2014年12月31日水曜日
"Steranko On Cards" Jim Steranko
Steranko On Cards(Jim Steranko, 1960)
読んだのは2008年版で、Terrence Franciscoという人による補遺が付いている。
Lateral PalmとAction Center Reverseで有名なSterankoの著作。本業はイラスト、コミック作家。ビジュアルなマジックの先駆け、とどこかで紹介されていたような気がするのですが、これが総じて面白くありませんでした。
古い手順にも善し悪しありまして、善しが古典(クラシック)だとすれば、これは悪し、原始的という感じ。資料的なおもしろさは、ごく一部の人にとってはあろうが、いまさらコレを読んでもちょっとなあと。
先駆的なLateral Palmの解説、AndrusのAction Reverseをさらに発展させた技法などはまずまず面白いわけですが、一方で手順がセンスの無さを露呈しており、通読がつらくなる。
現象に一貫性がなかったり、自由に選ばせた事を強調したい場面なのに、選ばれたカードをデックに逆向きで戻し、すぐにスプレッドしてひっくり返っているカードを改めて抜き出したり、ううん、ううううん。
とはいえども、Voodoo CardやBoomerangの源流、ナチュラルマーキングのカード当てなどプロットしてのバラエティはけっこうある。うーんでもなあ。
なお補遺もいまひとつ。
ううん、あんまり面白くなかったぞう。あるいはご本人はうまく語りでカバーできてたりしたのだろうか。
元々ノートの表紙だったらしい、手順のタイトル+イメージ図は素敵でしたが。
2014年11月18日火曜日
"MirACAAN" Dorian Caudal
MirACAAN (Dorian Caudal, 2014)
39 € 70 ppで 1作のACAAN のみを解説した冊子。
筆者はフランス生まれ、スウェーデンはストックホルム在住の若手マジシャン、Dorian Caudal。
なんとまあ神経科学でPh.Dを持っているらしい。うらやましい。
そしてカロリンスカ研究所にお勤めらしい。凄い。
凄いっていうか超絶エリートではなかろうか。
肝心のACAANについてだが、演者が配ったりする必要などなく、Berglas Effectに極めて近い。というかBerglasのオリジナルに対して、愚直に細部を詰めていった印象。手法としてはあんまり美しくはなく、特にBad Caseはいまいち。ただし実際にやられたらかなり気持ち悪そうだ。
またカードや数値が選ばれる確率については、文献引用をしたり、図に頻度をプロットして説明していたりとなかなか理系らしい所を見せている。自称メンタリストどもの『私の経験から~』なんぞよりよほどいい。
覚えたり暗算したりもそこそこあるので、私の手にはおえない感じだけれど、根性ある方は手を出してみてもいいのではと思う。
あとアウトやバーバル・コントロールでちょっと面白い箇所があったのでそれは覚えておこうと思います。
2014年11月8日土曜日
2014年11月5日水曜日
"小さいライジングカード" 辻川勝裕
小さいライジングカード (辻川勝裕, 2014)
小さいデックで行うライジングカード!
先頃、マジックマーケットといかいうイベントで販売されたそうなのですが、当方、基本的にとても引きこもりなので当然のように行きませんでした。でも大丈夫、下記のショップで販売されています。人と会わずに買い物できる。便利な時代です。
http://abuku.shopselect.net/
ハンドリングがとても自然であったり、シンプルだけど今だから実現できる機構、など色々と特色もあるのですが当ブログではあまりそういう点は取り上げません。
本題は解説の冊子。
もし普通のマジックショップがこのネタを買って量産したら、A4のコピー紙1枚でそれも片面のみ印刷のショボイ解説書になっていたでしょう。実際、マジックのためにはそれで十分とも言えます。
しかし付属するのはA5 13ppの冊子。その半分は手順の詳細な解説なのですが、残り内容はと言うと、このトリックを作るために行われた『ライジングカードに関する力学的な考察』なのです。いやーいいですね。同人誌という感じがしますね。まあ手品用品なんざほとんど同人制作物みたいなもんですが。
さておき。
カードをライジングさせるために必要な力の測定から、その力を掛けるために機構が実際に持つべき力や角度の設計などが解説されています。精密な計算・測定というよりは割とざっくりしたものですが、実際にかなりばらつきのある既製物を対象としているのでこのアプローチで問題ないと思います。
そして数式がたくさん載っています。実は数式があまり得意ではなく最初はちょっと引いてしまいましたが、判りやすく解説されておりますし、また比較的初歩的な物と思います(三角関数による力の分解が主)。我々の知っている具体物がぞろぞろ数式になっていく様を見ていると、どうしてか笑いが止まりませんでした。とても楽しい。
またリフィル的な物の入手経路なども書かれておりそこもよかったです。
ただ幾つか抜けているように感じるところもあり、たとえばせっかくなら××も種類を書いて欲しかったなーとか、計算が省略されているところでどうも検算が合わず、用いた具体的な初期値も書いて欲しかったなあなど。参考には成るけれど、そのものを追うのは無理かもしれません。
というわけで総合的に見ると書き漏らしや不親切に感じる箇所があり、詰めが甘いというか、純粋な力学設計とその考察と言うよりも覚え書きのような印象ですが、しかしこういったアプローチは大変素敵です。上述のように不満点もあるのですが、笑わせて頂きましたし、もっとこういう確たる見地からマジックを作り上げていく人が増えたらいいなと良いなと思いました。
たいへん面白かったです。
ついでのようになりますが手品自体もよいものです。
2014年9月14日日曜日
"Nukes" Doug Edwards
Nukes(Doug Edwards, 2014)
コレクターとしても名をはせているらしいマニア、Doug Edwardsの小ぶりな作品集。
収録されている作品は半分ほどがカード、残りはロープ、ベンソン・スポンジ、メンタルなど。
全体的に入り組んだ手順ものはなく、一発ネタとかQuickieが多め。解説もあっさりしているので今ひとつ真価が分かりにくいが、幸いにも販売元サイトが良い動画を作っているので、見てみるとよいやも。
複雑なことや特殊なことはあまりしていないのだけれど、それでも、うまくいくと非常に説得力の高いトリックが多い。しかも短くてシンプル。単純な技法の精度を上げ、あっさりとしつつもマニアだって引っかける、といったところか。動画でもやってる4A出しは文章だと読み飛ばしそうなのですが、凄く良いと思いました。
ギミックというか加工することを厭わないようで、ショートカードやインスタント・デックも出てくる。しかしピュアリストであっても、Zarrow ShuffleやShove Over Shuffleを目当てに買っても良いと思う。あと前述のA出し。
