2016年12月31日土曜日

"The Aretalogy of Vanni Bossi" Stephen Minch




The Aretalogy of Vanni Bossi (Stephen Minch, 2016)


Hermetic Pressの新刊、イタリアのアマチュアVanni Bossiの作品集。
装幀は昨今まれに見るほど気合いが入っていながら、詰めが甘く、ちょっと残念なのですが、内容は独特で非常に充実しています。


まず装幀の話。Hermeticはこれまでも、背が布、表紙が紙という装幀をたびたび使っていましたが、今回は背が革、表紙が布という古書めいた半革装です。すげえ! かっこいい! おまけに背バンドまで! 腹は敢えて紙を整えず、閉じたままの段差が付いています。こんなん初めて見ましたよ。
本文のレイアウトも古書を意識したのか独特(ついでに文体も凝っていて少々読みにくいです)。

本文中にちりばめられたアイコンは、Giochi di carte bellissimi di regola, e di memoriaという本から来ているそう。これは1593年のHoratio Galassoによる極めて古いメモライズド・デックの本で、Vanni Bossiはこの本を見出し、研究成果をGibecièreに寄稿したりもしたそうです。


……と、すごい装幀なんですが、気合い入ってる分、ちょっとした残念箇所が手痛い。
表紙タイトルと本文中の図がなぜかカラー刷りになっていて、よく見ると印刷のドットが見えてしまい、安っぽい。単色刷りにすればよかったのに……。もったいない。ほんとにもったいない。

それから背バンドも、詳しくはないのですが、本来の用途は補強なので、均等か上下対称に配置されるべきなのでは……?

というわけで、近年まれに見る豪華装幀なのですが詰めが甘くもったいないです。しかし今後も凝った本を作ってくれるでしょうし非常に楽しみ。


内容の話。
作品は主にクロースアップ・マジック。カードとコインが主ですが、他の素材と組み合わせた作品が多いです。カードでは、カードインフレーム、カード・イン・リングボックスや、ビニール袋に包んだ状態でのチェンジ、折りたたんだカードの変化など。観客が後ろ手に保持している指輪の中に選んだカードが移動するといったぶっ飛んだものもあります。
このパートで一番面白かったのはStraight Up with a Twistというライジングで、カードが半分程せり上がった後、その状態でくるりと半回転します。現象はもちろんのこと、仕掛けやその処理まで含めて非常に面白い。

他、技法ではカードを折る手法がふたつ載っており、どちらも面白いです。スチールやダブルカードハンドリングも独特で気になるのですが、これらは実用例がなく少し物足りない。

コインも、コインボックスやコインフォールドなど、他素材との組み合わせたものがやはり光ります。最後にボックスから水が出てくるのはフーマンチュー・ボックスだったかと思いますが、Vanniの手順ではボックスに入れた水が掌を貫通して出てきます。コインフォールドも、紙を観客が折るというもので、にもかかわらずコインが消せます。どちらも天才的な発想。一番感服したのはHigh Strung and Laplessで、技法もギミックも駆使して完璧なカンガルーコインをつくろうとした逸品。


ただ、読んでいると微妙なものたりなさもあります。こんなものを考える人なら、もっと他にも弾があるだろうという感じ。
Vanniの本職はクラフトマンだそうで、本来は凝った仕掛けを使った手順が多いのだそうです。ただ今回の編集方針として、自作困難なギミックや時代遅れになった素材を使う作品は省いたそうで。例えば火を付けたロウソクで行うChink-a-Flameや、電球の中に移動する指輪などは、タイトルが言及されているだけです。もっとそういうのを読みたかった。

しかしそれは、逆に言うとまだまだ弾が残っているという事でしょう。最後に2作品だけ、おまけとしてだと思うのですが、実に手段を選ばないトンデモ手順が載っていて最高です。


他の素材と組み合わせた手順ばかりなので、カード単体、コイン単体でのスライトや原理が好きな人にはあまり響かないかもしれませんが、イラストだけで笑ってしまうようなぶっとんだアイディアが多く、非常に刺激的です。もっとぶっとんだ続刊も期待。

2016年12月29日木曜日

”Food for Thought” Ted Karmilovich





Food for Thought (Ted Karmilovich, 2011)




名前は耳にしていて、特に巧妙な仕掛けで評判が高いのだけれど、触れる機会がほとんどなかったメンタリストTed Karmilovichのレクチャーノート。仕掛けが完全に言語依存してそうなので買ってはないのですが、あのMother of All Book Testの考案者です。

このレクチャーノートでは氏のペット・トリック4作品を解説。


My Red / Black Test:Out of This Worldだが、観客が配るのではなく演者が判別していく形なので、厳密にはタイトルの通り『色当て』現象です。借りたデックで、観客が混ぜて、さらにガイドカードのスイッチなど不要で行えます。前段として同じ事を一度やらなきゃいけないのだけ冗長ですが、少人数相手なら問題なく場を持たせることができるでしょう。

The Dime and Penny:演者が持っているコインの種類を観客達が当てようとする。演者はその結果を予言している。仕掛けは単純ですが現象の焦点を変える事で、うまく隠匿しています。

