2018年2月27日火曜日
"Totally Out of Control: Supreme MME Edition" Chris Kenner
Totally Out of Control: Supreme MME Edition(Chris Kenner, 2018)
歴史的な名著Totally Out of Control(1992)に、その前身とも言える雑誌Magic Man Examiner(1991-1992)を加えた決定版。
Chris Kennerについては、紹介するまでもないでしょう。KennerのTotally Out of Controlは、Paul HarrisやJay Sankeyの流れを汲みつつ、スタンドアップを基調とした独特の『軽さ』、見た目のシンプルさ、鮮やかなどんでん返し、そしてフラリッシュと、今のクロースアップ・マジックに多大な影響を与えました。代表作のThree FlyやSybil Cutは、その名を知らないマジシャンは居ないでしょう。
Totally Out of Controlには、いま見てもなお鮮やかで不思議な、いい手順が満載です。またKennerは超絶スライトよりも、ギミック・コインや両面テープなどでクリーンさを達成している所があり、そのアプローチは再び検討してみるべきかもしれません。
また本書はユーモアあふれる解説のスタイル、造本でもたいへんに有名で、所有して損のない本です。
それで今回の新版ですが、Magic Man Examinerが収録されているのが売りです。こちらはTotally Out of Controlの出版の前年に開始されたChris KennerとHomer Liwagの主催する季刊の個人雑誌です。結局Volume 1の全4号しか発行されなかったのですが、手に入りにくい冊子でした。
収録されている作品はKennerのものが多いですが、他に
Homer Liwag
Troy Hooser
Jay Inglee
Roger Klause
Richard Kaufman
John Carney
Michael Close
Michael Weber
Mark Brandyberry
Mac King
Phil Goldstein
による手順や技法、Tipsが収録されています。
Totally Out of Controlに比べると作品にはムラが多く、またKenner作品はTotally Out of Controlとの重複も多いですが、2006年にCoin Oneの名で発売され、一斉を風靡した手順の原型Four Coins and a Filipinoや、Troy Hooserのコイン手順など、当時の最前線の手順が散見されます。Chink-a-Chinkの、いまや定番になっている一瞬で集まるハンドリング、あれもHomer Liwagだったんですね。先例も有るのかもしれませんが、意外でした。
またこちらもTotally Out of Controlのようなユーモアあふれる紙面作りで、あのスタイルのファンとしては嬉しい限り。本全体で見ると、MMEが本編の間に挟まる形になってしまい、造本の美しさはやや損なわれてしまいましたが……。
歴史的名著、Totally Out of Controlをもし持っていないのなら、是非この機会に買いましょう。MMEの方はすこし劣りますが、資料的価値も高く、持っていて損はないでしょう。あとこれはわざと最後に書くのですが、Michael Weberの501 Derfulは、小さな工夫ではありますが、Card To Pocket好きなら一読の価値があります。