2012年12月26日水曜日
"The Paragon Move" Lewis Jones
The Paragon Move (Lewis Jones, 1992)
Lewis Jonesによる汎用技法Paragon Moveと、
それを用いたトリックを10コ。
名も知らぬ本である。
何で買ったのか、と言われればまあ、二つほど理由はある。
ひとつは今をときめくAragonの本でも買おうかと思って検索したらヒットしたということ。もうひとつは著者であるLewis Jonesの本Seventh Heavenを、あのIan Rowlandが褒めていて、ちょっと気になってたこと。
ああ、あともう一つ。
何となく技法に飢えていたのである。
たまにあるよね?
それで、JonesのParagon Moveだが、うたい文句も華々しく、フォース、スイッチ、キーカードプレイスメントグライド、ラッピング、スチールに使用でき、現象はマッチングからOpen Prediciton、電話越しのトリック、ブックテストまで収録されている。
でもね。
それって言い方次第でさ。たとえばダブルリフトであれば、もっと広範な用途に使えると言っても良いわけで。
うんまあ何が言いたいかというと別にブックテストにトランプ使う必要は無いよ。特にトランプでマジックが一つでも出来る人、あるいはそう思われている人は。まあOpen Predictionとかは割と良かったのですけれども、使用できる現象の幅広さはわりと卑怯であるというか、全体的に、別にParagon必須とか、Paragonによる改善効果たるや、って程でも無いのだ。
そのうえParagon自体が簡易なMoveで有るくせに、手順はパーム使ったりして難しい。ちょっと見ないパーム保持でそこは少し面白かったけれどね。
作品自体は可も無く不可も無く。ちょっと理由の不明な回り道があったりするものの、ハンドリングが見えない綺麗な手順。ただ、綺麗ではあるのだが、予想を上回ったり予想を超えたりする箇所は無かった。
で、Move自体なのだけれど、これはKelly Bottom Placement/Ovette Master Moveから展開する技法。発展ではなく展開なのがポイント。
ぼくはあまり、というか殆ど発想力に恵まれた人間では無いのだけれど、それでも本書で解説されているのに似た動きはした事がある。なので、少し慣れた人なら絶対にやった事はあるはずであり、またその特別な用法が示されるわけでもないので、正直うん、読まなくて良いよ。この技法をこういう名前で発表した人が居たんだなあというくらい。
悪い技法、用法では無いが、あえて洋書にまで手を出して読む必要は無いかと思う。ただし初心者用の本などに収録されてあれば、けっこう便利で、マジック習得の一時期にお世話になったかも知れない。実際、似た技法はたまに使ったりする。
ボトムパームの速さと、あとStrokeっていうGlide的使用法はわりと良い。
技法の簡素さに較べて、手順はわりと度胸を要求されるので、その点でもちょっとバランスが不思議。誰に向けて書いた本なのだろう……。
2012年12月19日水曜日
"Cards on the Table" Jerry Sadowitz
Cards on the Table (Jerry Sadowitz, 1989)
奇人Sadowitzのカードマジック作品集。
Sadowitzはイギリスのマジシャンでありコメディアン。マジック界では、作品盗用についての偏執狂的な言動で知られるようになってしまいました。一部、彼と仲の悪い人々からは狂人扱いされたりもしています。
実際、Sadowitzのサイトなり、彼が発行するCrimp Magazineの表紙なりを見ると、かなり危険な空気が感じられますが、一方で作品自体の評価はとても高い。
日本では、実践カードマジック事典にMr.E.OZO名義の作品Out of Sight が載っていますがこれがまた素晴らしいのです。ただこれ、無断で掲載したみたいで、こういう諸々がSadowitz氏の他の作品に触れることを一層困難にしてしまっているわけなのですが……。
残念ながら、それやこれやがあって、Sadowitz氏は現在、極めて限定的にしか作品を発表していません。前述のCrimpも入手困難です。いまでも一般的に手に入るのは、このCard on the TableとCard Zones(Cards Hit などの冊子を合本、Peter Duffieとの共著)の二冊。
このCard on the Table、裏表紙には”彼の最初のハードカバー本だぜ”とか書いてあったのですが、私が入手したのはソフトカバーでした。2003年の復刊版だからでしょうか。ちょっと損した気分でありつつも、自らがハードカバーだと主張するソフトカバー本という撞着した物体に奇妙な愛着も覚えつつあります。