Sensations:観客が直観によって事故現場の写真を当てる。すこし変わったアウトで、説得力がやや弱いように思うが、直接的でないので露見もしにくいか。

Murder, He Wrote:昔、パーティの余興で探偵ゲームというのが流行ったんですって。それを材に取った手順。観客の中から被害者と犯人が決められ、演者がそれを当てる。
演出が面白くて、演者が部屋の外に出ている間に、実際に犯行現場を演じて貰う。


手法は極めてシンプルで最小限、現象はすっきり、そして演出がしっかり、といった端正な作品群で、見る人にストレスがかからなさそうです。解決方法それ自体の派手さ/面白さは物足りないですが、焦点のずらし方が非常にうまい。現象の見た目にほとんど瑕疵がなく見事でした。

できればこの人の、手の込んだ作品も読んでみたい。


※最近Penguin Liveに出ておられました。演技は未試聴。

”You and Me and the Devli Makes Three, Volume 1” John Wilson




You and Me and the Devli Makes Three, Volume 1 (John Wilson, 2016)


手順3つとエッセイ3つ。

30ppで6作品なのでけっこう詳細な解説なのかと思いますが、ここの出版社(Dark Art Press)が出す本は紙面に対する文字の割合が少なめで、また改ページや空白ページも結構あったりで、情報量はそこまで多くありません。さくっと読めます。



※Dark Art Pressの典型的な紙面。1行10語くらい。


自身の手品歴を語ったエッセイThe Path of Broken Heartの中で、Derren BrownのAbsolute Magicから大きな影響を受けたと書いており、手順の演出もそんな感じです。このスタイルを指し示すいい語がないのですが、言うなら『真に迫った』手品です。

収録されている3つの手順に、新奇性や技術的な工夫は特にありません。ただ演出というか、演じる際の『シリアスさ』だけが、この人の加えたものです。最近のBenjamin Earlの冊子に似ていると言えば伝わるでしょうか。またひとつはマジックではないので、手順は実質2つです。


・The Parabola
観客が自由にカードを口にする。観客自身が、見事その場所でデックをカットしてしまう。
重大な省略がありますが、おおむねこの通りの現象が起こります。この本の中では唯一手品らしい手品で、特に代数にまつわる導入は(別の所で読んだ気もしますが)とても面白かったです。

しかし「最後に代数をやったのはいつ?放物線の式を出したら解ける?」という演者の問いに、観客が「無理だわ」と答える流れ……。いやそんなものかもしれませんが、手品の前振りで「誤り訂正符号ってのがあって、これこれの理屈で~」と言ったら「シャノンね。君の説明はちょっと間違ってるけど。ああいや、続けて?」とか言われて死にたくなった事のある私としては、この演出を使うにしても、もう少し気をつけて言葉を選びたいと思います。


・Euler and Water
めちゃくちゃOil and Waterっぽい響きですが、関係なくて、五乗根を一瞬で導き出す暗算デモンストレーションです。面白いのですが、手法的にも演出的にも、手品というよりスタントです。


・The Hypnotic Coin Bend
コイン・ベンディング。未見ですが、Benjamin EarlのSkin DVDからの引用が多く、手法やサトルティはほぼそこから来ているようです。手法的にはまったく一切面白くありません。それで演出ですが、Wilsonはこれをある種のセラピーのように演じます。現象描写のパートでは、観客の目に涙がにじむ様子を描いています。

しかし私は、マジックにこういった類の説得力はいらないし、むしろ避けるべきだと(少なくとも今は)思っています。Wilsonは、マジックの持つポテンシャルを全て引き出すのなら、リアルで意味のある事をすべきだし、それを人のために使うべきだ、と言いますが、これは非常に危うい考えで、心霊手術まであと一歩の所にあります。
(それに多くの場合、このアプローチは単純に滑稽な結果に終わると思います。それこそDerren Brownでもない限り)

読み物としては面白かったのですが、いまの私には特に役には立ちませんでした。多くのアマチュアにとってもそうだと思います。しかし色々考えをまとめる切っ掛けにはなりました。バンドルで買ったので2も手元にあり、近く読みます。

2016年11月30日水曜日

"Transparency" Boris Wild





Transparency(Boris Wild, 2012)




ボリス・ワイルド・マークトデック(以下BWMD)について、その仕組み、扱い、作品、応用をまとめた一冊。


ボリス・ワイルドといえばFISMウィナーで、それはちょっと、……どうなの、というやたらロマンチックというかこっ恥ずかしいクロースアップのカード手品が有名ですが、もう一方でマークト・デックの使用者としての顔があります。

その集大成となる本書は、まず表紙からもその意気込みが伝わってきます。ポストカード大のカードが貼ってあり、それがレンチキュラーレンズによる仕掛け絵になっています。見る角度を変えると、裏向きだったトランプが表向きになり、まるで裏面を透視してカードの素性が見抜けるかのよう。そしてまさに、本書はそういったことを扱う本です。

内容は、BWMDの成り立ちや、他のデックと比べたときの長所からはじまり、単純なトリック、テクニックを駆使するもの、スタックやメモライズドを使うもの、そしてMDを使った即興対応までをカバーしています。

まずBWMD自体について。Ted Lesleyのマークトデックから発展したようですが、非常に面白い工夫が加えられています。『あるカードが何か』を読み取るのが少し遅くなる(間接的になる)代わりに、パケットやデックの中から目的のカードを探すのが非常に加速されます。

