2019年4月26日金曜日
"Coinucopia" Al Schneider
Coinucopia (Al Schneider, 2013)
Al SchneiderはAmazonで冊子を色々出しているのですが、その内の1冊。これは標題のトリックのみを解説しているワントリック冊子です。
もともと同じCoinucopiaというタイトルで、Paul Sponaugleという人が手順を発表しているそうで、その改案と言うことのようです。
現象としては、パースフレームからワンダラーが出てきて、それを握ると2枚に。反対の手に渡して握ると3枚に。また反対の手に渡して握ると4枚に……。といった感じで最終的に8枚ものワンダラーになるというもの。あやしい動きがないことと、毎回手を開いて見せられるのが特徴。
とはいえ、手法も解説も直接的でシンプルなため、読んだだけではあまり面白みを感じられなかったです。ワントリックのリリースだと、やはり手順そのものの善し悪しとは別に、新奇性や理論など何かウリがあって欲しいもの。作品集の中の1作品としてならまったく悪くないトリックですが、これ単体でとなるとちょっと。
また先例との差もあんまり明確でない。Paul Sponaugleはクラシックパームを使っていて、Schneiderはそれが不得手だったと言っていますが、仮にパームポジションを変えただけだったとしたら、それは改案と言うよりパーソナライズですし、単品で出すのはどうなのか。さすがにそれだけってことはないと思うのですが、であれば改案ポイントが分かるように書いて欲しかったなあ。
あれよあれよと8枚のワンダラーが出てくるのは壮観でなかなか景気がよいですが、何かのついでに買うならともかく、これ単体ではあんまりおすすめしない。あとこれで40ページはどうなんだ。10ページくらいで解説できたのでは。まあ$7とお安いので、それはいいですが。
"Al Schneider on Coins" Al Schneider
Al Schneider on Coins (Al Schneider, 1975-2012)
Al Schneider初期の代表作。
Al Schneiderは謎の人物だ。Matrixの作者として名前は広く知られているものの、他の手順や技法、あるいは弟子筋の人やフォロワーというかたちでその名を見ることがほとんど無い。間違いなく巨匠ではあるものの、奇術界の中でその存在は奇妙に浮いている。
私自身、Al Schneiderに対して漠然とした好感は抱いていたものの、氏の作品について詳しくは知りませんでした。そこで今更ですが本書を買い、読みました。非常によい本であると思ったと同時に、氏がかくも孤高の人であることも腑に落ちました。
本書は2012年版、120ページの小冊子。初版は1975年だが、2004年に電書版が出て、そのときの追加コメントが載っています。薄い冊子であるものの、理論から技法、多くの手順(オーディナリからコイン・ボックス、ガフまで)と、内容は充実しています。章題は以下の通り。
1: SIX PROPERTIES OF DECEPTION(欺しのための6つの要素)
2: VANISHES(消失技法)
3: MISCELLANEOUS MOVES(その他の技法)
4: COINS ACROSS(コインズアクロス)
5: COINS THROUGH THE TABLE(コインズスルーザテーブル)
6: BOX ROUTINES(コインボックスの手順)
7: HANK BITS(ハンカチの手順)
8: HEAVY MANIPULATION(込み入った手順)
本書を読むと、Schneiderが異常なほど『自然さ』にこだわった人であるということが分かってきます。たとえば、フレンチドロップは動きとしては不自然ながら、視覚的な説得力があります。あのような持ち方、取り方はしないけれど、それを補うだけの視覚的な説得力があるため有用な技法です。リテンション・バニッシュなんかもその系統でしょう。しかしSchneiderはそういった説得力とトレードオフの不自然さすら許さない。氏が使うバニッシュは『コインを持っている手を返して、反対の手にコインを渡す(ふりをする)』というもので、実質的にはこれしか使わない。
Schneiderにフォロワーが居ないのもむべなるかな。
Schneider流の『自然な技法』は非常に難しい。先ほど言及したフレンチドロップやリテンション・バニッシュには視覚的な補助・強調がありますが、それ無しで説得力のあるフェイクパスを行うには相当な技量が必要です。幸い私たちはSchneiderの動画を見ることができ、氏のフェイクパスの尋常では無い説得力を見ることができますが、1975年に本書を読んでも、このレベルを想定することはむずかしいでしょう。
しかしそれらを踏まえた上で、本書はすごい。1975年の時点でこのやりすぎな『自然さ』を体現し、貫き、いくつもの手順を提供している。また氏のGaff Coinの取り扱いも注目に値すると思います。ともすれば変な音が鳴ってしまうGaff Coinを、この『自然さ』に取り憑かれた男がどう料理しているかは、本書を買って確かめてください。コインボックスとの組み合わせも非常に面白いです。
非常におもしろかった。氏があまり話題に上がらない理由がよく分かった一方で、1975年の段階からこれほどの構築をしていることは、ただただ驚嘆です。氏のフェイクパスの説得力を動画などで知っており、またケレン味や手品的面白みのない手順でも構わないという前提の上でなら、非常におすすめです。ルービンシュタインやロスに対する苦言が入っていたりして、それも面白い。
ただし氏の代表作であるMatrixは入っていません。あと表紙の写真でやっている技法は出てきません。謎。ちょっと解説が間違っていたり、あと写真の解像度が酷かったりなどする。