2023年1月31日火曜日

"Offbeat" Nick Diffatte

Offbeat (Nick Diffatte, 2022)


若干26歳ながら芸歴11年を数え、かのMac Kingをして「コメディマジックの未来は明るい」と言わしめたコメディマジシャン。その作品集である本著は、なるほど実用性が高くてしっかり笑いの取れる手順が載ってるんだろう、これは使えそうだぞと手に取った私のような考えの甘い者の横っ面を、思いっきり張り飛ばして目を覚まさせるような快作です。

Diffatteは十代の頃からマジックショップにクルーザーにと現場に出まくり、「マジック無しでコメディクラブを沸かせることができる、あるいは笑いなしのマジックで十分観客を魅了できる、その上で両者を合わせられる者しか『コメディマジシャン』とは呼べない」という信念を持った超硬派なのです。そして本書は彼の『マジック』の本なので、具体的なコメディには殆ど触れられていない。手順は主にクラシカルなパーラーで、いくつかコメディ寄りの物もあるが、解説はあくまでマジックとして側面からのものであるから、そのままやってもまあ笑いは取れません。あたりまえだ、笑いはそんな甘いもんではないんである。

手順はさすが現場主義と言うべきで、既存手順の細部を詰めたり、不格好な部分を直したりという方向。よくブラッシュアップされており、マニアも騙せそうなものも少なくない。特に三本ロープは事前知識無しで見てみたかった。他にもビルチェンジやメダリオン、ダイチューブに、破ったマッチが変にくっついて不可能物体になる小品など15手順+1アイディア。全体的に質は極めて高い。ただ現象も手法も、あまり奇想は無いかな。

それで、手順も硬派で悪くないのだが、なによりも合間に挟まれるショートエッセイである。「面白さとは」から始まり、「オープナー」「失敗について」「創作方法」などなど。言ってしまえば正論ど真ん中の内容で、目新しさはないかもしれないが、ここまで真摯な筆致で克明に書かれると私などはただひたすらに背筋が伸びる思いである。

タイトルと著者経歴から望むようなものが得られる本ではないが、正にそういう期待を抱く甘っちょろいマニアこそ読むべきであろう。トップ・プロの片鱗に触れ、大いに感じ入りまた恥じ入りました。まあそれはそれとして、すぐ使えて笑いの取れるサイコーな手順はどこかにないかなあとやっぱり思ってしまうのだけれども。

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