またコレクターとしての側面を発揮して、本書には過去の著名マジシャンの未発表手順が幾つか収録されている。Herb ZarrowのZarrow Shuffle、DunningerのDictionary Test、Roy Bensonのスポンジ(Benson Bowl)、Cardiniのファン(これは小ネタだけど)。
Roy Bensonといえばちょっと前にRoy Benson by Starlightという決定版とも言うべき大著が出たのだけれど、Nukesの手順にはRoy Benson by Starlightで言及されていない要素がどうもあるみたい。ざっと眺めただけではあるのだけれど。
Benson Bowlも当然ながら幾つか段階があって、だからどちらが最終版だったのかは分からないし、Nukesに固有の箇所はわりと結構再現が面倒で、かつEdwardsの説明が簡素すぎていまひとつぴんとこないのだけれど、それでもRoy Benson by Starlightとの相違は面白い。また単純にソースとして入手が楽でもある。
他の要素は資料不足。Zarrowの例の本は持ってないし、Dunningerも詳しくないです。なので未発表かどうかはまあEdwardsを信じるしかないのだけれど、過去の有名マジシャンの未発表手順というのはいつだってわくわくしますね。
(もちろん別にEdwardsを疑っているわけじゃない。なおRoy Benson by StarlightにはDoug Edwards所有としてRoy Benson手製のBenson Bowl用のボウルの写真が掲載されている。Nukesにも載せればよかったのに)
内容は雑駁だし、ちょっと解説が簡素でもあるのだけれど、小粋な小品集としてとても良かった。あまりごてごてしていないのがいい。こういうのをさくっと演じられる大人になりたいものですね。
A出しと、あとRing on Ropeが特に良かったです。
2014年7月28日月曜日
"Ken Krenzel's Relaxed Impossibilities" Stephen Minch
Relaxed Impossibilities (Steven Minch, 2009)
カードマン、クレンツェルの最新作品集。
実はこの少し後、2012年にクレンツェル氏お亡くなりになったので、現時点では最終作品集です。
クレンツェルの代表作って実はあまりよく知りません。
Card Tunnel、Open and Shut Case(未読), On the Up and Up(未読)あたりなんですかね。ただこれらがKrenzelらしいのかはちょっと不明というか。
Card Classics of Ken Krenzel を読んだ限りでは、変な技法がお好きというのは伝わってきたんですが、手順構成とか作り上げたい不思議の像があるのかとかはピンときてませんでした。正直いまでもよく分かりません。
そんなんであまり好きという訳でもなかったKrenzelですが、この本はRelaxedと銘打たれ、特に観客の手の中でおこる不可能に焦点を当てているという事で、なんだいつの間にか芸風が変わったのか、それに観客の手の中で起こる現象とかいいじゃないレパトアに増やしたい、と例によって紹介文をよく読まずに購入しました。
で。
読んでしばらく変な笑いが止まらなかった。
最初から相当にムズい技法が飛び込んでくるし、いつまでたっても技法の章が終わらない。
半分をすぎてもまだ技法。ああ、やっぱりKrenzelだ。俺の知っているKrenzelだ。
その後やっと手順が始まったけど、今ひとつ俺の好みではないのもやっぱりKrenzelだ。
あいかわらず技法の使い道はほとんど与えられていないものの、例のTwo Card Fan Lift Switch Reversal Palmのようなカオスなものはなく、シンプルなコントロールやスイッチが主です。そして「力を抜いている」「何もしていないように見える」という狙いが大変明瞭に反映されているため、難しかろうとも挑戦欲は湧いてきますし、実用性もありそうです。
一方で手順はあまり好みではないのだよなあ。収録作の約半分は、演者が操作する手順、もう半分が相手の手の中で起こる手順で、どちらも『演者が何もしていないように見える』というコンセプトらしいのですが……。
相手の手の中で起こる現象って難しいものです。
現象の最終段階が相手の手の中で示されても、それは『現象が起こった』ではなく『状態が示された』に過ぎない場合が多く、それでは「ああじゃあ渡された時点でこの状態になっていたのだな」と思われておしまいです。
『何もしていないように見える現象』も同様ですが、直前の検めを入れるのが大変難しいのですよね。だからマジックの起こった『時』がぼやけてしまいがちです。手の中で起こる現象や演者が何もしていないという現象を構築する場合は、その危険性にちゃんとフォーカスをあてないといけないと思います。
Krenzelがそこを考えて作ったのか、は正直微妙に思います。
またKrenzelといえばRichardsonとならぶACAAN好きで、今回もACAANと名付けられた手順が3種ありますが、なるべく手を触れずにやろうとして、どれも手続きが微妙。
うーんやっぱりどうも手順があまり魅力的に感じません。
しかし技法の章は大変面白く、そういう目的で買われた方は大満足かと思います。
2014年7月23日水曜日
"Intimate Mysteries" Chris Philpott
Intimate Mysteries (Chris Philpott, 2013)
賞も取った映画脚本家のChris Philpottによるカードメインのメンタリズム本。単なるトリックではなく、それを観客自身の体験にする事をもくろみ、それぞれオリジナルのテクニック・コンセプトで分かれた3つの章からなる。かのJohn Bannonの推薦文と寄稿作品あり。
とくれば非常に期待してしまうところだが、この本は、少なくとも最初の2章、Double KokosとConfessional Confabulationsは糞だった。少なくとも僕にとっては耐え難い内容。
例によってだがもっとちゃんと紹介文を読んでから買うべきだ僕は。
手品を相手の人生にとって意味のある物にする、というアプローチについては、手品ごときがおこがましい、と思わなくもないがメンタリズムの姿勢としては賛同もできる。ただそのためにKokologyを適用する、と言い出すのだよなこの人。Kokology=Kokosって何の事かと思ったのだが、これが心理テストなのだ。それも完全な創作で手順のためにでっち上げた内容を、得々と語る。
曰く、「歩いていると小さな可愛らしい家がありますが、玄関が半開きになっています。なぜですか?(選択肢を提示)」「2の、単に持ち主が閉め忘れたから?」「あなたは危機的な状況を回避できないタイプですね。それどころか、あまりにリラックスしすぎていて、それが起こっていることにすら気付かない。あなたが犯しがちなミスは、悪意よりもむしろ過失の方が多いでしょう。郵便物は山になるし、仕事は決して終わらない。あなたはストレスを感じないかもしれませんが周りにとっては良い迷惑です。周りはそんなあなたに苦しめられており、しかもあなた自身はそれに気付かないのですから、どうにも困ったものです」
こいつ何様なの?
