Mayhew -What Women Want (John Lovick, 2014)
Hermetic Pressから出た、Steve Mayhewのカードマジック作品集。読みやすくはなく、演じやすくもなく、相当に癖があるが、原石がたっぷり眠っている。はず。
ちょっと偏った作品が多くて、こうしてまとまった本になったのも珍事ではあろう。Jack CarpenterやStephen Hobbsのグループと親しく、本書も90年代以降にLabyrinthに載った手順なり当時のノートなりからの収録が多いらしい。約50エントリの全7章で、①Cutting the Aces系 ②ギャンブルデモ ③センターディールデモ ④技法 ⑤マニア騙し ⑥その他手順 ⑦ビルチェンジのアクト(1作品)となっている。かなりラフだったり、癖があったりして、例えばランニング・カットでタイミング・フォースするだけのSpectator Cuts the Acesなんかもあったりする。DaOrtizに親しむ前の僕だったら、これ作品って言っていいのかよと本を投げていたかもしれない。その他にも、技法面でも演出面でも、Mayhew自身にはフィットしているのだろうが、他の人にはおいそれと手が出せない作品がしばしばある。
本書で一番面白く感じたのは②③のギャンブルデモ系列。③は氏の代表作であるセンターディール・デモ “Freedom”(Mayhew Poker Deal)とそのバリエーションなのだが、原案の素晴らしい着想と、微妙にズレたオチ、それを周囲の人がブラッシュアップしたり改案したりしていく様子が伺える。このパターンは⑥に収録されている“Progressive Triumph”でも見られる。そう、Mayhewは間違いなく天才なのだけれど、天才ゆえかどこかズレているのだ。
だから本書には、上記の2手順以外にもまだまだ原石が眠っているはずだ。特にギャンブル関連の②には、一風変わったプロットや原理のものが多いので、そう言った方面が好きな人にはおすすめである。他にもDan & Daveがやるようなビジュアル手順があったり、Card under the glassを移動やミスディレクションではないかたちに演出して見せたりと、面白い手順がちらほらある。変な本だが、ハマる人にとっては鉱脈だろう。
……それで、最後に触れておかなければならないんだけど文章があまり良くない。John Lovickによる『ユーモアたっぷり』な解説がとにかく読みづらいのだ。Mayhewはどうやらかなりギャグを言うタイプの人のようで、Lovickはそれを反映しようとしているのだろうが、散りばめられたLovickのユーモアはひたすらに滑っているし、解説をわかりにくくさえしている。ギャグが滑っていても、本人の筆であればまあそれは人柄として納得するしかないところではあるが、解説者が滑り倒したうえに解説まで疎かになっている箇所があるのは全くいただけない。