White Wand Chronicles Volume One (2022)
本に著者名が無かった為にこのような表記になったが、JerxブログのAndyの本である。ハードカバーを年に1冊(今は18ヶ月に1冊だったかも)出すという中々に狂ったことをしており、その2022年号で、シリーズとしては5冊目になる。月25ドルを謎の人物に払い続けるという少なからず金銭感覚の狂っている人間に限定配本されるもので、他で買うことはもちろん、会員でさえ前の号を買うことはできない。そんな入手手段の限られた本をレビューするのもどうかと思うが、まあ一度くらいはJerxの話をしてもいいでしょう。
非常に話題になった人だが、どういう人かというとまあ、『アマチュア・マジック』を高らかに歌い上げた人間である。ここで言うアマチュア・マジックというのは、愛好家によるプロマジシャンの劣化コピーではない。アマチュアならではの現象、アマチュアならではのアプローチであり、私生活の中の、私的な人間関係の中でのマジックである。
そういった手順ならこれまでも散発的に世に出ていたが、あくまでオマケあつかいだった。Andyは正にそれを主軸に置いているのが特徴だ。プロの現場では成立しない手順どころか、職業マジシャンがやったら(たとえプライベート時間であっても)良さが損なわれる手順さえある。正にアマチュアにしかできない手品だ。
長い時間軸で行われる手順が多いのも他には無い特徴。たとえば本書のHide & Sneakという手順では、女性を家まで迎えに行って、そのときYoutubeを連続再生しておいてもらう。ディナーの後に女性を家まで送り、そのとき偶々かかっていた曲や動画を使う、といった具合。
ところで手品の質はというと、そこまで高いとは思わない。当たり前になってしまっている手品的手続きを疑うこと、現象を再解釈したり、私的空間に展開したりすることについては非常にセンスがある一方で、手法の賢さであるとか、構築などはそこまで。肝心の演出もときどき滑ってる感じもする。
だがまあ、ひとつのジャンルを確立させたという意味で凄い人物ではある。現状はフォロワーも居ないし、手品に触れる人間なら必ず役に立つだろうジャンルであるので、何か一冊、借りてでも触れておくのは良いと思う。氏の提唱する『アマチュア』のスタイルは、実際に読んでみないと中々つかめないだろう。
なおこれまでの4冊はテーマがあったが、ここでひと区切りだそうで本巻は雑多な内容。ブログの整理&再編というイメージで、良い感じに雑駁、意外と文字が大きかったりで、するする読めます。初期に比べると文章もかなりこなれている。読みやすさで言うなら結構お薦めの巻。
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