2020年10月31日土曜日

“Art Decko” Simon Aronson



 Art Decko (Simon Aronson, 2014)


Simon Aronsonの最新作で、最大作で、残念なことに最終作になってしまった。Bannon以外のシカゴセッションのメンバーも読まなきゃなということで手を出しまして、面白くはあったが、色々な要素が相まってなかなか辛い読書にもなってしまった。

内容はカードで、技法、即席、セット、メモライズ、ギミックと一通りをカバーしている。一方で決まったテーマやプロットはあまりなくて、セルフ改案集の趣きが強い。

Bannonとの比較にならざるをえないので、かなりハードルが上がっている前提で聞いて欲しいのだが、Aronsonの手順はたしかに上手く、巧妙ではある。しかし原理と原理がきれいにつながる気持ちよさはあるものの、いささか直線的で、また演出も手法に従属しているきらいがある。Aronsonの代名詞メモライズドも、今回はメモライズドそのものではなく、スタックを崩さない通常手順やデックスイッチを組み込んだ手順といった周辺的なものが多く、いささか精彩を欠いた。

その上で、解説の文体がどうにも肌に合わなかったのだ。例えばなんだが、フォースをする必要があるとして、あるフォースの説明の後、「とはいえこのフォースでなければならないというわけではなく他にXXが使える。またXXでも」みたいな話が挟まる。それだけならいいのだけどそれがフォースが出てくるたびに繰り返される。しかも提案されるのが毎回同じ、基本的な選択肢なのだ。うんざりもする。細かいバリエーションや別案の言及も幾度となく(本当に幾度となく)挟まれる。トリック単体の解説ならいいだろうが、これは一冊の本であるのだから、すでに扱っている内容/観念を不要に繰り返す必要はないのだ。

一方では、そうやって可能性をしゃぶり尽くそうとするのは、原理の研究やトリックの創作においては重要であろう。単に私があんまり楽しめなかったというだけではある。でもまあ、そこまで重要な指摘はされていない感じだったので、面倒だったら飛ばし読みしてもいいと思います。


面白かったけど、多分この本から読むものではなかった。Two by twoという手順が素晴らしく良かったのですが、ここで使われているUnDo Influenceという原理はTry the impossibleが初出とのことで、そこでは90ページにわたって検討されているようです。結局のところトリック未満、バリエーション未満の枝葉ばかり繰り返されたのが辛かったので、原理や問題が定まっていたら、この文体ももっと楽しめたんじゃないかと思う。それから予言についての論考があったのですが、それを受けてのShuffle-Boredの最新版は、検討されていた問題点がかなりクリアーされていて素晴らしかった。やはり卓越したクリエイターではあるのだな。