2024年9月30日月曜日

"Á Double Tour" Gabriel Werlen

Á Double Tour (Gabriel Werlen, 2022)

 Gabriel Werlenの即席クロースアップ・メンタリズムの小冊子。収録手順は2つ+おまけの3つの本当に薄い本です。近年的なメンタリズム手順はピュアさのためにデュアル・リアリティやアウトを好み、そのためどうにも即席クロースアップに不向きになりがち。多人数向きになり、繰り返し性が低くなる。本書はクロースアップで即席(風)をうたい、実際にどの手順も一対一でも演じられるのが気に入りました。


Absolute Free Will

 Free Willの改案。3つの物品の帰属(観客が持つ、演者が持つ、テーブルに残す)を観客が自由に選ぶが、それが予言されている。同プロットの作品集Mark ChandaueのTotally Free Willの感想で、原案Free Willは3つの弱い原理の組み合わせが魅力になっているのであって、どれかの弱点を克服しようとすると台無しになることが多い、というようなことを書いたのですが、Werlenの本手順はかなり良い線をいっています。3つの単純で弱い原理を、2つの複雑な手法に置き換えていて、かなり隙が無い。やや言語依存がありますがたぶん翻訳可能な範囲。


Will-O'-the-wisps

 演者の手の中にマッチが何本かあると想像してもらうが、それが具現化する。クロースアップ・即席メンタルらしい良い手順です。演出の一部で言語依存が強いものの手法に直結した部分ではないので問題ないです。


Head I win, Tail you Lose!

 本書の手順にはWerlenがSchrödinger Principleと呼ぶ原理が随所で使われているらしい。『らしい』というのは、原理の明確な定義が語られないのでなんとなく空気で察するしかないからです。このおまけ手順はSchrödinger Principleを例示するために収録されていて、同原理のみで成立しているとのこと。正直なところ新たに名前を付けるほど特別な原理には思えないんですが、ともかく想像上のコイントスに勝ちます。この種の手品にありがちな『一回しか演じられない』問題、『そうは言っても50%の確率じゃん』問題はそのままなんですが、演出がある程度それらをカバーしていて、ちゃんと演じてることが分かります。


 全体的にやや既視感があり、また手順のどこが新しいのか、原理が具体的にはどう定義されるか、といったところが明示されずなんかふわふわしているところはあるのですが、質はよく、また一対一でしっかりメンタル手順を見せようという姿勢は好きです。

 最後のページに広告があって知ったのですが、Green Neck Systemの人だったんですね。作中で言及はなかったもののAbsolute Free Willで使われているのもそれっぽい。いい原理だったので、Green Neck Systemも読んでみたくなりました。

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