本人曰く、表向きのデックから探すよりも速い、だそうですが、たぶん真実です。

バイシクルでMDを印刷できたことが、当時大きな事件だったようで、なんとバイシクルで手に入る!バイシクルだからばれにくい!と気炎をあげていますが今では手に入らなくなっていて哀しい。いまはマンドリン・バックでしたか。まあ作り方も説明されているので、バイシクルでも他のでも作ろうと思えば作れます。

トリックはタネの関係上、やはりカード当てが多くなります。しかし『マークトデックを使ってるんじゃないの?』という疑念を抱かせないよう非常に気をつかっており、いくつかの手順は、たとえマークトであるとわかっていても、いつどのように読み取ったのか分からないでしょう。

また直接的なカード当てにならないよう、サンドイッチ現象にしたりなんだり、バラエティを出すよう工夫もしています(が、こちらはちょっと意味の通らないような現象も散見される)。

さらに、マークト・デックの強みとして、失敗時のリカバリや完全即興の演技についてもかなり丁寧に解説されています。ただリカバリに関しては、マークの要不要にかかわらず、常にマークトデックでマジックをするくらい気合いが入っている人でないと、なかなか恩恵にはあずかれないでしょう。しかし、そうする事を検討させられるくらいの利点です。

それからもうひとつ注意点ですが、収録されているトリックは基本的にBWMDでしかできません。他のマークトでも、ファンして読めるタイプなら出来なくはないでしょうが、かなりしんどくなると思います。


ともあれデックの作り方から比較的シンプルな手順、手の込んだ手順、即興対応までとBWMDで出来る事をぜんぶ詰め込んだみたいなよい本でした。

で。これとPete McCabeのPM Card Mark System、Kirk CharlesのMarked for LifeとBolis WildのThe Complete Boris Wild Marked Deckの合本であるところのHidden in Plain Sight、Ted LesleyのWorking Performer's Marked Deck Manualなどを読み比べて面白かったやつを訳そうかな、需要もインパクトもあるよな、などと胸算用をしていたのですが……。
どうもこの前の来日レクチャーを受けて、東京堂から訳が出るらしいと聞きまして、いや、悔しいですね。

レンチキュラー印刷はともかく、表紙には当然、何らかの仕掛けを入れてくれるんだろうなあ天下の東京堂出版様よ。


なお他の本との比較ですが、私が読んだ事あるのはPM Card Mark Systemだけなんですが、これはこれでけっこう良い本です。マークトデックは自作方式で、作製はBWMDより楽、宣伝ページに書いてありますが油性ペンだけで出来るので特殊な材料も不要。まあ色味はちょっと試行錯誤の必要があるかもしれませんが。マーキングはやや大胆ですが、さらっとやる分には大丈夫なんじゃないでしょうか。
比較的薄い本で、載っている手品もBorisほど込み入った事はしてなかったように記憶していますが、演出がしっかりしたものがちょこちょこあって面白いです。このあたりはさすがScripting Magicの著者だなという感じ。
だいぶ忘れてしまっているので、また軽く読み直して別項で紹介しようかなと思います。

2016年10月31日月曜日

”The Secrets of So Sato 佐藤総カードマジック集成” Richard Kaufman




The Secrets of So Sato 佐藤総カードマジック集成(Richard Kaufman, 2016)



出て欲しくないなあと思っていた本が出てしまいました。Geniiのコンベンションでゲストパフォーマーに呼ばれたと聞いたときから嫌な予感はしていたんだ。山火事トライアンフやSo-lution(ACAAN)など、革新的なカード・マジックを発表してきた佐藤総の著作トランプと悪知恵Card Magic Designsの英訳・再編版です。

内容は基本的に日本語版の翻訳ですが、1点だけトリックが追加されています。またCard Magic Designsの初回限定おまけだったProfessor still fools usも収録。一方、エッセイ的な箇所は訳しにくかったのか省かれています。とはいえ基本的にはボリュームアップしており、収録作の大半の実演を収めた新規DVDが付き、しかもお値段$60。

日本の手品作家なのに、英語での方が情報が入手しやすいという状況は、高木重朗や澤浩がそうでしたが、うーん困ったものですな。



内容についてはいまさら言及するまでもないでしょうが非常に面白いです。改めて読みますと、原理は既存のもののリファインで、難しい技法も使わず、それでいて非常に新しくまた不思議な手品になっており、凄い。

新規の追加作品は、You Can Count on Dr. Daleyというラスト・トリックがひとつ。音に聞こえたO&Wが収録されないだろうかと願っていたのですが叶いませんでした。
それから、DVDにクロス・アセンブラの第2弾がしれっと収録されています。


こんなところでしょうか。
追加分は少ないですし、どちらかというとまあ小品です。解説の差異はあまりちゃんと見ていませんが、そこまで違いはなさそう。むしろ英語版の方が簡潔だと思います。そんなこんなで、日本語版を持っている人が改めて買う必要はあまりないかなあと思いました。



DVDは何故か日本語オンリーなので、外国の方は苦しめばいいと思いました。全ての手順で、ちゃんと観客が居るのが好印象。ただCard Magic Designsの時よりも精彩を欠いているように思いました。

2016年9月29日木曜日

"High Caliber" John Bannon




















 


High Caliber(John Bannon, 2013)




これまで小冊子や単品DVDをいろいろ出していたJohn Bannonが、それらを1冊にまとめてくれました。1つ2000円くらいで売ってるフラクタル・パケット・トリックのシリーズなども惜しげもなく収録。日本語訳が出ているMega' Waveや当ブログでも取り上げたSix. Impossible. Things.も収められています。