それから、だ。
A故にBである、という発言はその背後に再現性・因果関係があることをほのめかしており、サイエンスの後ろ盾をはっきりと臭わせる。また星占いや血液型と異なり、内容について発話者が責任をもつ形になっている。
だが実際には、これはこいつの完全な創作でありただの妄言だ。このような言い口は、科学にたいしても相手に対しても冒涜に他ならない。少なくとも私にはこんな事を得意げに口にするのはとても無理だ。
(なおBannonの手順はこの点をちゃんと回避しており、さすがにセンスが違う)
おまけに質問の内容が酷すぎる。上の例はまだ良い方。
フリップなどを用意して、舞台に呼んだ観客以外には質問が何を意味するのか判るようにした上で、
「遊園地でジェットコースターに乗る、と考えてください(ジェットコースターはセックスを意味しています)」
「では世界で一番短いコースターを1、一番長いコースターを10としたら、あなたが乗るジェットコースターの長さはどれくらいですか?(これは行為にかける時間を意味してます)」
相手が少ない数字を言った場合、同情したように肩に手を乗せ、「……ああ、あなたのつらさは判りますよ。私もしばらくジェットコースターには乗ってないから。でもね、シーズンパスを持ってるとしたら、どれくらいの長さのジェットコースターに乗りますか?」
いいだろう、場合によっては、そういったシーンは良質のコメディになりうる。映画とかであれば、あるいはね。ただここで笑いのネタにされるのは、スクリーンの向こうの架空の人物ではない。見ている観客のなかから呼ばれた一人だ。観客と、笑われている人物とは地続きなのだけれど、それでも笑いとして機能するのだろうか。
そういう場もあるのかもしれない。そういう事ができるコミュニケーション能力・演出能力をお持ちの方もおられるのかもしれない。でも私には無理だし、たぶんこの本の読者の多くにとっても無理だ。
おまけにこの最初の2章は、手法としても新しいところは全くない。
一切ない。
Double Kokosの12作品はすべてInvisible Deckで、Confessional Confabulationsの4作品はOne A Headの3 Billet Mental Epic。特殊なたくらみがあるわけでもないベーシックなもの。
なので手法面での発見もない。ただただ演出が(創作された心理テストまがいの何かが)異なるだけである。演出を軽んじるわけではないがあまりに芸がない。
唯一、マジシャンズ・チョイスを扱った最後の章、Visualization Tangoには見るものがある。マジシャンズ・チョイスのある問題点を、ほぼ完璧に回避しうる可能性を秘めている。ただこれを複数回の選択に拡張する段では考えが尽くされているとは言えず、結果として元々のコンセプトがぼやけてしまっており残念だ。
というわけで最初の2章は、それぞれ1作だけ読めばいい。後は壮絶なる時間の無駄だ。
第3章は、マジシャンズ・チョイス好きの人には面白いやもしれぬ。Hector ChadwickやJoshua Quinnの扱いに似ているが、より発展の可能性を秘めている。
しかし高価であるし、殆どの内容がおもしろくない繰り返しであるので、読む価値は無しと言いたい。少なくとも、もっともっと面白い本がいくらもある。
しかしこの方、The 100th MonkeyやTossed Out Book TestなどBook Test関係のかなり新規性・不可能性の高い(らしい)のを出してて、そちらはまだ気になっている。
普通なら本を読んだらある程度まで手の内が分かるので、他作品を買うかどうかの判断もしやすくなるのだけれど、なにせこの本、手法的な側面は全くといっていいほど記述がないのでね。
2014年6月27日金曜日
"Crimp issue 1" 編・Jerry Sadowitz
Crimp issue 1 (編・Jerry Sadowitz, 1992)
現在ではもはや一般販売していないながらも、1992年から連綿と続くJerry Sadowitz発行の同人雑誌。その第一号である。
ジョークやナンセンスが盛り込まれたA4の8pp。文字もレイアウトも手書き・フリーハンドで読みにくい事この上ないが、幸い手順に関しては可読。ギャグについて書いても仕方ないしそもそも僕の英語力ではよくわかんないというのが正直な所なので、さらっと手品だけ紹介。
Sadowitz自身の手順はないが、どの寄稿作もよく考えられている。SadowitzのCards on the Tableでは観客をうまく引き込んでいく演出、ひねったプロットが良かったが、この冊子もそういった基調が保たれているようでうれしい。
ただし今回はきわどい演出もあって、少しばかり大人向きです。
マジックは(読み逃してなければたぶん)3作。
BROTHEL!:Fred Fotzstone
売春宿。というタイトルの、大人向きな演出の手品。
ところがこれ演出が本当に面白くって、大変気に入りました。
20年前だとこのオチはブラックだったのでしょうが、今だとちょっと違った感じに受け取ってもらえるかもしれません(一部の人には、ですが)。
Challenge Conditions:Raj Patel Jr.
コインを片手で握り込んで”消した”ように見せるための策略。
Sherlock Never Married:Peter Duffie
マリッジプロット。挿絵がひどすぎるw
最近、それまでずっと嫌いで仕方なかったプロットに、急に面白い作品を発見する事が続いているのですが、これもそう。数理トリックと手指のマジックとを上手く組み合わせており、見た目シンプルで、わかりやすく、不思議で、さらにパンチが効いてて面白いです。
こういうことするとSadowitz先生に怒られたりするのかしら。
ともあれ、プレミア価格を出す価値があったか、つまり世に知られていない原理や技法やプロットやなにかほんとうに"不思議"なものはあったか、と言われれば否なのですが、内容はとても面白かったです。これが普通に読める世界であって欲しかった。
特にBrothel!は大変気に入りまして、珍しくレパートリー直行です。
もし何かの間違いでお会いすることがありましたら、例の売春宿の手品ってできます?と言ってもらえればできるかもしれなくないかもしれないです。
2014年6月26日木曜日
"数学で織りなすカードマジックのからくり" パーシ・ダイアコニス&ロン・グラハム
数学で織りなすカードマジックのからくり
(パーシ・ダイアコニス&ロン・グラハム, 2013)
Magical Mathematics (Persi Diaconis&Ron Graham, 2011)の和訳。手品関連本にしては素晴らしく早い翻訳です。
実は元本も買ってます。だってあのDiaconisですよ。伝説的なまでに高名ながら、手品作品などでの露出がほとんど無かった彼ですよ。そんなの名前買いするに決まってるじゃないですか。
で、いつもだと原書持ってるならあえて邦訳版買わなくてもいいやん……、というスタンスなのですが、これは扱う数学の話がちょっと難しくて、英語では追い切れないまま積んでいたのでした。というわけで邦訳に飛びついた次第。
邦語版については、いろいろと残念に思う点もあります。
①装幀がチープ。ソフトカバー本文白黒。原書は布装ハードカバー、フルカラーでたいへん素敵。
②ピーター・フランクルが邪魔。帯の推薦文への登場はいいんですが、なぜ本体ソデにもあなたの写真がありますか。DiaconisとGrahamの近影は無いのに!
③手品部分の翻訳に少し違和感。「5枚のカードの心理的圧力」とか、エド・マーロとか。
原著書影。かっこいい!
とはいえ、訳が出たのは大変めでたい事でして、これらのちょっとしたマイナスなんて吹き飛んでしまいます。後述しますが、マジシャン向きの本という事でもないようですし。
マジック的な内容としてCATOやギルブレスの解説と発展系、各種の規則的なシャッフル(Faro、Klondike、Down-Under他)、それから『数理奇術師列伝』と題された、有名な数理作品をものしたマジシャン達の小史。またジャグリング枠として、基本的な3ボール・カスケードの解説と、サイトスワップ(と呼ばれる分野があるんです)の数理的な解析。
Diaconisがその遍歴の中で蒐集し、厳選した作品の中には著名マジシャンの未発表作なども多く含まれています。『未発表作』という単語だけでご飯が食べられるマニアにはたまらない内容です。またそれにもまして『数理奇術師列伝』で活き活きと描写されるマジシャン達の様子や彼らのペット・トリックは、Diaconisでしか知り得ないエピソードや、詳細な研究に基づいており、マジックの歴史を知る上でも大変面白い内容です。
ただ作品全体という意味で見ると、特に数理解説の章での手順は、良くも悪くも数理マジックの範疇に留まっていると思います。現象に対してあまりに手続きが長く、純粋な驚きはどうしても減じてしまうというか、数理の気配が見えてしまうと思います。ただまあ、それはマジシャンのみからの観点であって、Diaconisたちの目標は『数学としてもマジックとしても面白い作品』なので仕方ないでしょうか。いくつかの原理についてはその発展系やより統一的な形なども明かされるのですが(ギルブレスの究極原理など)、それが分かったら面白いマジックが出来るか、というと別でしてまあ難しい所です。
原理の解説はかつてない程に詳細で、私にはちょっと高度すぎる箇所もありました。元々プリンストン大の出版部から出ている本で、どちらかというと数学徒を対象にしているのではないかという感じがします。用いられる数学は主に離散数学なのですが、『離散数学は簡単!この前やったスイスの学会・合宿でも、博士取れたての人が素晴らしい発表をした。だから君も飛び込んでおいでよ!』みたいな文言があり、想定している読者レベルがとても高いのではないかと。また、数が違う場合の証明は自分で考えてみて、とか、実はこれは未解決なので取り組んでみてほしい、という箇所も多いです。
というわけで、数理原理の解説にあてられた章は、どちらかといえば数学科の生徒や、数理原理を用いて創作するクリエイター向きと思います。個人的には数学読み物を読んだような気分でした。数学界というのは凄く高尚な事をやっているのだろうなあという思いがあったのですが、ただ一組のトランプから未解決問題がぽんぽん出てきて驚いたり。数学には『分かっていない事』がまだまだたくさんあって、それが日常にも多く潜んでいる事、そして数学屋が世界を見る視点のようなものがかいま見えて面白かったです。語りも平易なので、数式などは読み飛ばしても面白く読めます。
レパートリーを増やしたい、たくさん数理マジックを仕入れたい、という人には向いてないと思いますが、一流の数学者がマジックをどう見ているのか、我々が親しんでいる原理が実はどれだけ奥深い物なのかなどが分かりますし、また有名な過去のマジシャン達のエピソードも読み応えがあり良い本でした。
>追記
伝説的と言ったDiaconisですが、本当にぶっ飛んだ経歴の人です。そのあたりは石田隆信の『パーシ・ダイアコニスの奇跡的人生とマジック』に詳しいです。一読の価値有り。
2014年5月16日金曜日
"Mnemosyne" Vincent Hedan
Mnemosyne (Vincent Hedan, ?)
