Paul Curry Presents (Paul Curry, 1974)
Out of This Worldで高名なPaul Curryの作品集。のちにPaul Curry's Worlds Beyondという全集が出ていて、多くはそちらにも収録されているのですが、いくつか取りこぼされている作品もあります。それらを目当てに本書を買ったものの、Worlds Beyondの記憶も大分薄れていたので通読することにしました。
Out of this worldとA Swindle of Sortsあたりが有名ですが、他の手順もすさまじく巧妙です。いや、巧妙を通り越して悪辣といっていいほど。原理ベースの手順が多いのですが、根本の原理を上手く使い、また隠すだけでなく、相手の予断を誘う、ミスを装う、途中で別の原理に切り替える、ギミック等々、ありとあらゆる手が尽くされています。
たとえばCard Acrossの手順では、2人の観客がそれぞれカードを見て覚え、演者はそれが何か全く知るよしもないのですが、それらが消えて移動します。しかも凄いのはこれ、2段階で移動するのです。まず1枚だけが消えて、それからもう1枚も消える。演者は選ばれたカードが何か全く知らないにもかかわらず、もう1枚がまだあることを観客に示し、さらにそれを消せるのです。上手く伝わっているだろうかこの不可能性が。
Worlds Beyondに収録されていない手順たちは、手順としてはやはり見劣りします。しかし同じ原理の応用であったり、後にもっと別の手順に改良されているものだったりするので、本書の方がWorlds Beyondよりも、Curryの狡猾さ、また原理をどう活用するかの妙がより感じられたように思います。Worlds Beyond未収録作にはOut of this worldの原理をギャンブル現象に転じた作品もあります。そんなこと考えもしなかった。
ただし本書の手順には欠点もあります。とにかく長い。52枚を1枚ずつじっくりより分けていったり、カードを何十枚もコールしていったりと、ひたすらに長く、さすがに今そのまま演じるのは難しいでしょう。ただ手順の構築は折り紙付きなので、素材を変えたり、枚数を合理的に減らすなどの工夫ができれば、まだいくらでも人を騙せます。それから古い本なので、文章もいささか読みづらかったかな。
ともかく本当に、これ以上無いくらい悪辣な企みに満ち満ちています。原理系、メンタル系、セミオートマチック系に興味がある方、是非読みましょう。
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