私はその2冊ぐらいしか買ってないので、傷は浅いですが、すごい大バーゲン。また、そういった商品の他、Magic MagazineのBannon特集号に収録されたトリックなども再録。300ppある大冊です。

章立ては次の通り。

・Fractal Card Magic
・Six. Impossible. Things.
・Open and Notorious
・Mega 'Wave
・Bullet Party
・Triabolical(with Liam Montier)
・One Off
・All In(Magic Magazine, Feb 2012)
・Shufflin'


・Fractal Card Magic

単体DVDで発表されていたフラクタル・シリーズのテキスト版。流石に使うカードは付いていませんが、特別な印刷のカードが必要な手順ではなく、せいぜいがブランクやジョーカー多枚数、エースの裏色違い程度なので、自前での構築も簡単です。

Impossibiliaあたりに端を発するBannonの『ずるをする』センスのひとつの到達点かと思います。普通だったら現象として成立しないようなものを、うまく組み込み、これまでのやり方では不可能だったことを成し遂げています。また演出も上手です。といっても、よく言われる意味での『演出が上手い』ではありません。ストーリーや意味づけは皆無に近く、起こる現象や操作を、順次説明して行っているだけに近い。

しかし、うまく観客とやりとりをし、うまく観客の注意を引き、うまく観客を誤った方向に誘導するように出来ています。DVDで発売されたときに実演動画が公開されましたが、お客さんの反応がとてもいいです(おまけにお客さんが美人です)。


・Six. Impossible. Things.
 過去に取り上げましたのでここでは省きますが、非常にできの良いノートです。


・Open and Notorious
 オープン・プレディクションとMiraskillを扱った小冊子。
 全3作と作品は少なく、またオープン・プレディクションや51 Faces Northというプロブレムに対する回答としては物足りないのですが、そもそもバノンはそこに重点を置いていません。既存のメソッドを上手く組み合わせて、『公開されている予言』という現象をうまく作り上げています。
 Miraskillについては、以前HPで公開されていたもの。ちょっとした策略なのですがこれがあまりにずるい。


・Mega 'Wave
 これも、日本語版をですが、過去に取り上げたので省きます。


・Bullet Party


 同タイトルのDVDとだいたい重複してますが、いくつか違いがあります。DVDの方は見ていないので、解説の濃淡などはわかりません。Dear Mr. Fantasyを思わせる比較的クラシカルな内容で、特にエース・アセンブリが多く収録されています。Dear Mr. Fantasyのとき、Lennart Greenのアセンブリを別の方法で解決したかったと言っていて、そのときの作品は全然ぴんとこなかったのですが、本書のDrop Target Aceは確かにGreenとは異なった手法であの現象に迫っており、流石。
 
 

・Triabolical(with Liam Montier)

 Liam Montierと共同で出したフラクタル・パケット・トリック集DVDも、なんと解説しています。いいのか。Bullet Party Countを用いた3作品。
 個人的な感想ですが、Montierの演出にはどうも引っかかりを覚えます。マジシャン都合というか。どこに引っかかり、どこがBannonのテイストと違うのか、というのを考えても面白いです。





 
・One Off

 寄稿作品ふたつ。Peter DuffieのCard Magic USAに収録されたというAces Over Easyが、非常に簡素な解説ながら、とても面白くて気に入っています。


・All In(Magic Magazine, Feb 2012)

 めずらしくカードではない作品が入っています。コインのメンタル。他、カードの入れ替わりやクロックトリックなどですが、小さなずるさが特徴の作品群。


・Shufflin'


 再録ふたつに、Fractal Card Magicの章で解説されていなかったSpin Doctorなど。


 というわけで非常なボリュームです。


 Bannonはいままでも、観客にそれと分からないよう前提条件を崩したり、矛盾をぬけぬけと使ったり、ふつうであれば成立しないようなものを上手く現象にみせたり、といった手法をとても巧みに使ってきましたが、やがて既存のマジックのプロットを離れ、それらの手法自体が手順となっているような作品ができはじめました。それがSix Impossible Thingsのあたり。そしてその結晶がFractalシリーズのパケット・トリックと言えるでしょう。

 実はこの後のBannonの著作は、もちろん頭は相変わらず良いものの、ぬけぬけとした大胆な『ずるさ』はなりを潜めています。そういう意味でも、本書はBannonのひとつの到達点と言えるでしょう。


 で、その本書ですがどうやら絶版のようです。自費出版なのでリスクを見て少なめに刷ったんでしょうか。でも近く日本語版が出るとか何とか聞きました。

2016年8月31日水曜日

"Blomberg Laboratories" Andi Gladwin




Blomberg Laboratories (Andi Gladwin, 2015)




スウェーデンの頭脳派、Tomas Blombergの初作品集。
これまでThe Underground Changeなどに載ったLucky 14や、21 DVDでのTime After Timeなど、数理がらみで抜群に綺麗で不思議なトリックを発表していて、とても気になっていたマジシャンです。

その作品集という事で、すっごくすっごく楽しみにしていたのだけれど、でも、ちょっと思っていたのとは違いました。いやこれはこれで面白い作品集ではあるのですけれど……。