フランス(たぶん)のプロマジシャン、Vincent Hedanの無料配布作品集。
Mnemonicaを用いる、というとメモライズド・デックかと思うがさにあらず。
フルデックの配置を覚えている必要はない。そうではなく、ある決まったスタック(今回はMnemonicaに手を加えた物)を用い、後段のためのセットアップを再構成しつつ進む、一連の手順である。
SetUp!
Mnemonicaスタックだが相当に手を加える。
First Chance!
いわゆるTantalizer。
Illusion or Reality!
観客がカットしたところから、4枚のQが出てくる。
Peter Duffieの素敵な4Aプロダクション。これは最近別所でも見かけたが、観客の手の中で変化が起こったように見える面白いアイディアを用いている。Duffieやるじゃん。
Four Errors!
観客がカットしたところから4枚のAが、……出てこずに、特に意味のなさそうなカードが出てくる。
しかしその数値に合わせて配ると、それぞれの箇所でAがでてくる。
※この時点で、かなりの程度 Mnemonicaに戻る。少なくとも上半分は、1、2枚入れ替わっている程度。
Kingdom Hearts!
スート・プロダクション。
Shuffle Bored!
AronsonのShuffle Bored。つまりスート・プロダクションを行った後でなお、スタックは残っているということ。
手順全体を通して使われてきたデックが、しかしまだ規則性を保っているとは、マジシャンにすら看過できないだろう。もちろんそれには、途中の手つきをごく自然に行う必要があるし、現象が終わったときにカードを戻す順番や、また『手癖』でのカットなどを絶対に許さない、など大きな制約があり難易度は高い。デックの並びを覚える必要がないとはいえ、結局は操作などで覚える事は多いのだ。
とはいえ序盤から面白い現象の連続で、これはしばらく秘密にして、練習しようかなあとも思ったのだ。ただひとつのクライマックスでもあるKingdom Heartsが今ひとつよくなかった。スート・プロダクションなのだが、Mnemonicaベースのスタックに依拠するため、出現させる方法がかなりまちまち。普通にカットして出したかと思えば、スペリング、間違えて出したカードの数値分配る、などが統一感無く混ざっていて、どうにもぱっとしない。
4枚のQ出し手順のあと、4枚のA出し手順というのも、ちょっと問題か。先のスート・プロダクションの問題と同様、うまく台詞を選ぶことで解消できるとはおもうのだが、残念な事に演出面についての記述はほとんど無い。
なので、このセットリストをそのままなぞっても、酷くいびつにしかならないだろう。このあたりを自分で料理できる人でないとしんどい。しかも1手順内の整合性だけでなく、手順同士のつながり含めて演出を練らねばならない。
人によっては、どうしてもキャラクタに合わない事もあるだろう。
というわけでなかなか難易度の高いノートだった。
部分を置き換えるのはなかなか難しいが、個々の手順はスタックと関係なしに演じても割と面白そう。基本、人様の手順なので、それを無料配布はちょっとどうよ、と思わなくもないが。
また手順を通して目的のスタックへと再変換していく、という手法については、Denis BehrのHandcrafted Card MagicにFinding the Way Homeとして原理的な説明がある。本書はその実践例のひとつとしても良いサンプルであった。
2014年5月8日木曜日
"Ever So Sleightly" Stephen Minch
Ever So Sleightly
The Professional Card Technique of Martin A. Nash (Stephen Minch, 1975)
Hermetic Press以前のStephen Minchによる、Martin A. Nashのマジックを解説した3部作、その名高い1冊目。
Martin A. Nashはギャンブル・デモで名高いテクニシャンだが、真性のいかさまテクニックというよりも、「一般の人が想像するようなカードのいかさま師」を体現したようなキャラクタらしい。
なので超絶マニアックなリフル・スタッキングなどは(少なくともこの本では)用いておらず、現象もすっきりしている。
だが技巧派である事は間違いなく、技量の限りを尽くして「Charming Cheat/魅力的ないかさま師」のキャラクタに見合った、端正な技法と手順とを設計しているようだ。
前半は技法、後半は手順といった構成、130頁とページ数は少ないが、判型自体は大きい。
技法は「ダブル・リフト、およびその後の扱い」「パケット・スイッチ」「マルチプル・シフト」など。
このダブル・リフトの章がすばらしい。Knock-Out Doubleはゲットレディ不要のダブル・リフトではひとつ完成系とも言えるであろう美しさ。
ダブル・リフト自体はこれ一種のみしか解説されていないが、そこには「これですべてまかなえる」という力強い自負が感じられる。一方、その後の処理方法(表にしたカードの裏返し方)は複数解説されている。なかには非実在技法としか思えないのもあったりするが、ここも全体的によい。ただしすべての技法がメカニック・グリップを前提としている点だけは、合わない人もいるかもしれない。
(※メカニック・グリップ:ここでは深いディーリング・ポジションのこと)
一方、手順の方はこれがあまり面白くなかった。
……と思ったのだが再度よみ直し、なぞり直すとけっこう面白かった。
少なくとも構成は美しく理想的。ただしテンポを間違うと観客に疑義を挟まれやそうで、またそうなると極めてもろい印象。
Minchのイントロでもそのような描写があるが、Nashはオープニングから完全に相手を圧倒し、穏やかに、だがしっかりと手綱を握って牽引していくタイプなのであろう。不思議・不可能というよりも、凄いタイプのマジシャン。そういう人にとってはよい手順と思う。
手順は人を選ぶが、Double Liftの章は面白かったし、これだけでも読んだ価値はあった。特にKnock-Out Double Liftからの2nd Replacement:Dropのコンビネーションはほんとに良いです、美しい。練習します。
手順についても、目的と演出を見失わなければ、人によっては強力な武器となると思う。
なお筆はStephen Minchなんだけれど、あまり読みやすくはなかったです。名高いTable Riffle Faroも解説されているけれども、およそ見たままであり、あまり特別なコツとかは書かれていなかったかな。個人的には、先に書いたようにDouble Liftがよく、元は取れたと思ったけれども、大枚はたいて探し求めるべきかというとやや微妙なラインかもです。
2014年4月23日水曜日
CRIMP買いました。
俺、CRIMP 買いました。
◆CRIMPって?
カードをほにゃららしてロケーターにする、っていう技法ですが、今回のは単にその名を冠してるだけの個人出版の雑誌です。別にCrimp使う手品縛りとかそういう事でもないです。掌 誌がくさぐさのパームについて熱く語る雑誌でないのと一緒です。
◆じゃあCRIMP誌って?
いまも発行されている雑誌の中では、おそらく最も毀誉褒貶が激しく、しかしその悪名の割に最も入手の困難な雑誌です。あと最も読みにくい雑誌(推定)でもあります。千金に値すると言う人がいる一方で、「ケツを拭く紙にこんな金を払うヤツがいるとは信じがたい」と塵紙扱いする人もいます。なお後者の発言はRichard Kaufman氏のものです。
まあKaufmanの意見には多分に私怨が込められている気がしますけど。
◆どうして手に入らないの?
