2012年5月28日月曜日

"Vortex" Tom Stone





Vortex (Tom Stone, 2010)




スウェーデンの奇才、Tom Stoneの創作集。



元々e-bookで冊子を個人出版していたのだが、そちらの頒布を停止して、本としてHermeticから出版。個人的に、幾つかかぶってしまったのもありちょっと悔しい。
そんな経緯で、紙を横に使う変わった装丁。読みづらさとかはなく、むしろ図の列びとかは見やすくて良いくらいなのだが、本棚にどう仕舞えばいいのかだけが問題。



どうにも、Tom Stoneというのはこだわりが強く、人にも自分にも厳しい人のようだ。だが彼自身、それをちゃんと認識している。自らのエゴが満足するまで追い求め、しかし同時に、客観的な視点からも検討を重ねた手順は、癖が強いものの独特で面白い。

その最たる例は、Ambidextrous Travelerの理想型を追い求めるTracking Mr.Fogg だろう。スタート地点であるJennings手順からの試行錯誤、他の人に求めた意見、その時々の正直な感想(「Travelerにデュプリケートを使う? Stephen Minchはなに馬鹿な事を言ってるんだ!」とか)、途中経過の手順について実戦と失敗などなど、そして終にMr.Foggに辿り着く。

個人的には、Mr.Foggはけっこうしんどい手順だと思う、というか、Travelerがいまいちなのだけれど、そういう事は関係無しに、その創作過程は非常に面白く、勉強にもなる。



扱う範囲は広く、クロースアップ、パーラー、ステージの区別なく、カード、コイン、ロープ、靴、スポンジボール、指輪、ボールとコーンと多岐にわたっている。
手順はどれも創作の狙いが明確にされているし、実演していないアイディアや、ノートからの抜き書き、プロブレムの提示などが随所にちりばめられ、ほんとうにどこを読んでも面白い。解説は視線の向け方や、演者の心理などもきっちり説明。


一番すごかったのはBenson Burner。
Roy Bensonの有名な手順のTom StoneによるStage版なのだが、いやはや、あの写真 http://shop.tomstone.se/、僕はてっきり宣材写真と思っていたのだが、ほんとうにこんな事になってしまうのだからたまらない。


最後にもう一つ、考えさせられたのがクレジット。
各手順のクレジットを明記するだけではなく、可能な限り原案者や権利者に連絡を取り、プロットに対してまで解説の許可を取っている。
こんなの、この本以外では見た事ない。ここまでやる必要はあるのか、と思ってしまうが、すでにそれが毒されているっていう事なのかも。



気むずかしそうな人ではあるが、こと創作においてはこだわりとエゴは大切だ。解法に癖があるので、実用する手順はそうないかも知れないが、考え方はとても勉強になった。読み物としても面白い。
オリジナルマジックを創作する人は絶対に読むべき。
ただ、直ぐにレパートリーを、って人には向かない。


Maelstromも近々手に入れようっと。


余談: Vortexも続刊のMaelstromもだが、ジャケットがどうにもイングウェイを彷彿とさせる。そういやイングウェイもスウェーデンだっけか。(参考: http://blog.livedoor.jp/ringotomomin/archives/51146198.html

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