私がこれまでに触れ、感嘆したのはすべて数理的な原理をとても賢く使用した手順だったので、てっきりそちら方面に特化された方だろうと思っていたのですが、本書はもっと広い範囲を扱ったものでした。

・Non-Card Tricks
・TB Spread Double
・Moves
・Interlock
・Paradoxes
・Packet Tricks
・General Card Tricks
・At the Card Table 
・Twists on Christ 
・Con/Science 


一般的なカード作品群について。
Tomas氏はどうやらTSDの人らしく、同じTSDのJack Parkerの作品によく似ています。Jack Parkerはあまり意味のないプロブレムでカードマジックを作る事が多く、本書もその流れを汲んでいます。たとえばLast Trickのバリエーションとして、カードを赤と赤、黒と黒でそれぞれ向かいあわせにし、そこから入れ替わるという作品が入っているんですが、……これ、やる意味あるんでしょうかね。

創作の一過程において、結果(利益)を度外視して様々な組み合わせを試すのはよく分かりますし、Jack Parkerの場合は彼はちょっとおバカな人なので、よく分からないプロットに素っ頓狂な解決策を出したりして、結果面白い作品がうまれたりしていました。しかし、Blombergは頭が良いのですよね。変なプロットに対して、あくまでまっとうな解答を出せてしまっていて、これでは単なる変なプロットしか残らない。ひょっとしたら何かしらの狙いが設定されているのかもしれないんですが、解説からは読み取れませんでした。


(TSD; The Second Dealという会員制のマジック・スレッド)


面白かったのは、やはり奇妙な原理や数学を用いた手順です。
たとえば紐で縛った状態のデックが、持ち上げ方によって別々の箇所で自動的にカットされるという原理。できあがった現象はいまいちなんですが、原理自体が極めて面白い。

そのほか、直感に反した賭けのゲームなどもありますが、白眉はInterlocked Gilbreathでしょう。もうこれ以上はないと思われていたGilbreathのさらなる発展形。少し不正のある書き方になりますが、これまでのGilbreathと異なり、全てのカードを連続で当てていくような事が可能になります。とはいえ非常に限定された形式であり、また頭を使うので、実際に手順を作ったり演じたりするのは難しいと思います。

Blombergの作例はふたつで、ひとつは観客が『ポートレイト』をシャッフルし、演者が上から順に写っている人の特徴を当てていくもの。もうひとつはいわゆるスパイク・テストで、2箇所に画鋲が貼ってある板(ランダムで、針が折れていたりそのままだったりする)を観客が自由に並べ、上から不透明のフタをする。演者はそのフタを順番に親指で潰していくが、画鋲の針が立っているところだけは避ける事ができるというもの。

どっちもやられたら相当に気持ち悪いと思います。



期待と違ったという点でちょっと煮え切らない感じになってしまいましたが、非常に面白い本である事は間違いありません。事前知識なしに買っていたら感動していたでしょう。

というか、この期に及んでまったく目新しい原理、しかも手品として面白い作品ができうるものが、ひとつならず載っているというのは凄まじい事だと思います。ものによっては頭が良すぎてついていけない事もありますが。

実用的な手順という点ではいまひとつですが、パズルちっくな原理や作品が好きな方には大いにお勧めです。

ただ僕としては、Lucky 14やTime After Timeに近い手順があまりなくてちょっと残念でした。一般的なカード作品がどうにもいまひとつなんですよね。Andi Gladwinの解説が僕はあまり好きではないので、そのせいも大きいのかもしれませんが。



あと解説の図がイラストっぽいのですが、これが実は写真から自動変換したもので、さらにその変換ソフトはBlomberg氏の自作という事で、すごい話だなと思いました。本職はプログラマで、画像処理ソフトの開発をされているのだそうです。いや、頭のいい人はいるものです。

2016年7月29日金曜日

"This is Not a Box" Benjamin Earl




This is Not a Box (Benjamin Earl, 2016)




Past Midnight DVDで一大旋風を巻き起こしたBenjamin Earl。それ以降は大規模なリリースは行っておらず、自費出版の雑誌やレクチャーノートなどを比較的閉じた範囲で発表している模様。

これはメーリング・リストでのみアナウンスされてた冊子のようで、まったく存在を知らなかったのですが、Vanishing Inc.が取り扱うようになっていて急いで買いました。


もともと少し高尚というか気取った感じのあったBen Earlですが、この冊子はそれを推し進めた感じ。目的はふたつ。

・軽視されがちな『単純なトリック』がもっている手品の本質とも言える部分に目を向ける
・誠実な演出でもって、手品の本質を強烈に観客に伝える


手順はカードが4つ、コインが1つ、小物が1つで、このページ数にしては多く解説されていますが、手法的な面から見るとほとんど無価値です。カードで言うと、基本的にはクラシック・パスでコントロールし、トップ・チェンジですり替えるだけ。現象は強力だとは思いますが、特殊な構成やオリジナル技法といったものは無いので、そういうのを求める人には本当に、まったく、一切意味がありません。


で、演出が本書の肝なのですがこれはDerren BrownとDavid Blaineのあいのこといったところ。シリアスで、リアリスティックで、かつ誠実な演出。超能力だとかハンドパワーみたいなウソの権威を用いずに、しかしそれなりに崇高なものとして手品を見せる方法です。

たとえば収録されているコインの手順は、1枚のコインが左手から右手へ一度だけ移動するという極めて単純な物です。しかしもし実際に、現実の世界でそんなことが起こったら、これは相当ショッキングでしょう。Earlが本書で求めているのは、そこです。


