2016年11月30日水曜日
"Transparency" Boris Wild
Transparency(Boris Wild, 2012)
ボリス・ワイルド・マークトデック(以下BWMD)について、その仕組み、扱い、作品、応用をまとめた一冊。
ボリス・ワイルドといえばFISMウィナーで、それはちょっと、……どうなの、というやたらロマンチックというかこっ恥ずかしいクロースアップのカード手品が有名ですが、もう一方でマークト・デックの使用者としての顔があります。
その集大成となる本書は、まず表紙からもその意気込みが伝わってきます。ポストカード大のカードが貼ってあり、それがレンチキュラーレンズによる仕掛け絵になっています。見る角度を変えると、裏向きだったトランプが表向きになり、まるで裏面を透視してカードの素性が見抜けるかのよう。そしてまさに、本書はそういったことを扱う本です。
内容は、BWMDの成り立ちや、他のデックと比べたときの長所からはじまり、単純なトリック、テクニックを駆使するもの、スタックやメモライズドを使うもの、そしてMDを使った即興対応までをカバーしています。
まずBWMD自体について。Ted Lesleyのマークトデックから発展したようですが、非常に面白い工夫が加えられています。『あるカードが何か』を読み取るのが少し遅くなる(間接的になる)代わりに、パケットやデックの中から目的のカードを探すのが非常に加速されます。
本人曰く、表向きのデックから探すよりも速い、だそうですが、たぶん真実です。
バイシクルでMDを印刷できたことが、当時大きな事件だったようで、なんとバイシクルで手に入る!バイシクルだからばれにくい!と気炎をあげていますが今では手に入らなくなっていて哀しい。いまはマンドリン・バックでしたか。まあ作り方も説明されているので、バイシクルでも他のでも作ろうと思えば作れます。
トリックはタネの関係上、やはりカード当てが多くなります。しかし『マークトデックを使ってるんじゃないの?』という疑念を抱かせないよう非常に気をつかっており、いくつかの手順は、たとえマークトであるとわかっていても、いつどのように読み取ったのか分からないでしょう。
また直接的なカード当てにならないよう、サンドイッチ現象にしたりなんだり、バラエティを出すよう工夫もしています(が、こちらはちょっと意味の通らないような現象も散見される)。
さらに、マークト・デックの強みとして、失敗時のリカバリや完全即興の演技についてもかなり丁寧に解説されています。ただリカバリに関しては、マークの要不要にかかわらず、常にマークトデックでマジックをするくらい気合いが入っている人でないと、なかなか恩恵にはあずかれないでしょう。しかし、そうする事を検討させられるくらいの利点です。
それからもうひとつ注意点ですが、収録されているトリックは基本的にBWMDでしかできません。他のマークトでも、ファンして読めるタイプなら出来なくはないでしょうが、かなりしんどくなると思います。
ともあれデックの作り方から比較的シンプルな手順、手の込んだ手順、即興対応までとBWMDで出来る事をぜんぶ詰め込んだみたいなよい本でした。
で。これとPete McCabeのPM Card Mark System、Kirk CharlesのMarked for LifeとBolis WildのThe Complete Boris Wild Marked Deckの合本であるところのHidden in Plain Sight、Ted LesleyのWorking Performer's Marked Deck Manualなどを読み比べて面白かったやつを訳そうかな、需要もインパクトもあるよな、などと胸算用をしていたのですが……。
どうもこの前の来日レクチャーを受けて、東京堂から訳が出るらしいと聞きまして、いや、悔しいですね。
レンチキュラー印刷はともかく、表紙には当然、何らかの仕掛けを入れてくれるんだろうなあ天下の東京堂出版様よ。
なお他の本との比較ですが、私が読んだ事あるのはPM Card Mark Systemだけなんですが、これはこれでけっこう良い本です。マークトデックは自作方式で、作製はBWMDより楽、宣伝ページに書いてありますが油性ペンだけで出来るので特殊な材料も不要。まあ色味はちょっと試行錯誤の必要があるかもしれませんが。マーキングはやや大胆ですが、さらっとやる分には大丈夫なんじゃないでしょうか。
比較的薄い本で、載っている手品もBorisほど込み入った事はしてなかったように記憶していますが、演出がしっかりしたものがちょこちょこあって面白いです。このあたりはさすがScripting Magicの著者だなという感じ。
だいぶ忘れてしまっているので、また軽く読み直して別項で紹介しようかなと思います。