あとLybraryでe-bookも出ていますが、Sadowitz氏は、Martin Breeseに許可したのは実体版の販売のみで電子版は契約違反だと言ってたハズなので、e-book版の購入は控えました。
さて本書は二十と少しのカードマジック+技法を解説した本。
いやねえこれがめちゃくちゃ面白かったのですよ。比較的クラシカルなプロットに対して、どれも面白いアイディアやひねりが加えてあり、実に不思議に仕上がっています。
アニメイト、カード当て、スペリング(?)+マインドリード、Out of This Worldの変種、トランスポジション、時間逆行(?)、トライアンフ、財布に通うカード、ギャンブル、Out of Sight Out of Mind、ユニバーサル、トーンアンドリストア、マリッジ、ピプスの移動、アンビシャス、カード To ポケット、エスティメーション。
もうほとんどの現象を網羅している気がします。その上で、7~8割方が身につけてみたいと思わせる内容。なかなか無い事ですよこのクオリティ。
二つ三つ紹介を。
Aces in King 赤と黒のAのトランスポジション。でもAだけだと、畢竟、持ち替えるだけで交換できる。それじゃあ簡単だから、と、どんどん条件を足していく。まず赤のAは赤のKの間に、黒のAは黒のKの間に挟む。さらに赤はデックの中に入れて触れなくしてしまう。この条件下でも、黒のパケットがデックに触れた瞬間、黒のKから赤のAが現れ、デックを広げると赤のKの間に黒のAが挟まっている。
自分でハードルを上げていく辺りのセリフとやりとりが面白くて、お気に入りです。
The Backward Card Trick 一般的なカード当てを逆回しで行う。観客のカードを当ててから、観客にカードを引いて貰う。奇妙。
The Healers 破いたカードをQの間に挟むが、次の瞬間には元に戻っている。現象自体と処理が並列して行われ、ほとんどエンドクリーンなのが素敵です。
Name A Card Triumph 選ばれたカード、ではなく、相手が言ったカードで行うトライアンフ。Benjamin EarlがDVDで似たことをやっていますが、Sadowitz氏は自分へのクレジットが不十分だとえらくお怒りでした。
こんな感じでどれも面白いのです。こういう”不思議さ”やプロットとしての”求心力”のようなものは、プロとして実際に使う手順だからこそでしょうし、またセンスに依るところも大きいでしょう。すっかりファンになってしまいました。
ハンドリング、現象、演出に不合理な点が少なく、そこも好みです。
手法としてはターンノーバーパスや、ダブルディール、ボトム+トップのターンノーバーなどが多く、なかなか難しいものもあります。また解説されていない技法もあるので、ある程度の知識がないと大変かも知れません。
全体にWaltonの影響が顕著ですが、個人的な感想としてはWaltonよりもSadowitzの方が格段に面白かったです。
これは私自身の読み取り力と、Waltonの非常に簡素な記述スタイルのせいもあるのでしょうが、ひねりもアイディアも単発ぎみで実験的なWaltonより、それをしっかりとしたプレゼンテーションと構成でマジック仕上げているSadowitzの方が即戦力であるのは間違いないです。
なんで、Complete Walton 復刊の報も聞きましたが、まずはCards on the Table を手に取ることをお勧めします。決して、古本で集めた直後に復刊とかやめてくれよ、とかそういう僻みではありません。
という訳でSadowitzのCard on the Table でした。面白かったー。正道から外れた、ちょっとひねくれた感じがあるのですが、そのひねりが相手の興味を引くような形で上手く演出されているのが良かったです。
カードの本というとPit HartlingのCard Fictions という実にどうしようもなくハイレベルな本があって、それを超えるのは非常に難しく、このSadowitzの本もあれほどの不思議ではありません。手法もプロットも、一般的なカードマジックの流れにあるため、マニアも引っかけられる作品というのはあまり多くはない。
けれど、だからこそ、「いわゆるカードマジック」の本としてはCard Fictionsより優れていると言ってもよいかもしれません。
こういう本こそ和訳してほしい、なんなら和訳したいくらいなのですが、Sadowitz氏にこのあたりの話題を振る勇気は持ち合わせていません。