ただこれは難しいです。もちろん私は手品が好きで、手品をくだらないものとは思っていませんし、馬鹿にされたり軽んじられたりすると腹も立つわけですが、一方でそこまで崇高なものとも思いません。Ben Earlくらい上手くて、TVとかにも出てるとなれば、こういうスタイルも活きるのかもしれませんが、私のような者には使いづらいというのが正直なところです。


極めて単純な手順と、極めて大仰な理論のノートでした。誇大広告だ詐欺だと誹られてもまあ仕方のない内容ではありますが、それなりに面白かったです。変なタイミングで読んだらこじらせそうですが、いざというときの『とっておき』として1つぐらいこういったアプローチを用意しておくと、非常に役に立つ場面もあるかと思います。
上手くはまれば、非常に深い感銘を与える事ができ、そしておそらく、それは他のアプローチでは達成困難なものです。


あー、それから。この本ふくめた一連の出版物では、収録作品の演技権利が非常に限定されています。録画してyoutubeに乗せたりしたら駄目なので、前書きちゃんと読んで気をつけましょう。

2016年6月7日火曜日

"MISCELLANEA" Hector Chadwick



MISCELLANEA (Hector Chadwick, 2016)


謎の人物Hector Chadwick(*)が、 Mind Summitとかいうメンタル・マジック~メンタリズム系の大会で販売したレクチャーノート(御本人の言葉によれば"パンフレット")。
今はもう売り切れになっていますが、Mental Mysteries of Hector Chadwickも割とマメに再販してくれていたので、これもいつか再販するかもしれません。まあ無理してプレミア中古を買う内容ではないかな、と思います。
そのことは前書きやオーダーページにご本人も書かれていて、「こいつは万人向きじゃあない。2つのトリックと4つのエッセイを収録しているが、君が使う可能性があるトリックは1つきりで、まともに取り合うだろうエッセイは2つだけだ。」との事。
とはいえ面白かったですよ。まあ、私は氏のファンだからですが。


Envelopener
 Bank Nightオープナー。ショーのオープニング・アナウンスなども絡んでくるので演じる人はそういなさそうですが、氏のショーの感じが伝わってきて面白いです。封筒3つのBank Nightと、観客が自由に言った数字の予言の複合で、こういう合わせ技は往々にして失敗するんですが、これはうまいやり方です。
Achoo
 考えなしに使ってしまっている台詞はないかい?という話。
Words, Words, Words
 言葉に依存しすぎないメンタリズムを目指したいという話。
Audience Two
 演技の時にはまだ存在しない”観客”と、それへの対処方法の話。
Dat Claim Or Dis Claim
 メンタリストは自らの演じているものをまずきちんと否定するべき、という話。
Shriek
 観客が混ぜ、配り、抜き出し、……などして最終的に選ばれたカードが予言されている。手法自体は珍しいものではないが、確率1/52をより不思議に、不可能に見せるような小さな策略が随所に仕込まれている。最後のCross Cut Forceさえ許容できれば良い手順と思う。
 ただ、演出上の確率の計算に若干の嘘があって、いや嘘ではないんだけど不誠実な所があって、観客によってはよくない印象を与えるかもなあという気もします。

という内容のパンフレットでした。エッセイのテーマは、どれも最近の書籍ではしばしば見かけるもので、切り口としても論旨としても、このパンフレットならではという程のものではないです。ただHector Chadwick氏は文章が上手いので、読んでとても楽しいというのはあります。
手順については、昔の書籍でも細部のうまさが際だっていましたが、今回は特に、手法的に新しいところはなくて、細かい演出や手順の運びで魅せる感じでした。
そんなわけでファンとしては読んで楽しかったですが、無理して買うほどではないかなという感じ。

まとまった本の2冊目も書いてらっしゃるとかでいつになるか分からないけれど楽しみです。


*なお正体は、Derren Brownのショーで脚本共著も務めたStephen Long氏だとか

2016年4月28日木曜日

"In Order To Amaze" Pit Hartling





In Order To Amaze (Pit Hartling, 2016)



Card Fictionsという歴史的な名著から十余年、待望の新刊。メモライズド・デックをつかった21手順。


Pit Hartlingは頭がおかしいのだと思う。
前著、Card Fictionsは、納められている7作品どれもが本物の一級品だった。In Order to Amazeではメモライズド・デックにツールを限定しているため、手法的な新しさは流石に少し落ちるが、それでも21作品すべてが、やはり本物のプロの手順だ。

プロの手順という表現にも色々あって、なんだ、その、プロが現場で使っているという『だけ』の、『いわゆる実用的』な手順を指している事もままあるのだが、このHartlingの場合は違う。
現実の観客を大いに沸かせ、かつ、マジシャンすらも騙し仰せるプロ中のプロが、そのオリジナルなパフォーマンス・ピースを公開しているのだ。しかも梗概などではなく、微に入り細に穿って。繰り返しになるが頭がおかしいのじゃないかと思う。