発行人がSadowitzだからです。全然売ってくれないんです。
◆どういうこと?
いつかも触れたように、元々キ○ガイじみたペルソナのSadowitzが、近年はアイディア盗用に対して偏執狂のようになっていて、Cards on the Tableの日本語版も許してもらえませんでした。このCRIMPも刊行中なのに、身元の分かっている信用できるマジシャンにしか売られていないのです。いちげんさんお断りなのです。
◆いくらするの?
初期の物は£1.37です。今のレートで300円もしません。
最近のは£10のようです。
◆を、一冊いくらで買ったの?
X000円です。てへ。
◆……馬鹿なの?
仕方ないのです。金に物を言わせるしかなかったのです。
◆面白いの?
Peter DuffieやRoy Walton、Andrew Gallowayなどイギリスの有名マジシャンが寄稿者として名を連ねていますし、VernonやMarloの未発表作品も出てたりしたみたいです。
僕はまだ1冊目しか読んでませんが、面白かったですよ?
A3厚紙2枚を折った、8ppの冊子で、手順が2~3と、後はパロディ広告だったり、ジョーク記事(らしきもの)だったりです。
全体的に読みにくいです。
◆さっきも言ってたよね、それ。
手書きなんですよね。しかも罫線とか下書きとかも無しで、白紙に思うさま書いたような。
加えて文章が(たぶん)俗語とか使ってるし、変な言い回しもあるし、というか文字が小さくなりすぎてつぶれており、物理的に見えなかったりします。
まあでも手順はちゃんと読めました。おもしろかったです。
◆集めるの?
できたらそうしたいですけど、さすがにお金が続かないですねえ。そもそもほとんど出回らないですし。 1992年から今までで80冊ぐらい出てるみたいですけど、特に最近のは「いちげんさんお断り」ルールのせいで、手に入らないどころではないですから。
まあ手頃な価格で買えそうな限りで、オークション探そうかなと思います。
ただイギリスからの出品が多くて、そういう人って国内のみ発送だったりしてなかなかめんどうです。
とまれ、噂のCRIMP、やっとさわれました。
2014年4月22日火曜日
"Penumbra issue 11" 編・Bill Goodwin & Gordon Bean
Penumbra issue 11 (編・Bill Goodwin & Gordon Bean, 2009)
Goodwin編集の不定期雑誌。他とは一線を画す練度の高い作品は、今回も健在。
Color Shuffles (Part Two):Ronald Wohl
前号からの続き。
観客に一度混ぜてもらい、上1/3程度を取ってもらうがその中の色の状態をそれなりにコントロールする、という何に使うのかよく分からない原理、その応用編。
カード当てがメインですがBook Testなどにも拡張。わりと面白かったです。特に他の原理と組み合わせたカード当てはかなりやらしく、気持ち悪そう。
なおPart 3へ続くそうですが4年ちょっとたった今もまだ新刊は出てません。
ひどい。
A Spectator Named Kennedy:Michael Weber
Weber!
鮮やかなるセンターディール・デモ。広げたデックの中から演者が3枚適当に選び、それを覚えてもらったらデックを閉じる。そして配ると、覚えたカードが相手の手に来ているのです。
が! 演者の手にはさらに強力な役が!
凄いんですが要になってる技法が苦手でして。
高難度の技法を多用しますが、理想的には全く気配のない、素晴らしい構成の手順。
Weberやっぱり天才だなあ。
'N Synch:Raj Madhok, Gregory Wilson
電話越しにも行えるメンタル手順。相手が見ている腕時計を媒介として、相手の思い浮かべた数を当てる的なそれ。
キモイが相手について事前情報が必要。
Tell A Phony Too:Raj Madhok
'N Synchで必要な事前情報を、これまた電話越しに取得してしまおうという試み。物はEddie Fieldsの Tell A Phonyというカードマジックなんですが、一連の作業から選ばれたカード以外の情報も取得するというもの。
Tell A Phony自体がちょっと微妙。まあ電話越しに行うという制限を考えれば仕方ないんですが
'N Synch 2:Raj Madhok
フィッシングというかブラフというかを用いる事で、'N Synchから事前情報を不要にしたもの。
きもい。
The Open Ditch:Bill Kalush
Open Prediction。凄い。これもかなりの技量が必要だが、技巧系の解決としてはTalk About Tricksの傑作Llasser Open Predictionをも上回るクリーンさ。Llasserと違って観客がカードを配る。しかしこれも難しいなあ。
あとLasser OPは初めにちゃんと予言が提示され、観客に選択を迫るタイプなんですが、こっちは配って枚数が少なくなっていくうちに「あれ?さっきのは、もしかして……」となるタイプなので厳密にはOPからは外れる気もします。このへんはいずれOpen Prediction Project レビューの時にでも。
文中でもちょろっと触れられてましたが、この「もしかして……」という感覚を上手くあおってやらないと、観客はあんまり不思議に思わないかもです。そういう意味でも難しい。
The Two-Ton Prophet:Gordon Bean
観客が自由に言ったカードが、演者の言った枚数目から出てくる。
と、これだけなら何も不思議ではないのですが、問題は演者が枚数目を言った後で、観客がカードを言うという事。当たり前ですが紙に書いてもらったりとかはしませんし、変なフォースも用いません。
これが現象として『不思議』かというと、どこかつかみ所が無く、観客に受けるかは微妙に思います。でも面白い研究で、手法もかなり大胆ですが面白いです。
Stewart Jamesのある手順を、いち部分だけで演じられるように再構成したそうです。
と言うわけで実に面白かったです。
キモイ系メンタルの他に、不可視となるまで鍛える必要のある超絶技巧なカード・マジックが多く、インパクトのある巻でした。天上の世界をかいま見た感じ。
このレベルの冊子がもっと出てほしいなあ。
2014年4月2日水曜日
"7 Card Effects" Gabi Pareras
7 Card Effects (Gabi Pareras, 2014)
Gabi Parerasによる7手順。
先に行っておくと、私はGabi Parerasのファンだ。
Gabiの手順は巧妙かつよどみなく、スペインにおけるクラシックの体現者と言った風格がある。
本書以外にもいくつかダウンロード商品を出しており、これらはできれば秘密にしておきたいほどの逸品。
その上で、本書はいまいち。
収録は、タイトル通りに7手順。簡単にだけ紹介。
◆Sandwich's Vallarino
Jean-Pierre VallarinoのSandwich Volant(いわゆるFlying Sandwich)
◆Card in the box
ごくシンプルなカードの入れ替わり。Doug EdwardsのPack a Wallop?
