C10 (Dani DaOrtiz, 2013)
"例えばDaOrtizが怖ろしく不格好な原理をとびきりの不思議に仕立て上げ、マニアを煙に巻いているように、この本は完全に『時代遅れ』で『死んでしまった枝』だからこそ、再読の意味はあるやもしれぬ。"
とMoeの冊子の時に書いたけれど、本書、C10 は、まさにDaOrtizがMoeのトリックから研究・発展させた成果物だ。
無論、とても難しい。
スタックというかキーカードというか、Utopia DVDでも解説があったアレだが、さらに詳細に解説している。
まず40ppのうち半分を使って種々のスタッキング方法を、残り20ppで6つのトリックを解説。Moeはロケーションに使った原理だが、ここではフルデック・メモライズデモ、ACAAN、予言、透視とかなり多彩になっている。
ただこのトリック群はあまりにもDaOrtiz的で、ずうずうし過ぎる。もちろん手品が見せるものは、あくまで嘘で、架空の出来事だ。その代わり、マジシャンは手を尽くして偽の『物証』をちりばめ、観客に実在しない現象を錯覚させる。だがDaOrtizはそれすら放棄して、何も起こっていないのに、起こったという証拠を提示することさえせずに、それでも不思議なことがあったのだと押しつけようとする。
Moeの10枚からフィッシングで絞る、とかが可愛く思えてくるぐらいの、唖然とする手法。
もちろんそれをマジックとして成立させてしまうのがDaOrtizのすごさなのだが、正直、当人以外がまともに出来るとは思われぬし、Utopiaを見る限りでは当人の演技であってさえ、場合によっては苦しい。
具体的な手法には言及できないので、ぼんやりした文章になってしまったが、Utopia見た人なら判ってくれるんじゃあないかなあ。まあ、それらの手法はあくまでもC10 をさまざまな現象に拡張するために使われているのであり、基本原理やそのためのスタッキングはそれ単体でも非常に強力な武器。DaOrtizとは異なった発展のさせ方もまだまだあろう。
またPrediction with Two Deckは何とか出来る範囲の手順だが、これがもう本当にすげえ一致現象で、解説読んだ後での動画鑑賞にもかかわらず、気持ち悪くて声が出てしまった。
Moeの手順をこんな風に開拓し、ここまで発展させるのかという、現代の天才の凄みが感じられる素晴らしい資料でもある。ただし内容は相当に人を選ぶ。UtopiaのACAANを見て、いけると思った人だけがさらなる研究のために買うべき。
しかしそれにしても難しい。生で見た時も、むごいことをしてるなあと思ったThe Memorization Routineだが、改めて解説を読んで、心が折れた。素敵な現象なので出来るようになりたかったが、僕の脳味噌でこれは処理できない。