな作品のレビューを拝読する楽しみはもちろん。また時に特別ひかれた本は実際に手に入れて(英語に明るくないため泣きながら)読んでみるのですが、あらかじめ何が書かれてあるものか、作者が志向しているものや、筆致の良し悪しなど、知っていることで ずいぶん苦でなくなります。感謝です。
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