2013年6月18日火曜日
"Six. Impossible. Things." John Bannon
Six. Impossible. Things. (John Bannon, 2009)
John Bannonによる、極めて良く出来たカードマジック・レクチャーノート。
はい、すっかり啓蒙されたので買いました読みました素晴らしかった。いくつか既読のがあり、個人的にややインパクトが薄れてしまいましたが、それでもコスパ含めて過去読んだBannon本で最高の一冊。
『数個のカードマジックからなるルーティン』『セルフワーク作品集』『おまけ』と大まかに3部構成になっている。とすれば同じBannonのDear Mr. Fantasyに似ているが、DMFでは主にクラシック・トリックをつないだルーティンだったのに対し、こちらはフルBannonというのが大きな違い。
Counterpunch-Four Faces North
Watching the Detectives-New Jax-Full Circle
前半は既読でした。思い出せないけど昔とってたMAGIC誌かと。
サカートリック風味に観客の予想を裏切る手順から始まり、そこで残ったダーティな部分を解消するトリックへと続く。
後半はサンドイッチ・カードがテーマ。こちらも予想を裏切るスタート。2枚のJ、及び4枚のAから選ばれた1枚をばらばらにデックに差し込み、今からJがAを捕まえるぜ、と言うのだが、関係ない残りのAと思っていた3枚が、いつのまにかJ A Jになっている。
Wesley Jamesの原案は知らないのですが、最近Tom StoneのVortexで改案を読んでおり対比としても面白かった。Stoneが相手の見ているかもしれない状況で大胆すぎる事をして、大幅なスリムアップを図ったのに対し、Bannonは同じ”相手の見ている前で堂々と”ではあるものの、決して大胆ではなく、じっと見られていても大丈夫。
いや大胆ではある。ですが、まず気付かれない。どうやったらこんな事を思いつき、実行してしまえるのか。いやはや凄い。
この、相手の目の前でぬけぬけと、明らかにおかしい事をしかし露見せずやってしまう、というのはBannonの特色であり、また演じる者にとっては非常な快感でしょう。
なんかBannonの玄人受けの一因を再確認したように思います。
っていうか、こういうちょっと奇矯なプロットって、作例の絶対数が少なくて叩き台が無いためでしょうけど、どうにもぎこちない、不自然な構成になりがちなところ、まあBannon先生のうまいことうまいこと。
全体を通すと、4枚のAから始まり、4枚のAで終わる、美しい構成。
この一連の流れは、少しマジック囓ってるぜって人とかを相手に見せたい。
ただプレゼンはあまり解説していないので、ちょっと考えないといけません。ヘンな現象ばかりなのでけっこう大変かもしれない。
Four-Fold Foresight
Origami Poker Revisited
Bannonのお気に入り、Origami Foldの原理を使った2手順。この前者がとても良かった。観客が表裏ぐちゃぐちゃに混ぜたパケットの状態が予言してあるというもの。
原理がOrigami Fold、現象がShuffleBored。どちらも好きな手順では無かったのですが、この組み合わせがそれぞれの(個人的に感じていた)欠点を補い合っている感じで、これは凄くよいです。
Riverboat Poker
ポーカーデモンストレーション。やりやすいし、見やすい、良い手品です。格式張らない自然さで、あくまで「話の種に」という感じがとても受け入れやすい。ロイヤル・フラッシュのオチまで付いている癖にセットアップが殆どいらないという親切設計。
ここだけ、解説が小説風です。
Play It Straight (The Bannon Triumph)
あえて説明も要らないだろう傑作。これを駄作とみる向きもおられますし、前は僕もそっち寄りでしたがやはり凄い手順です。ただ解説は簡潔で、Impossibiliaで感心した細かいタッチが抜けてしまっておりちょっと残念。
Einstein Overkill
Trick That fooled Einsteinの改案。そもそも原案があまり好きでは無いのですが、このアイディアはすごく面白い。Bannonは4 of a Kindの出現に仕上げていますが、純粋な形態であればメンタル度が格段に上がって、好みかも。
というわけで長々と書きました。本当はもっと簡潔に書ければ良かったのですけれどもまあとにかく面白かったよーと。これが15ドルやもんね、すごいね。
個々の収録作品も良いのですが、それ以上に『オフビートなトリック』『ルーティンとしての構成』『セルフワーク』『小説風の解説』『Play It Straight』と、Bannonのエッセンスを抜き出して煮詰めたような、小ボリュームながら極めて充実した内容が素晴らしかったです。
サイトではLecture noteと書かれており、いやなんかそれだと適当なトリックを適当な体裁の紙束に適当にぶちこんだみたく聞こえてしまいますけど、実際には造本も内容も構成も、とてつもなくもハイレベルなカードマジック教本でございました。
余談ですが、↓にShuffle Boredの嫌いな点の話をちょこっと。
Shuffle Bored。
Aragonとかもやっていましたが、言ってるほどには自由度が無いように見えるのですよね。ちょっと考えると、少なくとも表裏に関しては、観客に影響力が無いことが判る。どっちにしろ全て運という感じですし、自由に混ぜると言う割には拘束が強い印象。
文句なしに不思議だったのは、Lennart Greenのぐらいでしょうか。ほとんど同じ事をやっているはずなのに、あれはべらぼうに不思議でした。
ところがここでは、Origami Foldにより、各々の混ざり方・状態について、偶然ではなく、確かに観客の意思決定によってなされたように見えます。これが一点。
一方で、Origami Foldの多くに見られる予定調和すぎる結末は、最終状態が乱雑な事でかなりの程度軽減されていると思います。さらにこの手順のセットアップ方法は、後段 での”意思決定による混ぜ方”と怖ろしい程に相補する”完全に自由で偶然による混ぜ方”を相手に許しており、そこからのレイアウトにも何一つ淀みが無 い。
よくよく原理を考えたら、確かにこれで問題ないのですが、極めて非直感的であり、Folding Principleを知ってても不思議です。これは傑作でしょう。ひょっとしたら同じ結果になる違う組み合わせがあるかもしれない、という若干の怪しさ が、より不思議を強固にしていると思います。はい。
いやーさすが、読ませますねw
返信削除本書、洋書購読回用に完訳していた"Riverboat Poker"と"Origami Poker Revisited"を思わず読み返してしまいました。他のもきちんと読んでみようと思いました。まるで覚えてないのでw これなんかはまだ薄いのでいいのですが、『Bullet Party』なんかは100ページ超えてて、それで完訳出版については挫折した思い出。
わーい、お褒めにあずかり光栄です。
返信削除どうです、面白そうな本でしょ。
さあみんなでここ→「教授の戯言」に包囲網を作ろうぜ!
まで書こうかと思ったけど自重しました。
実際、良くできた手順が5つ書かれてて、それがゆるやかにテーマを継承しつつ繋がっているというのは、ちょっと凄かったですね。本全体としてもBannonらしさが凝縮されているというか。
Bullet Party Bookも追々買います。