2019年12月27日金曜日
"8 Effects and a Sleight" Michał Kociołek
8 Effects and a Sleight (Michał Kociołek, 2012)
Plots and Methodsが非常に面白かったので、前作であるこちらも早速購入しました。結論から言うと、片鱗こそ伺えるものの、Plots and Methodsほどでなかった。
トリック8つに技法1つの9作品が解説されています。原理に技法や他の原理を組み合わせるというのは変わっていないけれども、完成度はあまり高くない。
手順は以下の通り。
・Gemini Twinsの親戚。3組のメイトが揃う。
・センターディールデモ
・Two Cards At Any Number的な
・大胆で特殊なコレクター
・サカートリック系のカードの移動
・思っただけのカードのサンドイッチ
・水と油
・ミラスキル
内容は悪くない。特に原理の選球眼と現象への応用はやはり素晴らしいし、ハンドリングにも光るものがある。しかし前述の通り完成度がそこまで高くなくて、たとえばXXをフォースする、みたいなことが書いてあるけれども、その手法が解説されていない。フォースの説得力が重要な手順であるというのにだ。演出も弱く、全体的にパフォーマンス・ピースとまではいかない。
Plots and Methodsのレベルを期待したので、ちょっとがっかりしてしまった。しかしこっちを先に買ってたらPlots and Methodsは買ってなかったかもしれないんで、そういう意味ではよかった。またPlots and Methodsを離れて単体としてみると、やはり原理の選球眼やハンドリングの巧妙さは素晴らしく、これを踏み石にいろいろな手順が作れそう。ネタ元としては大変にレベルの高い冊子である。個人的にはどこにあるか分からないはずのカードが挟まるサンドイッチIn Between、特殊なコレクターのBold Collectionが面白かったが、上で列記したプロットに興味があるならどれも読んで損は無いと思うし、原理系が好きならよいインスピレーション源になるだろう。
なおタイトルの"a slight"部分はSimple Shiftのバリエーションでしたが、これはわざわざ収録した意味はあんまりわからなかった。
2019年12月26日木曜日
"Plots & Methods" Michał Kociołek
Plots & Methods (Michał Kociołek, 2019)
Michal Kociolekの作品集。収録作品は4+オマケ1で全5作の薄い本です。これがまあ大変に面白かった。
前書きで「自分は原理が好きで、何時間もデックを山に配り分けたり、ダウン・アンダーの代替になる複雑な配り方を考えたりしてた。さすがに大人になったので、もうしてないけど……以前の半分程度にしか」と言い出して不安をあおるのですが、これがどうして、複数の原理、技法、ガフ、演出が高度にかみ合った極めて高レベルの作品群でした。
All In
観客の『思ったカード』がサンドイッチされる。実際には「思ったカード」ではなく「見たカード」ではあるのだが、それがどこにあるのか演者にも観客にも正確にはわからない状態なのに、見事に挟まる。大変かしこい原理の組み合わせ。
実は100%ではないんだが、全体的にラフでとてもいい。氏にはIn Betweenという同じプロブレムの作品があり、それとの比較も楽しい。
Lucky You
表裏に別々の数が書かれた紙きれ6つ。それを観客に混ぜてもらい、さらに何枚かをひっくり返してもらう。もちろんそれによって合計数は変わるのだが、その枚数目から観客の選んだカードが出てくる。原理だけなら予言モノにしそうなところ、観客が混ぜたデックからのカードあてにすることで不可能さがいや増している。シゲオ・フタガワの作品が元になっているとか。
R. M.
密室殺人をテーマにしたトリック。不可能殺人がみごとに再現され、大変おもしろい。やや恣意的なフォースだが、演出とマッチして全く違和感がない。なんて独創的なんだと思いましたが、ブラザー・ジョン・ハーマンのトリック(既読)を改案したもの。原案も読み直しましたが、Kociołekの改案はやや演者の負担を増すかわりに、選択プロセスを非常にすっきりとさせている。見事。
Three + One
ご本人はクレジットに上げていないが、現象としてはJenningsのPrefigurationのようなもの。Lie Detectorのように、観客ふたりが質問に合わせてそれぞれスペリング、というのを何度も行うが、にもかかわらず、最後に4オブ・ア・カインドがそろう。こう書くと面白くなさそうだが、いや、非常に賢いし不思議。
Polish Poker Stacking
オマケ。同氏の売りネタPolish Pokerの別ハンドリング。これは該当のトリックを持っていないのであまり書くことはない。なんでもハンドを配った「後で」、好きな役をたずね、それを示すことができるトリックなのだとか。ここではそれをスタッキング・デモのハンドリングと組み合わせている。Polish Pokerに大変興味がでてきました。
というわけで大変面白かった。観客の数がそれぞれ5、5、1、2、1ということでやや多人数向きというのはあるが、原理を組み合わせ、手段を選ばず、不思議で、そして楽しい。原理の選択眼がよいうえに、その欠点を別の原理やガフ、演出で補う手腕がすばらしい。誰にでも見せられるし、マジシャンも殺せる、磨き上げられた原理系作品群。いやー傑作ですよ。