◆Sandwich at number
サンドイッチと消失。
◆The Time Machine
Steve FreemanのTime Machine、ガフ使用。
◆Pure Touch
相手が選んだカードとカットした枚数を当てる的なあれそれ。
◆Triple Divination
三人の観客が選んだカードを当てる。
◆Poker Prediction
ポーカースタッキング。
全体的に小品な事もあるが、なにより記述がまずい。
私がGabiに期待する所というのは、微妙なタッチであったり、緻密な構築やその背景の論理であったりなのだが、本書の記述は動作の箇条書きであり、手順の最低限の骨子だけしか書かれていない。レクチャーの覚え書き程度の内容と言えばいいか。
手順自体は小粒ながら悪くない感じだし、実際にGabi Parerasが演じたら不思議なのだろうけれど、この情報だけからGabiの特徴や空気を読み取るのは難しい。
そんなわけで、Gabiの作品自体は今後も追いかけたいのだが、少なくともGabi Parerasの作品集としては、本書はあまりお薦めしない。クレジットもないし。
一風変わった(スペイン風の)レパートリーを増やしたいというなら、やや読みづらいものの悪い内容ではないかもしれないが。
もし氏があの洗練されたタッチを記述する術を持たないのだとしたら、あまりにも残念だ。次の作品の英訳を待つ。
2014年3月17日月曜日
"Now I don't have a piece of thumbs in my pocket." 堂本秋次
Now I don't have a piece of thumbs in my pocket. (堂本秋次, 2014)
Gumroadで購入。使用中の混ぜられた一組の準備のないデック、いわゆるFASDIU条件から出来る5+1手順のカードマジック作品集。
収録はオープナー、2・2の水と油、Visitor、予言が2つ、そしてCollector。
FASDIUで出来るっていうのは、やはり素人にはうれしい。また全体的に面白いアイディアがちりばめられている。作者個人のアイディアもあるだろうが、クレジットを見るに、色々な映像媒体から最近の作風が取り込まれているのかなという感じ。
技法を分割したり見えないタイミングで堂々と行ったりなど、なかなかひねくれたやり口は大変好みである。
白眉はやはりDoppelgangerだろうか。非常によいオープナーであると同時に、かなり面白いロードのアイディアがとられている。ごく大まかなプロットで言うとDenis BehrのBrute Force Openingに似ているのだが、あちらはかなり強引で正面突破、僕にはちょっとできない感じだった。一方Doppelgangerはミステリーカードの要素による『不思議さ』があり、そして目の前で堂々とずるをするあの暗い喜びの感じが好みである。僕ではどこまで通用させられるものか判らないが、ちょっと練習してみたい。
難易度は全体的に高め。パームとか臆せず出来ること、技法名がある程度通じることが必須条件か。
本そのものとしては、まあ自費出版でもあるし仕方ないが、ちょっと残念なところもある。図無しの文章のみだし、誤字や文法的に変な箇所も散見される。手順解説自体は読みやすく、十分意味がとれるが、何ヶ所かは図で補助がほしい気もする。
またクレジットがやや曖昧。クレジットがあるのは素晴らしい事だが、作品名や人名のみの表記にとどまっており、どこでどの程度参照したのかが判然とせずに、もやっとした。もうちょっと具体的なレベルで、元にしたアイディアや経緯なども書いてくれたほうが、より狙いや工夫がわかりよくなると思うのだが。
とはいえ、全体的に巧妙さと技量とのバランスがとれており、大変面白い作品であった。裏で割とひねくれた事をしつつも、現象はすっきりしており、マニアックな楽しみと実用性とが上手く両立していると思う。値段も安め。次もあるそうなので、発売され次第買おう。
2014年3月10日月曜日
"Japan Ingenious" Steve Cohen & Richard Kaufman
Japan Ingenious (Steve Cohen & Richard Kaufman, 2013)
Five times Five Japan、New Magic of Japanに続く、Kaufman社による、3冊目の日本人コンピレーション。
和書Winners 厚川昌夫賞8人の受賞者 を底本としているが、訳しにくい作品は省略されているとか。Winnersではカズ片山によるコミカルな似顔絵などもあったそうなのだがそれもない。ちょっと残念。一方で雑誌などに散らばっていた日本人による傑作を集め再録している。
底本からの訳がSteve Cohen、それ以外がKaufmanおよびMax Mavenの筆。なおSteve Cohenのサイトから注文すると、サインをお願いできるようだ。
この本のレビューが載った号のGenii をたまたま購入していたのだが、David Britlandが大いに誉めている。曰く、「日本人ってどこか別の惑星から来たんじゃないの?」まあそういう定型文なのだが、それぐらい発想の特異さを強調していたという事。
若干のナショナリズムを自らの内に自覚しないでもないが、いや、やはりすごい内容であるよ、面白い。紹介されている手順は基本的にクロースアップ。カードやコインもちらほらあるが、それ以外の小物の方が多い。破いて復活する紙幣や、切っても復活するリボン、ドル札に書かれた建物が消える、紙に書かれたスプーンが曲がるなどなどヴァラエティに富んでいる。
準備が必要なものや、それなりに変わった道具を使うものも多いから、即戦力という点ではあまり望めないだろうが、読むだけでも大変楽しい。個人的には靴ひもの結び目が取れて、別の場所にくっつくSneaky Sneakerが好きだ。くっつけた後がすごいのですよこれ。演じるかとなると演じないだろうが、そんな事はどうでもよいくらいの素敵な解法である。解法と言えば、Cups and Ballsのオープニングでよく演じられるCupの貫通を、液体の入ったカップでやってしまうPhantom Drink Penetrationもすごかった。いや是非読んでみてほしい。
前述のように全体的に切ったり貫通したりが多く、なんかそういうフェティッシュなのだろうかとちょっと思えてきたりもするのだが、一方でAutomatic Ace Triumphのような即席でできるカードの傑作手順、Jet Coinsのような変態手順も、数こそ多くはないが含まれており、結局の所、読んで損になる層はちょっと思い当たらない。一応ステージ物まであるものな。
そして高木重朗のSlop-Shuffle Acesがきて、とどめに澤浩セクション(技法1、手順6)である。いやもうすごい。
褒めてるレビューを見つけたら、逆にアラを探す性分なのだが今回は歯が立たなかった。ともかく面白かったです。
ある種のマニア文化、大学の奇術部文化のようなものが根っこにあるのかどうなのか、実に手段を選ばず工作を厭わず、面白い創作群となっている。見た目にもシンプルで、現象がわかりやすいのも好い。
国でまとめたコンピレーションは他にもイギリス(スコットランド)のFive times Five Scotland やドイツのConcertos for Pasteboard などがあるが、巻を重ねているのは日本ぐらいの印象。Kaufmanが親日家というのを含めても、やはり相応の反響があるのだろう。実際ここまで多岐にわたり、工作含めてあの手この手している本って他にはなかなか思いつかない。
ダスト・ジャケットの下には、日本の独創性 と大書されており、誇らしい一方で、後続の我々としては身が引き締まる思いである。……いや、まあ私は別に手品創作屋ではないのだけれども。
2014年3月7日金曜日
"Diplopia" Paul Vigil
Diplopia (Paul Vigil, 2007)
Paul CumminsのTap a Lackの改案。
Cumminsの手順が雑誌発表(MAGIC Magazine, 2005, July)でちょっと買いにくかった事、またCummins手順のある制約を排除しているという触れ込みだったので購入したのだが、結局の所は台詞を一部を変えているだけと思われる。なので、これをオリジナルとして単売するのはなかなかすごいなと。いやすばらしい改良点だし、他にも色々と工夫はあるようなのだけれどもしかし。
というわけで、Tap a Lackは未所持なので正確には比較できていないが、そのレビューと思って読んでもおそらく問題はない。