Hartlingの手順は、なにより非常によく磨き上げられている。手法の選択や構成ばかりではなく、台詞や演出、タイミング、ユーモア、演者の態度といったことまでが、手順の効果を高めるために入念に作り込まれている。
それでいて、どれかひとつの要素に依存しすぎてはいない。これが他の有名マジシャンの『魔法の手順』だと、ほとんど個人的な名人芸、たとえば特殊な技法であったり、タイミングやハッタリ、話芸だったり、に全面的に依存していたりもするのだが、Hartlingのはそうではない。たとえば演出やタイミングが多少まずくても、技法で追うだけで十分に不思議だ。あるいは技法が多少まずかろうとも、タイミングや演出によってカバーされている。

その上で、各々の要素を鍛えあげていくと、本当に魔法としか言えない現象が達成できる。


本書では全ての手順でメモライズド・デックを用いている。そして全ての手順で、――フル・デックを使うアクロバティックなポーカー・デモですら――スタックを破壊せず、もとのスタックに回帰することが出来る(ちょっと大変なのもあるけれども)。
また21手順のうち固有スタックを使う物は、実は4つしかない。ネモニカが2つ、ネモニカでもアロンソンでもできるものが1つ、ネモニカから修正を加えたものがひとつ。他スタックでの手法もちゃんと研究されているのがすごい。『おおよそどんなスタックでも』できる手順があるのだが、これには実際、すべてのスタックについて手順が用意されている(専用のプログラムがBehrによって用意されており、自分のスタックを入力すれば手順書が自動生成されるらしい)。


カード当てがやや多いが、しかし現象は非常に多彩だ。特にDenis Behrのカルテット・コンセプトを導入した章では、完全にばらばらにしか見えないデックから、観客の言った4 of a kindが現れたり、消えてポケットから出てきたり、何度も変化したり(しかも怪しい動作いっさいなしで!)と、カードマジックの理想のような現象が目白押しである。また同じコンセプトを、もっともっと地味で、しかしにやりとするような方法に用いている手順もある。手法の活用方法も多彩だ。

手法と言えば、Card FictionsではHigh Noonなどにその片鱗があったが、複数の原理や要素、現象の組み合わせが互いを補い、高めあっているような手順が多く、読み込むほどにその巧みさに感嘆せざるを得ない。たとえばメモライズド・デックの主たる用途としてカード・インデックスがあるが、Mnemonicaではこれを、単に言われたカードがポケットから出てくる(飛行する)という形で使っていた。HartlingのThe Illusionistもまたポケットへの移動だが、ついさっきまで確かにデックのばらばらの位置にあったはずの4 of a kindが、いつの間にか消えて、ポケットから出てくる(かのように感じられる)。

演出もすばらしい。表を見てカードを選り分けていなくてはならないようなカード当てもあるが、観客の興味を引くような演出と言い回しで、かなり緩和されている(Sherlock)。Card FictionsのUnforgettableで見せたような、一般的にあまりマジックらしくない手順(記憶術やポーカー・デモ系の現象)を、楽しいマジックに仕立て上げる工夫は今回も健在だ(Fairly Tale Poker)。どのような現象であっても、常に、不思議で楽しい『マジック』を指向している。


推薦文には、かりにあなたがメモライズドを使わないとしても必読だ、とある。確かにその通りで、非常に価値のある多くの策略に充ち満ちている。

ただ、かなり高度な本である事は確かだ。メモライズド自体がまあ高尚だけれど、それ以外の部分もそうで、張り巡らされた数多の策略を吸収し、自らのものとするには相当な能力が要ると思う(私にはまずメモライズド部分からしてハードルが高い)。また難しい技法も平然と、解説もほとんどなしで多用する。誰彼となくお勧めできるわけではない。

 しかし、間違いなく一級品の本で、一生ものの価値がある。
こんなものを出版してしまうなんて、そしてこの程度の値段で売ってしまうなんて、やっぱりHartlingは頭がおかしいんじゃないか。

2016年3月18日金曜日

"Hands Off My Notes" John Guastaferro






Hands Off My Notes (John Guastaferro, 2015)




演者が手を触れない事をテーマとしたJohn Guastaferroのレクチャーノート。10作品を解説。



こういう『縛り』タイプの創作群は往々にして無理な作品の詰め合わせになるんだがGuastaferroは結果至上主義というか良い意味でいい加減だ。

このノートも、実際に『ハンズ・オフ』かどうかではなく、そう感じられるかどうかという、悪く言えば主観的な基準でまとめられている。


世の中には『手を触れない』かわりに指示に非常に神経を使う手品とか、ややこしいセットアップが必要な手品とかあるけれど、本書はそういった裏側まで含めての『ハンズオフ』感を重視しており、結果的に、非常に手の掛からない、演じる側からも楽な作品群になっている。

逆に言うと電話越しラジオ越しに演じられるような本当の『ハンズオフ』を期待した人や、縛り条件での手品創作が好きな人にとっては酷いタイトル詐欺だろう。



手法的に半分くらいが、まったく同じ『トップ・スタックの保持とそのフォース』のような気もするんだけど、演出の仕方が多彩かつ軽妙なので読んでいてそんなに気にならない。主題はギャンブルが少し目立つが、主題と言ってもフレーバー程度の軽いもの。手続きは実際のゲームとはかけ離れていて、ギャンブルマニアの人は怒りそうだけど、もともと演出としても手品としても軽いので、これもそう気にはならない。

ちょっと面白かったのが、2作品ある4枚のカードの手品。4枚のカードをシークレットナンバーにあわせて操作して貰い、そこからカードを当てるという流れで、概要だけをこうして読むと怪しさ満点だしそもそも4枚からのカード当てってという感じだけれど、Guastaferroの軽妙なタッチの力なのかどちらも演じやすい小品に仕上がっていた。


