Natural Card Magic (Ryan Murray, 2021)
これはすごい。この人はどこまでも本気だ。
謎ファロー本Curious Weavingに続くRyan Murrayの作品集というか研究本。今回取り上げられている原理は、公式サイトで“an old and rarely used principle”としか言及されていないので、ここでも詳述はしませんが、やっぱりまたマニアックで高度。ただこの人がすごいのは、これを高難度のネタとしてでなく、しっかりと具体的に、現実的に使っていこうとしていることです。それはCurious Weavingでもそうだったけど、さらに進化している。
例えば原理のためのセットアップ手法がいくつか紹介されるんですが、それが実際に後の手順で使われる。しかもその手順、説明用にでっち上げたものじゃなく、観客相手にちゃんと使っていることがよくわかるもの。机上の空論では決してない。
手順は9個あって、カード当てが多めですが、どれも十分に一般受けし、それでいてマニアも殺せるだろうもの。特にAce Cuttingは理想的。観客の混ぜたデックからAをカットできるという時点で最高なのに、最後の一枚の演出がとてもよい。またトリを飾るTopsy Turvy Acesは、ちょっと難しくて手元での再現すらおぼつかないのですが、うまくできたら魔法。カード当てみたいなタイプの不可能性ばかりでなく、こういう物理的な不可能現象(ここではトライアンフ系現象)もしっかりやっていくのがいい。またCurious Weavingの手法を使う手順もあり、やっぱりこの人、あれもこれも実用技法として使っているんだなという凄みがある。
ともすれば難しいばかりのマニアックな内容になりがちなところ、氏の「現実の観客に演じる」というスタンスによって、原理・準備・運用・手順がしっかりと結びつき、とてもいい本に仕上がっている。また原理自体はレアだが、ある一般的な原理のサブジャンルでもあるので、過去の蓄積がさまざまにあって、Ryan氏はそれらをしっかり取り込んでいる。だから前著よりも広がりがあり、より多くの読者にリーチするだろう。ただ、一般の観客を楽しませ、マニアも騙せる内容なのは確かだが、一方で相当に難しいのも事実で、やっぱり誰彼となくお勧めはできないかな。ギャンブル系統で腕に自信のある人とかなら、前著とセットで買うのが超おすすめ。