Flamenco (Juan Tamariz, 2025)
とうとう出ました。TamarizのBewitched Musicシリーズの第三巻、Flamenco。あまりにも長かった。第二巻Mnemonicaが2004年(スペイン語版2000年)でそこから20年。僕は2014年のTamarizジャパン・レクチャーに参加したんですが、そのとき「やっと書き上がった。もう出るよ」みたいに言われてました。そこから数えても10年。正直もう出ないだろうと半ば諦めていました。出てよかった。めでたい。
さて、そんなわけで非常に時間のかかった本作ですが、掛けた時間の分の価値があったのか……というと、まあ当然ながら、プラスの面とマイナスの面がある。
まず、本書の内容ですが、割と普通です。理論に寄ったものではないし、特定の原理に寄ったものでもない。ページ数も250で特別厚くも薄くもない。内容的にも分量的にもSonataの穏当な続編であり、一般的な個人作品集という感じ。収録作はライジングカード、トラベラー、水と油、OOTWなどクラシックのTamarizアレンジが多く、これは非常に読みごたえがある。さらにライジング・ギミックを使った作品群や、アスカニオ派らしいカラー・チェンジング・ナイフも。技法としては、伝説的なフォールス・シャッフルがようやく文章として発表されました。
ただ、ここが問題なのですが、基本的には企画された当時(つまり1995年~2000年頃)に発表されようとしたものたちが収録されているとのこと。もちろんある程度のブラッシュアップはされているものの、そういう意味では遅きに失しているでしょう。Magic from my HeartもLetters from Juanも出てしまってるわけで……。この辺の経緯は前書きに書かれていますが、まあなかなか残念な話です。
一方で非常に良かった面もあって、それが解説のされかたです。Tamarizが前書きに書いていますが、本書は氏の本で唯一、本人が筆を執っていません。Tamarizの文体はかなり独特で、翻訳のせいもあってか、かなりガチャガチャした印象になってしまったところ、Stephen Minchの落ち着いた筆致での手順解説には非常に大きな意味がありました。Tamariz手順の見方がちょっと変わると思います。またMagic Rainbowを受け、心理的な策略にも気を配ったとても現代的な解説がなされている。これは今でないと書けない解説だったでしょう。
そんなわけで複雑な気持ちです。もっと早く出しとけよと思うと共に、この解説は今でないと出来なかったでしょう。――時宜的なところはともかく、本書そのものは間違いなく良い本です。おすすめであり、買わない選択はない。やっぱりTamarizはすごいよ。Minchの筆のおかげで、それがより多角的に描かれたと思います。買おう。まあ俺がわざわざ書かなくてもみんなとっくに買っているでしょうけれども。
理論書シリーズもBewitched Musicも完結したし、これで一区切りでしょうか。……なお前書きによると、本書からはPerpendicular Control関連の解説や手順が取り下げられたとのこと。「それ単体で本にするから」らしく、え、まだまだ本が出るのか……? McDonald AcesのTamariz版もギミックカードの本のために取り下げられた? 出るのか? 楽しみだけれど……ちゃんと出るのか……?
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