なお現在はDiplopiaは販売中止だし、Tap a Lackはこの前のCumminsレクチャーのノートで日本語でも読めるしで、今となってはこの本を探求する必要は殆どないだろう。なお僕が勝手に萎縮していただけで、当時でも雑誌のバックナンバー購入は実は難しい事ではなかったはずだし、またCummins氏にメールすればTap a Lackのpdfをくれていたとかいないとか。
なおTap a LackはTalk About Tricks DVDで演技が見られるが何故か解説はない。
現象:
①:観客が一枚のカードを思い浮かべる。
②:演者も一枚のカードを思い浮かべる。
③:観客が演者のカードと思うカードをデックから取り出す。
④:演者も観客のカードと思うカードを抜き出す。
⑤:どちらも当たっている。
①②の後にそれぞれ若干の省略があるがまあこんな感じ。
演者が観客のカードを当てるだけなら、よくあるカード当てだが、加えて観客が演者のカードを当ててしまうというのが特色。しかも変な選ばせ方とかはなく実にフェア。これは知っていないと判らないタイプの手法で、結構練習いるけれど確実であるし、すごい。
この手法自体はわりと昔からあるのだが、それ単体ではどうしても怪しくなってしまうある要素が、このフレームに組み込まれる事によって見事に解消されている。Cumminsによるこの工夫は実に素晴らしい。
1組の、なんの準備もないトランプで出来る手品としては最高ランクに不思議であり、美しい構成。
……ただし、すごい手順ではある事は間違いないのだが、演じるのは、技術的にも演出的にも、ちょっと難易度高めだろうか。
まず物事の順序がいささか不整合で、シンプルな構造の割になんだかすっきりしない。
本来、③と④は逆であるべきではないかとか。現象の見せ方も若干半端というか、観客があてた様にはあんまり見えない。ここは演じ方でもう少し何とかなりそうではあるが。
それからまた報われない手順でもある。
この手順はあくまでDo as I doであり、カード当ては部品だ。マニアをもだますカード当てを行っていながら、それを最前面に押し出す事はできない。むしろ、そこに拘泥すると現象の全体像が歪んでしまうだろう。
近年まれに見る傑作である事は間違いないが、いろいろと注意して演じたい。
なおVigil氏は、僕の知る限りで他に2冊のe-bookを出しているがどちらも所有していない。
ICON コインのメンタル手順。読みたかったが販売中止してしまった。
H.C.E. カードのメンタル手順。10万円するので流石に買わない。
2014年2月27日木曜日
"Sympathy (for the devil) cards" Paul Vigil
Sympathy (for the devil) cards (Paul Vigil, 2007)
Paul Vigilによる単品e-book。
簡単にできるSympathetic Cardsと、プロットに沿った強烈なオチ。
メンタル寄りの手順でちょっと有名なPaul VigilのSympathetic Cards現象。同じ値のカードで構成された2つのパケットのうち、片方を観客が混ぜるが、ふれていないもう一方のパケットとなぜか同じ並びになる、という現象。
1-10などそろったカードでやるのが普通だが、Vigilの場合は相手が適当に取り上げた枚数のカードを使って行う。さらにそれを2つに分け、片方を観客にある特殊なやり方で混ぜてもらう。この部分が売りの一つなのだが、これ、どれだけ混ざったように見えるかなあ……。ただ表裏がある程度バラバラになるので、後で見たときに"混ざった"感は強いか。元ネタはHoward Adamsだそうです。
第二弾はさらにカードを混ぜてもらった後、その数字の並びを携帯電話に入力してもらうと……、というものでなかなか素敵に気持ち悪い。前後の整合性を合わせるのであれば、シンパセティックな変化現象というより一致現象なのだね。
技法要らずで簡単。混ぜる部分には流石にそこまでの説得力はないかもだが十分に面白い原理。
あまり扱われないプロットでもあり、覚えておいても損はない感じです。
ただ2つほど気にくわない所がある。
まず1段目だが、メイトの一致現象として演じるのはいささか不整合。観客が適当にとって分けた時点で、すでに両方の山の組成が同じだったという不可能が起こっていた事になるが、演者はその点を消化できない。第2段もある事だし、ここは色の一致程度に留めた方が良いのではないかな。最後の組だけメイトにするとフィニッシュ感もでるし。
また第二弾の手法として、Luke Jermayのアイディアが紹介されるのだけれど、これはちょっと通用しないので実用しないように。読んだ時点でこりゃ駄目だと気づきそうなものだけれど、「いやでも意外と通じるのかな……」とか思ってやったりしたら駄目。個人的な経験から断言できますがやっぱりこれは通用しないです。痛い目を見た。
追記
① Sympathy for the Devil(It's me!) って手順を読んだ記憶がなきにしもあらず。
思い出したらまたどこかで載せます。
②Vigil氏、これらのe-bookの販売やめたのですね。物質本と違って、こうなると(正規では)手に入らないのが痛い。
2014年2月26日水曜日
"Penumbra issue 10" 編・Bill Goodwin & Gordon Bean
Penumbra issue 10 (編・Bill Goodwin & Gordon Bean,2006)
碩学Goodwinの発行するPenumbra誌、その第10号。例によってよく練り込まれた手順や、ひと味違ったアイディアが光りますが、この刊は作品数すくないこともあってか、他の刊よりは軽いです。
The Sound Of One Coin Clinking:David Gripenwaldt
有名な禅の公案「隻手音声」めいたタイトルで、実際にそういう不条理は起こるのですが、それは現象として前に押し出している物ではないです。あくまで裏で起こっている事が不条理というか。そのためちょっと残念。
状況設定を書くとネタバレになりそうなので控えますが、応用範囲はごくごく狭そうなものの、マジシャン心をくすぐるおもしろいコイン・マジックのアイディアです。
Perfect Order:Shoot Ogawa
緒川集人のマニアックなトライアンフ。きわめてクリアーに表裏を混ぜた後、選んだカード以外の向きがそろうトライアンフ現象。その後、カードの順番もそろってしまう。
ここまでやるかというディスプレイ。ある意味ではJennings&Goodwin Displayを上回る物があります。また初期状態はPerfect Orderでないため、ちらっとですが表面を見せても大丈夫です。ただ全体的にハンドリングが難しいのでなかなか安定しなさそう。
Fat Brothers DVDのおまけで演じているのが、およそこれですが、しかしShootさん演技はいまひとつですね。平板で。
Triple Alliance:Roy Walton
Waltonの良さが僕にはどうもわからない。シンプルで力強い構成はよいのですが、1枚と4枚がトランスポ、その後おまけにデックの表裏が変わる!
という、おまけの意味がわかりません。
Color Shuffles (Part One):Ronald Wohl
前後編に分かれたColor Shuffleの前編。手法と、その基本的なアプリケーションを解説。
観客が(見た目上)よく混ぜた後、カットして上1/3程度を取り上げるのですが、そのパケットに含まれる赤いカードの枚数などを制御するというもの。
何の役に立つのだろうなあと思ったのですが、用法が色々あげられており、なるほどこういう使い方も考えられるのね、という事で創作の案出し過程として読んでておもしろいです。ただ現象が面白いかというとちょっと微妙かもな。
しかしまだ前半だそうで、これどう発展させるのか後半を楽しみにします。
なお次のissue 11が出たのは3年後だったようでこれは酷い。
2014年1月13日月曜日
"Troika:3 Mentalism Daydreams" Brad Gordon
Troika: 3 Mentalism Daydeams (Brad Gordon, 2008)
メンタルマジック3+1。
「元々カーディシャンだったけどメンタリズムにも興味が出てきたんだ!」 ということでそれはよく分かります。
意外にもカード技巧ぽい所は無く、割と度胸だよりというか雰囲気だよりの手順が多くて評価が難しい。どこまで通じるのかなぁ?
