2020年2月26日水曜日
"Band of the Hand" Docc Hilford
Band of the Hand(Docc Hilford, 2002)
名前は知っていたけれども多作すぎることもあり手を出していなかったメンタリストDocc Hilfordの冊子です。これは『犯罪/怪奇』がテーマで、演出集といった感じでした。収録作は5作品。
Yours Truly, Jack the Ripper
切り裂きジャックを呼び出す交霊会(Seance)
A Study in Scarlet
暗闇の中でマッチの明かりを頼りに切り裂きジャックが誰かを当てる。
Swamp Water
沼の水。怪奇小説か幻想小説で似た話を読んだことがある気がするので、向こうではそれなりに知られたテーマなのかもしれない。瓶の中のうっすら濁った水に悪魔が宿っており、観客の質問に答えてくれる。
Nightmare Coins
悪夢とコインの具現化。
Murder by Mail
演者が『殺人犯』であることがわかる逆ヘッドライン・プレディクション。
手法としての目新しさはあまりないながら、手法選択と構築はまずまず。とはいえ注視熟考に耐えるほど巧妙というわけでもなくて、演出の空気感にのせて成立させる感じでしょうか。主眼は演出ですね。5つ中2つが切り裂きジャックなのはちょっと残念と言うか、A Study In Scarletのタイトルならホームズにしてほしかったよ……。
そのなかでSwamp Waterは現象/演劇面は地味なものの、道具立てによって手法(センターテア)のあやしさが大きく軽減されており、どころかメンタルマジックに不足しがちな『視覚的現象』にまで絡められていて感心しました。
また演出が強い手順でありながら、一方では実用性にもかなり注意が払われていて、巻頭のJack the Ripperも、酔ってる人もいて、十分な暗室でもない雑な環境でも成立する『交霊会』となっています。こちらもナイフがひとりでに動いて、次なる犠牲者を指し示すという視覚的な現象込み。
初のDocc Hilfordだったこともあって、それなりに楽しんで読めましたが、この冊子をわざわざ探して買う必要があるかと言うとどうかなあ……。