収録は10作品。他にもひとつふたつ紹介すると、


ALL THREE KINGS
 スペリングによる4 of a Kind出し。グーグル検索すると出てくるという現代的な演出がGuastaferroによく合っている。

Time Will Tell
 観客がデックを混ぜ、3枚のカードを配り、そこから1枚を見て覚える。演者はそれを当てる。
 そして奇妙な事に、配られた3枚のカードをよく見るとちょうど現在の時刻を示している。

Gemini Squared
 再録。Gemini Twinsの拡大。観客がランダムに名刺を差し込んでいくが、なんと4枚のAを見つけ出してしまう。……と思いきや4枚のカードはバラバラ。なのだがその4枚が実は予言されており、さらに他のカードが全てブランクである事がわかる。
 例の古典手順から最大限まで現象を引き出した豪華な手順。演出のさじ加減がうまい。



そんなわけで、演者にとってとても楽な作品が多い。またその割に現象がはっきりしているし、演者が何をしたいのかが観客にもわかりやすい。けっこういいじゃないですかと思いました。

ひとつ引っかかったのはTriumphで、これはOne DegreeのBehind the Back Triumphをさらに『ハンズオフ』にしたものなのだけれど、単純に見たら前作の改悪にしかなってないような。
今作はどういった現象かの解説が不足しているから、そのせいかなあ。



日本語版が出るとか噂で聞きました。

2016年2月29日月曜日

"Gene Maze and The Art of Bottom Dealing" Stephen Hobbs





Gene Maze and The Art of Bottom Dealing (Stephen Hobbs, 1994)



 ボトム・ディール!!


 Gene Mazeによるボトム・ディール本。200ページ近くあるしっかりした本ですがなんと全部ボトム・ディールの話です。しかも色々なボトム・ディールを集めた事典とかそういう訳でもない。

 基本のボトム・ディールはErdnaseタイプを発展させた形。グリップが少し特殊になるので常用するにはややハードルがあるが、よく考えられ磨かれたことがわかるハンドリング。『カバーが利いている』『つまらず連続で行える』など多くの利点をもっている。解説も非常に詳細かつ丁寧。さらに片手ボトム・ディール、センター・ディールも解説。
 それからフォールスシャッフルのフィネスやコントロールもちょっと解説している。

 ここまでが技法編で60pp。残りはボトム・ディールを使った手順集。

 ボトム・ディール、たまにセカンド・ディール、時にはセンター・ディールを使った手順。しかもそれらを『見えない技法』として常用する。Daley's Last Trickにまでボトム・ディール使うんだから重症だ。ボトム・ディールの使い方は決して賢いわけではないが、そもそも賢く効率よく使おうという気が全く無い。
 たとえば世の中にはトップカードをフォースするのにセカンド・ディールを用いる手順が存在するけれど、Mazeの場合はボトム・ディールでこれを行う。ボトム・ディールし続ける。観客と演者がふたりでカードを配っていく手順でもそうだし、なんなら演者が両手に半分ずつ持っている状態でもこれを行う。ほんとうですか。

 ただ、賢くないとは言ったものの、手順の構築自体はよく考えられていて、ボトム・ディールが必要になるタイミングでは、必ずデック半分を持った状態になっている。本人はフルデックからでも全く問題ないとの事ではあるが、いちおう凡人のためにも配慮はされた創作。

 巻末にはボトム・ディールの参考文献が5ppほど載っている。筆者は、「全く網羅的な物ではない」と書いてはいるけれど、それぞれにコメントが付された詳細なもので、たいへん参考になる。


 そんなわけで一冊まるまるボトム・ディール。すばらしき力業の世界。いやあ、ちょっと無理でしょうとは思うのだけれど、これができたらかっこいいよなあ。ロマンだ。それから本書で解説されているセンターディールは、かなり大胆だけど他に比べると簡易で有用な方法と思う。フォールス・ディール好きなら是非手にとって欲しい一冊。

2016年1月21日木曜日

あけましておめでとうございます



あけましておめでとうございます2016



昨年は翻訳・自費出版などしまして、そのThinking the Impossibleですがまずまずご好評のようで嬉しい限りです。



一部で誤解があったようですが、当方はきちんと作者および権利者と連絡を取り、印税を払ったうえで出版しておりますので決して海賊版ではございません。

なんでショップで売らないの?という声もありましたが、私自身思うところがありまして、今後もしばらくそういった事はしない予定です。
本当の所を申しますとハードカバーなどと豪華な装幀にしたせいで利率がかなり低いので御座います。


いちおう初期費用くらいはペイできましたが、まだかなり在庫ありますのでよろしくお願いします。というかもうちょっと減ってくれないと次を出しても部屋に置く場所が無いのです。



次、そう、次があるんですよこちら。


Pepe Carroll's WONDER LAND

 30年くらい前に活躍したスペインのマジシャンPepe Carrollの、52 amantes52 Lovers)という本の全訳になる予定です。予定です。
 いつになるかちょっと分からないんですがまあ今年中には出せるんではないでしょうか。著作権料をかなり取られそうなので、ちょっとお高めになると思います。まあ原著が75くらいしますのでね。


そんなわけで本年もよろしく。