Purposive Reverie
デックの中にあるたった1枚の特別なカードを観客が選ぶ。外見としての自由度は高いが、あまり"選択"した様には見えないよなあ。MavenのFan Forceみたいなものでなかなか怖い。
Match Box
マッチの箱が重くなる。とあるギミックが利いている。
The Locket Connection
ロケットをペンデュラム代わりにしたカード当て。ここのフォースは前例有りそうだけど秀逸。ただ小道具を導入しすぎてよく分からない現象になっている気がする。
O.vert U.tility T.ranscript
純・サイコロジカル・カードフォースに失敗した時用のアウト。リーディングに逃げるのはよくある手口である。
うーん、あまり語ることが無かった。かなり場の雰囲気に左右される手順が多く、ちょっとでも挑戦的な相手とかだと端から成立しないような。Eugine Burgerとかなら出来そうですが、僕の手には余るかな。
面白くはあって、知っておいて損はない感じなのだが、強力な魅力には欠けた。所々の工夫は光るのだけれど、全体として半端な感じ。もうちょっとどちらかに振れて欲しかった。
"Penumbra issue 5" 編・Bill Goodwin & Gordon Bean
Penumbra issue 5 (編・Bill Goodwin & Gordon Bean,2003)
碩学Bill Goodwinによる不定期刊行冊子、Penumbraの第5号。
他の号のレビューでも既に書いたが、そんじゅそこらの個人誌とは異なり、大変面白く、そして十分に練り込まれた作品が掲載されている。
今回は純・カードの作品は少なめ。
A Double Shot:Jim Patton
エラスティック・ループを使った連続Aプロダクション。David BritlandのAngel Aces(Card Kinetics,1988)をベースにしており、2枚のカードがそれぞれ左右に飛び出す部分がJim Pattonによるアイディア。
またこの部分だけを用いたカード当ても解説。
カード当ての方では、このアクティブなギミックを見えない形で使用しており面白い。実体化現象の趣もあり、やられたら気持ち悪そう。
なおエラスティック・スレッドが同梱されている。
The California Angel:Bruce Cervon
Pattonの現象に対するCervonのハンドリング。よりマジックっぽい見栄え。またDouble Shotのセット別案あり。解説者も言及しているのだが、これが非常に省力化された方法で驚く。
The Cherry Control:Ricky Smith
見えないトップ・コントロール。
カードを差し込んだ後、ファンを広げ、閉じるともうトップに来ている。
個人的にはBow-To-Sternの方が好きだが、あれよりもだいぶ楽+角度などの制限もすくなそう。
Ricky Smithは露出が少ないが、Dan and Daveをフラリッシュの魔道に落としたり、Earickの手順を非マジシャン相手に演じたり、というド変態レベルの逸材らしいので、今後も注目したい。
Color Scheming:J.K. Hartman
Penumbra issue 3に掲載されたLee AsherのThe Continental DivideのHartman流バリエーション。Card Duperyにも収録されている。
色がバラバラのデックを示した後、怪しい動作無しで赤黒分かれてしまう。
Asherのものが、バラバラ→分裂→再びバラバラなのに対して、こちらはバラバラ→分裂でかつエンドクリーン。ただしセットアップが必要。
Asherのものもチェックしたいのだが、Penumbra issue 3 が手に入らないのですよね。動画販売もしているみたいだが高い上にOne on Oneみたいで尻込み。モダンなAsherのエフェクトの、クラシック手法での表現といったイメージか。簡単に見えて意外と難しい。
Business Trip:Patrick Schlagel
左手の掌に指輪を置き、右手をかざすと、指輪が左手薬指にはまっている。貫通・移動現象。癖が無くたいへん使いやすそう。
「指輪を自然に持ち歩くためにも結婚しましょう」うるさいですよ。
Centrifugal Nightmare:Scott SteelFyre
Professor's Nightmareの表現技法。同じ長さになった3本のロープが、カバー無しで目に見えて違う長さになっていく、というもの。なるほどなー。あんまりロープ詳しくないのですが手軽かつビジュアルで素敵です。
というわけでPenumbra面白いです。 なによりGoodwin(だと思う)の解説の筆が良い。個々のマジックが非常に奥行きのある物に見えます。誰か日本でもこういう冊子出してくれないかしら。
2014年1月7日火曜日
捨行、あるいはもう開く事のなかろう本について
あけましておめでとう御座います(今更)。
今年の投稿を見返すと、これが見事に冊子しか読んでない。
大判本もいくらか買って読んでるんですが、だいたい途中で止まって放置しておりこれは良くないです。
年度末までに何冊かは読み切りたい所存。
さて当たり前の事ではありますが、本ブログは"通読・読了"した本をレビューしています。
しかしこれまでには、読む事を断念した本や、流し読みして買わなかった本も存在します。読んでいないのだから語る資格はないのですが、しかし読み進めない選択をした理由も確固として存在する。たまにはそういう事を口にしても良いかなと思いましたので、今回は未読了のままもう開かないと決めた本についての雑感です。
なお記憶に頼って書いているので、間違ってるかも知れない事を先にお詫びしておきます。
Naked Mentalism Jon Thompson
文字通り裸で出来るメンタルマジック!との事。
結局は単語の頻度をベースにしてて、あとは即席の対応みたいな話だったと思う。中盤以降は単語頻度リストみたいなのがずっと続いている気配で、さすがに言語違うとどうにもなあと思って以降放置。
今ちょっと広告みたら、プライミングとかの話もちらほらあり、ひょっとして読み返したら面白いのか?
どなたかから好意的な意見があれば背中を押されて読み直すやも。
Enigmath Werner Miller
数理トリックが好きだ。トリックより数理部分が好きだ。
とか書いてありつまらない数理トリックの見本みたいなe-book。3トリック目あたりで読むのを断念。ある枚数目に返して貰って、ダウンアンダーしてアンダーダウンしてアンダーダウンしてダウンアンダーすると当たる、みたいなそこに何の意味も意義も見いだせない感じだった。
これが5巻まで続いているらしい。
続く=人気あるという頭で1巻を買ったのだが、電子出版(自費出版)では全然当てにならない指標だったと己がうかつさを呪った。
Mind Blasters 1&2 Peter Duffie 編
イングランドのマジシャンから集めたメンタルマジック集。
とにかく判ってない。何も判っていない。
読心術、と口先で言っておけばなんでもメンタルマジックになる訳じゃないんですよ。
予言もそう。T.A. Waters先生の薫陶を受けて育った私としては、とりあえず予言にしとこう、程度の予言マジックには我慢がならんのです。
特に酷かったのでいうと、トランプの表になにか書いて貰いそれをデックの真ん中に戻した状態から当てる、とかさ。まずトランプに書かせる理由がわからなくて不自然きわまりないし、デックの中に入れても演者がそれ持ってるわけだし隔離方法としてさっぱり機能してない。
とこういう駄作としか言いようのない駄作があまりにも多く、ページ数も多く、あまりにも不毛だったので途中で断念。2に至っては開いてすらいない。
基本的にこういうオムニバスとは相性が悪いようです。
もし面白い作品知ってる方が居たら教えてください、そこだけ読みます。
最新メンタル・マジック徹底解説! 林敏明
ウィザーズ・インの柳田昌宏が最も得意とするメンタルマジック作品集!
ウィザーズ・インの柳田氏、危険信号①。
オリジナル作品を年に200も作る、とか前書きに書いてあり危険信号②。
(ていうか個人選集なのかよ、タイトルから想像つかないよ。おまえの最新マジックなのかよ)
メンタルマジックと言いつつカード作品しかない、危険信号③。
クレジットが無くまるで全て一から考えましたという空気、失格。
主張ではなく空気なのがミソ。そういう誤解を招くように招くようにと計画的に記述されている気がする。なんかここまで来るとね、本人が書かず他者が筆を執るこの形式も、クレジット不備などについて責任の所在をはぐらかすため故意にやっているのではないかとさえ邪推してしまうね。
これは買わなかった本。まだ部室にあるはずだがいい加減破棄してしまえと思う。
いやちゃんとクレジット完備だったよ、とかだったら教えてください。買って詫びます。
ともあれ今年もよろしくお願いします。
最近はあまり欲しい本も出ないので、家に積んであるのをじっくり消化したい所存。
あと手品が出来るようになりたい。
もとい、不思議な手品ができるようになりたい。
切に。