2013年5月9日木曜日
”脳はすすんでだまされたがる” S.L.マクニック, S.M.コンデ, S.ブレイクスリー
脳はすすんでだまされたがる -マジックが解き明かす錯覚の不思議 (スティーヴン・L・マクニック, スサナ・マルティネス・コンデ, サンドラ・ブレイクスリー 鍛原多惠子/訳, 2012)
Sleights of Mind の邦訳。
サブタイ詐欺。
新進気鋭の脳神経科学者が、マジックと”心”を結びつけるべく、マジック界に飛び込んで実体験・実学習を通じて両分野の橋渡しを試みる。
とくれば、好みにどストライクの筈なのだがあんまり面白くなかった。
たぶん"解き明かされていない"のが、私的に駄目だったんだろうな。サブタイが「心理学者の見たマジック」とか、そんなんだったら別に気にならなかったのだろうが。
著者達の第一目的であった、奇術と心理学会の結びつけ、には成功しているだろう。そういうシンポジウムも開かれるようになったというし。しかしマジック屋として本書を読む動機は、やはり新しい知見、それも実用的な知見を求めてではないだろうか。
であれば、マジックから帰納法的に公式を導きだすか、心理学に既存の論理を持ち込み、その式を用いた演繹で新しいマジックを作るか既存原理の強化・純化までしないと、有用性はわからない。
ところが、この本ではまずマジックを紹介し、それが心理学(神経科学)のこういうトピックスと関係が”ありそう”、という提示をするに留まるのが殆どだ。結果として、心理学の紹介書としても、筋道の立たない散漫な内容になってしまっている印象。
マジックと心理学が関係している事自体は、マジシャンは既に知ってはいるわけで、それが学会で具体的なムーブメントになったのは大いに喜ぶべき事ではあるが、どちらにとってもまだまとまった成果とはなっていないようだ。
ただ滑動性運動とミスディレクション(Apollo Robbins)については、ちゃんと裏打ちが有り、非常に良い内容と思う。側聞したポン太・The・スミスさんのリテンションの話とかとも繋がるのであろう面白い話。
結局、期待していた物との食い違いであり、心理学者がマジック界に飛び込んで、いろんな発見をしていく紀行文としては面白い。特に所々で出てくる協賛マジシャンは豪華すぎて笑っちゃう程。
ただ心理・神経科学関係の本としては、一般科学書としても手品用ネタ本としても、V.S.ラマチャンドランの脳の中の幽霊 や知覚は幻 などの方が格段に面白いと思う。
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